9/5よりシネマカリテにて青春音楽映画『EDEN』が公開されました。90年代パリで台頭したフレンチ・ハウスシーンと、そこに生きる若者を描いた作品です。
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ハウスは80年代前半シカゴ発のダンス・ミュージックで、1小節中にドラムマシンを4つ、BPM(*)110~130の等間隔で刻むのが特徴的。俗に言う4つ打ちです。次第にその音楽はデトロイトやニューヨーク、ヨーロッパに広がり、様々な形で派生していきました。
その流れの中、エレクトロも含め様々なジャンルの影響を受けながら、フレンチ・ハウスは誕生しました。
(*)メトロノームで1分間に刻まれる拍数のこと
四季のようなDJ人生
今作品はレイヴ(*)やエレクトロの誕生から、“フレンチ・タッチ”と呼ばれたムーブメントの軌跡を下地としています。その代表格がDaft Punkです。
2部に分けて展開されるストーリー。第1部では、成功までの道のりが描かれます。
フレンチ・ハウスのDJをしている主人公のポール。90年代初頭、親友と組んだデュオ“Cheers”の活動にまい進していきます。
90年代にかけてフレンチ・ハウスは大流行。彼はパーティーの主役となり、クラブやラジオなどで引っ張りだこに。その成功により、クラブで引っかけた女の子と次々に交際したり、金銭感覚に狂ったり、ドラッグに溺れたりするなど、刹那的な生き方をしていきます。
(*)定期的なクラブイベントとは異なるダンス・ミュージックを一晩中流す大規模な音楽イベントやパーティー。野外や郊外の大会場で開催されることが多い。
参照元:http://www.rottentomatoes.com/m/eden_2015/pictures/movie-130601/
第2部では、成功からの挫折が描かれます。
このパートは2007年からスタート。その時代でも、“Cheers”の人気は下火になってはいないように見えました。
しかし、クラブのオーナーからは彼らのかける音楽がダメ出しされ始め、次第に彼らは音楽活動に限界を感じていきました。
さらに、主人公は、成功の時代に味わったおいしい思いから抜けられません。ドラッグによる副作用、借金の積み重ね、DJ仕事の減少などから、次第に人生への不安を強めていきます。
ちなみに、本作は監督の兄スヴェン・ハンセン=ラヴの半自伝的内容で、ポールは彼をモデルとしています。“Cheers”も実際にスヴェンが組んでいたデュオです。
『EDEN』の注目ポイント
1.リアルなクラブシーン
参照元:http://www.rottentomatoes.com/m/eden_2015/pictures/movie-130600/
実はこれ、映画において珍しい特徴と言えます。なぜなら、普通クラブシーンは作品世界で単なる背景として描かれるからです。そのため、明るすぎる照明、音楽に興じていないエキストラなど不自然に見えてしまいがちです。
しかし、本作はフレンチ・タッチとそこに生きる若者たちがメインなため、クラブシーンをリアルに描かなければなりません。
そのために、劇場に溶け込む程度の照明、クラバーの中をかき分けていくようなカメラワーク、DJブースをアップで撮影などの工夫がなされています。見ている人はクラブにいるような錯覚を起こすでしょう。
2.音楽とは対照的な語り口
参照元:http://www.rottentomatoes.com/m/eden_2015/pictures/movie-130599/
クラブ、野外パーティーシーン以外でもエレクトロは頻繁に流れますが、対照的に主人公の歩む人生は淡々と語られます。
そこに即して、主人公を演じるフェリックス・ド・ジヴリは作りこまれた演技ではなく、自然体で感情の起伏がとぼしい演技がはまります。
彼の人気が頂点を極める部分でも、普段の生活では惰性で仲間とつるんだり、女の子と寝たり、コカインを吸ったりして、生気が感じられません。
ここには、ポールがDJにのめりこみ当初からサクセスストーリーを築こうという気はないのに、図らずとも波に乗り、その後ちょう落していく様子を描こうとする意図が感じられます。
作品をいろどるサントラ
1.Plastic Dreams(Original version)/Jaydee
冒頭、夜明け前の薄暗闇の中、ポールと仲間たちがレイヴ会場周辺を徘徊するシーンで流れます。ハモンドオルガンによって一定のメロディがループされ、物語やフレンチ・ハウスシーンの胎動を感じさせます
2.The Whistle Song(Radio Edit)/Frankie Knuckles
ハウスのゴッドファーザーことFrankie KnucklesのデビューアルバムBeyond the Mixに入った不朽の名作です。フレンチ・タッチをフィーチャーした本作で、タイトルクレジットに流れるのはこの曲しかないでしょう。
3.Promised Land(Club Mix)/Joe Smooth
Knucklesと共にハウスの先駆者として知られる彼のハウスアンセムです。ディスコ調の心浮き立つメロディとは裏腹に、政治的メッセージも思わせる歌詞であるため、どこか意味深な印象も受けます。
4.Da Funk/Daft Punk
フレンチ・タッチの申し子Daft Punkのナンバーで、90年代ハウスの古典として知られています。また、『her 世界でひとつの彼女』を監督したスパイク・ジョーンズがMVを制作したことでも有名です。
5.One More Time/Daft Punk
代表曲の1つです。予告編でもかかっていますし、ご存知の方も多いでしょう。ポールたちの人気が絶頂のときに流れます。そもそもこの曲が勢いに乗った状況を歌っているので、そのシーンにぴったりな選曲と言えます。
6.Jealousy/Lee Fields & Martin Solveig
フランスのDJ Martin Solveigは“Cheers”の落ち目の時期、世代交代するように台頭してきます。劇中でも、新たに台頭してきたDJ(Solveig本人ではない)がプレイするシーンで使われます。このプレイを見たポールはあえて音に乗りません。「Jealousy」というタイトルからも彼の気持ちを反映したものと言えます。
本作では時代が進むごとに、ほとんどそこに即したダンス・ミュージックが流れます。また、その中には、シーンや主人公の内面を反映したものもあるため、サントラを知っていることで映画ファンにも響くのではないでしょうか?
劇中で繰り返される4つ打ちのサントラには、誰もが体を刻みたくなるはずです。
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※2022年11月29日時点のVOD配信情報です。