90年代『ダイ・ハード2』、『クリフハンガー』、『ロング・キス・グッドナイト』と立て続けにブロックバスター作品を生み出したレニー・ハーリン監督。ハリウッドで一時代を築いた後、現在は拠点をLAと北京という2段に構え、映画制作に携わっている。
そんなレニー監督が20年来の親交を持ち、念願叶って初タッグを組むことになったジャッキー・チェンを主演に迎えた映画『スキップ・トレース』は、ジャッキー映画史上No.1のオープニング成績をたたき出した痛快アクションだ。そして、それは00年代以降、これといって爆発的ヒットには恵まれなかったレニー監督が、息を吹き返した1作でもある。並々ならぬ情熱を捧げて作った本作――インタビュー中に「もともと台本には想定していなかった」と明かした、あのジャッキーにアデルの名曲「Rolling in the Deep」を歌わせた秘話――など、Filmarks独占で語ってもらった。
――Filmarksです、よろしくお願いいたします。
今回はオンラインだから、声は使わないの?
――あ、文章のみになりますので、使わないです。
OK、I can talk any voices I want!(※声色を変えて怖い声を出している)
――(笑)。レニー監督のそのお人柄が映画に色濃く出ているような、心から笑える作品でした。
ありがとう! 全米でも中国でも非常に観客からのレスポンスがよくて、僕も楽しい時間を過ごせているよ。やっぱりアクションコメディの醍醐味は、観客の感触がすぐにつかめるところなんだ。即フィードバックがもらえて、自分が狙った通りに驚いて、狙った通りに笑ってくれると、監督としてこんなに満足できることはない。ジャッキーと僕は、「この作品は中国へのラブレターなんだ」という意識で作っていたんだ。アメリカの観客の反響としてうれしかったのが、「中国って、こんなに美しい国なんて知らなかった」、「内モンゴルはこんなに綺麗な場所なんだね」というものだったから、日本でもそれが伝わるとうれしいよ。
――今のお話で出た内モンゴル自地区の場面、私もとても好きです。ジャッキーにアデルを歌わせるなんて……発想に脱帽しました。エピソードをぜひお聞かせください。
その質問、すごくうれしいよ! 僕もあのシーンがすごく気に入っているシーンのひとつなんだ。もともとアデルの曲を使うのは脚本にはなくて……って背景を話すとかなり長くなるんだけど……いいかい?
――ぜひ、ぜひ。
準備をするにあたり、内モンゴルでロケハンをしたんだ。そのとき、現地の人々に会って彼らの民族衣装を見たり、共に食事をしたり、テントの中で過ごしたりしたよ。彼らは非常にフレンドリーで、「君たちはどういう音楽を聴くの?」と聞いたら、「POPミュージックもアメリカミュージックも聴くよ」と答えた。「例えば何?」と聞いたら「アデル!」と。僕はアメリカから遠く離れた内モンゴルの場所でも、皆が同じ曲を聴いているんだと思って感動して、その体験を映画に盛り込みたいと思ったのさ。西洋と東洋は文化的に非常に違うわけだけれど、「共通点があるんだよ」と見せたくなった。
それで、ジャッキーに「アデルは好き?」と聞いたら「もちろん好きさ! 皆アデルは好きだろう!?」と言ってくれたので、「キャンプファイヤーをしながら、皆でアデルを歌うのはどう?」と提案したんだよ。ジャッキーは、それはもう喜んでやってくれた。
――それで「Rolling in the Deep」を合唱する運びになったんですね。
モンゴルの原住民の皆さんとジャッキーには練習してもらって、歌詞も完璧に覚えてもらったよ。あの場面で、エンターテインメントというものは異文化を融合させるものだ、ということをシンプルかつ見事に見せられたと思ってる。異文化で育った者同士でも、交流を深めれば、気持ちはひとつになると。今いろいろな紛争や対立が起きているけど、そういうものもなくなっていくんじゃないかなと思っているんだ。
――温かいシーンの中には、監督のそんな想いも込められていたんですね。
そう。けど、大問題も発生してね……。編集も終えて、一番最後のサウンドミキシングをしているところで、なんと「Rolling in the Deep」の使用許可が取れていないことが明らかになって……。急いでアデルのマネージャーやエージェントに折衝したんだけど、「アデルはそういうのを許さないので」とNGをくらっちゃったんだ。
――……!!
だから、「歌のシーンはカットしないといけないよ」と製作陣に言われたんだけど、あのシーンこそ、この映画の魂だろう? カットするなんて考えられないし、ましてやジャッキーに言えるわけがない。「どうしよう!」となったんだ。
そこで、僕はアデルの友達の友達の友達の友達……くらいの人と知り合いだったので(笑)、何とかつてを辿って、ロンドンにいる彼女の親友に手紙を書いた。「僕はアデルが大好きで、彼女のようなアーティストが世界を融合することができる。歌という芸術がいかに素晴らしいのか」というような内容をしたためて送ったんだ。それが高じて、アデル本人にあの場面を見せることができたのさ。映像を観た彼女はなんと「とても気に入った、使っていいわ!」と許してくれたんだよ。
――本当によかったです! そして、ジャッキーと組んだことはレニー監督にどのような刺激をもたらしましたか?
いろいろな意味で、ジャッキーは素晴らしい方だ。ジャッキーから得た一番の学びは、「不可能なことはない」ということだった。僕のようにハリウッドで長年仕事をしていると、撮影前はミーティングにミーティングを重ねて、ようやく合意にありつけて、綿密に計画した上で撮影に入るんだけど、ジャッキーのアプローチは正反対! すべてがアドリブで、アイデアが浮かべば「すぐやろう」と。彼のアプローチと僕のアプローチを折衷させて、撮影は進んでいったよ。
――ジャッキーの一番のアドリブといえるのは、どこの場面でしょう?
現場で思いついてそのままやったものは、本当にいろいろあったよ! 例えば、ロシアの追手とジャッキーが闘う工場の場面があるよね? 最初は普通の工場だったんだけど、「おもちゃ工場にしたらどうだろう?」と僕がアイデアを出したら、すかさずジャッキーが「だったらマトリョーシカを使うのはどう?」とアイデアを重ねてきたんだ。「それはいい!」となったんだけど、実際マトリョーシカをジャッキーがどんどん割っていくことになって。マトリョーシカをうまく割れるようにデザインしないといけないので、美術担当はかなり大変な思いをしたみたいだ(笑)。でも観客にはやっぱり大ウケで、この映画の代表的なシーンのひとつになったね。
――日本のトレーラーでも話題になっています(笑)。何体くらいマトリョーシカを壊したんでしょう?
もう50体は……! 映画を観ていると、すごく自然に壊しているように見えるけど、物理的に非常に難しいんだ。だって、外側の殻だけが割れて、中までは割れないようにしないといけない微妙なバランスだから、すごく大変で。かつ中のマトリョーシカを持ったままでいないといけないので、割られると普通は落としちゃうんだけど、落とさないジャッキーは本当にすごい。
――ジャッキーの天賦の才を、まざまざと見せつけられた感がありました。
ただ、本人は、「僕は別に技術的に卓越しているわけではなくて、皆より忍耐強いんだと思う」なんて言うんだ。例えば、何かを蹴り上げて空中を飛んで手でキャッチするのは、通常だと「あり得ない」ことなんだけど、ジャッキーはやってのける。蹴り上げたものをキャッチできるまで、何回も何回もやるわけさ。ほかの人にはそんな忍耐強さはない。あそこまでできるのはジャッキーくらいだよ。
これは僕の人生の教訓にもなっていて、大概「これでよし」というラインで人はやめたりするわけだけど、そうではなくてジャッキーは「本当にこれでいいのか」という意識で、物事に取り組むことの大事さを教えてくれた。ジャッキーはパーフェクトなものができるまで、諦めないんだ。必ず粘る。僕もそんなレベルに到達できればと、そう願っているよ。
――そんなジャッキーとレニー監督の再タッグを見られると、この先期待していていいですか?
『スキップ・トレース』自体、大成功を収めることができたので「たぶん」続編はできるんじゃないかな。続編を作るなら「こういうことをやりたいよね」というアイデアもたくさんあるし、ジャッキーと組むチャンスはいつでも虎視眈々と狙っているよ。今回の作品でジャッキーのことをより知ることができたし、僕は中国に拠点を移してから3年経って、中国の人々のこともより深く知ることができているので、再タッグが叶えばと思っているよ!(取材・文:赤山恭子、写真:市川沙希)
映画『スキップ・トレース』は9月1日(金)より全国ロードショー。
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