シム・ウンギョン×松坂桃李×藤井道人監督 度重なる芝居のスパーク「早く撮りたい、という気持ちにさせられた」【ロングインタビュー】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

シム・ウンギョンと、2018年日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞し、名実ともに日本を代表する俳優へと進化し続ける松坂桃李。ふたりが初顔合わせでW主演となった映画『新聞記者』は、『デイアンドナイト』や『青の帰り道』で知られる藤井道人監督の手がけた社会派サスペンスというから、胸騒ぎが止まらない。

新聞記者

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東都新聞社会部の若手記者・吉岡エリカ(シム)のもとに、ある一通の極秘文書が届いた。内閣府を洗いはじめた吉岡は神崎(高橋和也)という男の存在に気づく。一方、内閣情報調査室に勤める杉原拓海(松坂)は、情報操作という仕事に疑問を持ちつつも、愛する妻子のため、任務を遂行していた。しかし、外務省時代、世話になった神崎の訃報が届き、その死に疑問を持った杉原は真相を探りはじめ、吉岡とつながることになる。

映画は当然フィクション。とはいえ、日頃より何の気なしにニュースを見聞きし、スマホ画面をスクロールする我々にとっては、権力とメディアのせめぎ合いの元、漫然と生活しているかもしれない事実に、愕然とする内容でもある。一歩踏み込んだ世界に果敢にチャレンジした3人の心境を、ロングインタビューした。

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――非常に骨太な作品で鑑賞後の衝撃が尾を引いています。皆さんは、元々こうした「政治エンターテインメント」のジャンルに興味はあったのでしょうか?

藤井監督 観るのは好きだったんですけれども、自分がこうした「政治エンターテインメント」という作品を撮る機会に恵まれるとはまったく思わないまま、今まで監督をしていたんです。政治に対して自分がアプローチできるほど意識が高い人間ではなかったので、お話をいただいたとき、最初2回ぐらいお断りをしました。ただの映画小僧というか、本当に映画が好きなだけの青年だったので。ですけど、いろいろな人から背中を押してもらったり、河村(光庸)プロデューサーからの熱い思いを受け取り、自分なりにやろうと、勉強してみました。脚本にも携わったんですが、意識したのは、高尚な偏差値の高い政治エンターテインメントではなく、僕たちみたいに、政治にさほど興味のない人、わからない人に向けて「俺たちは今、何も考えていないけど、今の状況、みんなにとってどう思う?」ということをきちんと問いかけられる、映画好きにも届くようにと作りました。

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シム 私は映画としては好きなジャンルで、例えば、今回この映画を撮るために参考にした『Spotlight(『スポットライト 世紀のスクープ』)』も好きな映画でした。『新聞記者』はジャーナリズムについての映画なんですけれども、私にとっては、すごく人間的な話だと感じました。日本だけではなく、世界中どこにでもあるかもしれない話だと思うので、それにすごく共感ができましたし。あと、普段いろいろな情報を私たちは見るじゃないですか。何を信じたらいいのか、真実というものは何なのかをお客さんに、メッセージを投げかける映画なんじゃないかな、と思っています。

松坂 最初、お話をいただいて、まだ台本の前の状態を読んだときには、真っ向から今の政治に向けてぶつけることではなく、全体を通して、自分の目の前に起こってることに対して、どういう風に思うかを改めて考えさせられるものがあると思ったんです。今はとにかく情報社会になっているからこそ、本当のこと、偽物のこと、いろいろ取り入れやすい環境の中で、自分の目をしっかりと持つということが大事だと思うので、やる意義はあるなと。何より、やっぱりウンギョンさんと、藤井監督とご一緒にできるのも大きくて「やりたいな」と思いましたね。

――松坂さんの演じる官僚について、いわゆる職業的なイメージはありましたか?

松坂 正直、ここまで感情が揺れ動くような人とは思っていなかったです。調べれば調べるほど、わからないことが多いんですよ。すごくヴェールに包まれているんです(笑)。なので、何かを参考にするということではなく、本の中で起こっている出来事の、杉原の感情、考え方、揺れ動くものをしっかりと大事にしようというのは、すごく思いました。

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――実際、演じるにあたって難しかったり、感情移入した側面もありましたか?

松坂 いやあ~、難しいことだらけでしたね(笑)。

一同 (笑)。

松坂 本当に(笑)。内調という仕事が、明確にどういうことをして、日々どういう暮らしをして……と思ったとき、実際、内調の方に会うことも難しかったですし、(情報を)得ることが難しかったので、そこに関しての難しさはとってもありました。ただ、難しいと同時に、感情移入できるところはとってもたくさんありました。職業は違えど、組織の中で働いていて、上からの命令や、やらなければいけないことの中で、自分が疑問に思いつつも「やらなければいけない」という気持ちだったりとか。自分の考える正義や、「本当はこうなんじゃないか」という思いの揺らぎみたいなものも、すごくわかる部分が大きかったです。それをどう表現すればいいかということについては、日々考えるところではありました。

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シム 難しかったことは、最初「吉岡がなぜ記者になりたかったか」というヒストリーから始まったのではなくて、事件が起こり、取材していくうちに、どんどん彼女の哀しさが見えていったところです。撮影の前に、きちんと吉岡のベースを作らないといけないと思ったので、ほかの作品より、いろいろなことを考えたり悩んでたりしました。吉岡は、日本人のお父さんと韓国人のお母さんの中で生まれたハーフで、さらにはアメリカで? ?った帰国子女。そうしたアイデンティティが少し強いと思ったので、映画のストーリーの流れで、自然に見えるようにと思い芝居をやっていました。吉岡は一見、冷静に見えるんですけど、人間的な部分も持ち合わせているので、両方のバランスがちゃんと見えてほしいと思っていました。調整しながら芝居をするのが難しかったですし、逆に感情移入して、どんどん役にはまって感情が自然に出たシーンもあったりして。特に、松坂さんと一緒に出ているシーンは、感情が出やすかったです。

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――おふたりの演技を演出されていた藤井監督は、どう見ていましたか?

藤井監督 ふたりがお話した通り、新聞記者と内調の人間には普段、接することがないんですよね。こちらが情報として調べたものをお渡しはしましたが、おふたりはどんどんどんどん超えてきてくれました。僕らは職業ということだけは提示できるけど、その中の感情は任せるしかなくて、そこをおふたりがすごく丁寧に紡いでいってくれたから、なんだと思います。国会の前での撮影や、本物の場所で撮影することに意味があると思っていましたが、撮影のハードルが高い中でも、俳優部がすごく冷静でいてくれて、さらにはすごく楽しんでくれて。難しい役を自分たちの中に入れてくださったことは、うれしかったし、すごくやりやすかったです。

――シムさんも松坂さんも、楽しんでお芝居されていたんですね。

シム 松坂さんとのやり取りでは、芝居のスパークをすごく感じました。頭はすごく疲れたんですけれども(笑)。

松坂 (笑)。

シム そういう芝居をしている心というか、感情は、すごく楽しかったです。松坂さんからは、芝居に対する姿勢、真面目な部分をたくさん感じました。本当に勉強になりました。

松坂 いやいやいや、とんでもないです。僕も一緒にお芝居をして、ウンギョンさんの目から、すごくいろいろな感情が伝わってきて、こちらもすごい動かされるんですよね。本当にバーンとくるので、ウンギョンさんとやるときは毎回すごく緊張感がありました。また、監督の言葉によってニュアンスが細かく変わってきたりするので、対峙する側からしても、本当に気が抜けない感じはすごくありましたね。

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――細かく変わるような演出、具体的にどのようなことを藤井監督はされたんですか?

藤井監督 大きく分けると、内調の演出、ふたりのときの演出、新聞社の演出と3つあり、どれも違うんです。おふたりのときは、出会ったり、やり合ったりするシーンで、そのとき僕はずっと見守っている感じでした。段取りのときから緊張感がすごくあるし、(芝居が)完成されていて、見えないものがすごく渦巻いていて「早く撮りたい」という気持ちにさせられたというか。何回もやったりすると、お互いの感情を受けて、どんどん変わってくるんですよね。受けて、返して、受けて、返してという芝居がどんどんどんどんエモーショナルになっていく様を、僕は楽しく見ていた感じでした。

――ふたりの演技によって、内容が変わった部分などもありましたか?

藤井監督 大きく変えたところは、特にないんですけども、最後のシーンは台本とは、ちょっと違うんです。

松坂 うんうんうん。

シム そうですね。

藤井監督 最初、台本通りにやってもらって、ふたりの芝居を見たとき、松坂さんに、「いや、なんか言うと思うんですよね。なんですかね」と言って。その言葉を導いてくれたのは松坂さんですし、シムさんの演技ですし。そういうふたりの提案やアイデア、体に染み込んでくれたことが全部の画に映っていると思います。すごくよかったです。

新聞記者

――そうして、シムさんと松坂さんは初共演ですが、共演前後の印象などは?

シム もともと、とても真面目な方だと聞いていました。いろいろな出演作を観ていて、「いつか、できたら共演したい」と思っていたんです。今回、私が思ったよりも、ちょっと早めにチャンスを頂いて、うれしかったです!

松坂 僕こそ、『サニー(永遠の仲間たち)』や『怪しい彼女』とかを観ていた者としては、そもそも共演できると思っていなかったので、びっくりした部分がありますし、「えっ、共演していいんですか!?」という思いがありました(笑)。同じく、ご一緒できることがすごくうれしかったです。これだけ濃い作品を一緒にやらせてもらうと、次はね、やっぱりコメディとかでご一緒したいな(笑)。

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――観たいです! ところで、シムさん、今日も日本語でインタビューにお答えいただいていて、堪能さに驚いています。

松坂 そうなんです、すごいですよね! さらにうまくなっていませんか!?

藤井監督 うん、うん! 今日びっくりした!

シム いえ、日本語はまだまだです。『新聞記者』の台詞は普通に使っている言葉ではないので、私にとっては、細かいイントネーションが違ったりして。そういう調整をしながら役づくりをしたのが、とても難しいところでした。本当に頑張りました(笑)。

松坂 いや、もう本当にすごいです。

新聞記者

――藤井組を体験されて、韓国と日本の違いもあるかもしれないですけど、独特のメソッドのようなものを感じたりもされましたか?

松坂 そうか、ウンギョンさんは国の違いもあるね。

シム そうですね。『新聞記者』は、お客さんに難しく感じる話もあるかもしれないと思いますが、そういう部分をわかりやすく、監督のスタイルで、新しい感覚で示してくれたことが監督の演出力だと思いました。皆さんにとって、よく共感されるように作って頂いたことは、本当に素晴らしいことだと思っています。

松坂 僕も初めて監督とご一緒して、すごく生き物として捉えてくれるような感じを受けました。お芝居を見て、いろいろ言葉をくださったりとか。……ひとつ例を挙げるなら、監督があるとき、落ち葉を拾っていたんです。

藤井監督 神崎邸の前ね(笑)。

松坂 あれを見たとき、「すごい」と思って。ありとあらゆる現場で起こり得る、発生するものを生き物みたいな感じで捉えて、全部吸い上げて、監督の中で料理している感じが、すごく楽しくて。そうやって撮影が進んでいくのが、僕は、すごい楽しかったですね。

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――藤井監督にとっては、韓国のトップ女優のシムさんや、ちょうど撮影の頃(2018年12月)賞レースを席巻していた松坂さんを、松坂さんの言葉を借りれば「料理」していた楽しさ、面白さを感じながらやられていた部分もありましたか?

藤井監督 あります、あります。先にシムさんから言うと、僕も『サニー』から観ていたし、『怪しい彼女』では当時、沖縄国際映画祭で実はお会いしていて。

松坂 そうなんだ!

シム ええ(笑)。

藤井監督 そうなんです。そのときは「おお! シムさんだ!」と(笑)。元々ファンとして追っていた感情から、こうしてご一緒できるという緊張がすごくあって。シムさんが演技で全部返してくれるので、僕は、すごく学ばせてもらうことが多かったです。松坂さんは、衣装合わせのときから覚えています。今日のような感じでフランクに松坂さんが来てくれて「これ、やっちゃうんですか!」みたいな感じで。スタッフも「この船はどこに向かうのか」とどこかで緊張していて、「どうにでもなるっしょ」と思っていた人は誰もいなかった中で、松坂さんの「では、頑張りましょう!!」という雰囲気に、僕たちが一瞬でファンになりました。

松坂 (笑)。

新聞記者

藤井監督 演出のときも、僕がファンというか……、「松坂さん、もっとこういうのが見たいんです」とリクエストして、「なるほど、わかりました」というやり取りをしたり。あとは、歳が近いのもあったりして。

松坂 そうですね。

藤井監督 シムさんの新聞記者という職業よりは、松坂さんの官僚の役のほうが、性別と年齢と、あと家族がいたり、葛藤という部分の共有を僕自身がすごくできたので、そういう意味でも、俳優部にすごく恵まれていました。俳優部がシムさんと松坂さん、またほかのキャストの皆さんじゃなかったら、あの時間でこの作品をやるときに、もっともっといろんなノイズが発生して、たぶんこういう作品にはならなかっただろうな、というのは思います。

――ありがとうございました。最後に、シムさんと松坂さんに「知らないことの怖さ」のメッセージも含む本作を通して、改めて思うところをお聞かせください。

シム 私は、先ずこの映画が持っているメッセージが大きな圧力でした。言論の大事さを感じましたし。もともと世の中には、色々と複雑なことが沢山あるんじゃないですか。色んなことが起こる中で、今の時代だと、インターネットもあるし、世界の情報が全部集まって、早く見られる。フェイクもあるかもしれないし、本当の真実があるかもしれないし、本当は真実なのに「これは嘘ですよ」と言われてしまうこともあるかもしれない。複雑なことが毎日起こっているからこそ、今のニュースやissueを自分で探してみて、自分で判断できる力を持つようになるのが一番大事なことじゃないかなと、映画を観て思っています。

新聞記者

松坂 ウンギョンさんのおっしゃる通り、真実と、真実ではないものの情報が、いかに自分の中に入ってきやすい環境が今あるということの怖さがあって。そこに対して、今まで別に恐怖心みたいなものはなかったからこそ、より実感として強く入ってくるところがありました。『新聞記者』はフィクションですけど、こういうことがもしあったとしたら、自分が今、目の前で起こってることや見聞きしていることは間違っているかもしれない。ひとつのものに対して、誰かが1個批判して、仮に、例えばメディアに出たときの編集のされ方、ネットの書き込みひとつで、「これは悪いものなんだ」と思いやすかったりする。「答えはこれです」というのに乗っかることによって、ある種の、批判されない安心材料のひとつにつながってきたりもしますし、だからといって、それが正解ではなかったりする。だからこそ、自分の目でちゃんと判断して、考えを持つことの大事さが実感として再認識できたと思っています。(取材・文=赤山恭子、撮影=岩間辰徳)

映画『新聞記者』は、2019年6月28日(金)より全国ロードショー。

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出演:シム・ウンギョン、松坂桃李、本田翼、田中哲司 ほか
監督:藤井道人
脚本:詩森ろば、高石明彦、藤井道人
公式サイト:https://shimbunkisha.jp/
(C)2019『新聞記者』フィルムパートナーズ

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応募締切 2019年7月4日(木)23:59までのご応募分有効

【応募資格】
・Filmarksの会員で日本在住の方

【応募方法および当選者の発表】
・応募フォームに必要事項をご記入の上ご応募ください
・当選の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただきます

 

※2021年9月8日時点のVOD配信情報です。

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  • パワプロくん
    2.9
    左巻きだな〜。新聞が正義で、軍備が悪、医療は善という、実際とは真逆なプロパガンダ映画。これがアカデミー賞最優秀作品賞、主演男優賞、主演女優賞の3冠て...。 嘘やろ?作為的だな。
  • -
    最後の杉原の表情が全てを物語っていて、吉岡の表情で終わるところ、あの表情で終わるのすごくよかった。 実際の新聞記者の著作が原作になった脚本、これは他人事じゃない、のかもしれないと、日本に横行している裏の事情に説得力を持たせうるなと感じた。 わかりやすく内務省と新聞社とでライティングを変えていて、悪と悪じゃないとがわかりやすくて、そんなわかりやすい対立構造が結構好きだった。 全体を通して温度感が低めなのも、深刻に事が進んでいるサマを演出するのには良かったのではないかなと思った。
  • まるこ太郎
    4
    カメラワーク怖い…内閣暗すぎ…… Twitterしてるのとか怖すぎる、無意識に思想を統制されてるのかも、、自分を強くもちたいね、、
  • けん
    -
    2023 159
  • おと
    4
    色使いやカメラワーク等、映像的演出にこだわりを感じた。 実際の政治の内情は分からないので評価しようがないけど、役者の演技は本物が多く映画を見たという満足感。 主演二人が特に良かった。 政治やメディアに踊らされる人の物語はあるけど、踊らせている側の苦悩を描いている作品は少ないと思うし、題材として価値のある作品だと思った。 狙っているのだとは思うけれど、2時間をとても長く感じたな… 少なくとも楽しませようというエンタメのエの字もなく潔い。 中途半端に色々と欲張らず良かったと思う。
新聞記者
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