22歳新進気鋭監督・井樫彩、注目女優・桜井ユキと作り上げた長編デビュー作『真っ赤な星』を語る【対談インタビュー】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

真っ赤な星』が12月1日(土)より公開される。孤独で行き場のない思いを抱え逡巡(しゅんじゅん)する陽には、オーディション当時、等身大の14歳であった小松未来が抜擢された。陽から特別な感情を寄せられながら、苦しい過去と向き合い続ける弥生役は、『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY リミット・オブ・スリーピング ビューティ』(17)や『娼年』(18)への出演で注目を集める桜井ユキが丹念に演じ、作品を下支えした。

真っ赤な星

本作で長編映画デビューを飾った井樫彩監督は、「今このときに今のキャストで『真っ赤な星』を撮ったのも運命だと思っている」と桜井らに感謝を告げながら、ときに苦々しく、ときに楽しそうに撮影の日々を振り返る。学生時代に製作した『溶ける』が、日本人史上最年少で第70回カンヌ国際映画祭シネフォンダシオンにノミネートされた異彩を放つ22歳だが、桜井と「ああでもない」「こうでもない」と撮影を振り返る様子は和気あいあいとしている。骨太な作品の舞台裏では何が起きていたのか、赤裸々トークが繰り広げられた。

――本作において重要な弥生という役を桜井さんに任された井樫監督ですが、どのような演出をされていったんですか?

井樫監督 桜井さんに関しては、ほとんど演出をしていません。現場では、ずっと「自由にやってください」と言っていました。撮影前には、いろいろお話をしたりして。役についてというよりかは、人生について、みたいな(笑)。

桜井 うん、うん、そうですね。

井樫監督 「今までこういうことがあって」とか、「こういう気持ちになって」みたいなことをいろいろお話して、話を聞いた後に、(脚本の)微妙なニュアンスや言い方を変えて、桜井さん自身に寄せたりしましたね。

桜井 監督とは「このことについて話しましょう」ではなく、本質の部分というか、物事の感覚とかを漠然と話していましたね。監督はおそらく……人を見抜く力がすごくあると、私は初めて会ったときから思っていて。私は、本当の自分の根底にあるものを出しちゃうと、いろいろまずくって(笑)。だけど、この作品と井樫さんこの監督は、そこを理解してくれると思えました。

監督が「演出をあまりしない」とおっしゃっていましたけど、私にとってそのほうがいいと思ってくれたから、しなかったのもあると思うんです。ゆだねてくださいました。

桜井ユキ

――見抜いていたというお話。そうした部分もあったんですか?

井樫監督 見抜けているかはわからないんですけど、人には興味があるから、見てはいると思います。……私、割と突っ込んだ質問とかもしちゃうし(笑)。

桜井 すごいですよ……! 人が聞かれたくないようなことを、飄々(ひょうひょう)と聞いてくる。そこが素敵なんですけど(笑)。

井樫監督 ほどよいところで止めるでしょう?

桜井 止めていないと思いますけど。

桜井ユキ×井樫彩

――おふたりの阿吽の呼吸のところに、現場では陽役の小松さんが入っていかれたわけですよね?

桜井 小松さんは大変だったと思います。14歳ですし、コンディションがなかなか整わない時期もあったので。そこに関しては、監督が細かに演出をつけていました。小松さんと私は役柄上、関係性を構築しすぎてもよくない間柄だったので、(フレームの外での)距離感がすごく難しかったです。なので、モヤモヤしつつも、「監督、お願い」みたいな(笑)。

井樫監督 本当、そんな感じだったよね。私の小松っちゃん指導タイムが始まったら、桜井さんは寝る、みたいな。

桜井 わざと、ですから!(笑) 監督も大変だったと思います。全部“山”でしたもんね。

桜井ユキ

――全部が山の中でも大変だったところはというと、どこでしたか?

井樫監督 ああ~……。やっぱり陽ちゃんと弥生ちゃんの、台所のシーンですね。

桜井 それまでは監督から動きや、目線の演出があったから成立していたけど、あのシーンでは気持ちのやり取りを、あの画の中で見せなくちゃいけないから。監督の演出だけでどうにかなるようなシーンではなかったので。

井樫監督 あのときのこと、覚えています?

桜井 あのときはいっぱいいっぱいでしたね。私、ちょっとおかしかったですもんね?

井樫監督 うん。目がおかしかった(笑)。結構、撮り直しましたしね。

真っ赤な星

――ひとつずつのシーンを掘っていったら、こうした話がきっと山ほど出てくるんですよね?

井樫監督 山ほどですね。

桜井 まるでカオスでしたし、もはや奮闘物語みたいな感じです(笑)。

――色濃く残る奮闘の映画を、改めてご覧になってどう受け止めていますか?

桜井 この作品に限らず、私は自分の出ている作品は何回観ても客観視できないんです。最初に観たときは、自分も出ているし、撮っていたときの記憶が渦巻いてくる? ?で、全くもって観客目線では観られなくて。「あれ? こんなことしたっけ?」ということもいっぱいあります。

けれど、作品全体で言うのならば、映像になったときの色と生身の人間が演じたときの立体感みたいなものが、台本を読んだ印象から「こういうふうになるんだ」と思って感動しました。自分の想像を超えていたシーンが多々ありましたし、監督が計算し組み合わせたものが、『真っ赤な星』の世界観を底上げしているような。「監督の感性って素敵だな」と強く思いましたね。

桜井ユキ

――井樫監督はご覧になって、いかがでしたか?

井樫監督 うーん……(黙)。

井樫彩

――記念すべき長編初監督ということになるのですが。

井樫監督 めっちゃ沈黙になっちゃった……。

桜井 監督の話を聞きにきている、取材ですよ!

井樫監督 (笑)。……答えになっているかはわからないですけど、私は全部が運命だと思っているから、今このときに今のキャストで『真っ赤な星』を撮ったのも運命だと思っているんです。例えば、自分が30歳くらいになって撮ったほうが、全体的なクオリティとしては高いと思います。でも、今このときに撮ったからこそ伝わるものもあると思っていて。まだ現在進行形のものをそのまま撮った、みたいな感じのことだから、トゲトゲしている部分もパンチになっている部分もあると思っています。

――この先、また井樫監督と桜井さんが組むことがあるなら、どんな感じのものがいいなど、ありますか?

井樫監督 私はすごい桜井さんラブなので、桜井さんとやるんだったら、スペシャルなものを用意しないと駄目と思っているというか。それなりのものをやっても「つまんなくね?」って。そう思いません?

桜井 そうですか? 私、監督がまた撮るんだったらご一緒したいですけど。もちろん「これを桜井さんにやってほしい」と思ってほしいですけどね、やっぱり。けど、まず第一に、監督の撮りたいものを観たいんですよ。その中に、私というものをイメージできる役があるのであれば、ぜひまた一緒にやりたいですし、やりましょう。

桜井ユキ

――楽しみにしています。最後に、FILMAGAは映画好きが集う場所なのですが、おふたりが今年、映画館に足を運んだ中で好きだった作品は何ですか?

井樫監督 最近、観たもので言うと、『レディ・バード』。

桜井 ああ、私も!!

井樫監督 先月、二番館的な映画館でやっと観られまして……それで、号泣して。普段あまり映画で泣かないんですけど、3年に1本ぐらい、泣く映画が生まれるんですよ。『レディ・バード』はマジで泣いて、具合が悪くなりましたね。

井樫彩

――ラストの、車の場面ですか?

井樫監督 そうです。お母さんが車を運転しながら、駐車場を探しているところ!

桜井 あそこ、ね。

井樫監督 「ウワー」ってなって、そこから泣きっぱなし。手紙が来るのとかも、すごいセオリーだし、普段だったら「ばかやろう」と思うんですけど、泣いちゃって……。わかっているのに泣いちゃう。

桜井 私は泣かな……いや、私もそこで泣いた(笑)。

井樫監督 「私は泣いてません」風だったね(笑)。すごいよかったですね。劇場で観られてよかったです。この(テレビの)画面とかで観ていたら、全然違うと思うから。

桜井 あとは、『スリー・ビルボード』に度肝を抜かれました。役者さんの演技が残るのはもちろんですけど、象徴的なあの(看板の)アングルとか、嫌味のない狙いが要所要所にある感じとか、圧巻でした。だから、アカデミー賞を獲ったときに「そりゃ獲るよね!」と思いました。今年は、『レディ・バード』と『スリー・ビルボード』と『ブラックパンサー』かな♥

井樫監督 いや、好きやなあ。

桜井 マーベルシリーズ、大好きだからね(笑)。(インタビュー・文=赤山恭子、撮影=林孝典)

桜井ユキ×井樫彩

映画『真っ赤な星』は2018年12月1日(土)より、テアトル新宿ほか全国順次ロードショー。

真っ赤な星
(C)「真っ赤な星」製作委員会

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  • かちゃぴん
    2.7
    暗い、重い、声が小さい…
  • 2.5
    最近映画見てて男キモイしか感想出てこないこれも男キモイ
  • 1y
    4.2
    重いかなってことをちゃんと言葉で伝えられちゃう人って、強いのか鈍いのかなんなのか:|自分はそうなれないだろうから尊敬できる、そしてとても人間っぽい。 自分がどんな風に人を好きになるかは、コントロールできないことなので¿もうどうしたって致し方ないことだけど、、結局自分が1番苦しいだろうから可哀想(なんか表現違う)だなぁ~と思ってしまった\ ラストのセリフ~からのHumpback クジラ~が痺れた選曲素晴らしくて:)カッコ良すぎ🎧完全に思ってた逆を…つかれました/✌︎
  • 海老シュウマイ
    4
    「あの娘は知らない」で書いたことすべて取り下げたいくらい、別人が作ったような感触。 なんだろうこの熱量。 あちらが画面内温度24℃なら、こちらは100℃越えてそう。 決して登場人物が泣き叫んだり怒り狂ったりするわけでもないのに、何なら爽やかな快晴の空に浮かぶパラグライダーのショットが実は沸々としていたり。 あっちはほんとに商業ベースの仕事として作ってあげたのかな。雨のゴミ捨て場で俯瞰のアングルとかアート気取りとしか(いい加減控えましょう)。 当時、ほぼ役柄の年齢であったろう小松未来の起用もすごい(撮影当時15歳とか?)。 そんな年齢の人にこの役柄を演じさせるのは、批判や抵抗もあるだろうし、本人へのケアも考えなくちゃいけないけど、監督はわかったうえでの起用だろうし、とにかく攻めてる。 ただ、お話として、 この共依存を美しく肯定的に、感動的に捉えることは絶対にできなかった。 もちろん、作り手としても泣いたり感動したり、考えさせることも求めてはいない気がする。 描写としては同性愛的であったりシスターフッド的ではあるけれど、ここに愛情はないと信じたい。単なる依存。 とはいえ、あえて強めの表現をしているのは、自分の経験、境遇からしても触れられたくないところをえぐられるからで、それだけ刺さってるからってことなんですが。 でも、飛びたくても飛べない者、心にどうやっても埋められない凹がある者の表現が女性に限定され、お前ら男は肉体的に凸がある以上、同じじゃないというのは結構、きついのですよ。 私はハッテン場で凹を埋めてもらわないと仲間に入れてもらえないのでしょうか(ハッテン場だって選り好みがあるだろうし私を選んでくれる自信もないわけで)。 もちろん、それと同じぐらいの覚悟や、普段からの凸への危機感があるのも理解できるけど、心に凹があるのは同じで、どうしようもなく埋まらないときもあるのですが。 昔、自分は0.5だと思っていたし、相手も自分を0.5だと思っている人と、2人で1.0になるから大丈夫だよね、という「恋愛」を繰り返してきて思うのは、 別に0.5のままでよかったじゃん! なのでやっぱり、この物語を「愛情」の物語としては認めない。
  • SS
    3.3
    桜井さんのイメージが変わった
真っ赤な星
のレビュー(1147件)