Filmarks(フィルマークス)主催の上映プロジェクト・プレチケにて『ルパン三世 カリオストロの城』の特別上映企画が9月9日(金)より全国の映画館で開催されます。本企画は、本作のヒロインであるクラリスの結婚式が9月13日であることを記念して上映される特別上映企画となります。
この上映企画を記念して、アニメ評論家・藤津亮太さんに本作の魅力を語っていただきました。
アニメ評論家・藤津亮太が語る『ルパン三世 カリオストロの城』を楽しむ3つのポイント!
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1979年に公開された『ルパン三世 カリオストロの城』は、現在の視点で見ても、とても魅力的な映画だ。ドキドキとハラハラ、そしてカタルシス。粋と笑いと一抹の哀感。それらが見事に凝縮された傑作エンターテイメントである本作は、例えるなら『ローマの休日』などに並ぶ古典的名作といっても差し支えないだろう。劇場で見る機会があるならば是非足を運ぶことをおすすめしたい。
また『ルパン三世 カリオストロの城』は、エンターテインメント作であると同時に、3つの点で注目したい特別な作品でもある。一度見たことがある人も、この「3つの特別なポイント」を意識すると、また新たに『ルパン三世 カリオストロの城』が楽しめるようになるはずだ。
宮崎駿、初監督作品!
まず第一のポイントは、本作が宮崎駿が初めて監督した映画であること。宮崎は長らく高畑勲監督のもと、レイアウト(各カットの構図を設計する役割)などを担当して作品を支えてきた。その宮崎が1978年のTVアニメ『未来少年コナン』で監督デビューを果たす。この『未来少年コナン』と監督第2作となる『ルパン三世 カリオストロの城』は、日常描写中心の高畑作品とはうって変わってアニメーションならではの大ウソも含めた軽業のようなアクションが繰り広げられている。特に『ルパン三世 カリオストロの城』は『未来少年コナン』のような「人類の未来」といった壮大な要素が含まれないので、宮崎が長らく描きたいと思っていた「冒険活劇の世界」が純粋に全面的に展開されている。
この後、宮崎は『風の谷のナウシカ』を経て、スタジオジブリの諸作を手掛けていくが、その原点のひとつとして『ルパン三世 カリオストロの城』はフィルモグラフィーの中に特別な位置を占めているのである。
アニメ史の文脈から見る『ルパン三世 カリオストロの城』
続く第2のポイントは、この『ルパン三世 カリオストロの城』がアニメ史に占める位置についてだ。
冒険活劇『ルパン三世 カリオストロの城』の直接的なルーツとして言及されるのは、宮崎もスタッフとして参加した東映動画(現・東映アニメーション)の長編映画『長靴をはいた猫』(1969)や『どうぶつ宝島』(1971)といった、いわゆる“漫画映画”の代表として挙げられる作品である。例えば『長靴をはいた猫』の塔で繰り広げられる激しい上下動をともなうクライマックスのアクション。あるいは『どうぶつ宝島』の終盤に描かれる宝の行方をめぐる鮮やかな逆転劇。この2作のさまざまな要素が『ルパン三世 カリオストロの城』に受け継がれていることがうかがえる。
そして1970年代に入ると東映動画は本格的長編制作から距離をとるようになっているという歴史的背景を踏まえると、『ルパン三世 カリオストロの城』は(会社の枠を超えて)東映動画の“漫画映画”がかりそめの復活をした——という文脈が浮かび上がってくる。
さらに視野を広げると、城を巡る上下の運動はポール・グリモーの『やぶにらみの暴君』(1955)の影響下にもあるし、滝になって落ちている水路の中でルパン三世が必死に平泳ぎをするギャグは、サイレント映画の体技による笑いを見るようでもある。そういう意味で『ルパン三世 カリオストロの城』は、公開された時からある種の“古典”であったともいえる。
しかし『ルパン三世 カリオストロの城』が公開された1979年は、『スター・ウォーズ』『未知との遭遇』が突破口を開いたビジュアルSFブームの只中だった。そのような状況下にあって、古典的な冒険活劇は、決して時代にマッチしたものだったわけではない。高い評価を得つつも、本作は興行的には苦戦することになったのだった。そして今なお、その魅力が色あせないもの、登場した時から古風な作品として出来上がっていたからでもある。
「ルパン三世」シリーズの中においての本作
そして第3のポイントは、「ルパン三世」シリーズの中に占める立ち位置に関することだ。
『ルパン三世』の原作は1967年にスタート。そして1971年に第1シリーズがスタートする。本放送時は低視聴率に苦しんだ第1シリーズだったが、再放送が高視聴率を上げ、1977年より第2シリーズがスタートすることになる。この第2シリーズは人気番組となり、映画企画も動き始める。1978年には映画『ルパン三世』(吉川惣司監督によるいわゆる「VS複製人間」)が公開され、『ルパン三世 カリオストロの城』はそれに続く映画第2弾という位置づけの作品として位置づけられる。
この第2弾である『ルパン三世 カリオストロの城』が独特なのは、作中の回想シーンで第1シリーズを彷彿とさせるシーンを盛り込んでいるという点だ。
回想シーンは「10年以上昔だ。俺はひとりで売り出そうと躍起になっている青二才だった」という台詞から始まる。その回想でルパンが乗り回すのはベンツSSK。第1シリーズの前半で使われたルパンの愛車である。また第1シリーズのオープニングで印象的だった「サーチライトの中を駆けるルパン」も、10年以上前の青二才のルパンがカリオストロ城に乗り込もうとするシーンの一部として描き直されている。
この回想により、『ルパン三世 カリオストロの城』のルパン三世は、第1シリーズの頃のルパン三世が年をとった姿である、という狙いをもって描かれていることが明確に伝わってくる。そう考えると、第2シリーズと前作『VS複製人間』が原作通りの赤ジャケットだったのに対し、本作が改めて緑ジャケットを採用した意味もまた見えてくる。
もう若くなくなったルパン三世が、青年時代の落とし前をつけるためにカリオストロの城に挑み、少女クラリスを助けようと奮闘する。その過程でルパンは正真正銘の“おじさん”になっていくのだ。
『長靴をはいた猫』ではピエールは、ローザ姫と結ばれる。『どうぶつ宝島』でジムはキャシーとともに、ついに宝を発見する。けれども“おじさん”になったルパンにはそんなラストシーンは待っていない。ルパンは、やせがまんとともにクラリスに別れを告げる。ついに明かされた「カリオストロの宝」についても「俺のポケットには大きすぎら」と語るのみだ。主人公の青年期の終わりを描く——こういう主題はその当時の日本のアニメにおいてとても珍しいものだった。同年に公開された劇場版『銀河鉄道999』、劇場版『エースをねらえ!』が、どちらも青春映画の傑作であることと比較すると、よけいに『ルパン三世 カリオストロの城』の特異性が浮かび上がる。
つまり『ルパン三世 カリオストロの城』はルパンというキャラクターに「明確な句読点」を打ったのだ。だからこそ映画は「完」のクレジットともに、一抹の寂しさを残して締めくくられることになる。
以上の3つの特別なポイントがあるからこそ、『ルパン三世 カリオストロの城』は、エンターテインメント性の高さだけでなく、噛めば噛むほど味の出る作品としても幾度も参照され、語られるのである。
藤津亮太
アニメ評論家。インタビュー、レビュー・解説、ブックレット・パンフレットの構成などで活躍。2021年に『アニメと戦争』(日本評論社)、『アニメの輪郭』(青土社)を出版。2022年7月に『増補改訂版「アニメ評論家」宣言』(ちくま文庫)が発売。
Twitter(@fujitsuryota)/ ブログ(藤津亮太の「只今徐行運転中」)
『ルパン三世 カリオストロの城』特別上映イベント詳細
上映期間:2022年9月9日(金)〜9月22日(木)
チケット販売:各劇場のチケットシステムにて順次販売予定