何気なく耳にしている映画音楽、どう作られている?「音楽家との出会いはヒロイン選びと同じくらい大切」【インタビュー】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

外山監督取材1

映画において「音」は切っても切れない関係であり、さらに「劇伴」と呼ばれるその映画のために作られた伴奏音楽は、作品のトーンを形作る上で生命線とも言えるファクターである。普段、何気なく耳にしている作品の音楽に注意深く気を留めると、いかに世界観を広げる役割を担っているかを気づかされ、映画が2倍にも3倍にも楽しめる。

8月26日(土)より渋谷ユーロスペースで公開される『わさび』『春なれや』を手掛けた外山文治監督は、楽曲の重要性において「音楽家との出会いはヒロイン選びと同じくらい大切」と語り、出来栄えを左右するとした。普段、なかなか知ることが難しい映画音楽制作の実態について、外山監督、そして『わさび』の楽曲を担当した朝岡さやかさんの両者に紐解いてもらった。

――朝岡さんは『わさび』で組む前から、外山監督と親交があったそうですね?

朝岡:もともと、妹が外山監督の『此の岸のこと』の音楽を担当していたんです。その後、長編映画『燦燦 -さんさん-』の音楽を姉妹で手掛けることになりました。だから、きっかけは妹なんです。それ以降、監督作品の音楽を担当しています。

外山:朝岡さん姉妹は、劇伴作曲家ではなく、クラシックの世界では大変優れたプロのピアニストなんですよ。とにかく凄い経歴です。

――経歴を拝見して、驚いております。 

(※朝岡さやかさんのプロフィールはこちらへ)

朝岡:小さい頃からピアノ一本でやってきたので、ずっとクラシック畑で育ちました。作曲は、ヨーロッパで演奏活動をしていた中で、ふと始めたんです。帰国後は、日本でオリジナル曲のCDデビューをさせていただいたり、コンサートをしていたりしました。だから、映画音楽を作る経験はしたことがなくて、私にとっては初めての挑戦でした。

外山:一般的に映画音楽の作曲家は、作曲の学校を出て、曲作りを重ねて、それで映画をやるようになることが多いと思います。朝岡さんは、もしかしたらかなり特殊かもしれないですね。

外山監督取材2

――曲の作り方やオファーの仕方でも、異なる点が多々あるんでしょうか?

外山:「これがスタンダードだ」とは言えないんですが。一般的には、監督が「このシーンに、こういう曲を求めている」というリクエストに作曲家が応えるのが大前提で、できあがった絵に音をつけるのが映画音楽のお仕事です。従来のスタイルがそれならば、朝岡さんの場合はアプローチが全く違ってきます。

――具体的に、『わさび』ではどう進めていかれたんですか?

朝岡:一番最初、台本ができる前に物語の構想と「こういうロケ地です」と、ロケハンの写真や動画を送っていただきました。(物語の舞台となった)飛騨高山の映像を見ながら、イメージを膨らませていました。「ここで主人公がとにかく歩くシーンがあるから、この景色の中で歩く音楽をいくつか」と言って、とりあえず5曲ぐらい作ってみたりして。

外山監督取材3

――台本があがる前に、5曲も作られたんですか!?

外山:朝岡さんはそもそも映像を必要としていない。「頭の中にある」とおっしゃる方なんですよ。

朝岡:そうですね。私の場合、最初に頭の中に映像が浮かんできて、その映像に曲をつけるという感じで作っていきます。

外山:なので、作り手としても、朝岡さんの頭の中に描いた映像に負けない映像を作ってこないといけないんです。僕は「自分の絵に音楽をつけてほしい」というよりも、「どちらの映像が優れているか」というような感じで。

朝岡:相互作用みたいな。

外山:そう、勝負している感覚です。自分の映像を高めてもらうものというより、競い合っている感じがすごくします。

外山監督取材4

――才能と才能のぶつかり合いですね。最初に提案した曲は、どんどん進化していくんですか?

外山:はい。流れとしては、次にリハーサルを見てもらいます。お芝居を直に見てもらうと、「もっとこうしたほうがいいんじゃないか」とか「この映画の世界観に合うものはこうじゃないか」と、また違う曲ができてくるんです。

外山監督取材5

朝岡:リハーサルを見に行くと、イメージが全然変わります。私はいつも現場に五線譜を持って行き、その場でモチーフを書いたり、出てきたメロディーをメモしたりしていました。そこで、また曲を追加したり変更したりするんです。『わさび』ではリハーサルで初めて芳根(京子)さんにお会いしました。彼女自身のパワーというか、芯の強さみたいなものをすごく感じたので、そのまま曲に反映しています。人物は曲にとっても影響します。まず、そこからがスタートです。

外山監督取材6

――リハーサルを皮切りに、撮影へと移られていく。

朝岡:『わさび』のときは撮影現場には伺えなかったんですけれど、外山監督が、その日に撮った未編集のものを全部送ってくださいました。断片を見ながら、またイメージを膨らませて、修正したり新たなものを作ったりします。全部の絵ができた後、仮編集が終わったものに、編集の方と外山さんと私でやり取りをしながら、「このシーンにはこれだよね」と大まかに当てはめていきます。そして、その後にきっちり尺合わせをして、最終版を作って、ようやく完成です。

外山監督取材7

――「全然浮かんでこない!」なんていうことは、あるんですか?

朝岡:あります、あります!「もう絶対に浮かんでこない」って毎回思います。そういうときに小手先でひねり出そうとすると、絶対にいいものができないんです。もう1回、初めて台本を読んだときの感覚や、リハーサルに行ったときのイメージに立ち返るようにします。すると、いつか絶対に湧いてくるので。

――何回も、何回も映像を見たり曲を聴いたりしていると、ジャッジが難しくなってきませんか?

朝岡:まさに。だから、私は曲を作るとき必ず連続ではやらずに、モチーフができたら一晩置きます。全然違うことを途中で1回入れて、翌朝に聞くというパターンにしています。その間に浮かんでくることもあれば、新鮮に聞くと「あ、これおかしい」とか「これは絶対いい」とかが分かるので。

外山さんも台本を書いて、一晩置いて朝見たら「これはないだろう」っていうとき、ありません?

外山:うん?ない(笑)。

(一同笑)

外山:僕の場合は、いわば夜中のラブレターみたいに、夜中にテンションが上がったほうがいいんです。朝ニコニコしながら読んで、「こんなことを書いているんだ~」って楽しんでいる。ちょっと冷静になっていない状態で書くっていうのが好きです。

――そのあたりのタイプは違うんですね。完成作では全部で5曲が使用されていましたが、実際は全部で何曲ご提案されたんですか?

外山:23曲ぐらいいただきました。

――全部良い曲だと思うのですが、その中からの絞り込みは苦戦しました?

外山:いえ、結構潔くやっています。

朝岡:そうですよね。容赦ないですよ。本当に。もうダメ出しがすごい。

――例えば、どんなダメ出しがあるんですか?

朝岡:私が「いい!これは傑作だ!」と思っても、「これはもうなしですね」とキッパリ(笑)。同じ楽曲のバージョン違いを出したときも、「前のほうがよかったですね」とズバズバ言われましたし(笑)。だからこそ、私も本気でどんどん怖がらずにいけるんですけどね。遠慮されて「全部いいよ、素晴らしいよ」と言われるよりも、自分の作りたい方向と合っている、合っていないとはっきり言ってくれるほうが、すごくやりやすいです。

外山:もちろん穏やかにやってはいますけれど、才能の勝負をしている感じはとってもあるんです。朝岡さんは、これだけキャリアのある方ですから、自分も挑んでいる感じがあります。挑んでいるからこそ、ちょっとでも絵と合っていない音がくると、「違う」とすぐ言えるんです。

わさび1

――外山監督は、朝岡さんの音楽のどういうところに特に惚れ込んでいるんでしょう?  

外山:もし自分ひとりの世界観が強い監督だったら、先に曲があることが邪魔になる方もいるかもしれません。でも、僕の場合は違って、より高め合っていければいいと思っているんです。映画って、音楽ひとつですごく変わりますから。できた曲は、絵のために作られた曲とは少し違うので、とにかく評判がいいんです。曲としての個性がきちんと活きているというか、絵になじむだけではなくて、音楽そのものとして存在しているので、単なる映像音楽ではないと思っています。

演出家の仕事は、基本的に役者のいいところを見つけて引き出すことですけれど、スタッフにも同じことが言える。音楽家も、より才能を発揮できるスタイルを模索したいと。だから、朝岡さんはクラシック界の中でもすごいキャリアの方なので、「劇伴を作るだけ」という従来のスタイルに押し込めるのはもったいないというか、特性を活かしたいという思いがありました。

外山監督取材8

――朝岡さんの音楽は、海外映画祭でも非常に評価されているんですよね。

外山:そうなんですよ。モントリオール(世界映画祭)に行ったときも、ベルギー(BIFFF)に行ったときも、映画を褒めてくれるのと同時に、「ところで、あのCDは売っていないのか?」、「あの楽曲は誰が作ったんだ?」と必ず言われました。朝岡さんの音楽は、日本の作品ですけれど海外にちゃんと伝わる、ワールドワイドな雰囲気があるんですよね。

――詳しくお聞きすると、観客はどこに惹かれていらっしゃると思いますか?

外山:皆さん、温かさを感じて幸せな気分になってくれているんですよね。朝岡さんの音楽って、人の感情を揺さぶってくるんです。海外の方も、きっと劇場で感情を揺さぶられて、「あの曲をもう1回聞いてみたい」と、想いみたいなものを持って帰りたいんだと思うんです。

――お話を伺っていると、朝岡さんとの出会いは外山監督の映画音楽に大きな影響をもたらしたと言えますね。

外山:合う音楽家と出会うのは、とっても大事なことですよね。映画のヒロインを選ぶくらい大事なことなんです。本当に音楽によって作品も固まるし、音楽によってダメになってしまう作品もたくさんありますし。そういう意味でも、本当に主人公を選んでいるつもりで作曲家を選んでいます。(取材・文:赤山恭子、写真:柏木雄介)

わさび

今回ご紹介した芳根京子さん主演短編映画『わさび』吉行和子さん主演・村上虹郎さん出演『春なれや』は、8月26日(土)より渋谷ユーロスペースにて2週間限定上映。

また、8月22日(火)~9月4日(月)の期間限定で、SHIBUYA TSUTAYA 6Fにて、『わさび』『春なれや』公開記念パネル展も開催! 3F~5Fでは出演者のサイン入り写真が当たるキャンペーンも実施中。

SHIBUYA_TSUTAYA

『映画監督外山文治短編集』公式HP:http://haru-wasabi.com/

(C)外山文治2016

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  • ゆうめし
    4
    アマゾンプライムビデオで。 芳根京子さん目当てで観賞。 高校生にはしんどい環境にいるため、やさぐれてしまった役を自然に演じてる芳根さん、さすがです(贔屓目です) 30分のショートフィルムなので、やっぱり短い。 「もっと見せてよ!続き見たいよ!」と欲が出たが、これはこれで終わったままの方が良いのだろう。 芳根さん、野球経験者役だったけどバットスイングが経験者っぽくなかったのでそこは指導をしてあげてほしかった。
  • たくや
    3
    ショートフィルム100作品投稿 16/100 芳根京子が気になり、鑑賞。 彼女の素朴な演技は観る価値あった!もっと色々な作品に出て欲しいなと思う女優さん。 けれど、作品の内容は普通。 ドラマで良かったのでは...と思うレベル。 うつ病の父親の跡継ぎでお寿司屋になろうとする(ならざるおえない?)女子高生の話。 30分で終わってしまうのは中途半端な気がする。 これから本編が始まる!と言うところで終わってしまった。 寿司を握るシーン...もっと見たかったなー 30分以内のショート作品は、その短い時間で起承転結をしっかり描ききる方が好みです!
  • ヴレア
    3.6
    粉雪が舞う中、バットを握り、かつて所属していた少年野球の監督と1球勝負する芳根京子が見せる表情がとにかく印象に残る。 30分という短い時間の中で、この瞬間に主人公の背負っているものや感情の変化を一瞬で表した芳根京子の表現力にただただ感心したのだった。 短いながらもとても印象に残る作品。
  • アユカ
    -
    魔法はありますか
  • ちろる
    3.7
    芳根京子ちゃんは素朴そうなのに、こんな感じのふてくされた役がよくハマる。 嘘っぽくないから、瞬間で彼女が演じる役どころの背負ってるものが伝わる。 寿司職人の親父は鬱病を患い、お店は休業。 困窮した生活から進学をを諦めざる得ないわさびちゃん。 娘を愛して一生懸命に育てようと頑張った結果壊れた父と自分が一番大切だった自由な母との差があまりにも明確で切ない。 どうして人生こうやってバランス悪くなるんだろう。 ワサビの心を救うのはかつての野球のコーチ庄吉。 粉雪舞う中の庄吉とワサビの球場シーンは寂しいけど、綺麗だった。 社会の片隅で、忘れられそうな自分たちを必死に我慢して、微かな「奇跡」を信じる。 そんな彼らの姿に少しだけ勇気もらえた素敵な短編でした。
わさび
のレビュー(486件)