少年はいかにして”ピーター・パン”になったのか? ネバーランドのプリクエル(前日譚)を豪華キャスト共演で描いたファンタジー大作『PAN~ネバーランド、夢のはじまり』は10月31日、全国にて公開です。
「子どもの頃ディズニーアニメで観たけど、どんな話だったっけ?」なんて忘れてしまっている方も多いのではないでしょうか?(かく言う私も忘れていました・笑)
今回は3本のピーター・パン映画と『PAN~ネバーランド、夢のはじまり』をご紹介しつつ、ピーター・パンの人気の秘密に迫ってみます。作者であるジェームス・バリは、ピーター・パンにどのようなメッセージをこめたのでしょうか?
作者とあらすじ
映画の前に、まずは原作の「ピーター・パン」をご紹介します。
「ピーター・パン(原題:ピーター・パンあるいは大人になりたがらない少年)」は1904年に初演された戯曲で、作者はイギリスの童話作家ジェームス・バリ(1860-1937)です。
実はピーター・パンは主役でなかったのをご存知ですか? バリが1902年に書いた「小さな白い鳥」という作品の中の1エピソードの登場人物でしかなかったのです。
その後バリのお気に入りキャラクターとなったピーター・パンは、主役として様々な戯曲に姿を現すようになり、1911年に書かれた小説「ピーター・パンとウェンディ」にて、現在よく知られているキャラクターに定着しました。
この小説を元に、ピーター・パンを有名にしたディズニー映画が製作されました。
ピーター・パン(1953)
50年以上前の映画ですが、ディズニー・クラシックスの中でもトップクラスの人気作品でして、テレビでもCSのアニメ専門チャンネルやディズニー映画特集で度々目にすることがあります。
人気の秘訣は、いつの時代にも符合する普遍的なテーマにあると思われます。それは「“永遠なる子ども”とは”子ども心を忘れない大人”である」ということです。
夢見る少女ウェンディは、永遠なる子どもピーター・パンに連れられて夢の世界ネバーランドへと旅立ちますが、そこで彼女を待っていたのは”母親”を知らない子どもたち。彼女はピーターにまさかの「子どもたちの母親」役を命じられます。
いつまでも子どもでいたかったウェンディにとっては皮肉な展開ですよね?
彼女が当初嫌がっていた大人とは、子どもの視点から見た大人であり、彼女の身近な存在からすると社交界でのメンツばかり考えている父親にあたります。つまり子どもの存在を二の次にする大人です。
ウェンディはネバーランドで母親という役割を与えられ最初は戸惑いますが、子どもの世話を経験してはじめて「子どもに秩序や知識、物語を教えることができるのが母親なのだ」と、大人になることの社会的重要性を多面的に捉えられるようになります。
つまり、子どもの想像力=夢見るちからを育てるのが大人の役目だと、大人の視点に立って考えられるようになるんですね。その”気付き”こそが子どもから大人への成長の証でもあるのです。
誰しもがみんな昔は子どもでした。大人になるターニング・ポイントの存在として、ウェンディを”子ども心を忘れない大人”へと導いた”永遠なる子ども”ピーター・パンに誰しもが共感できるのです。
ただ、フック船長に勝った祝宴でウェンディに対し薪運びを命じるピーターに、この原作が書かれた時代的な男尊女卑の気を感じてしまうのがたまに傷ですが…
と、映画を紹介する前に今回の記事で伝えたかった作品の持つメッセージを先に書いてしまった私は構成力の未熟な子どもですね、いやはや。私にもウェンディのような母親がいてくれたらなぁ…
Rakuten TVで観る【登録無料】フック(1991)
さて、そんなピーター・パンを描いた映画の中でも異色なのが、スティーブン・スピルバーグ監督作『フック』です。
この映画のピーター・パンは40歳。え!? 永遠なる少年が中年に?というワンアイデアから創り出された怪作で、公開当時も賛否両論が吹き荒れていたのを覚えています。
この映画のタイトルは『フック』、そうダスティン・ホフマン演じるフック船長を指しています。自分がピーター・パンだった記憶のない嫌味な中年になってしまったピーターが、自己を取り戻す物語のようでいて、実はネバーランドでいつまでも待っているフック船長の心境に比重が置かれている映画です。
フック船長は海賊なのに海賊行為(船や街を襲う略奪)をしません。それもそのはずフック船長の存在意義はピーター・パンと”対をなす者“であるからです。それはルパン3世における銭型警部のように。
つまり本作でピーター・パンの復活を願っているのは、他でもない『フック』船長なんですね。それはまるでプレゼントを期待している子どものような幼さを感じさせます。
その点を考えながら観ると、歪んだ愛情に振り回されるフック船長を中心とした、おかしなピーター・パン映画として楽しめるかと思います。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】ピーター・パン(2003)
原作の舞台が初演を迎えてから100週年を記念して製作されたのが本作です。
ピーター・パン役は13歳のジェレミー・サンプター。それまで「実写のピーター・パンは少女が演じる=ピーターの中性的な魅力は少年では出せない」とされていた暗黙のルールを打ち破り、堂々の好演を見せました。(日本のミュージカルでも代々女性が演じていますね)
予告編をご覧いただくとお分かりかと思いますが、本作ではジェレミー・サンプター演じるピーターの魅力がほとばしってます。生意気で勝気、女子にツンとした態度は取るけどもいざとなったら頼もしい姿を見せる男子そのものです。
フック船長のジェイソン・アイザックス(『ハリー・ポッター』シリーズのルシウス・マルフォイ役でおなじみ)も容姿の美しさ際立つ悪役を好演していて、映画に華を添える好対照に描かれています。
原作のファンタジー性を損なうことなく実写化に成功している必見の冒険活劇です。
U-NEXTで観る【31日間無料】PAN~ネバーランド、夢のはじまり
最後にご紹介するのが新作『PAN~ネバーランド、夢のはじまり』です。冒頭でもご紹介しましたが、今回は少年がピーター・パンになるまでの前日譚を描いています。
『ホビット』や『オズ はじまりの戦い』等、最近はファンタジー映画の前日譚を描いた作品が流行っていますね。どの作品も元々の作品のファンに喜んでもらえる斬新なアイデアに満ちたシナリオになっています。
本作での斬新さを挙げるならば、原作に登場しない映画だけのオリジナル・キャラクターと、その関係性でしょう。
ピーター・パンの宿敵フック(演じるは『トロン:レガシー』で主演したギャレット・ヘドランド)がまだ海賊の”船長”になる前、実はピーター・パンと共闘していた!という、ファンサービスなストーリー展開。
どのような経緯で二人は仲違いし、宿敵同士となったのか。旧作や原作のファンならば、その謎を放ってはおけませんね!
そんな若き主役たちと対峙するのは、悪しき海賊”黒ひげ”。演じるはウルヴァリンでおなじみヒュー・ジャックマンです! 映画オリジナルの魅力あふれる悪役を喜々と演じています。予想外のいかつい坊主頭に、びっくり仰天のは私だけでないはず!
監督は『プライドと偏見』や『つぐない』等、クラシック・ラブロマンスで名を馳せるジョー・ライト。ロンドン出身の若き監督による新たなピーター・パンとネバーランドの創造性に誰もが期待MAXです!
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】Take me to Neverland
今回は「ピーター・パンを映像化した」作品に特化しましたが、他にもジョニー・デップが著者ジェームス・バリを演じた『ネバーランド』や、妖精ティンカーベルを主役にしたアニメ映画などから、ピーター・パンの物語をさらに深く知ることができます。
これら過去のピーター・パン映画を観て、『PAN~ネバーランド、夢のはじまり』の描く新たなピーター・パン・ワールドを体験しましょう! ジェレミー・サンプターのピーターとはまた違った魅力を放つ2003年生まれのリーヴァイ・ミラーくんにも注目です。
え?2003年生まれってジェレミー版「ピーター・パン」の公開年に生まれたのかリーヴァイくん! 月日が流れるのは早いものですね。
大人の社会に疲れ、子ども心を忘れそうになった時は、再びネバーランドをのぞいてみようではありませんか!
「Now think of the happiest things. It’s the same as having wings!」(さあ、もっとも幸せな瞬間を思い浮かべて。君は飛べるんだよ!)