この夏、映画ファンのみなさまに絶対観てほしい映画があります。
それは、ヤスミン・アフマド監督の『細い目』です。今作は未だDVD化がされていないため、このたびの飯田橋ギンレイホール<ギンレイ・オールナイト>、およびジャック・アンド・ベティ<よこはま若葉町多文化映画祭2015>での上映は非常に貴重な機会なのです。
この夏の締めくくりのひとつとして、思い切って夜通し映画を観る、お洒落な港街で映画を観る、そして「最高の感動」を味わってみる、そんなひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか?きっと素敵な”夏の想い出”として心に残ることかと思います。
『細い目』(2004・マレーシア)
出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Sepet
基本情報
出典:http://kac-cinema.jp/theater/detail.php?id=000510
今作は、ヤスミン・アフマド監督による長編作品第二作目にして、彼女の名前を世界中に知らしめた作品です。とりわけ、2005年の東京国際映画祭「アジアの風」部門での最優秀アジア映画賞の受賞は大きなニュースとなりました。
そして、これ以後、彼女は“マレーシア・ニューウェーブ”の代表的監督として世界中から評価されていくことになります。
ストーリー解説
ストーリーは、マレーシアが舞台の、マレー人の少女と華人の少年による恋の物語です。
目と目があった瞬間から、強く惹かれあっていくふたり。ぎこちないながらも、だんだんと近づきあっていくふたり。初々しい10代の恋。異なる民族同士の運命的な恋。中々思うようにいかないもどかしい恋。それでも相手のことを思わずにはいられない、純粋な愛。
ヤスミン・アフマド監督の映画の特徴は、彼女がもつ「優しい眼差し」にあると言われています。
マレーシアという他民族国家には、マレー人、華人、タイ人、インド人等々、民族間の争い、貧富の差がはっきりと存在しています。そんな社会の問題、タブーの取り扱い方に、彼女の映画の素晴らしさがあるのです。
それは、目の前にある現実を描きつつも、どこか理想郷を描いているかのような、日常を包み込む、不思議な温かさが感じられる映画。
慣習、偏見、狭さ、苦しさ、そうした社会の中でも、相手を思いやり、相手と分かり合う。そして愛し合う。誰の心にもズシンと響き渡る、人と人とのつながりの尊さ。お互いを求めあう、純粋な愛の崇高さ。そんな思いが溢れるふたりの清々しいすがたに、思わず心が打たれてしまう作品です。
オススメ鑑賞ポイント
本当に、とにかく一度観ていただきたい。そんな思いばかりが強くて、中々ストーリー自体を多くは語れませんが、「ここだけは観てほしい」というところを少し挙げるとするならば…
1.「人と人とのつながり」を優しく捉えたカメラアングル
ヤスミン監督は、人と人が連なる姿を多くのシーンで描きこんでいます。
それは例えば、主人公ふたりのデートシーン―ファーストフード店で横並びに座るふたり。あるいは、階段で縦一列に座って髪をとかしあうマレー人の少女と、その母親、家政婦、そしてその列の先頭に入り込む父親との家族4人の微笑ましいすがた。
もしくは、母親の膝の上に頭をもたせる華人の少年の、慈愛に包まれた安らかなひととき、等々です。
そして、そうした瞬間を捉えたカメラの動きがまた絶妙で、そのフラットなポジションを保ちつづけた映像の数々は、まるで登場人物たちと同じ目線に立ったかのような優しい眼差しを帯びている。
あるいは、過剰な技巧や脚色を含まないその映像は、まるで自らの古き良き思い出のアルバムの一枚をそのまま写し取ったかのような、身近に感じる、心に沁みわたる素朴で美しい色彩を帯びているように感じられるのです。
異なる民族同士の仲睦まじいひととき。家主と召使という、厳しい主従関係を超えた和やかな関係。そして、いつの時代も変わることのない親子の絆。
それらが本当に、ごく自然に描かれていて、どのシーンをとっても「人と人とのつながり」へ向けた監督の優しい眼差しが感じられる、そんな映画だと思いました。
2.多民族国家における、交錯する「多言語」
出典:http://odd-pictures.asia/mfw/sepet/
今作で使われている「多言語」に注目して、映画をご鑑賞いただくのも面白いかもしれません。
主人公の華人の少年は、英語、マレー語、広東語、華語を話します。彼の母親はマレー語を、マレー人の少女は、英語、マレー語、そして少々の広東語を話します。
そもそもが、そうした言葉さえもがバラバラな社会の中で、お互いのことばを探しながら拾いあっていく。それはマレーシア社会全体にいえることであり、中々通じ合えないことがそもそもの前提であり、そうした世界の中でどうやってお互い分かり合っていくのか?そこのところが、観ていてとても興味深かったです。
魅かれあう恋人たちの純粋なすがたがことさら胸に残りました。
まとめ
出典:http://www.cinela.com/schedule/20121html/20121yasuminhtml.htm
今作は、国際市場で高く評価された作品です。確かに、マレーシア社会を知った上で今作を鑑賞したら色々とその社会問題や文化摩擦が垣間見えてくるのかもしれません。
しかしながら、映画に出会ったその瞬間に胸がはじけてしまうような、広く普遍的に観客の心をうちつけるような魅力が今作には備わっている。そんな素敵な1作だと私は思っています。
ちなみに、『細い目』は「オーキッド3部作」と呼ばれる作品群のうちの第1作目であり、この後に第2作目―ヒロインのその後を描いた『グブラ』(2006)、第3作目―ヒロインの幼少期を描いた『ムクシン』(2006)が続いていきます。
この度の上映では『グブラ』も同時上映されますので、是非とも合わせてご覧くださいませ!
『グブラ』(2006・マレーシア)
出典:http://www.ginreihall.com/schedule/schedule_150821.html
『細い目』上映情報まとめ
1. 飯田橋ギンレイホール<ギンレイ・オールナイト>
【午前0時のフィルム映写会~ヤスミン・アフマドとエドワード・ヤン“夏の想い出”特集】
8月21日(金)・22日(土)両日23:00~翌6:15(終了予定)
『細い目』、『グブラ』、『ヤンヤン 夏の想い出』(2000年/台湾・日本)の3本を上映予定。
詳細はこちら↓
飯田橋ギンレイホール 〒162-0825 東京都新宿区神楽坂2-19/TEL:03-3269-3852
JR総武線飯田橋駅下車(徒歩3分)。もしくは、地下鉄・有楽町線/南北線/東西線/大江戸線飯田橋駅下車(B4a・B4b出口より徒歩1分)。
2. 横浜ジャック・アンド・ベティ
【よこはま若葉町多文化映画祭2015】開催期間:8月22日(土)~8月30日(日)
『細い目』、『グブラ』は8月26日(水)、8月30日(日)に上映予定。
出典:http://www.jackandbetty.net/cinema/detail/714/
詳細はこちら↓
ジャック・アンド・ベティ 〒231-0056 横浜市中区若葉町3-51/TEL:045-243-9800
京浜急行線黄金町駅下車(徒歩5分)、横浜市営地下鉄阪東橋駅下車(徒歩7分)、JR線関内駅北口下車(徒歩15分)。
それでは、皆さま、夏の想い出に是非とも素敵な映画をご堪能くださいませ!!