関西学院大学 教授 村尾 信尚さん(むらお・のぶたか)さん
1955年岐阜県生まれ。一橋大学卒業後、大蔵省(現財務省)入省。2003年関西学院大学教授に。06年10月~今年9月、日本テレビ系「NEWS ZERO」のメーンキャスター。中央省庁やNPO活動などでの豊富な経験を踏まえ、政策提言・教育研究・情報発信を行う。
何のために働くのか?
働き方を自分に問いかける良い機会
確かに僕にもあった 〝100エーカーの森〞
まず可愛い!プーのほのぼの感、温かな感じがとてもいいですね。
本作は様々な感情を呼び起こし、考えさえてくれます。私はまずプーの大親友、少年時代のクリストファー・ロビンが“100エーカーの森”でプーたちと遊ぶシーンを観ながら、自分にもあんな森があったなと思い出しました。岐阜県の飛騨高山で生まれ育ったのですが、家の近くに森や川があって友達とよく遊んでいたのです。そこで友情を育み、約束は守るとか時間には遅れないとかといった、社会のルールを子どもなりに学んだことなども頭に浮かび、懐かしい気持ちになりました。
また、プーの言葉はどれも心に刺さりますね。中でも森の仲間コブタのピグレットに言った「君が必要だよ」には思わずグッときました。人間の生きがいは誰かから必要とされること。あの一言がピグレットにとってどれだけうれしかったことか。プーは素晴らしい人格者。もしプーが上司だったらみんなついていきますよ、きっと。
プーの考え方は見事に老子の思想と重なる
プーの言葉の一つ「僕は“何もしない”を毎日してるよ」を聞いて、原作者は古代中国の老子の影響を受けているのではないかと思いました。老子の思想を一言で言えば「無為自然」。これが「あるがままに生きるを良しとする」という意味で、プーの言葉と見事に重なるからです。科学や技術によって発展してきた西欧には特に今の時代、自然と調和して生きるという東洋思想への憧れが根底にあると思います。ですから、その憧れをプーと〝100エーカーの森〞に託したのではないかと。そんなことを感じたこともあり、私にはクリストファー・ロビンとプーのやりとりが、現代人と老子との対話のようにも思えました。
ただ、もともと働くことに生きがいを見いだすのは日本で、人生を楽しむための手段として働くのが西欧でした。しかし現代では、西欧でも大人になったクリストファー・ロビンのように、忙しさに追われているうちに、手段のはずの仕事が目的化してしまった人が増えているのかもしれませんね。
何のために働くかを問いかけたくなる映画
実は私自身、根っからの仕事人間で、休む暇なく働き続けてきました。そんな私でも、夜寝る前にはよく老子に関する本を読んだりします。心のどこかでプーの世界、すなわち柔らかな生き方や発想を持っていたいという憧れがあるのだと思います。でも、それがあるかないかで随分、仕事への向き合い方、充実度も違う気がします。
特に会社員の方は、今一度、何のために働いているかを自分に問いかける良い機会になると思うので、ぜひ本作を観て欲しい。そしてクリストファー・ロビンが暮らす現代社会の価値観と、プーの暮らす〝100エーカーの森〞の価値観のどちらが望ましいのだろうか、そう自分に問いかけることで、大事な何かが見えてくるはずです。(談)
(取材・編集 朝日新聞社メディアビジネス局)
『プーと大人になった僕』
STORY:かつて“100エーカーの森”でくまのプーや仲間たちと遊んだクリストファー・ロビンは、今や大人となり、愛する妻や娘とロンドンに暮らしている。ある日、仕事のことで悩んでいたクリストファー・ロビンは大親友のプーと奇跡の再会を果たすのだが……。ロンドンを舞台に、忘れてしまった「大切なモノ」を思い出させてくれる感動の物語。
9月14日(金)全国ロードショー
監督:マーク・フォスター(『チョコレート』『ネバーランド』)
出演:ユアン・マクレガー、ヘイリー・アトウェル ほか
日本語吹替版・声の出演:堺 雅人ほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C)2018 Disney Enterprises, Inc
※2022年8月29日時点のVOD配信情報です。