『蜜蜂と遠雷』石川慶監督、“松坂桃李”という俳優に魅せられて「ほかが見当たらない」【独占インタビュー】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

蜜蜂と遠雷』は、石川慶監督の渾身の一作であると同時に、俳優・松坂桃李の繊細で説得力のある演技を堪能できる映画だ。人目を引く華やかなオーラを完全に消し去り、楽器店勤務でありながら国際ピアノコンクールの優勝を目指すサラリーマンを体現した松坂について、石川監督は「僕の中ではちょっとほかが見当たらない」存在の俳優であると激賞した。

蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷』は、史上初の直木賞&本屋大賞W受賞を果たした恩田陸による同名小説の実写映画化。3年に一度開催される“若手ピアニストの登竜門”として注目される「芳ヶ江国際ピアノコンクール」を舞台に、ピアニストたちの熾烈な闘いが狂おしいほど美しい映像と音が紡ぐ世界観のもと、描かれる。

兼ねてより松坂が出演する作品を観ており「いつか」と切望していた石川監督と、石川監督の長編デビュー作『愚行録』に心を奪われ、同じく「いつか」と心待ちにしていた松坂というだけあり、撮影を経た今、互いへの敬意の念が色濃く出た対談となった。FILMAGA独占でお送りする。

蜜蜂と遠雷

――本当に素敵な作品でした。石川監督が高島明石という役に松坂さんをキャスティングした経緯から、教えていただけますか?

石川監督:桃李くんの作品は全部すごく好きで、今『いだてん〜東京オリムピック噺〜』も観ていますし、普通のファンじゃないかというくらいで(笑)。

松坂:おお、ありがとうございます……!

石川監督:ずっと「機会があれば」と思っていたところはあったんです。明石は、『孤狼の血』(で松坂が演じた日岡)とは180度違うタイプじゃないですか。でも、桃李くんはすごいハードなところもありながら、意外と不器用なところもあるんじゃないかな、と感じていたところがあったんです。

松坂:はい(笑)。

石川監督:僕の中では、「努力の人」という気がすごくしていて。そういった意味で、「明石はどんぴしゃだな」と思っていました。

松坂:うれしいです。

石川監督:最初キャスティングしたときには、「ちょっと格好よすぎるんじゃないか?」という意見も出ました。けど、僕の中では「いやいや、このオーラは絶対に本人は消せるから」という確信があったので、決まったときはうれしかったですね。

――おっしゃる通り、オーラは完璧になかったです。

石川監督:消してしまいましたね(笑)。

松坂:ありがとうございます。明石はほかの3人のピアニストと比べて、「生活に根付いた音楽」を掲げていますし、家族と過ごすシーンや、子供とじゃれているシーンの生活描写もあったので、しっかりと大事に演じたいなと思っていました。その過程が最終的にはコンクールにつながるだろうと思ったので、1シーン、1シーン大事にやっていきました。

蜜蜂と遠雷

――「どんぴしゃ」というお話がありましたが、松坂さんご本人も明石っぽいところはあると感じていたんでしょうか?

松坂:不器用な感じは、僕自身の中でも通じるものというか、共感できるものが多い人物でしたね。だから、「明石役で」とお話をいただいたときは、「すごくうれしい!」と思いました。

蜜蜂と遠雷

――恩田先生の原作でも「明石は天才ではないと自分ではわかってはいるが、ほかの人からは言われたくない」という描写があり、映画でもそういった目つきや佇まいがちら見えするのが印象的でした。

石川監督:そう、明石は「ただのいい人」じゃないんですよね。

松坂:優しいだけじゃない、という。「俺は実はこう思っているから」という不器用な出し方は、「わかるなあ」という感じはすごくするんですよね。

――演技の上では、意識して出すものですか?

松坂:いやあ……もっとうまく出せたら教えてほしいっていう感じです(笑)。

石川監督:いえいえ、僕の中では本当にどんぴしゃでした。1回、子供とリハをやったじゃないですか。ホン読みをしたときに、「ただのいい人じゃなくて、たまに見える人間の小ささみたいなのをちょっと出してほしい」みたいなことを言って。

松坂:明石はちょっと面倒くさい人なんですよね。

石川監督:そう、プライドがあって、みたいな。「でも根はいいやつなんだ、という人間味のある感じにしたいんだよね」という話をしたのをすごく覚えています。そのままにやってくれたので、すごくうれしかったです。

蜜蜂と遠雷

――石川監督の中でも、そのあたりの人物描写はとても大事にされていたところだったんですね。

石川監督:そうですね。明石が妻の満智子(臼田あさ美演じる)に、カデンツァを披露するシーンがあるでしょう。「こんな感じだけど、どう?」とちょっと自慢げに、「絶対絶賛してもらえるだろう」という聞き方をする。その後、満智子にぼろくそに言われて、ちょっと怒るみたいなところもよかったですね(笑)。そのさじ加減は、本当にうまかったなと思います。

――みどころとなるピアノシーンは、どう作り上げていかれたんですか? メインキャスト4名の弾き方、また映り方がまったく違うので舌を巻きました。

松坂:ピアノの演奏シーンを撮る日は総合スケジュールでわかっていたので、それに合わせて、それぞれが演奏を積み重ねていきました。演奏シーンの撮影日が近づくにつれ、本当にコンクールが迫っているかのような、追われている感みたいなのが、だんだん出てくるんですよ(苦笑)。すごく不思議というか。ピアノの練習の時間でも、最初は指導の先生と雑談もしていたんですけど、迫ってくると雑談もなくなり……。

石川監督:緊張感が出てくるんだね(笑)。

松坂:出てくるんです! ピアノのシーンを最後のほうにもってきてもらえたのは、役としてもですし、練習期間として稼げたのもあって、すごくありがたい配慮をしてくださったと思っています。

石川監督:一緒に進めていけたのが、すごくよかったんですよね。まだカメラワークをどうするとか決ま? ??前から、もちろんピアノの練習は始まっていて。その中で「どこが難しいですか?」、「この辺は弾けるの?」というやり取りをしながら、若干探り合いがあって、「冒頭は指を撮ろうと思うんですけど、大丈夫ですよね?」みたいな(笑)。

松坂:「えっ、はい、はい……!」と(笑)。

石川監督:そう言いながら、それ以上のものが実はできていたりして。本当にコンクールみたいな感じでしたね。お客さんが入るので、あれは緊張しますよね?

松坂:はい。エキストラさんもかなりの数、集まってくださって、コンクールさながらの空気感でした。入場するところから緊張するんですよ、拍手が本物なので。「ええと……今から……弾きます!」という感じでした(笑)。

蜜蜂と遠雷

――その分、終わった後はやり切った気持ちになりましたか?

松坂:なりました。演奏シーンを撮り終わったキャストの顔を見ると、ちょっと憑き物が落ちたような、ホッとした感があったのが、すごく面白かったです。

石川監督:一抜けた、みたいなね。

松坂:特に、指導してくださった先生方の顔が全然違いました。

石川監督:指導してくれている先生に、役者さんがだんだん寄っていくのも面白かったですね。弾き方、立ち居振る舞いとかもすごく似てくるんですよ。

蜜蜂と遠雷

――演奏シーン以外で言えば、劇中に登場するドキュメンタリー番組内で、明石のインタビューの受け答えが印象的でした。あのシーンでのエピソードはありますか?

松坂:あれ、初日でしたよね?

石川監督:初日でした。「はじめまして」と言って、あれを撮っていますから(笑)。だから、本当にすごいんですよ。

松坂:初日から、監督が「台本にはないインタビュー内容を聞きます」と言ってきたんです。「質問されたものを答えてください」と言われたので、いわゆるアドリブということなんですけど。しかもインタビューなので、「えええ……むずっ……!」とびっくりしました(笑)。

石川監督:そう、そう。やりましたねぇ。

松坂:今でも覚えています。ブルゾンちえみさん(インタビュアー役)の横にカメラがあって、その後ろに監督がいるんです。監督がブルゾンさんにこそこそ耳打ちをして、ブルゾンさんが質問を投げる形なんです。これは、ほかの3人(松岡茉優、森崎ウィン、鈴鹿央士)も同じくくらっているんですよ。

石川:最初に「全員やります」と言って、やったんです。亜夜(松岡)なんて台本になかったけど、やっちゃいました。

――皆さん、初日からかなりしびれる展開だったんですね。

松坂:しびれるな、と思いました! プロモーションが始まったときに、この話はみんなが言っていましたね。我々4人の中では、「監督が早い段階であのシーンをやってくれたことによって、役としてのなじみができて、自分たちの中でつかめたよね」と言い合ってはいました。ただ、「結構長尺でやったのに、全然使われなかった!」とかも(笑)。

蜜蜂と遠雷

――以前、同じようなお話を白石和彌監督がおっしゃっていて、「無駄な作業や時間が、映画で使われているところに、すごく生きてくるし、重みになる」と。まさにそういうポイントだったんでしょうか?

石川監督:ポイントですね。はじめは違うシーンが頭にあったんですけど、スケジュールがずれて初日になったんです。個人的には、すごくいいなと思いましたけどね。

松坂:うん、面白かったです。めちゃくちゃ緊張しましたけど。

石川監督:その後、ピアノの演奏シーンがワーッと続くことになっていたので、肩慣らしじゃないですけど、スタッフも「キャストの皆さんの声を聴きたい」ということもありましたし。

松坂:なるほど……!

石川監督:「こういう明石なんだ」、「こういう亜夜なんだ」と思えたので。特に鈴鹿くんは誰も何も知らなかったので(※本作が俳優デビュー)、どんな反応をするのか見たかったのも、ちょっとあったんです。試験的にやってみたのは、あります。すごく楽しい日でした(笑)。……ところで、白石監督は僕、『孤狼の血』もすごく好きで、監督にたくさん聞きたいことがあるので、ぜひ桃李くんと一緒にお話したいんですよね! かつて、僕の短編を観てくださったこともあるんです。

松坂:ええ、そうなんですね! ぜひぜひ、FILMAGAさんで対談とか、どうですか?

――ぜひお三方の映画論、お芝居論、お聞きしたいです。ちなみに、石川監督が撮っていて一番楽しかったシーンはどこでしたか?

石川監督:やっぱり明石の家族のシーンが楽しかったかな。ほかのスタッフも「家族、いいですよね」と言っていましたよ。

松坂:本当に楽しかったです……! すごく居心地がよかったです。

石川監督:「こういう家庭がいいな」と思いました。臼田さんと子役の子と、本当に家族みたいな感じだったんです。温かくて。

松坂:ピアノと向き合っているときは「ハア…(悩)」という感じになるんですけど(笑)、家族のシーンはほだされるんですよね。子供と一緒に自転車に乗ったりとかも、すごく楽しかったです。

蜜蜂と遠雷

――最後に。改めて、今回初めてご一緒しての感想を聞かせていただけますか?

石川監督:桃李くんは、ものすごくビッグスターじゃないですか。間違いなく、この世代を代表する俳優だと思うんです。

松坂:いえいえ、とんでもないです。

石川監督:でも、ファンの方々に怒られそうなんですけど……、現場では本当に身近な感じがして。すごく歩み寄ってくれるし、「自分はこうだ」といるときもあるんだけど、基本はまっさらな状態できてくれる。こんなに透明感がありながら、ここまでビッグになるというのが、僕の中ではちょっとほかが見当たらない。

松坂:ありがとうございます……!

石川監督:今、一番脂が乗っているとは思うんですけど、これからどこに行くのかな、と。たぶんどこにでも行けると思うので、ご本人がどこに行きたいかに、すごく興味があります。

松坂:どこにでも行きたいので、頑張ります。僕は『愚行録』を観て、「監督とご一緒したい」と思っていたので、今回本当にうれしかったんです。何よ? ?穏やかにプレッシャーをかけてくるところが(笑)、僕の中ではいい緊張感と緩和でした。バランスのいい状態で現場にいることができました。違う作品でも、ぜひまた芝居をやらせていただきたいなと思います。

石川監督:ぜひぜひ、よろしくお願いします。(取材・文=赤山恭子、撮影=iwa)

蜜蜂と遠雷

映画『蜜蜂と遠雷』は、2019年10月4日(金)より全国ロードショー。

蜜蜂と遠雷

出演:松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィン、鈴鹿央士 ほか
監督・脚本・編集:石川慶
原作:恩田陸「蜜蜂と遠雷」(幻冬舎文庫)
公式サイト:https://mitsubachi-enrai-movie.jp/
(C)2019映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

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蜜蜂と遠雷

応募締切 2019年10月11日(金)23:59までのご応募分有効

【応募資格】
・Filmarksの会員で日本在住の方

【応募方法および当選者の発表】
・応募フォームに必要事項をご記入の上ご応募ください
・当選の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただきます

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  • キリン
    3.5
    溶けちゃった
  • Chihiro
    3.2
    過去の視聴記録 森崎ウィンの演技がとても好みでした 小さい頃から努力してても報われない事、他人に抜かれてしまってやるせない気持ちになる事はきっと誰でもあるよねー 結果を誇りに思うんじゃなくて、目標に向かって長年頑張れた事を誇りに思ってほしいな‥みんな素晴らしい演奏だったよ‥第三者目線だから言える事なんだろうけどね
  • doripeco
    4.8
    ピアノの旋律、自然の音色、心の響き、人との出会い。 『神童』がピアニストになるまでの軌跡と葛藤が美しく描かれた作品です。 ピアノを習った人は、選曲の背景もよく見えてより感慨深い気持ちになります。 ピアノの映画にこれほど涙が溢れるとは思いませんでした。
  • 田口彩人
    -
    音楽と才能と楽しさと苦悩。 芸術って人間らしいなぁ。 しかし、松岡茉優の演技すごいなぁ。
  • のらいぬ
    3.7
    名門ジュリアード音楽院に在学し、 人気実力を兼ね備えた大本命、 マサル・カルロス・レヴィ・アナトール。 かつて天才少女と言われ、将来を嘱望されるも、 母親の死をきっかけに表舞台から消えていた、 栄伝亜夜。 楽器店で働くかたわら、夢を諦めず、 「生活者の音楽」を掲げ、最後のコンクールに挑む、 高島明石。 今は亡き「ピアノの神様」からの推薦状を携え、 突如として現れた謎の少年、 風間塵。 芳ヶ江ピアノコンクールを舞台に、4人のピアノの天才が、 互いに刺激し合い、奏で合いながら、自分の音楽と向き合っていく。 最後に勝つのは、誰か。 原作は、直木賞と本屋大賞をW受賞した恩田陸の『蜜蜂と遠雷』 4人のコンテスタントの葛藤や成長を描きながら、 「音楽を文章で奏でている」ような音楽描写にも感動して、 原作は号泣しながら読了しました。 そんな「小説だからこそ描けた感動」を 映画でどこまで表現できるのか、 と思いながら鑑賞しました。 映画の見所は、演出と「春と修羅」 中身の濃いストーリーを2時間で収める工夫は凄いなと思いました。 冒頭、栄伝が歩く傍で聞こえてくる過去の出来事。 ピアノの黒の光沢に映る母親との記憶。 月夜に奏でる連弾のドビュッシーとか、映像は素敵でした。 課題曲「春と修羅」のカデンツァが聴けたのも良かったです。 でも、やっぱり原作の感動には程遠くて、 脚本はもうちょっと頑張って欲しかったなぁ。 最後の曲の演奏シーンで、ほとんど登場人物の語りを入れなかったのは良かったと思います。 でも、演奏シーンまでに、登場人物の掘り下げが足りなかったから、感情移入が中途半端な感じで。。 高島明石が春と修羅のカデンツァで生活者の音楽を見つける過程や、 栄伝亜夜が空っぽだったステージ上の黒い箱に音楽の記憶を見つける過程を、 もっと深掘りして欲しかったです。 原作を読んでから映画を観ること、オススメします。 あなたが世界を鳴らすのよ
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