今年30周年を迎える山形国際ドキュメンタリー映画祭2019をはじめ、東京ドキュメンタリー映画祭2019やヒューマンドキュメンタリー映画祭《阿倍野》といったドキュメンタリー映画ばかりを集めた映画祭が人気である。

今まで知らなかった現実や見たこともない世界を映し出すドキュメンタリー映画。それは、作品性と記録性の絶妙なバランスから生まれるエンターテイメントでもあり、その独特な魅力にハマってしまう映画ファンも多い。

そこで今回は、ワクワクするようなオススメドキュメンタリー映画16本をご紹介しよう。

美術館を手玉にとった男』(2014)

行為そのものがアート

美術館

2011年アメリカにある美術館の展示作品が偽物であることが判明したが、それらは全て1人の男性によって寄贈された絵画であった。

贋作を次々と描いてはそれを無償で寄贈し、30年にわたり46ヶ所の美術館を騙し続けていた男マーク・ランディス。彼は身分や作品の入手経路についてはウソをつくものの、金銭は要求しないでその絵画を渡すだけ。つまりそれが本物かどうかを判断するのは、相手側の問題なのである。

結局詐欺罪に問われなかった彼は、マスコミで注目され、とうとう贋作展まで開くことになってしまう。しかし彼は、一体なぜそんなことをしたのか。その謎を通して浮かび上がってくる素顔は、特異で不可解だがどこか憎めず。「才能があるんだから自分の作品を描くべき」と励まされても、そういうことじゃないんだよね。きっと。

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マン・オン・ワイヤー』(2008)

なぜ渡る?

マン

伝説の大道芸人フィリップ・プティが、ニューヨークのワールド・トレード・センターの綱渡りを実現させるまでを描く。

1974年、今はなきニューヨークのワールド・トレード・センターのツインタワーを命綱なしで綱渡りした男がいた。彼はそれまでも世界中の有名な建物を綱渡りで制覇し、逮捕歴は500回以上。そして今回、悲願とも言うべき前代未聞の綱渡りに挑戦するため、6年かけて入念な準備を進めていく。

なぜそこまでしてそんなことを? その答えは、彼自身と彼を支えた仲間の証言からうかがい知ることができよう。ただスリルと冒険を求めているわけでない。彼は綱の上の詩人なのだ。困難な状況にぶつかりながら決して諦めない彼らの姿が映像で再現され、信じがたい光景に臨場感あり。得も言われぬ感動を巻き起こして、2009年アカデミー賞 ドキュメンタリー長編賞を受賞。

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悪魔とダニエル・ジョンストン』(2005)

好きだからまっしぐら

悪魔

幼い頃から独特の芸術的才能を見せていたダニエル・ジョンストンは、自作曲を録音したテープをきっかけに業界から注目を集めていたが、次第に精神を病んでしまう。

躁うつ病を患いながらも、唯一無二の創造性で人々を魅了し続ける孤高のシンガー・ソングライターの半生を追い、2005年サンダンス映画祭 監督賞を受賞。カルト的人気を誇るアーティストの愛と狂気に満ちた日々を映し出す。

常軌を逸した数の録音テープとホームムービー。独創的な歌声と奇妙なしゃべり方。個性という言葉では表現しきれない彼の存在そのものに圧倒され、初恋の女性に対する強烈な恋慕が昇華された音楽に胸を打たれる。ミューズとはまさにこのこと。その二人が再会するシーンが最大の見どころかもしれない。

ホームレス ニューヨークと寝た男』(2014)

自分で選んだ場所

ホームレス

ニューヨークで活動するファッションモデル兼フォトグラファーのマーク・レイが、華やかなパーティーの後に帰って行ったのは、古びた建物の屋上だった。

ブランドスーツをスマートに着こなした52歳の渋いイケメン。誰がどう見てもセレブな男性なのだが、実は6年近くもホームレス生活を送っているという驚くべき事実が……彼が家を持たないという選択をしたのは、激しい競争社会を生き抜くため。つまり、収入が不安定なフリー稼業ゆえのサバイバル術でもあった。

ジムの狭いロッカーに荷物を入れ、雨の夜は寒さに震えながらビニールシートを被って寝る。家族や恋人も作らない彼は、そんな暮らしに不満を漏らしたり満足していたり。強がっているけど本当は惨めじゃないの? 本音なのか演技なのかわからないところに引き付けられ、お金と自由について考えてしまう。

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ヤクザと憲法』(2015)

ヤクザの人権とは

ヤクザ

指定暴力団である二代目東組系列の清勇会に100日間密着し、ヤクザへのインタビューや彼らの日常生活を追う。

2015年放送のTVドキュメンタリー番組を再編集。日本国憲法第14条「法の下の平等」にヤクザは含まれるのかという疑問から、「謝礼金を支払わない。収録テープ等を事前に見せない。顔へのモザイクは原則かけない」という約束の下で、暴力団を真正面から取材した問題作である。

常識的な暮らしぶり。時折見せる暴力的な一面。「意外」と「やっぱり」が交差し、暴力団排除条例による銀行口座開設不可のため、子供の給食費を払いたくても払えないという現実に複雑な気持ちになる。ヤクザに憧れて入会した若者がしっかりしていて真面目なのも衝撃的だ。本当に何だろうな。人権って。

パーソナルソング』(2014)

歌が記憶を蘇らせる

パーソナル

アメリカのソーシャルワーカーが、アルツハイマー型認知症の患者が自分の好きな歌を聞けば何かを思い出すのではないかと思い、その療法を試してみることにする。

その人だけの思い出がある歌=パーソナル・ソング。たとえ認知症でなくても、ラジオや店から流れてくる曲を耳にした瞬間、その曲を聴いていた頃の思い出が鮮やかに蘇ってくるという経験は誰にでもあるだろう。そんな音楽の力を利用して、失われた自分を取り戻してもらう新しい取り組みが行われる。

娘の名前も思い出せなかったのに、その曲を耳にした途端スイッチが入ったように陽気に歌いはじめ、仕事や家族のことを次々と語り始める94歳の男性。昔のことを全て忘れていたはずの90歳女性も、「私の学生時代はね」と思い出話をしゃべり出し、彼らが記憶を取り戻す瞬間はまるで奇跡か魔法のよう。パーソナル・ソングがあれば認知症は怖くない?

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ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』(2008)

生活にアートを!

ハーブ

30年以上にわたってギャラリーやアーティストたちを訪ね歩き、好きな現代アートだけを少しずつ買い集めているハーブ&ドロシー夫婦の足跡を追う。

元郵便局員の夫は芸術を学んだ経験のある絵描きで、作品の収集費用は彼の収入から。一方、妻は公立図書館の元司書で、彼女の収入が生活費に充てられていたという。つまり二人は知性と教養のある夫婦なのだが、それでも家計をやりくりしてアートを買うという行為は、一般家庭ではあまり見られないことだろう。しかもその数4,000点以上!

結局狭いアパートに収納しきれなくなったので、彼らはコレクションを美術館に寄贈。その中には、当時は無名だったが今や20世紀を代表するアーティストに成長した画家もいて、その審美眼は本物だ。アートは特別なものではなく、人生を豊かにするもの。続編『ハーブアンドドロシー ふたりからの贈りもの』(12)あり。

将軍様、あなたのために映画を撮ります』(2016)

映画のために拉致

将軍様

1978年北朝鮮に拉致された韓国人女優チェ・ウニは、1983年に同じく拉致された元夫で映画監督のシン・サンオクと北朝鮮で再会する。

映画マニアだった金正日が、「我が国の映画はどれも同じ内容」「世界に通用する映画を撮れる監督を連れてこい」と言ったので拉致された韓国人女優と監督。その二人が1986年に母国へ帰国するまでの過酷な日々を、密かに録音していた金正日の肉声テープを交えてスリリングに描いた衝撃作である。

拉致後は軟禁されて洗脳。逃亡に失敗して拷問を受けたので、仕方なく忠誠を誓うフリして映画を撮りまくった監督だったが、資金繰りに苦しんでいた韓国時代に比べると潤沢な資金で何でも好きなように作れたのだから、さぞ複雑な気持ちだっただろう。ちなみに北朝鮮初の怪獣映画『プルガサリ 伝説の大怪獣』(85)も彼の作品。

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シチズンフォー スノーデンの暴露』(2014)

国家がやっていること

スノーデン

イラク戦争などに関するドキュメンタリーで脚光を浴び、当局から監視や妨害を受けていたローラ・ポイトラス監督のところへ、元CIAのエドワード・スノーデンから一通のメールが届く。

国家安全保障局(NSA)が、世界各国の主要人物だけでなく、アメリカ国民の電話やインターネットまで傍受しているという驚愕の告発。国家によるケタ外れのプライバシー侵害が行われていたことが彼の口から暴露され、そのセンセーショナルなニュースが世界中を駆けめぐったことは記憶に新しい。

それにしても、おそらく正義感と怒りからこの違法なスパイ行為を公表したのだろうが、顔出しで国家機密を淡々としゃべる姿に「身の安全は大丈夫?」と心配になるのは、映画の見過ぎだろうか。ちなみにこの事件は、オリヴァー・ストーン監督が『スノーデン』(16)として映画化したので、併せてご覧あれ。

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ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』(2016)

図書館と民主主義

ニューヨーク公共図書館

世界中の図書館員が憧れているニューヨーク公共図書館に潜入し、住民や研究者たちへの充実したサービスやプログラムなどの舞台裏を映し出す。

漫画「BANANA FISH」や海外ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」にも登場し、観光名所としても有名なニューヨーク公共図書館。19世紀の建築物である本館と91の分館、そして約6,000万点のコレクションを誇るこの図書館の舞台裏に迫り、そこで働く司書やボランティアたちの姿を映し出す。

電子化の波に立ち向かい、予算獲得に奮闘し、地域に密着した活動に取り組むスタッフたち。図書館は無料の貸本屋ではなく、人生を生き抜く知識や健全に生活するための方法を人々に提供する公共施設なのである。それこそ民主主義の本質。なぜニューヨーク公共図書館が世界有数のすばらしい図書館なのか、この映画を観ればその理由がわかるだろう。

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マイケル・ジャクソン THIS IS IT』(2009)

幻のコンサート

マイケル

2009年に急死したマイケル・ジャクソンによるロンドン公演「THIS IS IT」のリハーサル映像を通じて、世界的スターのアーティストとしての側面を描く。

公演は7月13日から翌年3月6日まで予定され、リハーサルが5月から始まるが、マイケルは6月25日に急死してしまった。それは公演の表明からわずか数ヶ月後。しかも公演初日の直前といってもよい突然の訃報だった。この作品では4月から死亡前日までのマイケルの姿が映し出される貴重な記録作品にもなっている。

マイケル・ジャクソンとは、一体どんなアーティストだったのか。ここにいるのは、ゴシップやスキャンダラスなイメージに彩られた大スターではなく、復帰ステージに真摯に向き合い、照明や演出に徹底的にこだわり、歌やダンスの猛特訓に励む完璧主義者。音楽で世界をよくしようと本気で思っている偉大なアーティストだとわかる。

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FAKE ディレクターズ・カット版』(2016)

報道のあり方を問う

FAKE

聴覚障害を抱えながらも作曲を行い、「現代のベートーベン」ともてはやされた佐村河内守に密着し、ゴーストライター騒動後の姿を追う。

「鬼武者」などのゲーム音楽や、「交響曲第1番“HIROSHIMA”」などを作曲した佐村河内守が、実は耳は聞こえており、ゴーストライターが作曲した音楽を自作として発表していたと報道された問題。世間を騙し、聴覚障がい者を傷つけたと騒がれたが、事実はどうだったのか。彼の自宅で撮影された映像からは、物静かで誠実な素顔が浮かび上がってくる。

彼の元にはテレビ関係者や海外のジャーナリストが訪れ、弁護士は著作権について語る。彼を信じて支える妻。なぜか取材に応じない新垣隆。確かに音は聞こえるが、感音性難聴ゆえにはっきりと聞こえないため、読唇術によって会話をする様子も映し出される。善悪の二元論で論じることの危険性と暴力性。画一的な報道に疑問と怒りを抱かざるを得ない。

シッコ』(2007)

なぜアメリカにできない?

シッコ

アメリカの医療保険問題にスポットを当て、利益のみを追求する医療システムの実態を明らかにしながら、アメリカ医療業界の矛盾と闇を暴いていく。

タイトルの「sicko(シッコ)」は「狂人・変人」を意味するスラングで、「病気」の「sick(シック)」とかけているという。国民健康保険制度のないアメリカでは、高額の保険料を払って民間の保険会社に加入するしかないため、約5,000万人が医療保険未加入者。また、保険会社は何かと理由をつけて保険金の支払いを拒否するため、満足な治療を受けられずに苦しんでいる国民の何と多いことか。

そこで監督は、Webに寄せられた実話を基に、例によってアポなしインタビューを決行し、カナダ、イギリス、フランス、キューバなど他国の医療事情も取材。国民全員が無料医療を受けられる国もあるのにアメリカではなぜそれができないのか、その背景にある営利主義の構造に切り込んでいく。ああ、医療保険のある日本に生まれてよかった。

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ゆきゆきて、神軍』(1987)

知らないとは言わせない

ゆきゆきて

第二次世界大戦で自分が所属していた残留隊で、隊長による部下射殺事件があったことを知った奥崎謙三は、遺族と共に元隊員たちを訪ねて真相を追求する。

終戦後に2人の兵士を敵前逃亡の罪で処刑したという事件。彼は、処刑に関与した元隊員に暴力を振るってまで当時の様子を聞き出し、命令を下した元上官の家に改造拳銃を持って押しかけてそこにいた息子に発砲。殺人未遂罪などで懲役12年の実刑判決を受けた。

自分を「神軍平等兵」と名乗り、多少のやりすぎ感はあるものの、一体誰が兵士を殺したのか、その責任の所在をあいまいにしたままお茶を濁す彼らを決して許さない姿勢はあっぱれ。半端でない熱量に圧倒され、彼なりのケジメのつけ方に心を動かされる。彼はまだ戦場にいるのだろう。日本国内外で多くの賞を受賞した衝撃作。

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ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999)

これぞ究極のキューバ音楽

ブエナ

キューバの老ミュージシャンたちによる「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の演奏を中心に、キューバの街並みや彼らの日常を映し出す。

当時ほとんど知られていなかった彼らにスポットを当てたのは、『ベルリン・天使の詩』(87)などで有名なヴィム・ヴェンダース監督。人生の哀歓を情緒豊かに表現するキューバ音楽だけでなく、チャーミングなミュージシャンたちのインタビューも見応え十分だ。

続編『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』(16)では、ステージ活動を止めると決めた彼らの“アディオス(さよなら)”ワールドツアーの様子が映し出されるが、前作の世界的ヒットにより人生が激変した彼らのその後を垣間見ることができて、何だかしみじみ。

アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』(2008)

燃え続ける

アンヴィル

1980年代のロック界に影響を与えながらも、その後は忘れ去られてしまったヘヴィメタルバンド「アンヴィル」の二人は、50代になった今でも再起をかけて活動を続けていた。

キアヌ・リーブスやダスティン・ホフマンも虜にした夢を追い続ける中年男たち。地元で家庭を築いた彼らは、給食配給センターや建設作業で働きながら、小さなライブハウスで少ない観客を前に演奏し続ける。彼らの付き人だった監督の視線が優しい。愛があるから何だか泣けてくるのだ。

そんな彼らはチャンスに賭けてツアーもやり、借金をしてアルバムまで出すが、結局散々な目に遭ってしまう。年を取って落ちぶれて、惨めな思いをして。しかし音楽は残る。だから、あきめない。そしてなんと、二人はフェスに出演するため来日するのだ。さて、そこれ彼らを待っていたものは? 東京にはやっぱりゴジラがいるんだね。

いかがでしたか?

最近ドキュメンタリー映画が多く上映されるようになってきたせいか、地味で退屈だと思われがちなドキュメンタリーが注目され、確実にファンを増やしているようだ。

強烈な個性を持つ人物や知られざる舞台裏を取材したり、現代社会の闇に鋭く切り込んだり。ドキュメンタリー映画のテーマはバラエティに富んでいて、未知の世界と出会うワクワク感がクセになる。

事実は小説より奇なり

演出や編集というフィルターを通してはいるものの、フィクションでは伝わらないものを映し出すドキュメンタリー映画が、これからもっともっと盛り上がってほしいものである。

※2021年4月20日時点のVOD配信情報です。