日本が誇る注目の女性映画監督まとめ《西川美和、荻上直子、蜷川実花など》

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KAWATA

田中絹代、河瀬直美、西川美和、タナダユキ、荻上直子、蜷川実花、安藤モモ子ら、日本映画界が誇る女性監督7名のキャリア、代表作、作風を紹介

近年話題となり続けている#MeToo運動をはじめ、世界の至る所で女性たちが自ら声を上げ、その声に世界が耳を傾ける機会が広がりつつある昨今。

日本の各業界での女性の活躍は他国に比べても進みが遅いとも言われているが、航空自衛隊に女性の戦闘機パイロットが初めて採用となったというニュースしかり、女性進出の動きが少しずつではあるが徐々に見られるようになってきている。

映画界においても状況は同じく、男女比ではまだまだ数少ないとはいえ、女性監督の活躍が話題になる機会はだんだんと増えてきた。

今回はそんな注目すべき日本の女性監督7名を紹介したい。

田中絹代

恋文

映画を愛し続けた国民的大女優は監督も

もう故人ではあるが、ぜひ記憶に留めておきたい女性監督。溝口健二監督や小津安二郎監督、木下惠介監督など大物監督作品に多数出演した日本を代表するスター女優。

少女歌劇団で舞台に立った後、映画女優となり松竹へ入社。さまざまな作品に出演し、またたく間に看板スターとなる。

しかし日米親善使節として渡米後、帰国後の変貌ぶりにマスコミから批判を受け、さらに出演作品も鳴かず飛ばず状態だったいうこともあり、一時期スランプに陥ったものの後に見事復活。

その後、女優を続けながら映画監督業にも挑戦し、『恋文』をはじめ生涯で6作品を制作した。日本を代表する大女優であると同時に制作者という立場からも、映画を真に愛した映画人のひとり。

河瀨直美

あん

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映画を通して日本を世界へ発信

大阪写真専門学校の映画化を卒業の後、ドキュメンタリー作品を制作し各賞を受賞。その後1997年、『萌の朱雀』で第50回カンヌ国際映画祭のカメラ・ドールを受賞し、国内だけでなく海外からも注目を集める。

またその10年後の第60回カンヌ国際映画祭にて『殯の森』がグランプリを受賞した、今日世界でも知られる日本人映画監督のひとり。

河瀨監督の作品には、独特の「間」がある。人工音が一切排除され、人が自然の一部であることを気づかせてくれるような、沈黙のような間。ゴウッと風が大地をなめる音、重なり合う木々のざわめき、訴えかけるような動物のいななき。作品を観ることを通して、世界が本来のあるがままの姿で存在する場所で生き物たちが発する生命の声を聞き取る、とでもいうのだろうか。

そうした声に耳を澄ませると、私たちがこの世界の一部であり、あらゆるものとつながっているということを改めて感じ取ることができる。

代表作は、上記2作品の他、『2つ目の窓』(2014年)『』(2017年)『あん』(2015年)『Vision』(2018年)等多数。

西川美和

ゆれる

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心の機微を独自の視点と感性で魅せる

大学在籍中に是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』にスタッフとして参加後、フリーランスで助監督を経験し、2002年公開の『蛇イチゴ』で監督デビュー。国内の数々の新人賞を受賞し注目を集め、その後も自らが書いた脚本で常に話題になる映画を制作し続けている。

代表作には、『蛇イチゴ』(2002年)『ディア・ドクター』(2009年)『夢売るふたり』(2012年)『永い言い訳』(2016年)などがある。映画だけではなく小説家としても高い評価を受けており、小説「永い言い訳」は直木賞候補にもなった。

西川監督の作品は、キャラクターの奥深くにある心の揺らぎを逃さない鋭い視点と巧みな描写力で描かれた人間心理、軸のあるストーリー展開に特に定評がある。

その脚本とさらに出演俳優の演技力も相まって作られる映画は観る者の心を捕らえ、忘れがたい記憶と感情の余韻を残す。

タナダユキ

ふがいない僕は空を見た

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日常の中で垣間見る心象風景を描く

イメージフォーラム映像研究所に入学後、初監督・主演した『モル』がPFFグランプリとブリリアント賞を受賞。

自ら手掛けたオリジナル脚本以外にも既存の原作を基に制作をする作品もあり、また作品ジャンルもフィクションだけでなくドキュメンタリーも制作するなど幅広く制作活動を展開している。

社会の格差を背景にしたキャラクターの心の動きや人間関係を描いたシリアスな作品がある一方で、くすっと笑えるコミカルな要素を取り入れた作品等もあるが、いろいろなことが起きても最終的に生きることに対して一縷の希望や可能性が感じられるような作品が多い。

代表作には、『月とチェリー』(2004年)、松田洋子原作の『赤い文化住宅の初子』(2007年)、『百万円と苦虫女』(2008年)の他、さそうあきらの原作『俺たちに明日はないッス』(2008年)、窪美澄原作の『ふがいない僕は空を見た』(2012年)、『ロマンス』(2015年)等がある。

荻上直子

かもめ食堂

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独特の世界観やリズムで惹きつける

大学卒業後に渡米し、南カリフォルニア大学(USC)大学院映画科で修学。帰国後は自主制作映画で人気を博し、2003年のデビュー作『バーバー吉野』で第54回ベルリン国際映画祭児童映画部門特別賞を受賞。その後、フィンランドを舞台にした『かもめ食堂』が大ヒットし、その独自の世界観でもってファンを増やし続けている。

荻上監督作品の魅力は、何といってもその独特の世界観。彼女の作品の常連俳優である小林聡美もたいまさこを筆頭に演じられる個性あふれるキャラクターたち、独特のテンポやリズム、漂う雰囲気に不思議と惹きつけられる。しかし、一見ゆったりと穏やかに展開していくようにみえるストーリーの中に、現代社会に対するメッセージやテーマ性が潜んでいる。

代表作には上記2作品の他、『めがね』(2007年)『トイレット』(2010年)などがある。なかでも、2017年に公開された『彼らが本気で編むときは、』は社会へのメッセージ性をより強く感じられる作品となっており、過去の作品とは異なる新たな魅力を発揮している。

蜷川実花

さくらん

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カラフルな刺激的世界で観客を魅了

いわずと知れた写真家であり、映画だけでなくアーティストのPV制作も手がける映像作家。

写真家としては、第13回キャノン写真新世紀優秀賞、第26回木村伊兵衛写真賞等、数々の賞を受賞。2007年に安野モヨコ原作の漫画実写化映画『さくらん』で監督デビューし、以降作品を出す度に常に話題を集める女性監督。演出家の故・蜷川幸雄の娘としても知られる。

蜷川監督の作品は、観れば一瞬で彼女の作品と分かる、写真家である自身のセンスが存分に発揮されたビジュアルインパクトが何よりも特徴的。画面上で踊るカラフルな世界は、一種のエンタテインメントを視覚的に体感しているかのような、刺激的体験を与えてくれる。

代表作は、『さくらん』(2007年)『へルタースケルター』(2012年)の他、2019年に公開が控えている『Diner ダイナー』がある。

安藤モモ子

o.5ミリ

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作品に「生」の強さとぬくもりが滲む

ロンドン大学で芸術学を専攻、ニューヨーク大学で映画作りを学び、父の俳優であり映画監督である奥田瑛二の映画作り現場へ参加したことで、映画制作の道へ進むことを決意したという経歴の持ち主。映画デビュー作は、桜沢エリカの漫画「LOVE VIBES」を映画化した『カケラ』(2010年)。

家族、恋愛、介護、LGBT、孤独、生と死などの社会的テーマを絡めながら、他者との関わり、アイデンティティ、生きることについて問うような現実に真摯に向き合った作品が多いが、重いテーマにも関わらず作風は軽やかで潔く、そして温かい。

母はエッセイストの安藤和津、そして実妹は次回NHK朝ドラのヒロインとして今世間が大注目している女優・安藤サクラという芸能一家でもある。

自身で執筆した小説であり、妹を主演に迎えて姉妹でタッグを組んだ作品『0.5ミリ』(2014年)も数々の賞を受賞したオススメ作品。まだ作品制作数は少ないが、今後のさらなる活躍が期待される女性監督のひとり。

今後ますます活躍が期待される女性監督の存在

上記挙げた人物以外にも活躍中の女性監督はまだまだ存在する。

彼女たちの創造する素晴らしい作品たちがもっと世界に発信・注目されることで、今後の映画界全体がますます盛り上がりをみせることを楽しみにしたい。

記事サムネイルPhoto credit:Express Monorail on Visual hunt / CC BY-NC-ND

(C)KUMIE / Celluloid Dreams Productions/ Visual Arts College Osaka、(C)2006「ゆれる」製作委員会、(C)2012「ふがいない僕は空を見た」製作委員会、(C)2007 蜷川組「さくらん」フィルム・コミッティ、(C)2013 ZERO PICTURES / REALPRODUCTS

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