最強のタッグ!松田龍平×豊田利晃で将棋界の逸話を映画化「松田龍平の30代の代表作ができた」【インタビュー】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

豊田利晃監督とは『青い春』以来、何度もタッグを重ねてきた主演の松田龍平は、「豊田さんがやるんだったら、何でもやりたいなと思って」と微笑みながら、揺るぎない信頼を隠さない。公開を控え、期待の高まる本作について話を聞いた。

そして2018年、『泣き虫しょったんの奇跡』が新たな将棋映画として歴史に名を刻もうとしている。

幼少期から将棋一筋、プロ棋士を目指して奨励会の試験を受け、将棋界のドアを叩いた“しょったん”こと瀬川晶司。しかし、26歳までに四段になれなければ退会という厳しい掟を前に、勝負に敗れてしまう。サラリーマンとしての道を歩み出した瀬川だったが、改めて深い将棋愛に目覚め、アマチュアからプロ入りという前代未聞の道を目指していく。

泣き虫しょったんの奇跡

実在する瀬川晶司五段の自伝的作品を基にした本作。実際、奨励会に在籍していた豊田利晃監督だからこそ肌で感じたプロ棋士の才能と勝負強さ、将棋に魅せられた男たちの悲喜こもごもが実感を持って描かれている。豊田監督とは『青い春』以来、何度もタッグを重ねてきた主演の松田龍平は、「豊田さんがやるんだったら、何でもやりたいなと思って」と微笑みながら、揺るぎない信頼を隠さない。公開を控え、期待の高まる本作について話を聞いた。

泣き虫しょったんの奇跡

――16年ぶりの単独主演で、松田さんを迎えた経緯から教えていただけますか?

豊田監督:龍平とは、彼が17歳のときに『青い春』をやって、19歳のときに『ナイン・ソウルズ』をやって、27歳のときに『I’M FLASH!』をやったんです。「次、どんな映画を松田龍平と組むことがあるんだろう?」と思っていたときに、『泣き虫しょったんの奇跡』が候補に挙がりました。(本編は)35歳で終わるから、やっぱり35歳ぐらいのキャストを考えていたら、ちょうど松田龍平ぴったりのタームでしたし、僕自身「将棋の映画を観たい」、「いつかぴったりの原作が見つかって、チャンスがあればやりたい」とはずっと思っていたんです。だから、将棋の映画を撮るんだったら、主役は松田龍平しかいないというのは、自然な流れでした。

――松田さんとこれまで幾度もやってこられたところの積み重ねが大きかったんですか?

豊田監督:そうですね。将棋という題材もだし、だったら、やっぱり初めてやるキャストではなく、同じ年を積み重ねている松田龍平とやりたいという思いも、もちろんありました。

――松田さんは、どういった気持ちでオファーを受けたんでしょうか?

松田:まずは、やっぱり豊田さんが将棋の映画を撮るということでした。やりたいなと思う作品だったので…それが始まりかな。その後に、豊田さんがやるんだったら何でもやりたいなと思って、受けました。

――豊田監督からは、松田さんに直接「かくかくしかじか、出てください」という感じのオファーだったんですか?

松田:……そうですね。

豊田監督:いやいや(笑)! プロデューサーから事務所にオファーしましたよ、真っ当なドアの開け方をしました! 飛び越えると、僕よく怒られるんで、最近、止めているんですよ(笑)。

――「将棋」という題材を撮るにあたって、参考にした資料や作品はありましたか?

豊田監督:うーん……。映画を作る前は、よく言っていたんですけど、だからといって、その映画を観返したりはしなかったです。この映画は瀬川晶司さんの半生ですけど、ジョージ・ロイ・ヒルの『ガープの世界』みたいな、人間の一生を描くようにしたいとは思っていました。ひとりの人間が、たまたま将棋というものを覚えて、そういう世界に行ってこうなった、という人間の物語にしたいと思ったんです。

――原作者であり、モデルの瀬川さんご本人も現場によくいらしていたそうですが、松田さんは役作りの参考になりましたか?

松田:ご本人が現場に来てくださるという経験は、なかなかなかったし、こんなにありがたいことはないんですけど、逆に、すごい気になりました。将棋の練習のときから、瀬川さんはずーっと一緒に来てくれていたんです。そういう意味でも、すごく瀬川さん自身に、僕は感情移入したところがありました。

――でしたら、結構コミュニケーションも取られて?

松田:すでに台本も原作も読んでいたから、何となくイメージがあったので、どちらかと言うと、話をするよりも、影からこっそり……盗み見じゃないですけど(笑)。観察してしまいたくなるような人だな、と思って。あとは、いろいろ誘ってもらって、花見をしたり、フットサルもしたりしましたね。……あまり将棋の話はしていないかもしれないです(笑)。

泣き虫しょったんの奇跡

――豊田監督は、瀬川さんご本人とお会いになって、どういった印象を受けましたか?

豊田監督:実は、あまり影響を受けないようにしようと思って、クランクイン前には瀬川さんに会っていないんです。ただ、原作を読んでいると、文体からすごく人のよさが出ているんですよね。実際、「いい人で良かったなあ」って思いました。結局、映画って原作通りにはやれないから、いろいろシェイクしたり、台詞も、人物も変えていったり、いろいろなことをするんです。そういうのをすべて、「お任せします」と瀬川さんはおっしゃってくれたので、ありがたかったですね。

――瀬川さんサイドから「こういうところだけは譲れないんですが」というご要望も一切なかったんですね。

豊田監督:まったくなかったです。瀬川さんに将棋の盤上の棋譜を頼んでいたので、棋譜のことや、対局室のお茶の場所、お盆の場所とかはいろいろ聞きましたけど、映画の内容に関しては、まったくありません。

――松田さんを演出される上で、特に気にかけたところはどこでしたか?

豊田監督:映画なので、ワンカット、ワンカット、いろいろなことがあるんですけど、基本的には、指す手つきを完璧にしてほしいとお願いしました。そのリクエストは早い段階から、龍平以外のキャストにも、可 能な限りやってくれと言って。僕は将棋の経験があるから、将棋の駒の手つきの美しさ、将棋盤のパシーンと鳴る美しさが美学だと思っていますし、そうした美学を将棋指しは誰もが持っているんです。それを体得することが、将棋をわかる近道なんじゃないかな、とも思っていたので。そこが一番要なところで、徹底したいなと思っていました。

泣き虫しょったんの奇跡

――オーダーに見事応えた松田さんだったと思います。豊田監督が思わずうなった場面もありましたか?

豊田監督:うなる!?

松田:(笑)。

――はい。「さすが、松田龍平だ!」と言いますか。

豊田監督:ああ! カメラが寄ったときに、ピシッと決まって、「ありがとう」みたいなね。

松田:そんなこと、ありました(笑)? 僕は……奨励会のシーンは面白かったな。ライバルと一緒に闘いながら、生活を共にするという点でも。

泣き虫しょったんの奇跡

――タイトルに『泣き虫』とあるように、瀬川が泣くいくつかのシーンが印象的でした。どのように演じられたり、または演出されたんのでしょうか?

豊田監督:僕は、もうカメラを置いて、現場から離れて、「あとは頑張って」みたいな感じです。そんな急に人って、泣けないですからね。時間がかかるから、「あとはよろしく」みたいな感じですよ(笑)。いると気になるかなと思ったから、別の部屋にいて観ていました。

松田:真正面から、すごいカメラを構えてきたな、完全に『泣き虫しょったん』だよな、って思っていました。

豊田監督:(笑)。

――今、お話があったのは予告編でも流れている場面のことですよね?

豊田監督:そうですね。

松田:それぐらい、そういう意味ではプレッシャーはあったかな。プレッシャーっていうか……。

――1回で「OK」は出たんですか?

豊田監督:いやいやいや。結構長かったんじゃないですか。

松田:4回ぐらい?

豊田監督:いやいやいや。

松田:もっとやりました?

豊田監督:もっとやったよ。そう、「さすが、松田龍平」というところで言うなら、泣くシーンもパターンを変えてくるんですよ。

松田:涙を流すシーンって、本当……苦手です。「勘弁してくれよ」と思って。

豊田監督:(笑)。

松田:絶対に勘弁しない、すごい真っ直ぐ(なカメラ位置)だったから、「これは逃げ場ないな」と腹をくくった感じでやりました。

――今のお話もそうですし、松田さんは豊田監督と一緒にやれたからこその感慨はありますか?

松田:僕にとって、豊田監督は特別な監督なので、期待に応えたい気持ちは強いです。応えられたかはわからないんですが。ただ、自分の中ではやれることは全部やったなって。(豊田監督に)どうですか?(笑)。

豊田監督:いやいや、素晴らしいです。本当に。松田龍平の30代の代表作ができたんじゃないかな、と僕は思っています。

泣き虫しょったんの奇跡

――ちなみに……おふたりが実生活で、最近思わず涙してしまったことは、ありますか?

豊田監督:年を食うとね、涙腺が弱くなるんですよ。人生、悲しいことだらけじゃないですか? 泣きっぱなしですよ、僕なんか。龍平はまだ30代だから大丈夫でしょ。40後半になってくるとねえ……。

松田:へえ~。僕は漫画を読んでいて、不意に泣いたりしますね。

豊田監督:ええ! 何の漫画で!?

松田:秘密です(笑)。(インタビュー・文=赤山恭子、撮影=林孝典)

映画『泣き虫しょったんの奇跡』は、2018年9月7日(金)より全国ロードショー。

泣き虫しょったんの奇跡
(C)2018『泣き虫しょったんの奇跡』製作委員会 (C)瀬川晶司/講談社

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