『ウォーターボーイズ』(01)『スウィングガールズ』(04)など数々のヒット作を手掛けた矢口史靖監督の最新作、『サバイバルファミリー』のブルーレイ&DVDが現在発売中だ。ある日突然電気が使えなくなったら人々はどうなるのか──という誰もが一度は思ったことがある素朴な疑問をモチーフに、なんでもない平凡な現代一家のサバイバルを描いていく。
矢口監督作品というと爆笑を誘うコメディーというイメージを抱く映画ファンが多いだろうが、ご本人は「純粋に恐ろしい映画を作りました」と最新作を説明する。その一方でCGなしのオールロケで描く一家のサバイバル劇を通じて、声高に危機管理への警鐘を鳴らすというわけでもない。『サバイバルファミリー』の真のテーマなどについて、お話を聞いた。
――本作は王道のコメディーなイメージがありますが、そう思って観始めると“笑えなくて”腰を抜かしますよね。
皆さん本気で笑っている方が多かったのですが、それは予告編に引っ張られたからか、ある程度誘導されているからか、矢口作品だから当然笑っていいはずだ、という思い込みがあったとは思います。笑って鑑賞するということが正しい作法だと思い込んでいたかもしれないですが、僕はダマすつもりはまったくなく、純粋に恐ろしい映画を作りました。ただ、宣伝の方向性としてはそうじゃなかったので、お客さんは迷って観るだろうなとは思いましたが、迷いはありなんですよね。映画そのものが、主人公一家そのものがどうしていいかわからず目的もはっきりしないまま、ふらふら行く先々で対応に困りながら迷って進んでいく話なんで、観ている方もひやひやしながら観ると思うんです。ただ案外、皆さん笑う方向に行っていたので、なんだか怖いなって思いました。
――その主人公を演じる小日向さん、おっしゃるように映画の中で散々な目に遭っていました(笑)。
すごいですよね。非常に温厚な方で、普段は誰も怒らせない。皆を笑わせて、現場の雰囲気をよくしちゃう人なんです。でも今回に限っては、すごく怒っていましたね。こんなことまでさせるのかと、きつかったそうですよ。2か月半、全部ロケで、全部やってもらっています。一番嫌がっていたのは虫で、一番怒っていたのは川。怒っていたというか、死にそうだと弱音を吐きまくっていました。僕は死にそうな目に遭わせたくてしていたわけではなくて、スタジオを使ったり、合成を使ったりしたくなかっただけなんです。朝現場に行くと高速道路に自転車が置いてあるとか、「豚がいるから捕まえてください」とか、そういうことが結果的には俳優さんたちを辛い目に遭わせる毎日だったみたいで、その極めつけが川だった、ということでしょうね。怖かったみたいです。
――川のシーンは、鬼気迫る表情が印象的でした。印象というか、目に焼き付いています。
川での撮影は、映像を観ているだけではわからないとは思いますが、夏のように見えて撮影は11月の末だったんです。だから死ぬほど冷たい。僕は指の第二関節くらいまでひたして、「これはひどい。絶対にオレには無理!」と思って入らなかったのですが、俳優さんたちには全員入ってもらいました。そのおかげで、本当に死ぬかもしれないという切迫感が皆さんの表情に出ていると思います。
――確かに一部をスタジオ撮影とか合成とかCGに頼ると、リアリティーがグンと下がりますよね。
昔であればCGそのものが売りになったし、すごいって思ってもらえたけれど、最近は観客の目が肥えているので、「そりゃあないでしょう」とバレてしまう。この家族は本当に大丈夫か? 役者は怪我しないかな?とハラハラする映画にしかった。となると自然とデジタル技術は減らそう、本物連れてくればいいじゃない、川に落とせばいいじゃない、と、どうしてもなっちゃうんですよね。
――リアリティーで言うと、途中でアウトドア一家が出てくるあたりで、鈴木一家の危険直面度が目に見えて浮き彫りになりますよね(笑)。
鈴木一家はお父さんがダメな人で、極端にわかりやすいかたちであっという間にボロボロになって、食料も何もなくなっちゃうんですけど、おそらく大抵のお客さんが似たり寄ったりだと思うんです。そういう技術もツールも持っていないはずなんですよ。だから笑っているうちに、笑っていられなくなるという。
――その一方で警鐘がないですよね。声高に啓蒙するようなこともない。
そうですね。もっと言うと、こうなっちゃってもよくない?ということが気分としてはあります。それが理想の世界だと言っているわけではないですが、あふれんばかりの電子機器と便利なインターネットというもので生活はスマートでスピーディーになっています。でもなくなったらなくなったでそれはそれでアリではないかと僕は思っているんですよ。まあ、本当にそうなったら映画館は運営できないし、DVDは観られないんで自分が一番困るんですが。
――でも電気が消えて家族っぽくなるとうか、いいことも描いてはいますよね。
僕自身はスマホをやっていないのでのんきなことを言ってますが、なくなったら困る人のほうが今は圧倒的に多いでしょうね。僕自身、機械が苦手なので、テキパキ使っている人を見ると悔しいんですよね。映画の出発点は、電気がなくなって皆困ってしまえばいいのに、そんな逆恨みから始まりました。今でこそ僕は取り残されているけれど、電気が使えなくなった世界になれば、天下を取れるはずだと。でもはたと気付いた。だからといってサバイバル的な技術は何もないので、結果鈴木家のお父さんと同じような役立たずになってしまうと思います。
――今日はありがとうございました! 最後にパッケージを購入する方のために、映像特典について少し、教えてください。
「サイドストーリー」は、映画の物語が始まる前の時間軸で、本編と少しだけリンクしてくる物語です。サバイバル映画なのでまったく生死に関係ない話にしちゃうとつまらないと思い、何か危険な目に遭うというコンセプトで2本作りました。『サバイバルボーイ』は僕が作り、『サバイバルガール』はチーフ助監督の片島さんが作りました。それぞれ鈴木家の息子と娘なので、お父さんお母さんといる時とは空気が違うはずなんです。より弾けるような若々しい作品になったと思いますので、ぜひ観てほしいです。(取材・文:鴇田崇)
(C)2017フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ
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