「いいね!」やフォロワー獲得、いわゆる“バズり”に魅入られていくインフルエンサーと、それを欲する現代社会をブラックかつコミカルに描いた『 #スージー・サーチ』。ポッドキャストで未解決事件の考察を配信する孤独な大学生・スージーを通して、SNSを使ったことがある人なら誰でも思い当たるような“自分の隠れた承認欲求”を鋭く刺激してくるようなスリラー作品。

本作は第47回トロント国際映画祭でワールドプレミア上映されるやいなや「インスタントな名声と称賛を求めるSNS文化を鋭く風刺している」「ヒッチコックを彷彿とさせる秀逸なスリラー」などと大きな注目を集めた。
ポップな色彩とは裏腹にツイストを効かせて予想を裏切り続ける展開から一秒足りとも目が離せない本作の原案・監督はソフィー・カーグマン。FILMAGAでは『 #スージー・サーチ』の製作経緯や撮影でのエピソード、そして監督自身の承認欲求やSNSとの向き合い方についてインタビュー。
about ソフィー・カーグマン監督

ロサンゼルスを拠点に活動する監督、脚本家、俳優。俳優として TV シリーズ『メンタリスト』(12)、俳優デヴ・パテルの監督作の短編『HomeShopper(原題)』(18)などに出演。一方、映画監督としては『#スージー・サーチ』の前身となる短編『 Susie Searches(原題) 』(20)でデビュー。同作では、監督のほか脚本も手がけ、自ら主人公のスージー・ウォリスを演じた。続く短編『Query』(20)には、ジャスティス・スミス、アーミー・ハマーが出演し、トライベッカ映画祭でワールドプレミア上映され話題となった。⻑編デビュー作となる『#スージー・サーチ』(22)は、ワールドプレミアとなる第47回トロント国際映画祭 ディスカバリー部門正式出品を皮切りに、パームスプリングス国際映画祭、サンタバーバラ国際映画祭などで上映され注目を集めた。
SNS文化ならではの題材だと思います。どのような経緯でこの題材を扱おうと決めたのでしょうか?
カーグマン監督:ジャンル映画であると同時に繊細な人物描写を映し出す、その両面を成立させる映画を撮りたいと思っていました。そして今、世の中で蔓延っているインスタントなセレブ文化がもたらすジレンマや問題に焦点を当てたいと考え、ストーリーを組み立てていきました。この映画を観た方には色々と感じていただけると思いますが、本作では、この物語を通して”自分の能力を証明するためにあなたであれば、どこまで過激になるのか?”被害者なき犯罪だとしたら、あなたならどこまでやってしまうか?”と問いかけているつもりです。スージーは極端な行動をとっていきますが、それでも共感できて、応援したくなって、自分の中で何かを見出せるようなキャラクターを生み出したつもりなので、そのように受け止めてくださると嬉しいです。
監督は本作が長編デビューとなりましたが、率直にいかがでしたか?
カーグマン監督:私は役者としてキャリアをスタートさせました。もちろん俳優業も好きなのですが、今は監督業の方がしっくりきています。短編『Susie Searches』で初めて監督として作品に携わりました。その時は主演も務めていましたが、それ以上に監督業の面白さを実感し、感覚的に監督業に転向した方がいいのかもと思ったのです。役者はいわばパズルの1ピースに過ぎず、監督に委ねることがほとんどです。でも、監督は、自分で全てをコントロールできる。それが好きで自分にあっていると感じたのかもしれません。

カーシー・クレモンズとは綿密に話し合いを重ねてから撮影に入ったことも記憶に残っています。もともと本作はパンデミック前に撮影しようと計画していましたが、コロナの影響で撮影が3度延期になりました。時間ができた分、カーシーとは外で散歩をしながら、スージーという主人公がどの様な背景を背負っているのか、母親との関係、良い自分を見せたいという心……そうした、複雑でありながらも共感を禁じ得ないキャラクターについて話し合うことができました。
また、アレックス・ウルフは、自分で徹底的に考えてキャラクターを作ってくれていて、髪型を提案して切ってくれたり、「ジェシーはきっと耳にピアスをあけるだろうから」と開けてくれたり、自らジェシーとしてSNSアカウントを作ってくれたりもしました。撮影中に最も興奮したのは、スージーに命が吹きこまれるのを見ることでした。私のビジョンを汲んで昇華してくれる最高のスタッフやキャストたちに恵まれ、幸運でした。大好きな人たちと仕事をすることに勝る喜びはありません。できあがったものは、1+1が2以上になるのです。
スージーはいわゆるヴィジュアルを押し出す「インスタグラマー」とは違うジャンルの女の子のように思います。そんな彼女のキャラクターを作り上げる上で意識した点などはありますか?

カーグマン監督:ポッドキャスターなので、よくあるインスタやTikTok系のセレブとは違ってルックスありきのキャラクターではありません。スージーの場合、マインドや彼女がどのようなことを話すのかというのが重要だと考えていました。スージーは、自分のルックスが周囲からどの様に見えるかを考えるような少女ではありません。自分の内面に自信があって、歯の矯正も堂々と見せる。誇り高く我が道を行くタイプのポッドキャスターとして描きました。スージーは、世の注目を集めたいとは思っていますが、他のセレブと競り合う気持ちはなく「私はこれが好きで、私はこの道で行く」と、自分のマインドに耳を傾けるキャラクターだと考えています。
誰もが自身の“承認欲求”に狂わされそうになるタイミングがあると思います。本作はその様子がとてもリアルに映し出されていました。監督自身もそのような経験はありますか? あればどのような時でしょうか?
カーグマン監督:私も日々陥りそうになってしまうので、大変です(笑)やはりSNS空間の中で自らの”承認欲求”について、舵取りをするのは難しいし、とても複雑なツールだと思っています。言葉のあやなのですが、友人が見事に言い当てていたある言葉があるのですが、それが「Dumpster fire」ならぬ「Dumbster fire(dumb /バカ)」。少し乱暴な言い回しではありますが、要は”バカを詰めたゴミ箱に引火すると大変なことになる”という意味です(笑)
SNSは、他者と自分を比較してしまう有毒なツールだとも思っています。完璧な人間像を打ち立てるのがSNSなので、完璧な生活、完璧な子育て、完璧な料理……自分が見ているものと自分をどうしても比較してしまいます。だからこそ、自己肯定感を阻害してしまいますし、自分は不十分なのかもしれないと思い悩むきっかけにもなります。その一方で、SNSは旧友と繋がったり、友人の家族の様子が分かったり、特別なイベントの様子が見えたり、誰かと再会を果たすことができたり……と、素晴らしいコネクションのツールでもあると思っています。ただ一方で、やはり色々な危険が潜んでいることは否めませんし、誤情報も蔓延して問題は山積みだとも思っています。
監督自身はSNSとどのように付き合っていますか?
カーグマン監督:現代社会では、SNSは日々の生活に 欠かせないものになり、素晴らしいメリットと注目すべき問題の両方をもたらしています。SNSはつながりや創造性、情報共有のプラットフォームを提供し、人間関係を保ち、新たな関心を見つけるきっかけになっていると思います。その反面、誤情報やプライバシー問題、理想化されたオンライン上の人格をつくりあげるプレッシャーといった問題を引き起こすこともありますよね。SNSには人を集め、コミュニティをはぐくむ力がありますが、このようなスペースではユーザーも責任を持って行動することが重要だと思っています。なので、私はSNSには年齢制限を設けるべきだと考えています。多感な若者の心を傷つけ、長所よりも短所の方がはるかに大きいと思うから。
ポップな色彩など、これまでのスリラー作品とは違うエッセンスが多く散りばめられており、序盤はファッション映画としても楽しめました。空間デザインなどの部分で何か意識したことはありますか?

カーグマン監督:スタイルが重要な要素となる映画ですので準備は徹底しました。本作の撮影に入るまでに映画の全体像を詳細にストーリーボードに描き込みました。色調、シーンの設計、カメラアングル、あるシーンから次へと進むシーンのカメラワークなど……こだわっている点は全て決めました。順撮りできるわけではなかったので、別で撮ったシーンを繋ぎ合わせる時も、ちぐはぐにならないようスタッフに共通認識を持ってもらうようにしました。そしてストーリーボードをもとに、各部門のチームリーダーたちと話し合いを重ねました。
私は、良作と傑作の違いは、監督が徹底的にコミュニケーションを取れたか否かの差だと思っています。だからこそ「どのように仕上げたいか」という目標に対しての共通認識を徹底し、作品のトーンやユニークさ、コメディでもあり風刺的、かつスリラーでもある……というような多面性を理解してもらう事前準備をしっかりと行ったのです。本作について言うと、例えば、初期準備段階からスタッフとの間で”フィルムクラブ”なるものを作り、1週間に1〜2本課題映画を観てもらい意見を交わすという試みをしました。本作のビジョンを共有できるよう、私が参考にしたい色調やカメラワークが素晴らしいと思う作品を選んだのです。

よく、映画製作においては撮影が始まった時に編集者と撮影監督が会うのが初めてで、コミュニケーションも取ったことがないという事態が発生することがあります。そういうことがないように、本作ではチームワークを徹底したのです。
“フィルムクラブ”の他にも、オンラインストレージを使って本作が目指すべき照明やスチール、映像、ロケ地、キャラクターのバックストーリーが分かる資料を入れて共有しました。また、作品のイメージが共有できる様にSpotifyのプレイリストを作ったりもしました。実際にその時Spotifyのプレイリストに入れた音楽も劇中で使用されています。

色調も一つ一つの色に意図があって、スージーの心の内を反映しています。彼女が安心して過ごせるカラーは、グリーンやブルー、アクアマリンの色調に統一しています。一方、彼女がちょっと不安を抱くシーンでは、レッドやオレンジというカラーを全面に持ってきています。昔から色彩のセオリーに興味を持っていたので、色彩でスージーの心の内を表現したつもりです。
また、編集のクリスティン・パークとは毎回一緒に組んでいるのですが、素晴らしい仕事をしてくれました。ストーリーボードを全て彼女に送っていたのですが、良いフィードバックをくれたので、スムーズに共業することができました。
本作はスリラーですが、スリリングな展開を通して「本来の自分を見失わないで」というようなメッセージも感じました。映画を観たユーザーにメッセージをお願いします。

カーグマン監督:まさに伝えたいことは仰る通りです。そして何よりも観客にはエンジョイしてほしいし、ワクワクしてほしいし、怖がってほしいし、声を出して笑ってほしいという想いを込めて作品を作っています。それと同時に、社会に蔓延するインスタントなセレブ文化に私たちはつい夢中になってしまうけれど、それに伴う危険や人間にとってダメージを与えてしまうカルチャーを探求していきたいという思いもあります。私の願いとしては、スージーに共感してほしいし、自分の中にもスージーのような部分があるということに気づいてほしいです。彼女を応援して、その人間性を見出し、彼女と繋がってほしいと思っています。至極人間的なキャラクターですので、そのように見てもらえたら嬉しいです。
最後に、今回のインタビューが掲載される「FILMAGA」は映画好きなユーザーが集まる媒体です。監督が観た映画で印象深かったものや、好きな作品を教えてください。
カーグマン監督:最近見た映画ではありませんし、挙げればきりがありませんが、映画では『リプリー』、『アメリカン・ビューティー』、『花様年華』、『マグノリア』などです。また『アメリ』は、本作においてクリエイティブなカメラワーク、遊び心のあるトランジション、そして独特の配色を参考にしたくてスタッフたちにも観てもらいました。

映画『 #スージー・サーチ』は、2024年8月9日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋HUMAXシネマズほか全国順次公開予定。
監督:ソフィー・カーグマン
出演:カーシー・クレモンズ、アレックス・ウルフ、ジム・ガフィガン
脚本:ウィリアム・デイ・フランク
撮影:コナー・マーフィ
音楽:ジョン・ナチェズ
配給・宣伝:SUNDAE
公式サイト:https://sundae-films.com/susie/
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※2024年7月25日時点の情報です。

