2018年上半期、映画界最大のニュースは間違いなくこの映画の快進撃でしょう。
今や映画ファンの話題を超え、社会現象になりつつある『カメラを止めるな!』。8月からはさらに拡大公開が決定。当初は都内2館の上映のみだった小規模作品が、累計120館以上の劇場公開にまでこぎつけるとは、まさに事件。
FILMAGAでは、現代のシンデレラストーリーを成し遂げた上田慎一郎監督にインタビューを敢行。「あなたの代わりに上田監督に聞いてきます!」と題して、Twitterで一般公募した映画ファンの質問への回答も含め、取材時間20分間の内容をほぼノーカットでお届けします。
生涯ベスト映画は“面白いけど言葉にできない”
――『カメラを止めるな!』大評判ですね。映画レビューサービス・Filmarks(フィルマークス)でも、本作は2018年上半期満足度No.1、初日満足度でもNo.1に輝きました。率直な感想を聞かせてください。
嬉しい! Filmarksさんは個人的にも使わせていただいてますし、スタッフのみんなもチェックしています。Filmarksの話題度ランキングで『ジュラシック・ワールド/炎の王国』を抜いて1位になったときは、その瞬間をみんなスクリーンショットで撮って、それがLINEのグループにいっぱい流れてきて、ちょっとした祭りになってました(笑)。
Filmarksには僕の過去作品も掲載していただいていますし、ずっと前から使っていたので、まさか自分の作品がランキング1位になる日が来るとは思ってもいませんでした。
――ランキング1位のキープ日数も実に長い。★スコア(5.0点満点)はずっと4.5点以上の高得点をキープしていますし、レビュー数が5,000件を超える作品でこれは異例のことです。
本当にありがたいですね。
2018年8月9日時点でも『カメラを止めるな!』がFilmarksのTrendランキング1位をキープ
――そんな上田監督にとって、「自分が撮ったことにしたいくらい愛しい映画」を1本挙げるとしたら何でしょうか。
1本……! 難しいですねぇ……。「意外だね」と言われるんですけど、『マグノリア』が生涯ベストだと思うときがあるんです。気分によって『パルプ・フィクション』って言うときもあるんですけど。
――なるほど、『マグノリア』のどんな点が?
あの映画は3時間くらいあるんですけど、思春期の頃に2日連続で観てしまって。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいな王道のエンタメじゃないのに、自分がなんでこんなに興奮したのか、面白いと思ったのかを言語化できなかったんですよ。
何が面白くて、何が自分の心を捉えたのは言葉にできないんですけど……むしろだからこそ、ずっと自分の中に残っている作品ですね。
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――『マグノリア』も『パルプ・フィクション』も、ともに脚本が巧みな作品ですよね。
そうですね。両方とも群像劇ですし。あと邦画では『愛のむきだし』ですね。あと『スティング』も。1本に絞るのは難しいけど、20本ならどんどん出せますよ(笑)。
ダウンタウン・松本人志、吉田戦車、うすた京介「お笑い」から受けた影響
――ここからはTwitterで公募して集まった質問について、お時間が許す限りお聞きしていきます! たくさんの質問が届きました。まずは、30代の男性から「あるラジオ番組で、上田監督が影響を受けた4人の日本人のうちの1人が松本人志さんだと仰っていました。具体的にどんな影響を受けたのでしょうか」という質問です。
僕は高校卒業するときに映画監督になるか、お笑い芸人になるか迷ったくらいお笑いが好きなんです。お笑い芸人の方が、(映画監督よりも)僕にとってのヒーローが多いくらい。
ダウンタウンさんの漫才やコントを観て、笑いが絵画や音楽と同じレベルのものというか、もう芸術すれすれの笑いだな!と思ったんですよね。これ以上突きつめたら、笑いではなくて崇高な芸術になってしまう、というような。時々、芸術になっちゃってるものもありますけどね(笑)。
「何だコレは!」っていう笑い。ダウンタウンさんの漫才やコント、トークにはそういうのがありますよね。いままで自分の中になかった、新しいものを見せてくれた。
――次もお笑いに関する質問です。「監督は学生時代、お笑いにハマっていたということですが、当時好きだった芸人さんはいらっしゃいますか」という、20代男性からの質問です。
もうダウンタウンさん一辺倒でしたね。ダウンタウンさんとそのファミリーとされる人たちが好きでした。「ごっつええ感じ」「ガキの使いやあらへんで!」あたりですね。最近だと、ジャルジャルが好きですね。
あと、これはお笑いの人ではないですけど、影響受けた4人の日本人うちの1人が漫画家の吉田戦車さんなんです。あの人もアートすれすれの笑いを見せてくれますよね。あとは「すごいよ!!マサルさん」の漫画家うすた京介さんも好きですね。
この37分間は100年残るかもしれない
――次は撮影現場に関して、20代男性から「37分ノーカットのシーンがありますが、そのときの現場の雰囲気はどうでしたか。また工夫をされたことはありますか」という質問です。
現場の雰囲気は基本的に良かったです。ピリピリしたことは一度もなかったですね。ただ、37分間ノーカットのときは、さすがに緊張感がありました。なので、その緊張をどうほぐそうか、それと失敗した後にどうみんなのテンションを上げるかはすごく考えました。
実際に、一回撮影を失敗した後に自分が言ったことで覚えているのは、「これから撮る37分間は10年残るかもしれない。だからこそ思いっきりやってくれ。遠慮とか上手くやろうとか思わずに」と鼓舞したんです。「これは思いっきり失敗するか、思いっきり成功するかしかないんだから」って。
そうしたらキャストのみんなが、「いや、これは100年残るよ」って言ってくれて。現場がドッと盛り上がりましたね。
――あの37分間のカットでは、アドリブというか、突発的なトラブルもそのまま採用しているんですよね。
そうです。レンズに血がかかるのはガチのトラブルですし、ゾンビメイクを1分で仕上げないといけない場面があったんですけど、コンタクトレンズがなかなか入らなくて、登場が30秒くらい遅れたところがあって、そこは本当に役者さんがアドリブでつないでくれています。
――実際の撮影の裏側も、「カメラを止めるな!」状態だったわけですね。
まさにそうです。
撮影現場には100点が120点になる瞬間がある
――次は10代の女性からの質問です。「脚本を書いているときに“これって面白いのかな”と不安を感じることはありますか。そういうときは、どう対処しますか」。
妻に聞く!(笑)。 僕が恵まれているなと思うのは、妻も映画監督をやっていること。過去に短編映画をつくったときも、よく彼女に意見を聞いていたんです。
今回はもう一人、脚本指導の榎本憲男さんの存在もありました。この方が歯に衣着せぬ人でして、面白くなかったらズバッと言う人なんです。
そういう、自分に対して遠慮がない、忖度しない人が近くにいることって大事だと思います。内容に不安があったらすぐにそういう人に聞いてみる。不安って残したままにするとずっとモヤモヤするので、それを消しにいきます。
――ちなみに、奥さんからはどんなアドバイスを?
大体、どういう反応するかをわかっていて聞くんですよ。(脚本で)ここは微妙だなって思ってるところを妻に聞いてみると、やっぱり妻も「ん~(イマイチ)」みたいなリアクションがくるから、僕も「そうやんな〜」と(笑)。
反対に、ここは良いんじゃないかなというところは、「面白いんじゃない?」って言ってくれるし。90%くらい確信があって、後の10%が不安なときに背中を押してもらいにいく感じですね。
――10代の高校生からの質問です。「『カメラを止めるな!』を観て触発されて映画をつくろうと思っています。映画をつくる過程で一番面白いのは、脚本、撮影、編集のどのパートですか」。
ウソと思われるかもしれませんけど、全部です。脚本を書いているときは脚本を書いている楽しさがあって、撮影時は撮影の、編集にも編集の楽しさがある。ひとつずつ違う。
でもどれかひとつを選べと言われたら……撮影ですね、やっぱり。みんなでつくれるのが撮影のときなので。脚本と編集は、どうしても一人の時間が長いじゃないですか。でも、自分一人で考えてることってやっぱり限界があって、いろんな人のアイデアが自分の頭をかき混ぜてくれてはじめて、そこから新しいアイデアがポン!と出てくることがある。
撮影現場には、100点を目指していたものが120点になる瞬間がいっぱいあるんです。現場でそれが起きたときは一番楽しいですね。
当たらなくたっていい!「#自分を止めるな」に込めた思い
――次は30代男性からの質問です。「『カメラを止めるな!』は色々なクリエイターのエールにもなっている作品だと思います。もしいまの上田監督が、未来の上田監督に対して「○○を止めるな!」と声をかけるとしたら、なんと言いますか」。
ベタですけど……、やっぱり「自分を止めるな!」って言うかなぁ。
実は最近、自分で「#自分を止めるな」ってハッシュタグをTwitterでつくったんですよ。
出演者の真魚が舞台挨拶で珍しく(失礼)いいことを言っていた。「カメラを止めるな!のカメラの部分は観た人それぞれで変えてくださいね」。平成最後の夏。日本を元気にしたい。映画にはその力がある。新しいタグ作るね。 #自分を止めるな
— 上田慎一郎 (@shin0407) 2018年7月24日
『カメラを止めるな!』を観て脚本を書き始めたとか、俳優をやってみたくなったとか、そういうツイートを読んで、いいな、嬉しいなと思って。そういうツイートには、このタグを使ってくださいということで。未来の自分にも、「自分を止めるな!」と声をかけますね。
――それはいいタグですね! 次の質問は、いま専門学校で映画の勉強をしている10代の男性からです。「上田監督はそもそもどうして映画監督になろうと思ったんですか」というシンプルな質問です。
10代の人に、こうして映画製作に興味を持ってもらえるなんて嬉しいですね。僕が映画監督になろうと思ったのは、単純に映画をつくりたいと思ったからに他ならないですが……。
僕はこの『カメラを止めるな!』の前に短編映画を8本撮っています。中高生時代はハンディカムを使って、なんの理由もなく、どこかで上映する予定もなく、映画祭に応募するでもなく、お金をもらうためでもなく、ただただ撮って、みんなでキャッキャッ言いながら観て楽しむためにつくっていたんです。
だから、「撮りたいから撮る」以外にひとつも理由がなかった。
でも、大人になるにつれて、いろんな理由がついてくるんですよね。映画祭で結果を出さないといけないとか、ヒットさせないといけないとか、お金を稼がないといけないとか、偉い人に褒められないといけないとか。
だから、くだらない映画ではなくて、崇高な、高尚なテーマをもった映画をつくらないといけないんじゃないかと思うときがあって。結果のために映画をつくるという、本末転倒なことになることが、大人になるにつれて増えてくるんですけど……。
――しかし、『カメラを止めるな!』はちがう。
『カメラを止めるな!』は、過去8本の短編で右往左往した時期を経て、どんな偉い人に何を言われようが関係ない、当たらなくてもいい、自分がいままで生きてきた中の“好き”を詰め込んだ96分をつくろうと思って、つくったんです。
それがこういうこと(反響)になった。自分の好きを信じてつくることが大事なんだ……ってよく言われることですけど、こんな月並みなことがほんとに真実なんだなってあらためていま思っています。
「自分の好きを止めるな!」ですね。
(取材・文=杉本穂高・FILMAGA編集部/撮影:斉藤聖)
映画『カメラを止めるな!』は大ヒット公開中!
製作:ENBUゼミナール
配給:アスミック・エース=ENBUゼミナール
(C)ENBUゼミナール
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※記事内のFilmarksの★スコアやランキング順位は2018年8月9日時点のものです。
※2022年3月27日時点のVOD配信情報です。