当時わずか33歳の若さで、吉行和子主演の長編映画『燦燦 -さんさん-』で《77歳の婚活》をテーマに現代の希望を描き、「第38回モントリオール世界映画祭」正式招待作品となり評判になった外山文治監督をご存知でしょうか。
今回外山監督は、桜の町・熊本県菊池市を中心とした【桜】をモチーフに短編映画『春なれや』を製作されました。
前作に引き続き吉行和子主演、そして今最も注目されている若手俳優村上虹郎、昨年『恋人たち』で「第39回日本アカデミー賞」新人俳優賞を受賞した篠原篤など今注目の映画界の俳優をキャスティングし、主題歌もアーティストCoccoさんが担当しているわずか20分の短編作品です。
そんな今注目の外山文治監督にインタビューを行い、短編映画『春なれや』の魅力と今までの映画作りに対する想いをお伺いしたのでご紹介します。
元々は小説家志望でした
―監督をされるようになったきっかけを教えてください。
祖父が小説家を目指していたということもあり、元々は小説家志望でした。
オリジナル・ストーリーを作りたいという想いから、学生のときから自分で脚本を書き自主制作映画を作っていました。一人で作り上げる小説より、みんなで作り上げないと完成しない映画の仕事に魅力を感じ、監督を目指すようになりました。
その後、日本映画学校(現・日本映画大学)に入学しTVドラマの助監督などもしていました。
短編って俳句のような気がする
―今回自主制作の短編にチャレンジされた経緯を教えてください。
デビュー後もオリジナル・ストーリーを撮ることへの想いはいつもあります。ただ、長編で作るのは大変で、諦めてしまう人もほとんどです。それならば、と別の出口として短編の製作を考えました。
短編は、プロになるための若手の練習の場所だけではなく、プロの方も自発的に作品を発信できる良いコンテンツではないかと思います。
また、前作『燦燦 -さんさん-』で主演していただいた吉行和子さんともう一度一緒に仕事がしたいと3年間考えていました。
今回吉行さんは短編映画初出演です。日本を代表する女優さんですから、感謝してもし尽くせぬ思いでいます。
―『春なれや』の物語ができたきっかけを教えてください。
短編は俳句に近い気がしています。短い中で永遠を語ることができる点が両者にあると思います。今回の題材を探していたところ、「ソメイヨシノは60年経つと咲くことができない」という一説を知り、物語を作ることができそうだと思いました。
「永遠」がなくても確かな「希望」が桜にはありますよね。その希望こそが私達にとっての永遠なのだという想いを、桜と人間を重ねて伝えることができたらと思っています。
photo by moco
毎日が面白くないと考えている人や、もう一度夢を見たいと思っている人を描きたい
―これまでの作品でも「高齢化社会」をテーマにされていますが、テーマ設定の理由はありますか?
数年前から日本は、高齢化により孤独死や年金問題などが、いたるところで問題視されていました。今では4人に1人以上は65歳以上という現実を目の前にして、今描くべき対象はこの方たちなのでないかと考えました。
10代20代の悩みは自分が経験したことなのでそれを描くことにはあまり興味がなく、むしろ経験したことがない高齢者のことに関しては、知らないからこそテーマとして描いてみると問題意識が出てきて面白いです。
ただ、これまでの作品のテーマから高齢者しか撮らない!といった変なイメージがついちゃって(笑)でも、次回作は高校生が主人公の作品を撮っています。
基本的に、毎日が面白くないと考えている人やもう一度夢を見たいと考えている人たちを描くのが好きです。それが今の日本の中では高齢者なのではと感じ、それがたまたまテーマ設定になっているというわけです。
吉行さんと村上さんが二人乗りするシーンは必見!
―今作では吉行和子さんの他に若手で今注目の村上虹郎さん、昨年映画界を賑わした篠原篤さんなど素敵なキャストの方がそろっていますが、どのようにキャスティングされたのですか?
吉行さんと共演する役者さんは、今回オーディションではなく直接オファーしました。今回の作品が、吉行さんと若手の俳優さんがお互い刺激し合う場になればと考え、村上虹郎さんや篠原篤さんにお願いしました。
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村上虹郎さんは、とても自然な演技をされる役者さんだと思います。吉行さんとは世代や演技を学んできた環境が違うので芝居の質が違うのですが、同じスクリーンの中で、二人が共存し、化学反応を起こしている様子を見るのは、まるで異種格闘技戦を見ているようでとても面白かったです。
映画の中で散りゆく桜を背景に、桜の絨毯の道を吉行さんと村上さんが自転車で二人乗りして走るシーンはお気に入りのシーンです。吉行さんは二人乗りをするのが人生で初めての経験ということでそれも見どころの一つです。
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篠原篤さんは、実はお互いが20代の頃からよく知っている友だちでした。そんな彼が日本を代表する女優の吉行さんと共演するのを見て、不思議な気持ちと同時にとても嬉しく感じましたね。
希望は、必ずしも明るいものだけではない
―本作で一番こだわったポイント、伝えたいポイントを教えてください。
桜を撮るシーンは苦労しました。桜の花びらがヒラヒラと散り続ける姿は、満開の桜に負けないくらい綺麗だなと思います。ただ、桜が散る日を予想しタイミングを探るのは本当に苦労しました。奇跡的に桜が一日で散ってしまうその日にスケジュールが合い、撮影できたのは幸運でした。
また桜の時期を合わせるということの他に、少年と高齢の方との対比ということはこだわったポイントです。吉行さん演じる小春は、山の中の高齢者施設で暮らしていて、年を経るごとに周りの人が次々といなくなるという環境の中で、宿命というものを突きつけられて生きています。そこを抜け出して、少年と出会い、やがて希望を見出していきます。
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希望は必ずしも明るいものだけではないと思います。人間には抗えない宿命があるとしても、宿命も「春」には勝てないという、人生の定めに一矢報いる痛快な作品だと思います。観る人の心に静かに残る希望の物語だと思いますので、ぜひ様々な人に観て欲しいです。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】ウディ・アレン監督に会いに行ったら、人生が変わった?
―憧れの監督や、影響を受けたクリエイターの方はいらっしゃいますか?
ウディ・アレン監督にお会いできたことが、人生の分岐点になったと思います。
助監督から脚本の世界にシフトチェンジし、何をやっても結果が出ず、負の連鎖が続いていた25歳くらいの頃、映画の神様に会いに行ってみようとニューヨークに向かいました。
ジャズバーでクラリネットを弾いているという情報だけで、ホテルをつきとめ、担当の人にお願いをして、一度は断れました。しかし、日本の脚本家だと言い続け、出待ちをして何とか会えました。こちらから一方的にお話をするだけでしたが(笑)
それがきっかけかは分かりませんが、その後日本に戻ってきて脚本で賞を獲ることができました。自分の作風とは違いますが、ウディ・アレン監督に直接お会いできたことで何かしらの影響を受けたと思います。
現実に起こりうる奇跡を描いた映画が好き
―外山監督のマイベストムービーを教えてください。
『Shall We ダンス?』です。
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公開時の1996年、バブルが崩壊した後の日本は混迷し、中年男性が疲れ果てていた時期でした。日常の中に希望が見出せない彼らが、人生が変わるような出来事を経験するという、魔法を決して使わずに夢を見せているという点や、今まで描かれなかった層を描いているということが好きな理由です。
魔法が使えるファンタジーは、実はあまり好きではありません。それよりも、現実世界に起こり得るファンタジックなことに惹かれます。
今までもそうですが、希望を与えるべき対象に物語を届けたいという映画を作るスタンスは変わっていません。
前作『燦燦 -さんさん-』も結婚相談所と出会って女性が変わるということは、『Shall We ダンス?』と図式は同じで、映画作りにおいて影響を受けている映画だと思います。
今まで題材にされなかった人やものを描きたい
―今後どのような作品を作りたいですか?
次作は女子高生が主人公ですが、現実にはキラキラした青春の日々を送っている方とそうでない方がいると思います。そうでない生き方も、人生を謳歌している人間に劣らず美しく輝いているということを描いた点で、滅多にないテーマだと周囲から言われています。
これからも日の目を見ない人々に注目して、マイノリティとして眉を潜めて描くのではなく、ちゃんとしたストーリーとして観る人が何か感じるような作品を作っていきたいです。
―FILMAGA読者のみなさんに一言お願いします!
本当に多くの方が関わってくださった映画なので、1日でも早くみなさんにお届けしたいです。短編作品ですが、豪華なキャスト、スタッフのみなさんが集まってくれて、すごく魅力的に仕上がっています。
今作も海外の映画祭を狙っていきたいと考えていますし、『春なれや』の全国公開は未定ですが、きちんと一般の方にも観ていただけるように、上映環境を整えていくべく力をいれていきます。
人や出来事に誠実な監督だからこそ、魅力的な人が集まり、奇跡が起こる
今回外山監督にインタビューして感じたことは、自分のことではなく他者のことや自分が体験したことがない出来事に真摯に向き合い、それを周りに共有するのが上手な方だということです。現実に起こりうる出来事から”希望”を見ること、それが監督に関わる人たちに伝わり、その人柄に惹かれ吉行さん初め監督からのオファーに快く応じる方が多くいらっしゃるのだと思いました。
監督の想いが詰まった今作。『春なれや』や今後の監督のご活動に興味がある方は、以下クラウドファンディングにて応援し、監督との新たな輪に加わってみてはいかがでしょうか。
▼【熊本】『春なれや』現地無料上映会プロジェクト 今春、熊本が誇る名所・菊池市の”万本桜”を舞台に 若手監督のもと、女優・吉行和子、若手俳優陣が結集!!
▼外山文治監督 プロフィール
映画監督、演出家。福岡県出身。学生時代よりテレビドラマ・Vシネマの助監督として活動を開始。老老介護の厳しい現実と夫婦愛を描いた短編映画『此の岸のこと』がアメリカ、スイス、カナダなど海外の映画祭で上映され「モナコ国際映画祭2011」では短編部門の最高賞にあたる「最優秀作品賞」をはじめその他五冠を受賞。シニア世代の婚活を描いた長編映画『燦燦 -さんさん-』は「第38回モントリオール世界映画祭」フォーカス・オン・ワールドシネマ部門正式招待作品となり、県製作の映画としては異例となる全国35館公開のロングラン・ヒットを果たす。
(取材・文:柏木雄介/辻千晶、撮影:堀田菜摘)
※2022年9月22日時点のVOD配信情報です。