構想15年、『スタンド・バイ・ミー』のロブ・ライナー監督が描く社会派映画『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』【来日インタビュー】

世界のディズニーを翔る元映画サイト編集長

鴇田崇

『スタンド・バイ・ミー』『恋人たちの予感』などで知られるハリウッドの巨匠、ロブ・ライナー監督が、本格的な社会派ドラマに挑戦した『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』が現在公開中だ。

記者たち

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監督・製作のみならずワシントン支局長役を自ら演じて、2003年のイラク戦争開戦時から構想していたという念願の企画を実現。フェイクニュースなどというワードが踊る現代、監督が映画に込めた想いとは? 初来日を果たしたロブ・ライナーに聞く。

記者たち

ーー本作は15年という歳月をかけて映画化が実現したそうですが、その15年間のモチベーションは何だったのでしょうか?

ロブ・ライナー監督 当時、アメリカがイラクに侵攻するまでの過程を、心を痛めながら見ていた。わたしはベトナム戦争の時には徴兵の年齢に達していたので、まさか自分の生涯で2度もアメリカが戦争に行くことになるなど、思いもしていなかったわけだ。ベトナム戦争の時も嘘というものが基盤になって、それがきっかけとなって結果的にアメリカはベトナムとの間で戦争になってしまった。イラク戦争の時もまったく同じことが起きていて、だからそのことについて映画にしなくてはという気持ちがあったけれども、どういう形でどういう物語でということがなかなか見えていなかったんだ。

記者たち

ーーそのきっかけが、4人の記者たちの存在だったわけですね。

ライナー監督 その後、ある作品で4人の記者たちの存在を知ったんだ。一般市民に真実が届いていなく、政権が自分たちの好きなようにできてしまうのかということをすごく感じたよ。あの4人の記者たちを見た時に目から鱗が落ちたんだ。4人の記者たちが真実を見つけ、一般に届けようとしたのだけれども、当時の政権のプロパガンダの中ではどうしても届けることができなかった。それを知った時、これこそがこの作品の入り口になると思ったんだ。だからわたしにとってはこの映画が、一般市民に真実を届けるためには、自由で独立したメディアが必要であり、自由で独立した目、なくしては民主主義は成立しないということ、それが作品のテーマになればいいと思った。

記者たち

ーー4人の記者たちを取材されたそうですが、劇中ではどのようにフィーチャーしたのでしょうか?

ライナー監督 実は今回、本当に密に関わってくださったんだ。脚本を作ってお渡しするたびにコメントもいただいて、約20日間の撮影も毎日のようにみなさん現場に来てくださっていたよ。これは正確だとか、「僕はこういうことはしません」とか(笑)、その場でどんどん言ってくださったんだ。だから神のコラボレーションだったと思うし、もしみなさんが映画を観てリアルだと思ったら、それは彼らのおかげだよ。

記者たち

ーーところで、監督の『スタンド・バイ・ミー』や『恋人たちの予感』などが日本でも長く愛されていますが。公開当時の日本の熱狂的なブームなどはご存知でしたか?

ライナー監督 日本には前から来たかったんだ。特に『スタンド・バイ・ミー』以降は、日本に行きたいとずっと願っていた。『スタンド・バイ・ミー』は、日本ではアメリカに続くヒットで、観客の方々が本当に作品のことを大切にしてくれていることが伝わってきたし、何か通じる部分があるのだろうと感じていたけれど、来日のチャンスがなかった。だから今回、この作品で来ることができてうれしいよ。もう10日ほど滞在しているけど、最高の時間を過ごしているよ! 日本食も大好きで、美味しいものも食べている。

記者たち

ーー来日イベントでは『スタンド・バイ・ミー』が一番ご自身に近い作品と言われていましたが、その理由は何でしょうか?

ライナー監督 父がカール・ライナーという俳優だったので、わたしは有名人の息子という目で見られてきた。『スタンド・バイ・ミー』で初めて、自分の感受性に近い、あるいは純粋に自分らしい作品を初めて作ることができた。そういう意味で自分に一番近い作品ということなんだ。

スタンド・バイ・ミー

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ライナー監督 わたしは『スパイナル・タップ』という作品で監督デビューして、あれはモキュメンタリーの風刺もので、それは父が大得意な分野だった。2作目の『シュア・シング』も父が得意としている分野だったから、『スタンド・バイ・ミー』で完全に自分らしい映画を作れて、しかもそれが皆に認められたことによって、父とはまた別の、ひとりの人間として認められたということがすごく大きかった。その時わたしはもう30代だったけれど、『スタンド・バイ・ミー』の少年たちと同じように、大人になる通過儀礼のような、そういう作品だったんだ。

ーー現代ではフェイクニュースなども騒がれるなか、若い世代はどんな意識を持って、報道などを受け止めたりすればいいでしょうか?

ライナー監督 とても難しい質問だね(笑)。インターネットが持つ力というものは、我々の想像をはるかに超えて大きなものだよね。Facebookのマーク・ザッカーバーグをはじめ、今やたくさんの優秀な若者たちが、インターネット上でプラットフォームを開発している。アインシュタインじゃないけれども、人がコミュニケーションを取りやすいように考え、良いことに使ってほしいと思って作ったものが、いかに悪用できるかということを、今まさに目の当たりにしている。誤った情報というものを簡単に広げられ、それが誠実なニュースであるかどうかを見極めることは非常に難しい。テキストや画像でいくらでも印象操作が可能だから。特に収益性を追いがちなインターネットは気をつけなくてはならないよ。(取材・文・写真=鴇田崇)

映画記者たち~衝撃と畏怖の真実~』は、現在公開中。

記者たち

監督:ロブ・ライナー
配給:ツイン
公式サイト:http://reporters-movie.jp/
(C)2017 SHOCK AND AWE PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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※2022年2月26日時点のVOD配信情報です。

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  • sayaka
    3.4
    ✔️
  • eminchi
    -
    2019年4月7日 伏見ミリオン座③ 14:20 整理券52
  • Yuya
    -
    面白かったぞ! 新聞記者の話し好きなんだよなー! クライマーズ・ハイとかね。 数字の件好きだったなぁー 大量破壊兵器 0 かぁ〜。。 こーゆうのはアカデミーに引っかからないのね!
  • T太郎
    4
    991 硬派で社会派なヒューマンドラマだ。 イラク戦争に関する、ある新聞記者たちの取材活動と、様々な軋轢や摩擦の模様などを描いた、実話に基づく物語である。 実に見応えのある作品だったが、9.11テロからイラク戦争に至る経緯をある程度知っていなければ、理解が難しい作品かもしれない。 当時、イラク戦争の是非を問う議論は活発になされていたが、その焦点は大量破壊兵器の有無にあった。 アメリカはイラクが核開発をしていて、危険な兵器を多数保有しているという名目でイラクに侵攻した。 確かな証拠は一切発見されていないにも関わらず、侵攻に踏み切ったのである。 後に大量破壊兵器はなかった事が、明らかになる。 イラク侵攻の大義名分など、最初からなかったのだ。 ナイトリッダー社という新聞社が物語の舞台だ。 この新聞社の記者、編集長らが主人公である。 大手の新聞社が政府に忖度した記事を書く一方、彼らは綿密な取材を重ねて政府発表と真っ向から反する記事を書いていく。 実は9.11直後からアメリカ政府はイラク侵攻を画策していた。 いや、それ以前からだ。 9.11テロを契機に無理やり開戦に突っ走っていった訳だ。 政府関係者にも心ある人はいる。 そういう人たちは政府の広報誌と堕した大手の新聞社ではなく、ナイトリッダー社にリークをするのだ。 編集長は記者たちに訓示する。 「我々は他人の子を戦争に行かせる者の味方じゃない。 我が子を戦場に送り出す人たちの味方だ」 彼らは必死の取材を続け、真実に迫っていく。 だが、大手の新聞社だけでなく、ナイトリッダー社傘下の地方紙までもが彼らの記事に異を唱えるのだ。 孤立するナイトリッダー社。 そんな物語だ。 今、私たちはナイトリッダー社の記事が正しかった事を知っている。 だから、当時のブッシュ政権のやった事が、いかに欺瞞に満ちた国家的犯罪行為であるかも知っているのである。 そして、その欺瞞により何も知らない若者たちが戦場に送られ、何万人もの死傷者を出したのだ。 更に、何の罪もないイラク国民は、米軍による空爆などで100万人以上の死者を出し、町は破壊され尽くしたのである。 全くとんでもない事だ。 今、ウクライナやガザ地区で起こっている事が、イラクでもあったのだ。 もっと大規模な形で。 ちょっと社会派な映画なので、観ない人は観ないかもしれない。 だが、是非とも観ていただきたい作品だ。 ジャーナリズムとは? という問いに対する答えが、この作品にはあると思うのだ。 批判のための批判しかしない、本邦の一部記者とは似て非なるものであると言えよう。 知らんけど。 今回のレビューはおふざけなしだ。 私もやる時はやる男なのだ。 どうか、遠慮なく私を称えていただきたい。
  • IzumiRyo
    3.7
    戦争大国アメリカ。嘘も罷り通る恐ろしさと立ち向かうも抗えない悔しさ。
記者たち~衝撃と畏怖の真実~
のレビュー(5244件)