『ハルカの陶』奈緒、女優という仕事に出会えて「これを離してしまったら絶対にダメだ」【インタビュー】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

ハルカの陶

奈緒、24歳。日本テレビ系にて4・7月期に放送されたドラマ『あなたの番です』の“尾野ちゃん”怪演で、その存在を知った人も多いかもしれない。放送終了から日が経っての取材だったが、本人も「あんなに反響が多い役は初めてで」と何度か口にしたかもしれない言葉を弾む声で伝えては、薄く微笑んだ。

待機作が続々と控える中、奈緒による長編初主演作『ハルカの陶』が、2019年冬、全国公開を迎える。本作は日本遺産・備前焼の美しさに魅せられた小山はるか(奈緒)が、東京でのOL生活を捨て、身一つで岡山県備前市にやって来て、備前焼の作者・修(平山浩行)に弟子入りを懇願する物語。

寝ても覚めても備前焼のことしか考えられず、陶芸の世界に飛び込んだはるかと、女優になる夢を叶えたいと一念発起し、地元・福岡から上京した奈緒は、オーバーラップするような存在だ。青春キラキラ映画ではない、超絶アクション映画ではない、ひとりの女性が七転び八起きしながらも、自分の夢を掴み取るために奔走する映画の主演を射止めた奈緒の骨太な演技が、何よりも観客の心を揺さぶり続ける。

ハルカの陶

――長編初主演『ハルカの陶』の公開、おめでとうございます。様々な選択肢があったかと思いますが、なぜ本作を初主演作に選んだんでしょうか?

奈緒 ありがとうございます。自分の中ではご縁をいつも大事にしていて、この作品も「私が選んだ」というよりは、「私を選んでもらった」という感覚のほうが、自分の中では強いんです。もともと日本の伝統的なものにはすごく興味があったので、そういう作品に参加できることが、一番最初はすごくうれしかったです。それに、備前焼自体が映画の題材になるのが稀なことだと、作家の先生たちもおっしゃっていたんです。「自分たちがやっている仕事が、映画になるのがうれしいんです!」というお話を聞いて、いろいろな人の想いが詰まっている作品だと感じて、ますますうれしくなりました。

ハルカの陶

――備前焼の大皿に一目惚れし、やがて弟子入りすることになるはるかについて、どのように役作りをされたんですか?

奈緒 特にこれといった役作りはしていません。というのも、はるかさん自身が特別な人というわけではなかったので。夢も特になく、「このまま自分の人生は映画みたいなことは起きずに終わっていくんだろうな」って、どこか虚無を感じながら生きている女性というか。そうやって仕事をしている方は、きっとたくさんいるのかもしれない、と思ったんです。

――奈緒さん自身、わかるところもありますか?

奈緒 はい。私も、地元の福岡にいたときに「このままでいいのかな……」と思いながらも、楽しいことも周りであるし、夢を追いかけることに、いまいち一歩踏み出せない時期がありました。はるかさんが突き動かされて、備前焼を見つけて、「これしかない。これだったら熱くなれる。離したくない」と思って伊部まで行ったことは、「東京に行きたい」と思って上京したときの自分と、すごくリンクしたんです。右も左もわからない状況だけど、とにかくその場所に行ってみよう、というか。自分の中ではかけ離れたものではなかったので、そういう意味では、台本を読んでいて「すごくわかる」と思う気持ちがたくさんありました。

ハルカの陶

――はるかが師匠に向かって、「こっちだって全部捨ててきた!」と強く言葉を返すシーンがありましたよね。あの思いも、うなずける感じですか?

奈緒 すごくわかります。それまで何かに夢中になることが自分になかった分、見つけてしまったときの、温かいものがあふれてきて、自分でもびっくりする瞬間……。こんなことは、自分にめったにないことだとわかっているから、「これを離してしまったら絶対にダメだ」となるんです。「もう前しか見れない」みたいな感覚はあったんじゃないかなと、やっていて思いました。

――「これを離してしまったら絶対にダメ」という感覚自体もリンクするようなところだったんですね。

奈緒 もちろん、俳優はお仕事でやらせていただいてるんですけど、プライベートと仕事が自分の中であまり分かれていないんです。自分の人生のプライベートの中に「仕事」というものがあって。仕事で人として成長させてもらう面も、すごくあるんです。だから、常に自分の人生の中でやりたいことを見つけられたし、出会わせてもらえたから、この仕事に根底で、ずっと感謝しています。熱くなったり、すごく真剣に考えたり、すごく悲しくなったり。仕事で壁にぶち当たったりするたびに、きっとこの仕事をしていなかったら、そういう気持ちにならなかったので、本当に出会えてよかったなって、ずっと思いながらやっています。それが、はるかさんにとっての備前焼だったんじゃないかなとも思うんです。

ハルカの陶

ハルカの陶

――主演ということもあり、出ずっぱりの撮影だったかと思います。撮影期間はどのくらいでしたか?

奈緒 撮影は2週間ぐらいで、撮休も1日もなく、大体朝から深夜まで、みんなずっと働いていました。現場で変わることも多いですし、みんなで力を合わせてやっていました。大変だったことも含めて、自分がすごく強くなれたと思える1本でした。

ハルカの陶

――主演という気概は、持っていましたか?

奈緒 主演といっても、何をしていいかまずわからなくて(苦笑)。スケジュールを見ると、自分が出ているところにずっと○がついているんです。全部に○がついていたから「えっ。私、すごい出るんだ」みたいな感じで(笑)。

――(笑)。実際に現場に入ってから、気づいたことはありましたか?

奈緒 主演がどういうことなのか、この映画で教えてもらえました。私が引っ張っていくというより、「おはようございます!」と朝、私が元気に入っていくと、みんなも元気そうだし、私が笑っていると、ちょっとピリついても、みんなも笑ってくれたりとかして。「ああ、主演ってそういうことなんだ」というのは、すごく空気で感じました。みんなが私を主演にしてくれている感じがしたので、「だったら笑っていたい」と強く思いましたし、今後ももし主演をやる機会があれば、そうしていきたいと思っています。

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――そんな奈緒さんでも、さすがにいっぱいいっぱいになった瞬間はあったんでしょうか?

奈緒 どうですかね!? え~っと……(場面写真を見て)あ、この窯焚きのシーンですね……! ここは、私から笑顔が消えた瞬間だと思います(笑)。火を扱うので、安全面などいろいろ確認事項もあり、現場もピリピリしていたんです。それに、窯焚きの工程は焼き物の中でもすごく大事なところなので、大切にしたいからこその、「本当にこれでいいのか?」という話し合いもたくさんしました。監修の備前焼の先生たちも見に来てくださっていたので、緊張感が一番ありました。余裕は、本当になかったです。

ハルカの陶

――その甲斐あってと言いますか、はるかの成長が刻まれている、非常に印象に残る素敵なシーンに仕上がっています。

奈緒 ありがとうございます。炎がやっぱりキレイですよね。このシーンに入る前、私がすごく考え込んでいるのもあって、先生たちがすごく心配して声をかけてくださったんです。「大丈夫ですか? 窯焚きはすごく熱いと思うんですけど、この熱さは、窯が頑張って焼き物を焼いてくれている、いい熱さなんです。頑張ってくれている熱さだって、自分たちは思っています」と言われたときに、確かに窯も頑張っていて、はるかさんも頑張っていて、一緒になっているのがこのシーンなんだな、とすごく思って。だから、はるかさん自身はすごく苦しそうではありますけど、いいシーンになったと思っています。(取材・文=赤山恭子、撮影=映美)

ハルカの陶

映画『ハルカの陶』は2019年11月30日(土)より、ユーロスペースほか全国ロードショー。(10月25日イオンシネマ岡山先行公開)

ハルカの陶

出演:奈緒、平山浩行、村上淳、笹野高史 ほか
監督・脚本:末次成人
公式サイト:harukano-sue.com

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※2021年7月25日時点のVOD配信情報です。

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  • Ryoma
    4.3
    備前焼に人生を懸ける人の熱い思いがこれでもかと伝わってきた。“大変“という言葉で括ってしまうと陳腐に聞こえるけれども備前焼ができる過程を見ていると本当に途轍もない精神力と努力、熱い思いが注がれていることがわかる。 映画に限らず今後、絵画や小説など色んな作品を見る上で見る目が変わりそう。 伝統工芸品やアートなど、興味がないと思っていたことにも触れてみることはやはり大切で、人生を左右するようなかけがえのない出逢いや世界への見方が大きく変わることもあるんだなと。 そして、何かに打ち込む人の姿はやっぱりカッコよくて輝いていて美しい。 何かを始めるのに遅いことなんてきっとない。
  • 星空文乃ぶんぶん
    3.4
    奈緒ちゃん主演作を。 陶芸展にて展示されていた備前焼に感銘を受けて作者のもとへ弟子入り志願しに行く話。 さすがにアポなし直談判は迷惑なんじゃないかと思ってしまった。 会社も辞めて来たんです!って知らんがなって話よね笑 色々勝手過ぎるハルカに最初は呆れてしまった。 人間国宝役の笹野さんのおかげで居させてもらえることに。 めっちゃいい人だったなー。 さすが人間国宝! 自分のしたいことはこれだ!と決めて頑張る姿はキラキラしていたし、かっこよかった。 2023年178本目。
  • ここ
    5
    とても素敵な映画でした。 備前焼が大好きになった映画です! 奈緒さんの演技がとても良かったです。
  • 830
    -
    ベタな感じ 主人公にいらっとするのはわたしだけではないはず
  • だしなか
    3.8
    ハルカのはい!に自信がどんどん出てきてよかった。 ストーリーは特に目新しいものではなかったがいい作品だと思う。
ハルカの陶
のレビュー(478件)