
映画のファッションには、作品ごとのイメージも内包されているので、真似て着ることでそのキャラクターのイメージを楽しむことも。そこで今回は、映画のファッションの中から特に普段着で取り入れやすいスタイルが出てくる5作品を年代順にご紹介します。
あなたのお気に入りのスタイルが見つかりますように♡ それでは早速スタートしましょう〜!
ショートヘア・ファッションのお手本はパトリシアから。『勝手にしやがれ』(1959)
まずは、1950年代のフランスで興隆した映画の新しい様式を生み出そうとする運動「ヌーヴェル・ヴァーグ」の代表作でもある『勝手にしやがれ』。監督のジャン=リュック・ゴダール(ハンス・リュカス)の初期作品で、出演者がカメラ目線で話しかけるカットや、ジャンプ・カットという当時からすれば大胆な構図・カット使いが話題になりました。
自転車泥棒の常習犯の男ミシェル(ジャン=ポール・ベルモンド)とアメリカからパリに留学している新聞の売り子の女パトリシア(ジーン・セバーグ)を取り巻く殺人とお金の行方を描いた本作。ミシェルのスーツ姿やイメージはのちの『俺たちに明日はない』(1968)のクライドに引き継がれていることでも有名です。
物語の展開も気になりますが、やはり目を惹くのは二人のやり取りや、ファッションといった視覚的な部分。特に、冒頭のリブニットにパンツのスタイルから、ボーダートップス、そしてチェックのワンピースなど、パトリシアのファッションはショートヘアのお手本になるものばかり。
例えば、リブニットにパンツのスタイルでは、シンプルになりすぎないようにハイネックでロゴ入りの上質なニットを着ていることがわかります。シンプルな組み合わせゆえに、おしゃれに着こなす秘訣はその素材と形の組み合わせ方。このちょっとしたパトリシアのこなれたカジュアルさが物語の空気感ともぴったりで、さらにラストまで観ると「やられた!」なんて思わず口にしてしまうかも。観るとパトリシアのようなショートカットにしたくてたまらなくなる作品です。
ジェーン・バーキンといえば…♡のスタイルが堪能できる『スローガン』(1968)
ジェーン・バーキンといえば、「フレンチ・モード」を特集するとき欠かせないファッション・アイコンの1人。エルメスのアイコンバッグ「バーキン」は、当初彼女のために作られたというエピソードも有名ですよね。そんな彼女のファッション・アイコンぶりを堪能出来る作品が『スローガン』です。
妻子持ちの売れっ子CMディレクターのセルジュ(セルジュ・ゲンスブール)が、23歳の少女エヴリン(ジェーン・バーキン)に一目惚れしたところから物語ははじまります。ここでの衣装たちは、ただならぬ魅力を放つエヴリンをさらに引き立てる上で効果的に使用されています。60年代特有のファッションの中でも、バーキンが着用するのは、ミニワンピースやショートパンツといったカジュアルアイテムたち。もちろん、ファーコートにカゴバックというアイコン的なスタイルも見られます。
バーキンスタイルの特徴は、余計な装飾は取り入れない引き算の美学。明るめのロングヘアに1枚のワンピースですでにキマっている姿を見ていると“シンプルイズベスト”という言葉が思い浮かんできます。カジュアルなのに女っぽいスタイルが魅力的に映し出されます。
こうしてセルジュを夢中にさせ続けていたエヴリンですが、物語が進むにつれ彼女もセルジュとのどうにもならない関係に気づき、自らを幸せにするのは何なのかを2年かけて次第に知っていくことになります。男女のもつれを描く中で記録されたバーキンのあの顔や表情もまさに必見。これから夏に向けて、バーキンスタイルに挑戦してみるのはいかがでしょうか?
映画史上最強のショッキングピンク。『パリ、テキサス』(1984)
ブロンドのボブにショッキングピンクのニット、というキーワードを見たとき真っ先に『パリ、テキサス』のジェーン(ナスターシャ・キンスキー)を思い浮かべたあなた、おめでとうございます。すでに立派な映画マニアです!(笑)。
本編を観たことがない方でも、もしかしたらこのジェーンのスタイルを目にしたことがある方は多いのではないでしょうか? 物語は、4年もの間失踪していた男トラヴィス(ハリー・ディーン・スタントン)が、弟夫婦が世話をしていた実の息子ハンター(ハンター・カーソン)と再会し、やがて家族の絆を確かめるように、妻であり母親であるジェーンを捜索する旅に出るというもの。なぜトラヴィスが突然失踪したのかが旅を通して次第に明らかにされていきます。次々と映されるヴィム・ヴェンダース監督ならではの美しいアメリカの風景も見どころと言えるでしょう。
実は本編でジェーンが登場するのは映画の後半部分のみとなるのですが、それでも作品の中で印象強く惹きつけられるのはジェーンの着ているショッキングピンクが貢献しているのかもしれません。
トラヴィスとハンターが親子の距離を少しずつ縮めていく過程や、トラヴィスが寡黙な中に静かな愛情を持っている男性であることがわかったとき、彼がジェーンに語りかけるクライマックスはそれまでの断片が重なっていき、圧巻の一言。
ハイトーンのヘアカラーの皆さま! 今年はジェーンのようなビビッドなカラーを着るのはいかがでしょうか?
はじまりはVANSのオールドスクールから。『ノッティングヒルの恋人』(1999)
”忘れないで私だって好きな人の前で愛されたいと願う1人の女性よ”
瞳に涙を溜めながら書店員のウィリアム(ヒュー・グラント)にそうつぶやく世界的な女優アナ(ジュリア・ロバーツ)の台詞をはじめ、多くの名言が生まれた『ノッティングヒルの恋人』。
一般人と芸能人の男女が偶然の重なりによって恋に落ちていくロマンティック・ストーリーなのですが、作品を観るにつれてぐっと引き込まれてしまうのは恋愛の本質的な部分を扱っているからだと言えるでしょう。
そんな二人が出会ったのは、アナがオフの日にウィリアムの働く書店に偶然訪れたところから。黒のベレー帽に革ジャン、Tシャツ、ジーンズ、サングラス、そしてVANSのオールドスクール(スニーカー)のスタイルからは、人気女優であるアナのラフなプライベートの様子が見て取れます。
後ほどウィリアムが、道端でオレンジジュースをアナの服にこぼしてしまったことで二人は再会して、距離が縮まるのですが、ジュースをこぼされてトップスだけ着替えるアナ。同じ黒のトップスでも素材を変えて組み合わせるだけでこなれて見えることがわかります。着回しまで参考になるとは……!
そんな本作の衣装でぜひ注目してもらいたいのが物語後半、アナがウィリアムに気持ちを伝えるために書店に現れたときのスタイル。冒頭から見られるカジュアルな装いからは打って変わって、ブルー系のコンサバティブなニットのアンサンブルにスカートを着ています。この装いからは、アナが1人の女性としてウィリアムに告白をする、という部分を強調しようとしていることが伺えます。告白を決意していたアナにとって、その時は、一般人の女性たちと変わらない格好で伝えたいという意識があったのかもしれない、そう思うとまた見方が変わりますね……!(アナの健気さ!)
そしてこのアナの涙の後にあの有名な会見シーンにつながっていくのだから、これはたまらないの一言。スニーカーを履いたとき、このアナとウィリアムのような出会いを思い出してみると、ふとした日常がぱっと華やぐこと間違いなしです。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】楽しい時間にはカラフルコーデを。『Mommy/マミー』(2014)
ラストを飾るのは、映像の美的センスが評価されているグザヴィエ・ドランが監督した『Mommy/マミー』です。本作は、2015年の架空のカナダを舞台に、発達障がい児の親が何らかの困窮に陥った場合はその養育を放棄し、施設に入院させる権利を保障したS-14案をめぐって、ある親子の日常を描いています。
そう、この作品、物語自体のテーマはとても重く、内容も考えさせられるのですが、こうしたヘビーな内容に相反するように画面のヴィジュアルはカラフルでポップな世界観になっています。それはやはりファッションはもちろんのこと、音楽や美術、演出などを織り交ぜながら強度のあるヴィジュアルを生み出すことに定評のあるドラン特有の世界観だと言えるでしょう。
特にいつもカラフルなのがADHDを持つ息子スティーブ(アントワン=オリヴィエ・ピロン)のファッション。ヘッドホンにブルゾン、マルチボーダーのシャツにパンツ、そしてスニーカー。自ら衣装も担うドランにかかれば、ヘッドホンからスケートボードまで画面のデザインの一部になってしまいます。(このヘッドホンが欲しくなる!)
自分ではどうしようもできない部分があることを自覚しているスティーブが、OASISの曲とともに自らの手で画面を広げるシーンはこれからも映画史に残される名シーンとなるでしょう。男性が参考にするのはもちろん、スティーブのカラフルコーデは女性にこそ取り入れてみてもらいたいスタイルです。
いかがでしたか?
ファッションを通して、皆さまの日常に彩りがたくさんありますように!
※2020年11月27日時点のVOD配信情報です。