2018年で15周年を迎えた「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」のオープニング作品であり、地元川口市を舞台に製作された映画『君がまた走り出すとき』。そのメモリアルな本作は、日本人男性で初めて世界の6大マラソンを走破した実在の人物・古市武氏(川口市在住)の姿を見て、人生を逃げ続けている人たちがマラソンを始め、自分自身、そして自分の人生と向き合う市井の人々のヒューマンドラマとして好評だ。
主演は、若手注目株の寛 一 郎。『心が叫びたがってるんだ。』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』など、立て続けに話題映画に出演を果たし、ドラマ『ミッドナイト・ジャーナル 消えた誘拐犯を追え!七年目の真実』に出演するなど、着実にキャリアを重ねる寛 一 郎は、映画初主演で何を思い、何を表現したのか? <実話が導く再生ストーリー>を送り出す彼に話を聞いた。
ーー本作は<実話が導く再生ストーリー>ということで、非常に観る人の共感を誘うテーマもありました。どういう思いで作品に参加しましたか?
寛 一 郎 初めて映画で主演をやらせていただくということで、意気込みは強かったです。主演って……語彙力がないので……“ヤバい”じゃないですか(笑)。二番手、三番手ももちろん重要ですけど、別の次元にある立場だなってという想像を自分のなかで勝手に作っていました。作品を背負っていかなきゃいけないけれど、僕なんかが引っ張っていくのは無理だから、みんなに担いでもらうのかとか、主演について何かと考えていましたね。
ーー実際、撮影現場に入ってみて、いかがでしたか?
寛 一 郎 実際現場に入ってみるとまったく変わることなく、自分自身でいてしまったところはありますね。でも、反対に撮影に入る前に気負ってしまうよりは、ナチュラルにこなせたと思います。それは周囲のみなさんが助けてくれたからこそなのですが、どういう作品であれ、主演をやるってことに関しての意気込みはあったので、それがいいほうに出たのかなと思います。
寛 一 郎 普段映画を観ていれば、主演の人間がどれだけの思いで作品を背負っているか感じることがあるものなので、現場での在りかたも先輩方に聞くものではないような気もしていて。おのおののスタンスもあると思うし、その人たちは自分とは立場も違う。なので、どうしようと考えていましたけれど、そういうことも含めて個人的に学びが多い作品になったと思います。
ーー山下リオさんとは、本格的な共演となりましたが、再会してお互いの成長を確認し合ったのではないでしょうか?
寛 一 郎 以前共演はさせていただいていましたが、その時は一緒のシーンがなかったんです。その時のスタッフさん、キャストさんでご飯に行った時に、1回だけお会いしただけで、それ以来でした。山下さんは撮影中、すごく気遣いをされる素敵な方で、それは彼女にしてみれば無意識なことだったのかもしれないですが、僕自身は救われたところもあったと思っています。
ーー<人生は何度でも走り出せる>とコピーにありますが、本作のテーマにまつわって個人的に感じたことは何でしょうか?
寛 一 郎 この作品は『君がまた走り出すとき』というタイトルですが、登場キャラクターの姿を見ていて思うことは、多々ありました。僕自身も自分自身から逃げ出していた時期があって、それはたぶん今でもどこか逃げている部分がある気がしているほどです。でもそれは、みんなそれぞれあることだと思うんです。そのなかで今回はマラソンというきっかけで人間ドラマが始まりますけど、自分の場合は映画の影響はあるかもしれない。映画に影響を受けるというよりも、この仕事を始めたのも映画が好きということがありますし、映画を観ると、とてつもないエネルギーをもらいますよね。
ーー今回の『君がまた走り出すとき』も同じような映画だと思いますが、最近エネルギーをもらった映画は何でしょう?
寛 一 郎 ドキュメンタリーなのですが、妻夫木聡さんが『悪人』という映画に出られた際の、『妻夫木聡が悪人だったあの2ヶ月』です。めちゃくちゃ面白くて。もちろん今回の映画も面白いですけど、僕はもがいている人が出ている作品を観ることが好きで、それは別に悪い意味ではなくて、人間らしい人を結局のところ観たいということ。僕はそれを追い求めているところはありますね。生のものがそこにあるので、それは観ていて、面白かった。いまはおそらくあのような撮り方はもうできないかもしれないです。
ーーこの『君がまた走り出すとき』の公開にまつわって、最後にメッセージをいただけないでしょうか?
寛 一 郎 先ほども言いましたけど、映画を作る際にエネルギーを注ぐので、観る側もそれを受け取るじゃないですか。この作品では映画なのでマラソンでパッ!と自分と向き合えますが、本来は徐々に気づいていくことだと思うんですよね。作品ではわかりやすく、ひとつの出来事で自分と向き合えるところまでもっていけるけれど、本来人間はそこまで単純ではない。向き合うまでに、相当な時間と労力がいるはずなんです。だから、この作品のエネルギーが、そういうことへのきっかけになればよくて、そういうことを伝えたいと思っているので、共感してくれたらうれしいですね。(取材・文・写真=鴇田崇)
映画『君がまた走り出すとき』は2019年3月2日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。
監督:中泉裕矢
配給:キャンター
公式サイト:http://kimimata.com/
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