2019年度前期のNHK連続テレビ小説『なつぞら』のヒロインは、アニメーターを志す女の子ということで、今まであまり取り上げられなかった新しい世界を描いたドラマとして期待されている。
ご存知のように、最近ますます世界中から高い評価を受けている日本のアニメーション。今や異文化コミュニケーションの重要なツールとしても、アニメーションは欠かせない存在になっている。
そこで今回は、日本を代表するアニメーション作家10名とその作品をご紹介しよう。
高畑勲
高畑勲プロフィール
1935年三重県生まれ。テレビアニメーション「狼少年ケン」で演出デビュー。1968年に長編アニメーション『太陽の王子 ホルスの大冒険』で監督デビューを果たす。1985年に宮崎駿とともにスタジオジブリを設立。代表作には、『火垂るの墓』(88)『おもひでぽろぽろ』(91)『平成狸合戦ぽんぽこ』(94)『ホーホケキョ となりの山田くん』(99)など。2018年死去。
『かぐや姫の物語』(2013)
「竹取物語」を原作とした14年ぶりの長編アニメーション作品であり、監督の遺作。人物と背景が手書き風のスタイルで描かれていることにより、一枚の絵が動いているような印象を受けるのが特徴で、アカデミー賞の長編アニメーション賞にノミネートされた。
「姫の犯した罪と罰」というインパクトのあるキャッチコピーからもわかるように、これは私たちの知っている「竹取物語」ではない。侮辱されて屋敷を飛び出した姫が、ものすごい勢いで装束を脱ぎ捨てながら走り続けるシーンは、そのすさまじい形相も含めて「どえらいものを見てしまった」という感じ。
女性としての葛藤。淡い恋心。別れの哀しさ。姫はどんな思いで月に帰っていったのか。知られざる彼女の内面がデリケートに表現され、まるで演技を見ているかのよう。切ないラストは怖ろしくもあり、どこかSF的な余韻を残す。
宮崎駿
宮崎駿プロフィール
1941年東京都生まれ。1978年に初の国産テレビアニメーション「未来少年コナン」の演出を担当し、翌年には長編アニメーション『ルパン三世 カリオストロの城』を制作。1985年に高畑勲とともにスタジオジブリを設立した。代表作は、『天空の城ラピュタ』(86)『となりのトトロ』(88)『魔女の宅急便』(89)『もののけ姫』(97)『千と千尋の神隠し』(01)など。
『風の谷のナウシカ』(1984)
高度な文明が破壊された近未来を舞台に、毒の森である腐海と生きる人間同士の争いを描く。
アニメーション雑誌「アニメージュ」で連載された自身のオリジナル漫画をアニメーション化し、脚本も務めた。大戦争「火の七日間」から1000年。辺境にある「風の谷」の族長の娘ナウシカは、虫に襲われて墜落した輸送飛行船に「巨神兵」の核が積まれていることを知る。
ウジャウジャとした足で突進してくる王蟲(おーむ)とともに、強烈なインパクトを残す不気味な巨神兵。その原画を担当しているのが庵野秀明であることは、あまりにも有名だ。監督の思い入れがひしひしと伝わってくる傑作。
高坂希太郎
高坂希太郎プロフィール
1962年神奈川県生まれ。『もののけ姫』(97)『千と千尋の神隠し』(01)などの代表的なジブリ作品に関わり、「宮崎駿監督の一番弟子」「右腕」との呼び声も高い。代表作は『若おかみは小学生!』(18)。
『茄子 アンダルシアの夏』(2003)
スペインの自転車レースを舞台にした監督デビュー作。上映時間が一般的な映画の半分であることから、入場料を通常の半額にしたという。ちなみに、監督自身もかなりのサイクリストである。
タイトルに「茄子」とあるのは、原作が短編漫画集「茄子」に収録されているから。なるほど、劇中に「茄子の水漬け」が小道具として登場するのはそのせいか。カンヌ国際映画祭に日本アニメーションとして初めて出品。オリジナル・ビデオ・アニメーションの続編『茄子 スーツケースの渡り鳥』(07)あり。
ライバルにアタックしたり、逃げ集団を形成したり。そんなプロのレーサーたちの作戦をリアルに描き、仕事をクールにこなしながらも、この日に元カノと兄が結婚するという主人公の複雑な心境を織り込んだ男泣かせの一作。
湯浅政明
湯浅政明プロフィール
1965年福岡県生まれ。テレビアニメーション「ちびまる子ちゃん」「クレヨンしんちゃん」の原画を担当し、1993年から始まる「劇場版クレヨンしんちゃん」シリーズでは第1作目から深く関わり続けている。代表作は、テレビアニメーション「四畳半神話大系」(10)「ピンポン THE ANIMATION(14)など。
『夜は短し歩けよ乙女』(2017)
森見登美彦の小説をアニメーション化。地味な男子大学生が、片思いの後輩に気づいてもらおうといろいろな行動をするが、個性的な人々が巻き起こす騒動に引き込まれてしまう。
中村祐介のキャラクターデザインが、知的で摩訶不思議な世界観にピッタリ。彼女を思う気持ちは強いが気の弱そうな主人公が、黒髪の乙女のマイペースぶりに振り回されながらふんばる姿がコミカルに描かれる。
それにしても、ケタ違いに酒の強い女性を見るのは楽しいもので、こんな破天荒な飲み歩きができそうな街。それが京都。本と風邪ウイルスが人と人とをつなぎ、めぐりめぐって世界は回る。夜は意外と長い。
新海誠
新海誠プロフィール
1973年長野県生まれ。2002年劇場アニメーション『ほしのこえ』で監督デビュー。この作品では脚本・演出・作画・美術・編集などをほとんど1人で手掛け、高い評価を受けた。代表作は『星を追う子ども』(11)『君の名は。』(16)など。2019年『天気の子』が公開予定。
『秒速5センチメートル』(2007)
タイトルの意味は、桜の花びらが舞い落ちる速度のこと。幼い頃に惹かれ合っていた男女の時間と距離による変化を「桜花抄」「コスモナウト」「秒速5センチメートル」という3話の短編で描いた連作である。
透明感のある緻密なタッチで四季折々の自然が描かれ、切ないストーリーとあいまってロングランを記録。つらい時に美しい風景を見て励まされ、救われたという監督自身の経験が反映されているように、風にたなびく雲や淡い光に心が癒される。
好きな人をずっと想い続ける気持ち。会いに行きたいのに、なかなかたどり着けないもどかしさ。桜が舞い散る季節は儚い夢のよう。忘れてしまったものを思い出す作品。
細田守
細田守プロフィール
1967年富山県生まれ。TVシリーズ「ゲゲゲの鬼太郎」(97)などの演出を手がけ、劇場アニメーション『デジモンアドベンチャー』(99)や『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』(05)を監督。代表作は『時をかける少女』(06)『おおかみこどもの雨と雪』(12)『バケモノの子』(15)『未来のミライ』(18)など。
『サマーウォーズ』(2009)
憧れの先輩に頼まれ、彼女と一緒に田舎へ遊びにいった男子高校生が、突然世界を襲った危機に戦いを挑む。
結婚して妻の実家に挨拶に行き、賑やかな大家族の仲間入りをした時に感じたことが、このストーリーが生まれるきっかけになったという。ちなみに主題歌が山下達郎なのは、監督がファンだから。
青い空と白い入道雲。深い緑の山々。古い日本家屋。「ザ・日本の夏」風景と壮大なスケールのバーチャル世界というミスマッチが、不思議な感覚を呼び起こす。地球の運命を握る気弱な数学少年が、親戚を巻き込んで一致団結していく様子にワクワクする。
庵野秀明
庵野秀明プロフィール
1960年山口県生まれ。TVアニメーション「超時空要塞マクロス」(82~83)に参加し、「風の谷のナウシカ」(84)や「火垂るの墓」(88)などのスタジオジブリ作品にも関わる。1989年アニメーション「トップをねらえ!」で監督デビュー。実写映画『ラブ&ポップ』(98)『式日-SHIKI-JITSU-』(00)『Cutie Honey キューティーハニー』(03)の監督も務める。
『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』(1997)
1995~96年にかけて放送されたテレビアニメーション「新世紀エヴァンゲリオン」の劇場版第1弾。タイトルにある「シト新生」は、DEATH & REBIRTH の「死と新生」と「使徒新生」から取っている。
製作の遅れにより当初の予定が変更され、内容的に「REBIRTH」編の途中までという形で公開されたため、のちに完成版『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(97)が公開された。
突然人類を襲ってきた謎の「使徒」に対抗するため、14歳の少年少女たちが汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンに乗って死闘を繰り広げる。彼らの個性的なキャラクター。深く切り込んだ内面描写。戦闘状況にモヤモヤした悩みや人間関係が盛り込まれ、カルト的人気を誇ったアニメーション。
片渕須直
片渕須直プロフィール
1960年大阪府生まれ。高校時代から自主制作アニメーションを手掛け、大学在学中に宮崎駿に見出されて、テレビアニメーション「名探偵ホームズ」のサブライターとしてデビュー。代表作は『アリーテ姫』(00)『マイマイ新子と千年の魔法』(09)など。
『この世界の片隅に』(2016)
こうの史代の漫画が原作。昭和19年に広島市江波から呉に嫁いだ18歳の主人公が、戦時中の苦しい状況でも工夫をしながら暮らす庶民の姿を描く。
上映が2年以上も続く異例のロングランヒットとなったことで、一種の社会現象にもなったアニメーション史に残る傑作。新しいシーンを加えた別バージョン『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が2019年公開予定。
戦時中がつらい生活であったことに変わりないだろうが、それでも人々はオシャレをしたり笑ったり恋をしたりして、それなりに楽しい時間も過ごしていた。優しく響く温かい方言。容赦なく襲いかかる過酷な現実。主人公の胸に秘められた怒りが爆発するシーンは、彼女が普段のんびりしているだけに、妙な説得力がある。
米林宏昌
米林宏昌プロフィール
1973年石川県生まれ。『千と千尋の神隠し』(01)『ハウルの動く城』(04)などで原画を担当し、『借りぐらしのアリエッティ』(10)で監督デビュー。代表作は『思い出のマーニー』(14)、『メアリと魔女の花』(17)など。
『借りぐらしのアリエッティ』(2010)
イギリス児童文学のアニメーション化。1950年代のイギリスから現代の日本に舞台を移した意欲作で、スタジオジブリ歴代作品の監督としては最年少である。
身長10センチのアリエッティ一家は、人間が住む古い家の片隅で、彼らの生活用品をこっそり借りながら暮らしていた。決して人間に見られてはいけない。それが彼らの掟だったが、主人公は住人の少年に姿を見られてしまう。
小人たちの可愛らしい生活。そのつつましさと豊かさは、日本人には馴染み深い世界だろう。病弱でいつまで生きられるかわからない少年と、滅びゆく運命を背負った一族。そんな二人が手を取り合い、かすかな希望を未来に託す。
石田祐康
石田祐康プロフィール
1988年愛知県生まれ。劇場アニメーション『グスコーブドリの伝記』(12)の制作に参加し、2013年『陽なたのアオシグレ』で監督デビュー。
『ペンギン・ハイウェイ』(2018)
森見登美彦の小説をアニメーション化。知識欲が旺盛で、学んだことを毎日ノートに記録している小学4年生の少年が、突然街に現れたペンギンの謎を解こうとする。
自信家ゆえにちょっとませている彼は、行きつけの歯医者さんのお姉さんと仲良し。そのお姉さんの髪は長くて胸が大きくて、いかにも男子が憧れそうな女性像だ。
海のない住宅地になぜペンギンがいるのか。自分は大人よりも物事を知っていると豪語する勉強家の少年が、ペンギンの正体を必死で研究する姿に、探究心って大切だなあと単純に感動。ペンギンは一体どこから来たのか。その奥深い展開がなかなか侮れない。
いかがでしたか?
やはりジブリと関わりのある監督が多いものの、それぞれの個性が光る10人のアニメーション作家たち。
実写映画と同じように、アニメーションも多くの人たちの手によって作られているわけだが、今は監督として活躍している彼らが、今までキャリアを築いていく中でどのようなアニメーションに参加してきたのかを知るのも面白いだろう。
子供から大人まで楽しめるアニメーションは、大きな可能性を秘めたジャンルとして、これからどんな新作が生まれてくるのか注目したい。
(C)2013 畑事務所・GNDHDDTK、(C) 2003「茄子 アンダルシアの夏」製作委員会、(C)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会、(C)Makoto Shinkai / CoMix Wave Films、(C)2009 SUMMER WARS FILM PARTNERS、(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会、(C)2010 GNDHDDTW、(C)2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会
※2021年3月15日時点のVOD配信情報です。