インタビューで自身が語ったように、確かに清野菜名がこれまでオファーされた役は、口数が少ないなどの寡黙な人物が多かったかもしれない。醒めた目の中に宿す憎しみや畏怖の念を表現するのに長けた女優の印象だったが、リリー・フランキーと共演した映画『パーフェクト・レボリューション』では、そのイメージから脱皮するかのように、荒々しく開眼した。
精神に障害を抱えながら、底抜けに明るく激しいミツは、重度の身体障害を抱えるクマへの愛を貫き通そうと、スクリーンで躍動する。思いっきり息づき、これ以上ないほど役にのめり込んだと打ち明けた清野は、勢いと魅力を本作に与えた。彼女の女優人生にとってのターニングポイントであり、運命を変えることになりそうな『パーフェクト・レボリューション』について、溢れる想いを可憐な笑顔で語ってもらった。
――ミツはとても演じ甲斐のある役の印象でしたが、いかがでしたか?
今までで初めての感覚で、とても不思議な体験をしました。というのも、ミツの役を演じてみないとどうなるのかはわからないところがあったんですけど、撮影に入ってみたら、自然と台本の中のミツになっていったというか……、気づいたらミツになっていて。いつもは台本を読んでいても、台詞覚えが本当に悪くて時間もかかるんです。だけど、今回だけは長い台詞も自分の言葉のように入ってきました。
――現場に入ってから、その感覚になったんですか?
入ってからです。髪色も何も言われていなかったんですけど、台本を読んだときに「黒髪じゃないほうがいいな」と思って、松本(准平)監督に「ミツの色を作りたいです。何色がいいと思いますか?」と相談をしました。金髪などのただ派手な感じとも違うし、もう少し超えた感じがいいという話をしているうちに「ピンクはどう?」となって「すごくいい!」と一致してピンク色に染めました。
――すごく似合っていました。ピンクの髪の自分を初めて見たときの感想は?
「あ、楽しい!」(笑)。なかなかできない髪色じゃないですか? キャラクターをうまく連想させてくれたところもあるし、自分からミツになる切り替えがうまくできたポイントでもあるのかなと思っていました。ただ、『パーフェクト・レボリューション』の撮影に入った1か月間はお休みもなくて、終わって次の日からまた別の作品だったので、ピンクの髪で私生活を過ごすことができなかったのが、ちょっと苦でした(笑)。
――確かにそうですね。清野さんとミツで似ているところはあったんでしょうか?
障害もある関係で、ミツは感情が0か100かなんですよね。ただ、実は私も普段テンションが高いので、100%のミツのはっちゃけ具合は結構似ていました。リリーさんにも「ミツよりミツだよね。じゃないとできないと思う」と言われて。いいほうに取っていいのかは、わからないんですけど(笑)。
――(笑)。そこまでシンクロできた理由は、何か思い当たります?
最初に台本を読んだとき、すごく面白かったんです。全然細かいことが決まっていない段階だったんですけれど、ミツをやりたい気持ちが強くて。監督からもお手紙をいただきましたし……私、監督から手紙をもらったのは初めてだったんです。
――内容が気になります。
「こういう思いでやってもらいたい」ということや、「清野さんの明るい部分はミツに似ていると思うし、清野さんに合っている」など、いろいろと書かれていました。私のことをこんなに思って「この役がいい」と言ってくださるのは初めての経験でもあったので、私も素直に受け止められました。
手紙って、いただく行為自体が何よりもうれしいですよね。普段、なかなか手紙を書くこともないですし、書くことはメールを打つこととは違って、すごく考えながら書かないといけないですし、一生懸命考えてくださったことが伝わりました。私も、挑戦してみたいという好奇心が膨らみました。
――いざ演じてみて、0⇔100の表現は難しくはなかったですか?
本当に0か100で、中間がない分、私にはやりやすかったです。ワーッとやっている瞬間もあれば、落ち込むのが強ければ強いほどわかりやすいですし。すごく自分でもやり甲斐があったし、やりやすかったというか。本当にすごく楽しかったです、この役は。
――100の中で、特に楽しかったと思い出される場面はありますか?
クマピー(リリー演じるクマのあだ名)とクラブに行ってダンスするシーンは、すごく楽しかったです。私、クラブに行ったことがなかったのと、テキーラも飲んだことがなくて、レモンをどうやるかもわからなくて(笑)。あとは、クマピーと恵理さん(小池栄子)と3人で海に行く道中の車の中ですね! ミツにとって「青春」と思える気分のところでした。車から顔を出して「最高―――!」と叫ぶシーンは、自分の人生の中でもちょっとやってみたかったし(笑)。
――振り返ると、インパクトの強い場面が多い映画ですよね。
本当に。そういえば海に入るシーン……、撮ったのが3月で。雪の降った日で……、それで海に入ったんです……。
――ええ……!
一番今回の現場できつかったです(笑)。精神的にどうこうよりも、肉体的なのがつらいことで思い出されます(笑)。
――一緒に海にも入られた、初共演のリリーさんとは絶妙なコンビネーションでした。
私は基本人見知りですけど、ミツとクマピーの(恋人という)関係を考えて、頑張って話しかけました。気づいたら普通に会話できる関係になっていて、リリーさんもいろいろ話してくれたりして、すごく仲よくなりました。
――結構年齢差がありますよね。話題は何だったんですか?
ええ~! 仲良い友達と一緒にいるときって、たわいもない、何も残らない会話をするじゃないですか? 本当にそんな感じですよ!
――役や作品についても、リリーさんとお話する機会はありましたか?
撮影のときはドライ、テスト、本番ですけど、ドライの後に時間があったりするので、やってみて「ちょっと違うかな?」となったら「こうしようか」という話はリリーさんとしていました。監督も、私たちの意見を聞いてくださる方だったので、尊重してくれました。あとは終わって飲みに行ったり。ホテルに泊まったときには、ロビーでリリーさんと飲みました(笑)。
――おふたりで?
(笑顔でうなずく)。時間が本当になかったので、早朝5~6時から入って、長いときは深夜2~3時までやってという繰り返しだったんです。本当に帰って寝るだけだったので、たまにそうやって飲んだりできることが、すごく息抜きでした。私、お酒はすごい好きで、一番好きなのは日本酒の熱燗です(笑)。
――そうして近しい関係性を築けたからこそ、おふたりの役柄に反映されたんですかね。
はい。クマピーとのキスシーンがありますよね。あのときも、ふたりとも気にして「ガム食べたほうがいいかなあ?」、「どうせなら同じ味のほうがいいよね」とか言って、同じガムを食べたりしていました(笑)。
――何ともかわいらしい……。先ほどお話のあったクマとのクラブでの車椅子ダンスは前半にあり、後半では一転、非常に物哀しい車椅子ダンスがありますよね。同じダンスでも心情が違うことが痛いほど伝わり、すごく心に残っています。
私も、あのシーンが一番好きです。後半のダンスは別れでもあれば、始まりでもあるというふたつの演技が自分の中でもありました。自分の感情が本当に湧き出てしまって……、私とリリーさん、本当にあの日は本番じゃなくても、常に泣きそうで。すごく強い思いがあったシーンなんです。演じていて、何でこんなに涙が出てくるんだろうって、止まらなかったので。
――おふたりの表情が忘れられません。
ふたりとも「やばいよね」と言い合っていました。「私、涙が止まらないんです」、「俺も、俺も」という感じの1日でした。すごくいいシーンになったんじゃないかな、と自分でも思っています。
――リリーさんが演じたクマのモデル・熊篠慶彦さんとも、お話をされましたか?
はい。熊篠さんは、現場にも来てくださったんです。「私、大丈夫ですか?」と聞いたら「似てる、似てる!」と言ってくださって、当時のお話も聞いたりしていました。車椅子のダンスシーンとかは、実際に熊篠さんで練習させてもらったりして(笑)。
――熊篠さんバージョンも見てみたいです。清野さんは、ミツがクマに惹かれた理由をどう解釈していますか?
私もそうですけど、挑戦をやめない人が好きなのかな、と。周りからいい目で見られていなくても、自分が思っていることをちゃんとやり通す人、諦めずに挑戦し続けるという姿に、ミツとしても、台本を読んだ私としても惹かれました。
――お話を聞いていると、本当に生き生きとしていらして、本作は清野さんにとって特別な作品のように感じます。これまでの作品とは違う位置づけになりそうですか?
違うと思います。私、これまで暗い役というか、口数が少なかったり、表情だけでお芝居するような役が多かったんです。だから感情をオープンにすることはあまりなかったので、こんなにも自分の感情にブレーキをかけずに、全部出したのは初めてでした。監督も「好きにやっていいよ」という感じの方でしたし、制限もされませんでした。自分の中で「こうしたい」というイメージもできていたので、恥ずかしがらずにバンと出せたのは、演技の壁を乗り越えたというか。これからの自分としても、少し変われたところがあったと思っています。おかげで、今後のお仕事にも活きているのかなと、自分にとってすごく大きな作品です。
――普段、演じる上で壁に当たったときは、どう乗り越えているんでしょう?
基本、いつも自信がないんですよ……。台詞を覚えるのが本当に苦手ですし、毎日毎日繰り返しをしてやっと入れていく感じなんです。アドリブも苦手なほうなので、とにかく台詞だけはしゃべられるようにという、そこだけは完璧に自信をつけたいのがあったりはします。
――とはいえ、本作の法事シーンで、お寿司を投げつけたのがアドリブだったと伺いました。秀逸でしたが……?
あ、はい(笑)。あのシーンでは、台詞よりも行動というか、ものにあたるほうが感情を自分でセーブできていない感があっていいなあと思ったんです。自然と手が(お寿司に)伸びてしまって、バンと投げつけてしまいました。
――本番で初めてやったということですか?
はい。でも私、アドリブが苦手なので、あのシーンは奇跡でした(笑)。
――ところで、清野さんはもともと身体能力が高いイメージなので、今後またアクション作品出演でもお見受けしたい願望があります。
やりたいですねぇ! 私、サバイバル系をやりたいんです。走り回りたい、逃げたい(笑)! いいなあと思うのは『メイズ・ランナー』系ですね。よろしくお願いします!(取材・文:赤山恭子、写真:市川沙希)
映画『パーフェクト・レボリューション』は9月29日(金)より全国ロードショー。
(C)2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会
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