旅のおわり世界のはじまり』は、日本、ウズベキスタンによる合作で、ウズベキスタンを舞台にした、ひとりの女性の成長譚。主演は前田敦子、共演は染谷将太と、ともに黒沢監督とは縁の深い俳優が心血を注いだ。
「歌いたい」という夢を秘めながら、レポーターとして生計を立てている葉子(前田)は、若手ディレクター・吉岡(染谷)率いる、腕はいいがどこか仕事に倦んだカメラマンの岩尾(加瀬亮)、気のいいADの佐々木(柄本時生)らクルーと、ウズベキスタンのロケに出る。言葉の通じない異国でのストレスを感じていた葉子だが、ある日、夕食を求めて出かけた街で聴こえた歌声に導かれ、不思議な体験をすることになる。
劇中の彼らとどっこいどっこい、ハプニング続きだったというウズベキスタンロケについて、前田と染谷は楽しそうに振り返った。『さよなら歌舞伎町』以来およそ4年ぶりの共演となったふたりに、異国の地での豊かな黒沢組での経験を、FILMAGA独占で聞いた。
――おふたりは『さよなら歌舞伎町』以来の共演ですか?
前田&染谷:はい。
――4年ぶりに、しかもウズベキスタンでお会いして変化は感じましたか?
前田 染ちゃんは、相変わらずドスッとしているなあ、と思いました。みんなが感じていると思うんですけど、染ちゃんの空気感は本当に落ち着きますし、私は染ちゃんのことを見ているのが好きです。みんな、生き物として気になるんじゃないですかね(笑)。染ちゃんは、ほかの人よりだいぶ先を行く生き方をしているので。
染谷 (まごまごする)
前田 ?
染谷 ……早く死ぬってこと?
前田 いやいや(笑)! 「俺はこうだったんだよ」という振り返るのが早い、みたいな。人生をもう折り返して、すべて落ち着いちゃっている感じで。それが嘘ではないので、すごいなと思います。
染谷 いやあ……そんなこと……。僕は(前田さんを)見ていて、お変わりないなあ、という印象でした。自分の人見知り加減が若干溶けたという自分の問題なんですけど、前回よりもおしゃべりさせてもらったかな、と。あと、本当にみんなで何とかするしかない現場だったので、団結力みたいなものはすごくあったと思っています。
――インタビューにて黒沢監督が、前田さんについて「偶然にもこの映画の内容で語っていることと大変似た状況が帰国後、起こったようなので、祝福すべきことだと思っています。彼女にとっては、二重に記憶に残る作品だったのではないか」とおっしゃっていました。
前田 そうなっちゃいましたね(笑)。でも、すべてが自然と、でした。当然、台本のほうが先にありましたし、気づいたら自分が沿った人生になっていて……。何も予想していない、予期せぬことが起こるのが人生なんだな、と思いましたね。予想外の1年間になりました。
――染谷さんは傍でご覧になっていたかと思うんですが、前田さんの状況をどう感じていましたか?
染谷 そうですね……! …いやあ……あの………そんな風に見ていなくて(笑)。ただ、現場で起きている現象として、空港に着いたときから我々はなぜかスタッフとはぐれてしまったり、軽いトラブルがいろいろあって、どこかこの映画に沿っているような形で現場が始まっていったんです。我々日本人がウズベキスタンという国で撮影をしていると、現地の方からすると、よくわからない外国人が撮影しているわけですよね。その状況も、すべてこの映画とリンクしていて、すごく面白かったです。
前田 本当に右も左も見たことのない場所だったので、みんなでそうせざるを得なかったです。ある意味、どこへ行っても、一瞬も気が抜けなかった感じがしました。
染谷 必死でWi-Fiを探していましたね(笑)。ホテルを移動するたびに、みんなで「Wi-Fiある!?」、「誰の部屋が入る!?」って。
前田 そうそうそう、「電波、一番いいところ、どこ!?」って一番必死なのが染ちゃんでした(笑)。
――染谷さんは『空海 ーKU-KAIー 美しき王妃の謎』などもやられているので、過酷な現場は慣れっこなのかと思ってました。
染谷 いえいえ、今回、過酷だったわけではないんです。あまりにも触れたことのない文化だったので、みんなが戸惑っていただけであって。いやあ……楽しい日々でした(笑)。スタッフの方は、普段とはまったく違う流れの準備や現場進行だったので、もちろん大変だったと思います。でも我々はそ? ?なりに楽しくやっていたんじゃないですかね。
前田 そうですね。現地のスタッフさんとして入ってくれた方たちが、日本語がペラペラだったので、すごく頼もしかったです。時間を作ってくれて、誰かしらがオフだったら一緒についてお買い物に連れて行ってくれたりして、コーディネーターさんのようなことをやってくれたりして、心強かったです。
――撮影中、おふたりのシーンでは実際に「ロケをする」ということが多かったと思います。特に印象に残っているところはどこですか?
前田 やっぱり……遊園地ですかね。
染谷 (笑)。
前田 グルグル回る遊具……本っ当にしんどかったです! だけど、本番中に「1回(止めてください)」と言っちゃったら、どうせまた同じことをやらないといけないのでダメだと思って、終わるのをどうにか待つしかない撮影をしていました。初めて本番中に何も考えられなかったです。本編では3回乗っていますし、その前に私が「1回乗ります」と言っちゃったんですよ……。
――どんなものか気になりますよね……。
前田 そうそう、気になりますよね。助監督さんが乗ってくれていたんですけど「意外と大丈夫だった」と言うんですよ。
染谷 ……それ、ひどいなあ(笑)。
前田 「大丈夫」というから一緒に乗ったら、全然ダメで(笑)! 心が折れそうになりました。
――染谷さんは、乗らなかった?
染谷 乗らないです(笑)。そのシーンに限らず、僕は「前田さん……大変そうだな」と見ている役割なので、あまり大変だったこともなく。撮影ではないですけど、街が変わったりすると本当に移動をするんです。移動は結構珍道中でした。乗っているバスが壊れたり、煙をあげていたり(笑)。
前田 それも普通になっていて「みんな、(エンジンに)水かけて~」みたいな感じでした(笑)。
――本予告の最後にも登場する、標高2,443メートルの山頂で前田さん演じる葉子が歌う「愛の讃歌」アカペラの歌唱が、何といってもみどころかと思います。染谷さんは現場でご覧になっていたんですか?
前田 染ちゃん、先に帰国しちゃっていました(笑)。
染谷 僕は、そういう役ですからね(笑)。スクリーンで楽しみました。観たときは、本当に圧巻でした。あの景色の中で歌うのは、「こんな映画、観たことない」と今まで観たことがない映像で、奇妙な感動に襲われました。普通に「ここは感動する場面ね、はい、感動」という類ではなく、「何だ、この感動は……何だ、この独特の唯一無二の感動は……」という、すごく鳥肌が立ちました。
――おっしゃっていることがよくわかります。迫力はありながらも温かい歌と言いますか。
染谷 そうです、わかりやすい迫力ではないんですよね。「何なんだろう、この迫力は」と。本当にいいものを観た、と思いましたね。
前田 ありがとうございます。あのシーンは本当にずっとプレッシャーでしかなくて。本編を撮っている最中にも、ずっとここら辺(頭の片隅)に歌のことがずっとあるんです。何カ月間かその歌を持ったまま、生きている感じはありました。実際、本番になったときに、歌の重さを思い知らされて、「この歌……簡単に歌えない、ダメだ」と勝手に歌に負けたんです。這い上がるのを、ずっと監督と加瀬さんが見て待ってくれていて一緒に闘ってくれました。結局6時間くらいかかっちゃったんですけど。歌いながら、戻しながら。
――前田さんが歌うことで、愛というものや、本作の持つメッセージ性が押し出されます。出演したおふたりは、本作や本作での経験をどう感じていますか?
前田 まずは、日本ではない違う土地で黒沢さんと、こんなにがっつりやれたことが、すごく幸せで、本当によかったなと思いました。黒沢さんのことを深く語れるわけではないですけど、撮影中、監督がすごく楽しそうにしてくださっていたのが、すごくうれしくて。遠くでいつも監督のことを見ていて。……実は、現場には奥さまもいらしていたんですよ。奥さまとの愛を遠くから私は「なんてラブラブなんだろう」と思って、眺めていました(笑)。ふたりでお昼ごはんを食べていたり、夜ふたりで歩いている姿を街中で見かけたりして。「愛がすごいな」「愛ってこうだよなあ」と思ったので、すごく参考にさせてもらっていました。
染谷 ここまで自分たちが、異物だと自覚する経験が初めてでした。海外で撮影しているのもそうですけど、向こうのスタッフや現地の方とか、お互いがずっと探り探りだったんですね。「ウズベキスタンの方ってどんな感じだろう」「日本人ってどんな感じだろう」と探られる感じを受けて、「我々は今、異物なんだな」と、この映画の通り感じたのが新鮮でした。自分が異物になって、自分が外に出ることによって、改めて自分を見つめ直し、自分が住んでいるところを思い、外から日本のことも見られたりして、違う視点をひとつ置ける、そんな映画でした。その中で見える愛は、特別な愛じゃないかな、と思いました。なので、独特な感動を覚えたんだと思います。(取材・文? ??赤山恭子、撮影=林孝典)
映画『旅のおわり世界のはじまり』は、2019年6月14日(金)より全国ロードショー。
出演:前田敦子、加瀬亮、染谷将太、柄本時生、アデイズ・ラジャボフ
監督:黒沢清
脚本:黒沢清
公式サイト:https://tabisekamovie.com/
(C)2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO
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