公開が迫る、是枝裕和監督の最新作『三度目の殺人』。
前作の『海よりもまだ深く』や『海街diary』からは趣きが異なり、本作は法廷サスペンスです。これまでの是枝監督のフィルムグラフィーからも異色な作品になるのは間違いないでしょう。『そして父になる』以来の福山雅治の起用や、常連のキャストが少ないことからも今作が意欲作であることが窺えます。
勝利にこだわる弁護士・重盛は、30年前にも殺人の前科がある三隅の弁護を担当することになる。解雇された工場の社長を殺し、死体に火をつけた容疑で起訴されたのだった。三隅は犯行も自供、死刑も確実だった。しかし、調査の進展とともに、重盛の心には違和感が生まれる。会うたびに動機さえも変わる三隅の供述。やがて、三隅と被害者の娘・咲江の接点が明らかになり、新たな事実が浮かび上がる。
弁護士・重盛を演じるのは、福山雅治。『そして父になる』のときも冷静で、心に冷たさを感じられる役どころでしたが、今作も近しい役柄に見えますね。三隅を演じるのは、役所広司。意外にも是枝監督の作品は初出演。被害者の娘・咲江を演じるのは、広瀬すず。本作の予告編からもわかりますが、『海街diary』の瑞々しい姿とは異なった一面が垣間見られます。
ストーリー、キャスト、物語の題材など、どれもが是枝監督の新たな挑戦に見え、公開が待ち遠しい本作。
筆者は是枝監督の作品を手がける音楽家がいつも楽しみなので、今回は過去作のご紹介とともに、その作品と音楽をご紹介いたします。
「映像の浮かぶ音楽」イタリアの巨匠・エイナウディ
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『三度目の殺人』の音楽を手がけるのは、欧州でカリスマ的な人気を誇る作曲家、ルドヴィコ・エイナウディ。Spotify、Apple Musicでも楽曲の再生回数は5億回を突破。過去には『最強のふたり』の劇伴を手がけています。2016年には、環境保護団体が北極の環境保全活動のキャンペーンの一環で行った、同氏の氷上での演奏が話題になりました。
(出典:ルドヴィコ・エイナウディ、北極海の氷上の舞台で演奏するメイキング映像を公開)
エイナウディの音楽には静けさが感じられ、それは、氷上での演奏の様子、本作のビジュアルのイメージなどが映画と音楽の結びつきを際立たせているのでしょう。エイナウディ自身も「雪のなかでは周囲の音があまり聴こえず、自身の内側の感情を感じさせてくれる」と語ります。静けさを感じる音楽とは矛盾にも思えますが、余計なものを取り払い、余白を生み出す音楽とも言え、それは雪上のイメージとも結びつきます。本作は、映像と音楽の親和性が非常に高いものになりそうです。
「光や湿気に音楽をつける」作曲家・菅野よう子
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『海街diary』は、鎌倉を舞台に異母妹と暮らすことになった姉妹の暮らしと家族の絆を描いた作品。主要キャストは、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず。音楽を手がけたのは、菅野よう子。個人的には、映画の劇伴よりも、アニメの音楽を手がける印象が強いのですが、本作も見事なハマりっぷり。『海街diary』は是枝監督の作品のわりには音楽が多めです。しかし、そうと感じないのは本作の音楽のつけ方が環境音のように聴こえているからだと思います。
それぞれの曲名からもわかるのですが、タイトルが「つぼみ」「桜トンネル」「縁側」「波打ち際にて」など、自然物や景色に添えられた音楽に思えるのですよね。曰く「光とか湿気とか、人間じゃないところに合わせて音楽をつける。そういった作り方はあまりしたことがなかったので楽しかった」とのこと。
(出典:『海街diary』音楽担当、菅野よう子インタビュー)
『海街diary』のみどころのひとつは鎌倉の景色でしょう。四季折々の美しさを音楽でも描き、目でも、耳でも彼女らの暮らしを追体験できる作品に仕上がってるかと思います。ぜひ、あらためて本作をご鑑賞ください。
「子どもの背中に重なる音楽」ロックバンド・くるり
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『奇跡』は、新幹線の全線開通をきっかけに、バラバラになった家族を取り戻そうとする兄弟の奮闘を描いた作品。前田航基、前田旺志郎、オダギリジョー、大塚寧々など。音楽を手がけたのは、ロックバンド「くるり」。古今東西のあらゆる音楽を飲み込んだ独自のサウンドを追求する唯一無二のバンド。犬童一心監督『ジョゼと虎と魚たち』でも劇伴を手がけたり、近ごろではボーカルの岸田繁が交響曲第一番を作曲。バンド以外の音楽活動も積極的です。
主役が子どもたちの映画だからか、人懐っこさを感じるメロディの楽曲が目立ちます。また、自身らの楽曲に多くのジャンルの音楽を取り入れる「くるり」らしく、ロックはもちろん、カントリーっぽい楽曲も多め。「くるり」の音楽の自由さ、温かみが子どもたちの背中を押したり、寄り添ったり、絶妙な塩梅で重なるのは本作の音楽の魅力でしょう。
そろそろ、夏も終わりに向かいますが、夏の余韻にお薦めの作品です。
「空気人形の感情に寄り添う繊細な音楽」音楽家・World’s End Girlfriend
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『空気人形』は、心が芽生えた人形の交流を描いた作品。主演は韓国の人気女優、ペ・ドゥナ。音楽を手がけたのは、「World’s End Girlfriend(ワールズ・エンド・ガールフレンド」。以下より「WEG」と表記)。ポストロック、エレクトロニカなどのジャンルに括られますが、ヘビーメタルやクラシックからの影響も感じさせる音楽。ゆえに「『WEG』らしい」としか言えないジャンルを確立させています。
是枝監督は、作品の音楽を考えるときにメインの楽器を先に選ぶらしいです。そして、本作の音楽を決めるにあたり、アコーディオンを使うミュージシャンを探したところ、「WEG」を知ったとのこと。前述のとおり、生み出す音楽に一貫性はありません。非常にノイジーなサウンドのときもあれば、繊細なピアノやストリングスを用いた音楽のときもある。筆者の「WEG」のイメージは前者で、本作の音楽は後者でした。
本作のヒロイン、空気人形は生まれたての赤ん坊のように無垢な存在で描かれます。見るもの、触れるもの、それらのすべてが初めての出会いで、清廉と好奇心に満ち溢れた彼女の気持ちをやわらかな音で彩ります。
これらの作品を観返しながら、是枝裕和監督の最新作『三度目の殺人』の公開を楽しみにお待ちください。
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