下劣、ゲス、クズ…共感度0%、不快度100%のラブストーリー『彼女がその名を知らない鳥たち』

「共感度0%の嫌な人間しか登場しないのに、ページをめくる手が止まらない!」と話題になり、20万部を超えるベストセラーとなった沼田まほかるの小説「彼女がその名を知らない鳥たち」が待望の映画化、10月28日(土)より全国公開となります。

彼女がその名を知らない鳥たち

恋愛に依存し、3人の男性の間で揺れ動く儚さと危うさを持つヒロイン・十和子役に蒼井優。十和子に異常な執着をみせ、不潔で下品な男・陣治役に阿部サダヲ。妻子を持ちながら薄っぺらな言葉を並べ、十和子と肉体関係を結ぶ男・水島役に松坂桃李。十和子のかつての恋人で野心家の男・黒崎役に竹野内豊。これまでに観たことのない新しい表情で、共感度0の主要人物達を怪演しています。

メガホンを取ったのは『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』など、実録路線のクライムムービーで高い評価を得る鬼才・白石和彌監督。本作彼女がその名を知らない鳥たちで、監督自身初の本格ラブストーリーに挑みました。

不穏で不快な物語はある瞬間を境に究極の愛の物語へと姿を変え、観るものの胸に驚きと感動を呼び起こし、不思議な余韻で包み込みます。

今回はそんな話題作彼女がその名を知らない鳥たちの魅力を男性、女性それぞれの目線から切り込み、みどころとあわせて紹介していきます。

これが恋する女性の脳内、そして恋する女性の恐ろしさ

本作に登場する<下劣で>、<ゲスで>、<クズな>3人の男性達。彼らを様々な意味で惹き付ける十和子という女性は、それぞれの男性に対し全く違う表情、声色、態度を見せ、彼らの心に棲みつきます。

家事を一切せず、一日中ソファーの上で過ごし、生活のすべてを陣治に頼りながら、水島の前では外国の土地に想いを馳せる儚さと妖艶さを持ち合わせた人妻になる十和子。そして過去の恋人・黒崎には身も心も捧げ献身的に尽くす女性……。

十和子はスクリーンの向こう側、物語のために創られた非現実的な恐ろしいキャラクターのようでありながら、実は世の中の多くの女性は、程度は違えどみな、十和子の行動を受け入れてしまう部分があるのではないでしょうか。

劇中で登場する十和子の美化された思い出や、現実から逃避する妄想の映像はまさしく女性の脳内を目に見える形で描き出しており、その描写の生っぽさは白石監督ならではです。

夢見がちで現実的、儚さと図太さ、優しさと狂気。真逆の要素を表裏一体で持ち合わせ、瞬時に使い分ける十和子。
端から見るとあまりに滑稽で失笑してしまうような姿や思考の回路が理解できないおかしな行動の選択……しかし十和子のみならずそれをしてしまう生き物こそが女性なのかもしれません。(やや言い過ぎでしょうか……いや、そんな事はないはず……)

彼女がその名を知らない鳥たち

■共感度ゼロで理解できないけど、これは愛の物語だ。蒼井優ちゃんが今作も凄い凄い。クレーマーではじまって、あーもー理解できん女だわ、と思うのに。途中から、こうなってしまうのも仕方ないよね…と思えてしまう。(Kayoko.さん)
■蒼井優がすごかった。自分の中では、阿部サダヲ=コメディのイメージが強いので、この役柄は新鮮。蒼井優がすごかった。蒼井優が、すごかった。。(saiderさん)
■蒼井優さん演じた十和子は、狂気じみた、どうしようもない女ではありますが、ただ愛を求めている女であり、阿部サダヲさんが演じる十和子を守ると口ぐせのように言う陣治は、理解しがたい愛を注ぐ男。ラストには、二人共が少し愛おしくなってしまった。(tokurin69さん)

女性ならば誰もが心の奥底に持つ普遍的な欲望、願望、希望を正面から捉えた模写

予告にもある通り、本作に登場する人物は全員がそれぞれが最低、共感度0%のクズっぷりを見せ、嫌悪感を抱かずにはいられません。
特に蒼井優演じる十和子は、一緒に暮らす陣治を足蹴にしながら自分は働かず、挙げ句の果てには妻子ある水島と不倫をする、どう考えても最悪な女性です。しかし、十和子の心のゆらぎを追っていくうちに、目の前の十和子にどこか自分自身に重なる感情や、羨ましささえをも抱く女性は少なくないはず。

忘れることが出来ない過去の恋人、嫌悪を抱きながらも離れられない自分自身を愛してくれる男、一瞬の寂しさを埋めてくれる不倫相手……。
十和子が抱くそれぞれの男性に対する“愛したい”、“愛されたい”という純粋すぎる欲望や自身の現状から目を背けて抱く“幸せになりたい”という答えのない願望、そして最悪な現状の中でもどこかで夢見る希望は、私たちの理性を超えて本能に語りかけます。

彼女が迎える息の詰まるような結末は、これまで(もしくは今)、辛い恋を経験した(している)女性ならばぐっと胸を締め付けられるでしょう。
本作は多くの恋愛映画で描かれるような、純粋な愛の概念とは真逆の物語かもしれません。しかしそこに隠されたあまりに複雑で難解な愛の形に心が打ちのめされながらも、どこかであなたの人生を力強く肯定してくれる、そんな不思議な作品です。

彼女がその名を知らない鳥たち

■圧倒された。ひとを愛することを描ききった、この映画は、傑作だと思う。実際映画を観た後、真の愛とは何か?を考える契機となった。こういうことは滅多にないのだが。役者の演技力、衣装やロケ地の雰囲気、音響の使い方等、あらゆる点で非常に完成度の高い映画を観たと思う。(Rocksoff1さん)
■この映画ほんとに観て良かった。とにかく素晴らしい映画でした。
日本の映画で、しかも原作小説を映画化してこんなに素晴らしい作品を作る監督、日本になかなかいないのではないかと思う。監督が自分が撮れる愛の映画はこれだと思ったから作ったって言ってて観終わったあとその言葉思い出して鳥肌立ちました。こんなにも重たい愛の映画撮れる監督の素晴らしさ。観る側にこんなにも訴えかけてくる映画なかなかない。(akikoburtonさん)
■最低の人生で見出された、削り取られ、削ぎ落とされたが故の究極的な愛情とでも言うのか…。未来の時間まで突きつける結末は観たことない…は嘘になるけど、衝撃的で悠久な愛情として余韻が半端なかった。(kanai.masaakiさん)
■陣治の十和子への愛の深さに呆然としながらも、十和子が羨ましくもあり。私にはまだわからない愛の重さだけれど、最後には不思議と涙が出てました。(mihoppy24さん)

異常な執着、過剰な愛を抱く男の真意とは。阿部サダヲが演じる、陣治の魅力

罵られても、なじられても、十和子に対する異常とも言える献身と束縛で彼女を愛する男、陣治。汚れた衣服、すすけた顔面、食事中に足の指のゴミを取り、食べ物をぼろぼろとこぼす不潔さ。本作の不快なところの大部分を占めるのが何と言っても彼ですが、阿部サダヲがこの役柄を怪演。ファニーなルックスの可愛らしさと、狂気を宿した表情。そのアンバランスさは阿部サダヲだからこその演技でしょう。

陣治の根っこには、十和子への愛情はもちろん、誠実さも感じられます。仕事の愚痴はこぼしても実直に働き、幾度の罵倒を繰り返されても「十和子のためだったらなんでもできる」と言い放ちます。ただし、それらのすべてが過剰で、誰が見ても鬱陶しい。十和子への心配は束縛につながり、献身は歪んだ愛情を育みます。

陣治の言動は、十和子を想えばこそのもの。そこだけを捉えれば、本作は普遍的な愛の物語にも思えるのですよね。好きなひとを悲しませたくない。そのくらいの気持ちならば、共感を抱くひとも多いのではないでしょうか。

しかし、陣治の十和子への想いは常軌を逸してます。それは共感とは異なり、好きだから、悲しませたくない。好きだから、守りたい。好きだから、なんでもできると、徐々にエスカレート。愛と狂気の紙一重のところを描き、相手を想うことの難しさを感じさせられます。

彼女がその名を知らない鳥たち

■とにかく蒼井優と阿部サダヲの演技が素晴らしすぎる。共感度ゼロってキャッチコピーだけど人によっては決してゼロではないと感じた。それぞれの役みたいな人は周りに絶対いると思うし自分も少なからず重なる部分があるとも思う。特に阿部サダヲは最終的には究極にカッコイイと思ってしまった。汚いけど。汚い演技がうますぎて引いたけど。(bocandaikoさん)
■映画を観ているだけで、陣治から私自身が嗅いだことのある酒臭さ、泥臭さを思い出すような作品、視覚、聴覚が映画の醍醐味じゃないと感じた作品でした。(filmusz6さん)
■顔が汚れ過ぎな気もする阿部サダヲがおじさんの無償かつ究極の愛でもって全力で泣かせにくるので要注意。タオルハンカチ必携。(kyoko8798さん)

自堕落、下劣、ゲス、クズ。最低の人間たちが織り成す、愛の物語

十和子を取り巻く男たち。
それぞれが男性特有の嫌なところをあぶり出した役柄で、女性からはもちろん、男性から見ても生理的に不快に感じる人物たちです。

これらの人間の描写は白石監督の十八番とも言え、人間の本質的な闇や愚かさ、グレーな部分をえぐり出し、わたしたちに見せつけます。それは、白石監督のこれまでの作品でも活かされた特徴のひとつ。本作を「共感度0%、不快度100%」の愛の物語に仕上げられたのも、白石監督の力が大きいでしょう。

主要な人物を演じた役者たちは誰もが素晴らしく、とりわけ、ゲスな男・水島を演じた松坂桃李の演技が見事でした。ゲスで、軽薄で、甘い言葉を囁く、薄っぺらの男。見た目が好青年的なルックスなだけに、本作での彼の言動は非常に不快です。

そして、それに勝るとも劣らない非道な男・黒崎を演じた、竹野内豊。黒崎の暴力描写は、白石監督の真骨頂とも言えます。前作『日本で一番悪い奴ら』のときが顕著でしたが、笑いに寄せた暴力を描くときもあれば、嫌悪感を抱く暴力を描くときもある。本作での暴力は圧倒的に後者でしょう。

本作は、最低な人間たちばかりの物語です。不穏な雰囲気が全編を覆い、待ち受ける未来も不吉なものにしか思えない。しかし、物語にはグイグイと引き込まれる。それは、不快ながらもわたしたちを惹きつける演技を見せる役者たちの力でしょう。それぞれがこれまでとは異なる一面を覗かせ、嫌な演技の新境地を開拓。白石監督の幻想的な演出も手伝い、非常に魅力的な愛の物語が紡がれたと思います。

本作の結末では、奇妙な感慨を抱きます。共感も得られなければ、白石監督特有の不快さも肌に残りますが、あと味は不思議と清々しいのです。異常な執着と、歪んだ愛情の果てに辿り着く、陣治の愛のかたちと、その真意。それを十和子はどう受け止めるのか。ふたりの行く末を劇場で観届けましょう。

彼女がその名を知らない鳥たち

■共感は100%できない作品だが、ミステリー、サスペンス、愛たくさんのものが詰まっている作品でした。この作品で感動は絶対に無いだろうと、ずっと思って観ておりましたが、ラスト感動しっぱなしでした。本当に予想外のラストです。(a0815ayanoさん)
■キャスティングの意外さにもびっくり。しかし観始めるともう十和子は十和子でしかなく、陣治は陣治でしかなく、水島は水島でしかなかった。それくらい、キャスト陣の演技が素晴らしかった。(freejunkieさん)
■蒼井優さん、阿部サダヲさんの鬼気迫る熱演。竹野内豊さん、松坂桃李さんの滲み出る悪人顔。この4人の凶演だけでも観る価値ある作品だと思います。そして、今から白石監督の次回作品が楽しみでなりません!(fuchampluさん)
■怖くて暖かい不思議な物語。爛れた人間関係の中に、本物の愛と紛い物の愛とがある。前者は見返りを求めず誠実であり、後者は不誠実で自分の欲求のために相手を支配しようとする。物語が進むに連れて登場人物の愛が本物か紛い物かがだんだんとわかってくる、そんなミステリー映画でした。(sillypensallyさん)

◆映画『彼女がその名を知らない鳥たち』 information

彼女がその名を知らない鳥たち

あらすじ:八年前に別れた男・黒崎を忘れられない十和子は、今は15歳上の男・陣治と暮らしている。下品で、貧相で、地位もお金もない陣治を激しく嫌悪しながらも、彼の稼ぎで働きもせず日々を過ごしていた。ある日、十和子は黒崎の面影を思い起こさせる妻子ある男・水島と関係を持ち、彼との情事に溺れていく。そんな時、家に訪ねてきた刑事から「黒崎が行方不明だ」と知らされる。どんなに足蹴にされても文句を言わず、「十和子のためなら 何でもできる」と言い続ける陣治が、執拗に自分をつけ回していることに気付いた十和子は、黒崎の失踪に陣治が関わっているのではないかと疑い、水島にも危険が及ぶのではないかと怯え始める――

上映時間:123分
<2017年10月28日(土)より全国ロードショー>
公式サイト:http://kanotori.com/
配給:クロックワークス
(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】

 

※2021年12月28日時点のVOD配信情報です。

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  • やまびこ
    3.7
    クズとキモいやつしか出てこないのかと思ってたけど、途中からキモい認定してた陣治の評価が変わった。 愛がいきすぎて狂気とも言える。十和子をストーカーしてた理由も最後になって明かされるが、にしても狂気の沙汰。なぜそこまで献身できるのか。それが愛なのか。咳をしている描写や鼻血を出しているところから病気にかかっていることが察せられるが、十和子のことより自分のことも大事にしろよと思ってしまう。 現実では微妙になさそうな話で、ある意味ファンタジー味がある。登場人物が全員変だから。観ればわかります。
  • ありお
    -
  • KeijiとSakanaya
    2.8
    人として生きる事すらも捨て去った愛。 徹底した自己犠牲を以って守り抜こうとするけれど、それは本当に守る事になるのか。 人それぞれの純愛と言うものに対する価値観に結末を任せる作品だと思う。
彼女がその名を知らない鳥たち
のレビュー(49416件)