オリジナル映画企画とクリエイターの発掘を目的に、「本当に観たい映像作品企画」を募集し、受賞作を映画化するTSUTAYAとカルチュア・エンタテインメントが主催する「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM」(TCP)。
本プログラムで過去に受賞した『嘘を愛する女』と『ルームロンダリング』が2018年に劇場公開され、ますます注目度が高まっているプロジェクトです。
そんなTCP2018で審査員特別賞を受賞したのが塩田悠地さん。
現在、映像ディレクターとして企業CMやアーティストのMVを手がけるなど、すでに映像の世界で活躍中の塩田さんから、受賞作品『Mirror Mirror(仮)』の企画をどうやって作っていったのか、そして作品の目指すところなどを伺いました。
受賞作品『Mirror Mirror(仮)』あらすじ
誰もが憧れるカリスマモデルの“華”(本名:花子)には世間に隠している秘密があった。実は双子で、引きこもりの姉、葉子がいること。しかし、そんな姉がひょんなことから突然AVデビューをしたことで、花子は全てを失ってしまう。やがて二人は、世間を巻き込みながら争い、激しくアイデンティティを奪い合うが、その中で彼女達は家族という最も小さく大切な絆を取り戻す。
※作品のビジュアルはあくまで現段階でのイメージです。
女性だからこそのアイデンティティの揺らぎ
――受賞おめでとうございます! 今回の企画は双子が主人公ということでしたが、そうなったきっかけはあるのでしょうか?
塩田 企画を立てるときに、テーマやモチーフをまず考えるんですね。といっても、割とざっくりしたものなんですけど。そのときに、最近「双子」をメインに描いている映像って観ていないな……と思って、まずそこからはじまったんです。
それで、じゃあ、その双子がどうだったらおもしろいんだろうと考えていって、双子ってことはアイデンティティや家族の問題に行き着くなと思ったので、その心理的な揺らぎを描けたらという着想をベースに企画を起こしていった感じですね。
――ちなみに、男性ではなく女性だったのには理由があるんですか?
塩田 はじめから「女性」でしたね。女性って見た目の問題にすごくセンシティブだったりするじゃないですか。だから、アイデンティティの問題を表現しようと思ったときに、女性のほうがマッチするだろうなと。
――最終審査のプレゼンテーションで披露された作品のデモムービーがとてもスタイリッシュでした。しかもファッション性も取り入れたいともおっしゃっていたので、女性が主人公ならその部分と結びつけやすいですよね。
塩田 そうですね。2次審査のときにも「男性を主人公にしたらどうなりますか?」って面接で聞かれたんですけど、男性にするとファッションの話がマッチし難くなってくるし、身体をさらけ出すバトルとか、見た目やどんどん変身していく面白味とか、やろうとしていることと離れる気がして、それは違うなと話しました。この脚本自体、基本は女性が主人公じゃないと難しいかなと思っています。
演技力、存在感……キャスティングが難しい
――少し驚いたのが、姉が引きこもりからAV女優になるという展開です。振り幅が大きい設定ですね。
塩田 姉がAV女優になることで、妹自身は晒してないのに、自分の裸を晒されているような気持ちになりますよね。そこでアイデンティティが奪われると。でも、もし普通の人なら「AV女優なんてやめて」で終わるかもしれないけど、本当にトップオブトップのアイドルやアーティストが、実は双子で、しかも姉がAV女優として出てきたってなったら、いろんなことがまったくひっくり返っちゃうだろうと思って。そういう設定にするためにAV女優という要素を入れたっていう感じですね。
ただあくまで事件としての要素で、映像は女性が観たくなるように描くつもりなので、エロいとかグロい感じにはしないつもりです(笑)。
――今のところどんなキャスティングを想定されていますか?
塩田 トップモデルとしての存在感がちゃんとあって、でも引きこもり役もできて、一人二役で……という難易度がすごくあるんですよね。やりがいはあると思うんですけど、観る人も納得できる人じゃないと難しいと思っています。そういう意味では、国内にこだわる必要もないかもしれませんね。激情の振り幅を考えると海外の女優さんもあると思ってます。
――かなりの演技力も求められますね。
塩田 それはもちろんです。撮影自体、とても大変だと思うし、CGも駆使しながらやっていくと思いますが、でもその技術がメインではなく、きちんとストーリーそのもの、二人の絆を見せるのが重要だなと思っていて。
最終的に観ている人に「本当はこれ(姉と妹の)どっちなんだろう……」とわからなくなるっていうのを楽しんでもらう構造にするのが大事だと考えています。そう考えるほど、キャスティングが難しいですね(笑)。
ゼロから作ってみたくて「映画」を撮りたいと思った
――塩田さんは映像ディレクターとしてご活躍中ですが、もともと映画を撮りたいという気持ちがあったのでしょうか?
塩田 それが、実は全然なかったんですよ(笑)。映像ディレクターって、映像というパスポートを使ってどこまでいけるんだろうという旅だったりもするので。
それで「CMを10年間くらいやってようやくここまできた。ここから新しい自分のトライするゾーンは何かな」って探したときに、「映画」っていうのがひとつのチャレンジの対象として出てきたので「やってみたい」と思ったんです。
――映像を使ってどこまで行けるかの延長線上に「映画」があったということですね。
塩田 そうです。だからクライアントワークも全然やめるつもりはないんですよ。TCPがすごくいいなと思っているのは、脚本なんですよね。原作があってそれを映画化しますっていう巷にあふれる映画のあり方とはまったく違う。ちゃんとゼロから脚本をつくって映画化するというのに価値があると思っているんです。
CMベースだとゼロからものをつくるということはないので、ゼロからの作業というのをやってみたいというのもあって「映画」なんですよね。
大学の頃に観た小津安二郎作品の影響
――ちなみに、影響を受けた映画監督といえばどんな監督を思い浮かべますか?
塩田 ヴィム・ヴェンダース、デヴィッド・フィンチャー、ウォン・カーウァイ、グザヴィエ・ドラン、彼らが撮るようなスタイリッシュかつエモーショナルで、長く残って何度も見てもらえる映画を撮りたいですね。
――個人的に一番ハマった監督はいるのでしょうか?
塩田 それで言うと、小津安二郎監督ですね。
――意外ですね!
塩田 すごく好きだったんですよ。大学の頃によく観ていました。なんかしっくりくるというか。小津監督の映画には「これが俺だ!」という何かがあるじゃないですか。同じものをずっとこだわって作っているような感じが、逆にもう「いい意味で狂ってるな、この人」って思って(笑)。
今回デモムービーを作っているときも、四畳半で姉妹が向かい合っているシーンの撮影で、気づいたら「もっと低く」とカメラ位置を指示していて。「あれ? これどっかで見たな」と思っていたら「あ、小津だ!」って(笑)。影響がきちんと自分の中に残っているものなのだなと。
――それでは最後に、映画化に向けて、意気込みを!
塩田 最終的に観た人が「映像はステキなのに感動したな」「ずっと観たいし、また観たいな」と思うものを作りたいです。そして脚本を書く面白さにも取り憑かれたので、これからも映画に限らず色々とトライしていこうと思っているので、ひとまずその第一弾として最高の作品を作りたいですね。
<塩田悠地さんプロフィール>
映像ディレクター。2002年、「Canon Digital Creators Contest」入賞。2002年、「関西TV BACA-JA」特別賞受賞。2009年「ADFEST」Fabulous 4グランプリ受賞。2004年、「NHK Digital Stadium」浅野忠信ベストセレクション、「東京ネットムービーフェスティバル」鶴田真由賞など。映像制作会社HATでCMやMVなどを中心に監督として活躍した後、2017年より【Tuxedo】を立ち上げ独立。
【取材・文:戸川光里/撮影:FILMAGA編集部】