サスペリア』がお披露目される。
トップダンサーになることが夢のスージー(ダコタ・ジョンソン)は、アメリカからドイツ・ベルリンの舞踏団にオーディションにやってくる。彼女の天才的な才能を瞬時に見抜いた振付師のマダム・ブラン(ティルダ・スウィントン)は入団を許可し、スージーと親密になっていく。その一方、マダムのレッスンを受けるダンサーたちが、次々と謎の失踪を遂げていく……。
監督は昨年『君の名前で僕を呼んで』で少年の瑞々しいひと夏の恋愛を描いたルカ・グァダニーノが務めた。真逆に振れたと言えるテイストの本作だが、おどろおどろしさはしっかりと残したまま、驚愕の完成作を撮りあげている。来日したグァダニーノ監督に、本作のポイントを聞いてみたのだが、話題は映画界へと移り変わり、歯に衣着せぬ本音トークが炸裂した……!
――『サスペリア』は非常に衝撃的な作品でした。一番挑戦されたところはどこでしたか?
グァダニーノ監督:序盤のシーンで、オルガ(エレナ・フォキナ)の体がボロボロに砕かれていくところかな。あそこは、非常にチャレンジングだった。なぜかと言うと、鏡の部屋だったから(撮影が)難しくて。ほかは、クライマックスの魔女が集まるシーンだね。
――キーパーソンとなるマダム・ブラン含め一人3役を演じるティルダとは、何度も組んでいますよね。今回ご一緒して、いかがでしたか?
グァダニーノ監督:私にとっては、ティルダ・スウィントンと一緒に遊んだ、楽しんだというところもある。彼女と仕事をするのは喜びだし、いろいろなことをして遊ぼう、という気持ちがあった。今回3役をオファーしたのは、『サスペリア』は女性の映画で、女性の中の闇を描いているが、その中に登場する唯一の男性を実は女性のティルダが演じていた、というのが面白いと思ったんだ。男は女によって作られている、ということを表現したつもりだ。
――監督は、幼少期から『サスペリア』に出会っていて、再構築を考えていたと思うのですが、最初に再構築をしようと思ったシーンやアイデアは何だったのでしょうか?
グァダニーノ監督:まず、オリジナル版のおとぎ話のような世界観に魅了された。私の作品では、大胆であるということと、非常に表現力豊かであるということを考えたよ。今回の映画で、それが出ていればうれしいね。
――オリジナル版では赤色を基調にしていたイメージでしたが、本作は様々なカラーが印象的に使われていました。意識した色彩のポイントは?
グァダニーノ監督:バルテュス(バルタザール・ミシェル・クロソウスキー・ド・ローラ)の絵の色みというものを取り入れたかったんだ。彼の絵は、茶色、緑、青などの色が何層にも塗り重ねられている。非常に大きなインスピレーションの源だ。
――本作では劇伴も素晴らしく、監督たっての希望でトム・ヨーク(レディオヘッド)に依頼したと聞きました。なぜですか?
グァダニーノ監督:彼の音楽には、メランコリックさと、つらさ、痛み、そして、すごくポエティックなものがある。『サスペリア』にちょうどいいんじゃないかと思って、オファーしたんだ。
――具体的に依頼が決まった後、方向性などを監督が示したのか、トムに完全にお任せしたのか、どう進めていかれたんですか?
グァダニーノ監督:音楽について、彼とたくさん話をした。いわゆる典型的な、不気味なホラー映画のサントラは欲しくなかった。あとは、その当時使われていた楽器を使ってみたかったことと、映画のパートによってテーマが違うから、それには違うテーマの音楽をつけたいと伝えた。例えば、クランペラー博士については、アーノルド・シェーンベルクの音楽を参照してもらったりね。結果トムは、私が全く予期してなかった曲をくれたので本当に驚いたよ。美しかったし、本当に素晴らしい音楽だ。大絶賛しているよ。
――『サスペリア』では、ホラーの真髄ともいえるトラウマになりそうなシーンも出てきます。監督自身がトラウマ級に怖かった作品は、これまでにありますか?
グァダニーノ監督:良い映画であれば、どれだけ怖くても気分は高揚するんだ。質が悪い映画だとトラウマになるけど。
――(笑)。監督が「良い映画」という意味で影響を受けた映画タイトルや監督を教えてほしいです。
グァダニーノ監督:小さいときに観た映画すべてに感化されているよ。例えば、『アラビアのロレンス』、『サイコ』とか。あと、僕は大島渚さんの大ファンなんだ。日本では、ほかに鈴木清順さん、溝口(健二)さん、アニメーションの押井守さん、もちろん宮崎(駿)さんも好きです。
――大ファンの大島監督に関して言えば、どんなところが好きですか?
グァダニーノ監督:(監督が好きなライナー・ヴェルナー)ファスビンダーと同じように、非常に葛藤がある人だと思うから。そして、社会を鋭く描き出している。『太陽の墓場』、『青春残酷物語』などが特にそうだ。『愛のコリーダ』も好きだし、大島さんの作品に非常に心を打たれた。彼のビジョンに対する倫理的な強さというものは、私にとっていいお手本だ。それから、彼の美意識の高さは無限だと思う。亡くなってしまって本当に哀しいよ……。
――私がこれまでに観た「良い映画」の中のひとつが、監督の前作『君の名前で僕を呼んで』です。
グァダニーノ監督:ありがとう。でも、私は自分の作品と大島監督作品を同じ棚には並べられないね。そういえば最近、チューリ? ??ヒの大学で2日間のマスタークラスを行ったんだ。50人くらいいた生徒たちは、映画のことをわかっていると思い込んでいたんだが、質問を聞いたら、何も映画のことをわかっていなかった。大島さんのことを知らなかったんだ! すごくショックを受けたので、私は彼らに大島さんの比較的観やすい作品『戦場のメリークリスマス』を観せてあげたんだ。当然、彼らは衝撃を受けた。大島さんがあの傑作に取り入れたものを、映画で表現できると思っていなかった様子だった。大島さんの作品を観たことで、彼らの大多数は「映画監督になりたい」なんていうクレイジーなアイディアをやめてくれると思う。
――ものすごい教育ですね(笑)。
グァダニーノ監督:彼らのほとんどは、フォーカスもないし、集中力もないし、人間味もないし、大島さんのようなビジョン、視覚的言語というものがまったく欠けているから。でも、ネガティブなことだけではなく、生徒のうちの数人は、大島さんの映画から得た知識を水のように飲み込んで、映画の道を歩み続けてくれるだろう。大島さんと同じ土地に、同じところに立ちたいという目的を持って、映画の道を歩み続けるかもしれないからね。
――今おっしゃったことにすべてが表れているような気もしますが、これから映画監督、もしくは映画業界を志す、もしくは今携わっている人たち向けて、監督からさらなるメッセージをいただけますか?
グァダニーノ監督:映画産業で働きたい人間は、映画についての知識が必要だ。あと人生を犠牲にすることを覚悟したほうがいいし、自己規律が必要だ。北野武さんが『御法度』の最後でやるような覚悟が。映画という言語にすべてを昇華させるために、ほかを犠牲にする覚悟のことだよ。成功のための成功を追求しないこと。そうではなく、意味があるものを作ろうとすること。そのためには犠牲を伴うということ。まったく簡単な仕事ではないよ。(インタビュー・文=赤山恭子、撮影=林孝典)
映画『サスペリア』は2019年1月25日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。
監督:ルカ・グァダニーノ
音楽:トム・ヨーク(レディオヘッド)
配給:ギャガ
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