伊藤沙莉と稲葉友。若手俳優という立ち位置の中でも、ジャンルや役柄、形態にとらわれず、貪欲に演技に向き合っている印象の強い二人だ。4月末に開催された「島ぜんぶでおーきな祭 第11回沖縄国際映画祭」にて、TV DIRECTOR’S MOVIE部門に出品された『生理ちゃん』に伊藤が、稲葉は『クソみたいな映画』にそれぞれ出演しており、初のお披露目となった。
『生理ちゃん』は女性の「生理」を“生理ちゃん”とポップに擬人化し、毎月“生理ちゃん”に悩まされる女性たちの姿を、赤裸々かつユーモアたっぷりに描き出す。伊藤は、主人公・米田青子(二階堂ふみ)の職場で清掃の仕事をしている山本りほを演じ、“生理ちゃん”なんていらないと思いながらも、人生の転機を迎える。
一方、『クソみたいな映画』は、お笑いコンビ・NON STYLEの石田明が脚本を務めた渾身作。主演の内田理央が復讐を誓った女を演じ、稲葉がその彼氏役として、物語の重要なキーパーソンとなった。コメディからシリアスへと振れながら、観客が事件の当事者になっていくパニックムービーでもある。
元々、2017年に共演した舞台がきっかけで、急速に仲を深めたという伊藤と稲葉は、プライベートでも気の置けない間柄。二度ないかもしれない、共に過ごす映画祭でのひとときを残すためにも、お互いの出演作を観てもらいクロストークの機会を設けた。よく知るふたりだからこその、「かゆい所に手が届く」ような人物論、演技論、ノーカットでご堪能いただきたい。
――公私ともに仲良しのお二人にご登場いただきます。舞台「すべての4月のために」が、初めての共演でしたか?
伊藤 芝居で絡んだのは、初めてです!
稲葉 そうです。同じ作品に出ていたことはあったんですけど。
――SNSなどからでも、すごく仲がいいイメージが定着しています。
伊藤 私が勝手に大好きなんです!
稲葉 そうやって、「愛情、一方通行なんです」みたいな言い方をするのは、ずるいよ。
伊藤 (笑)。
稲葉 こっちもオファーをかけているのに! 「私ばっか好きなんです」みたいなのは、ねえ!
伊藤 かなり愛情がある人なんですよ(笑)。
――稲葉さんの周りの俳優仲間さんから「素敵な方だ」という証言を聞くことは多いのですが、女優さんからはあまりないので、ぜひ仲良しの伊藤さんから稲葉さんの「良さを」と言いますか……。
稲葉 俺の好きなところ、言ってよ。
伊藤 ええ!? とにかく、めっちゃ面白いですよ!
稲葉 (笑)。
伊藤 面白い人だからこそ、長時間ずっと一緒にいられるんです。それに、稲葉は面倒見がめちゃくちゃいいんです! 私が生粋の末っ子体質……あれ、稲葉も末っ子のはずなんですけど……、すごくお兄ちゃんな感じがして。
稲葉 一応、2個上だしね。
伊藤 同じ業界だと、男女問わずなかなか言いづらいことでも、「それは、あなたの損になるよ」とかも本当に言ってくれるので、すごく貴重な人です。怒ってくれる人って、意外と少ないので。何より、お芝居がすごく素敵なので、私の中では魅力しかない人です。私、嘘つけないので。
稲葉 ……うん、だと思います。
――稲葉さんは伊藤さんに、そういった助言をされたりもなさる?
稲葉 いや、単純に「お前、こんなところで大きな声を出すな!」みたいなところから始まり(笑)、ただただ感想というか、「損するよ」、「そう見えちゃうよ」みたいな感じで言うと、沙莉は「へっ」てなるんですよ。
伊藤 「ごめんっ」て(笑)。
稲葉 パーソナルなことで言うと、結構ぶっ壊れているところもあるけど、それが人に愛される要素に変換される人なので、僕はすごく羨ましいです。「嘘つけない」と言っていたけど、本当にそうで、嘘をついているとよくわかる。厳密に言うと、嘘はつけるというか、きちんと建前みたいなことは言える人なんですけど、顔から、声から、トーンから、ボリュームから、情報がこぼれてきちゃうんですよ(笑)。それを見て面白いなあって。抑制するわけでもなく、僕は楽しんで見ています。ずっとしゃべっていられる人です。
――以前、舞台の取材の際に稲葉さんは伊藤さんのお芝居のことも、すごく褒めていらっしゃいましたよね?
伊藤 えー! ありがとねーー!! えー!!
稲葉 そうだけど(笑)。お芝居は演劇でも映画でも「いいなあ、こいつ」って観ちゃう。沙莉のような人が同世代にいて、こういう関係値でいてくれるのは、ありがたいなと思っています。一応、僕が年上ですけど、先輩・後輩とかはないし、芸歴的には(伊藤のほうが)長いけど、もう一緒というか(笑)。
伊藤 フェアだよね!
稲葉 ありがたい。なかなかそういう関係って、作ろうと思っても作れないと思うので。人間がかみ合わないと、そうならないですしね。会話のテンポとかも嘘みたいに早いしね。
伊藤< /span> そうね。
――今回は企画として、お互いの出演作をご覧になっていただきました。率直な感想からお伺いできますか?
稲葉 お互いタイトル、やばくない!?
伊藤 そうなの、そうなの! お互い『生理ちゃん』に『クソみたいな映画』!
――『生理ちゃん』は実は監督、脚本、プロデューサーと、製作陣が男の人ばかりなんですよね。
稲葉 それ、思った。スタッフロールは、やはり気になりましたね。正直、俺は(生理が)わからないので、わかろうとはしますけど、ある種触り切れない部分があったりもするので、面白かったです。“生理ちゃん”のマスコットの大きさで表されると、「ああ、重いのか」とかも、わかったりして。
伊藤 そう、それが伝わってうれしい。
稲葉 男の人が作っているからこそ、男の人にわかりやすくなっていたのかなと思います。男として「ごめんなさい」とも思いつつ、すごく面白く拝見しました。
――伊藤さんのお芝居に関しては、いかがでしたか?
稲葉 やっぱり声が抜群ですよね。芝居をやっているときは、ドスがきくし、ハスキーボイスで、いろいろなところで評価されているんだろうけど。何が素晴らしかったって、モノローグが多かった中で、最後はしゃべるほうに返ってくるとか、あのつながりがお見事で、沙莉の職人芸だと思いました。ここまで、ちゃんとつなげられる人はなかなかいないんじゃないかと思うくらい、何の違和感もなく観られたので、すごいです。しかも、あれ部屋でひとりでやっていたんでしょう? 大変じゃん。
伊藤 そう、ひとりってきついよね(笑)。
稲葉 さじ加減とかもあるよね。
伊藤 縛りがない、フリーのほうが大変かもしれないですね。
稲葉 あと、デートに行くところも、すごくよかった!
伊藤 よかった!?
稲葉 りほ(伊藤演じる)の機微が、細かいレベルで起こせるのは素晴らしいと思いました。「あれ、さっきよりかわいい……!」みたいなところとか、ちゃんと傷つくところとかが伝わってきたので、伊藤沙莉、素晴らしいです。
伊藤 うれしいです!
――では、伊藤さんは『クソみたいな映画』を、どうご覧になりましたか?
伊藤 最初は……、かなりヴィヴィッドな作品だなと思ったんですよ(笑)。
稲葉 そうなんだよね! 身内としては、序盤は『クソみたいな映画』が、本当に始まる、と。
伊藤 そうそう、本当に『クソみたいな映画』を作ったんだ、という感じで。『生理ちゃん』だと生理の話ですごくわかりやすいんですけど、何をもって『クソみたいな映画』になったのか、そのタイトルの理由がすごく気になっていたんです。観ていくうちにどんどん切なくなっちゃって、途中から苦しくなりました。一気にバンと受け止められるほど、意外と簡単な物語ではなかったです。ネタバレになっちゃうので詳しく言えないのがもどかしいんですけど、誰かの意志を受け継ぐ人の覚悟って、半端じゃないとまざまざと思いました。タイトルの意味もよくわかりましたし、とにかく最後は、私は気持ちよかったです。
――稲葉さんが好青年と言いますか、これまでにあまりない役どころでしたが、そのあたりはいかがでしたか?
伊藤 確かに、ど直球の稲葉の役をそんなに観たことがなかった。例えば、女装していたり、ヤンキーみたいな役とか、すごく似合うなと思っていたんですけど。今回はバカがつくほどの真面目でいいやつで、だからなおさら稲葉の役がいい人に見えれば見えるほど、苦しくなるんですよ。「明日の自分のために」とか生きられる人は強いなあ、と思いました。そういう人が誰かの心を動かしたり、誰かの心に届く何かを発信できるし。それに、稲葉って、大切な言葉を大切に言うんですよ。
稲葉 はっず(笑)!
伊藤 私、それってすごく大事だと思うんです。台詞を言うときに、よく「言葉を立てる」という言い方があるんですけど、その感覚がわからないとボリュームで何とかしようとするんです。稲葉は、きちんと心で「ここを伝えたい」というのを提示してくれるので、ちゃんとそこが響くから。それは、きっと誰もができることじゃなくて、心を表現できる人だからできるんですよね。今回の作品で、なおさら素敵だな、と思いました。
――ありがとうございます。すみません、お時間がきてしまい以上になります。また機会がありましたら、お二人でのご登場をぜひお待ちしております。
伊藤&稲葉 ぜひぜひ、よろしくお願いします!(取材・文=赤山恭子、撮影=映美)
映画『生理ちゃん』は、2019年11月8日(金)公開
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】
※2021年8月30日時点のVOD配信情報です。