オリジナル映画企画とクリエイターの発掘を目的に、「本当に観たい映像作品企画」を募集し、受賞作を映画化するTSUTAYAとカルチュア・エンタテインメントが主催する「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM」(TCP)。
本プログラムで過去に受賞した『嘘を愛する女』と『ルームロンダリング』が2018年に劇場公開され、ますます注目度が高まっているプロジェクトです。
そんなTCP2018で準グランプリ・Filmarks賞を受賞したのが大川五月さん。
『京太の放課後』、『リトル京太の冒険』など映画監督としてすでに作品を生み出している大川さん。今回は、受賞作品である『妊娠してる場合じゃないの!(仮)』の企画の経緯やどんな作品にしたいかといった思いなどを伺いました。
受賞作品『妊娠してる場合じゃないの!(仮)』あらすじ
予想外の妊娠からハーフの子を産んだ菜摘。母親にも自分らしく生きる権利があると主張するも、どうやら日本社会ではご法度の様子。敢えなく撃沈後、ヤケクソで投稿したあるツイートが、菜摘を更に翻弄することになる。
※作品のビジュアルはあくまで現段階でのイメージです。
出産の経験と人種問題に疎い日本人への衝撃
――受賞おめでとうございます! 受賞作品の『妊娠してる場合じゃないの!(仮)』の企画ができた経緯から教えてください。
大川 実はTCPに別の企画をひとつ出していたんですけど、まだ締切まで時間があったのでもうひとつ新しいものを出そうと思ったんです。でも案外ギリギリで、そうなってくると自分にとって身近なテーマに話が絞られて。そのときに、女性の産後の社会復帰とアジア人の黒人に対する人種差別というテーマが浮かんできたので、それで今回の企画を送りました。
――女性の産後の社会復帰は、身近なテーマだったのですか?
大川 私、子供を産んだばかりで。子育て中って、子育ての映画をすごく観たくなるんですよ。他の人がどうやっているのか知りたくて。でもほとんどないんですよね。じゃあ、そういう映画を作ればいいんじゃないかと思って、まず子育ての話を企画にしようと思ったんです。
それから私の場合、社会復帰をしようと思った途端、自分の仕事が流れたっていうショックな経験があったことも大きかった(笑)。
女性って妊娠・出産までのすごく短い間に自分のキャリアを決めなくちゃならないんですよね。でもその時期って、体もボロボロで。子育てが落ち着いたときに仕事へどう戻るか、もともとの自分とどう折り合いをつけていくのかっていうことを考える余裕がないんですね。だから、産後の社会復帰について考える時間を準備できるような話も入れようと思ったんです。
――アジア人の黒人差別というテーマも身近な問題としてあったのでしょうか?
大川 実は私の娘が白人とのハーフなんですね。でも、日本人って肌の色に慣れてないところもあると思うんです。昔、母の知り合いの年配の女性にできたお孫さんが黒人とのハーフだったらしくて。それを、その年配の女性がうちの母に「かわいいのよ、黒人“でも”ね」って伝えたという話を聞いたんです。それが私にはすごい衝撃で。
私は海外に住んでいたことがあって、他文化とか他人種に触れる機会が多かったので、言葉にしてはいけないラインを一応、わかってはいるつもりなんです。でも日本人って人種というものに対して実は無知なんじゃないかなと。だから、そのあたりを物語に組み込めたらなと思って。
――今まで撮った作品と比べて、似ている部分はありますか?
大川 コメディタッチで社会問題を扱うといったテイストは似ると思います。自分がやりたいことでもあるので。ただ、前に撮った『リトル京太の冒険』のときに、それを観てくださった大先輩の監督さんから「長編はもっといろんなことが起こらなきゃダメだよ」ってアドバイスをいただいたんです。
なので、今回はたくさんの展開を入れたんですね。TCPでは1次審査に通った後、脚本を書かなきゃいけないんですけど、すごく長くなっちゃって(笑)。
主人公は『探偵物語』の薬師丸ひろ子のイメージ
――プレゼンのときにイメージキャストとして、主人公の菜摘を『探偵物語』のときの薬師丸ひろ子さんっておっしゃっていましたね。
大川 そうです、そうです。可憐だけど芯が強くて、でもちょっと頼りなさそうな感じ。これが、子供を産むって決めて、産んだらちょっと強さが出てくるという設定がいいんじゃないかと思って、『探偵物語』のときの彼女をイメージしていたんです。
――ちなみに菜摘の年齢設定はどれくらいですか?
大川 30代中盤くらいですね。
ケン・ローチ監督に社会問題をユーモラスに描くことを学んだ
――ちなみに、影響を受けた監督はいらっしゃいますか?
大川 一番大好きなのはケン・ローチ監督です。ケン・ローチ監督って社会問題をよく扱っていて、その中でも、過酷な状況にいる人からユーモアを見つけるのがとてもうまいんです。実はイギリスに住んでいたときに、バイトの取材でお会いする機会があって。
――えっ!それはすごいですね。
大川 そのときは『SWEET SIXTEEN』という映画の取材で、「苦境の中にいる人から飛び出すユーモアはどうやって見つけるんですか?」と伺ったら、ケン・ローチ監督が「不良少年をそのままに描いたら、彼らが持っているユーモアは自然と映画に映し出される。そういうことだよ」って言ったんですね。
大川 実際に私も、『SWEET SIXTEEN』に出てくるような不良少年たちをイギリスで見かけたことがあって。確かに素行はよくないヤンキーのような子たちなんですけど、彼らが仲間内で話している内容はとてもおもしろいんです。「人を描く」ってどういうことか、ケン・ローチの映画から学びましたね。
あとは、雰囲気とか音楽的なことで一番好きな監督はハル・ハートリー。すごく好きで、20代のときによく観ていたんです。20代の頃に自分が好きだったものって今になっても残るんですよね。
あと、ミロス・フォアマン監督。フォアマン監督も社会性があるものをユーモアを交えて描くのが特徴的です。フォアマン監督は特に、政治が不安定なときにチェコから亡命してアメリカに来ているので、あの社会主義体制の中で映画という武器を持って戦ったっていう誇りがずっとあるらしいんですね。
――それは知りませんでした。
大川 そうなんですよ、カッコいいんですよ(笑)。そういう過酷な環境を生き抜いてきた人ってユーモアを見つけるのがうまい。人が前を向けるのはどういうことかというと、笑える状態になることなんだなって。この監督たちの作品を観てると思いますよね。自分の作品もそれを大事にしたいです。
――それでは最後に、映画への意気込みを教えてください!
大川 今までやったことないスケールで撮らせていただけるのはすごく興奮するんですけど、自分にできることって、いい作品を撮るってことだけだと思うんです。自分を見失って、この予算に合う売れそうなものを……っていう風になるのは絶対に避けようと。やりたいビジョンがあるし、それをやりきりたい。そうでないと、こんな機会をいただいた意味がないと思うので、妥協しないでやっていこうと思います!
<大川五月さんプロフィール>
演出・脚本・編集。映画監督としても活動中で、代表作として『京太の放課後』、『オペレーション・バーン・アウル』、『リトル京太の冒険』などの作品がある。
【取材・文:戸川光里/撮影:FILMAGA編集部】