何度も耳にしてきたあのメロディーに、思いがけず映画のワンシーンで再会する。大好きだったあの曲が、より一層大きな感動を伴って押し寄せる。映画ファンなら、きっとそんな経験があるはず。そう、映画館は美しい名曲たちに出会うことができる場所だ。
今回は、FILMAGA編集部と筆者が選ぶ「映画で蘇るあの名曲」プレイリストをご紹介。映画のなかで印象的に使われていた、ちょっと古めの名曲をお届けします。
映画『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』より
ドニー&ジョー・エマーソン「Baby」

ドニー&ジョー・エマーソンは、奇跡の音楽デュオだ。レコードショップも映画館もないワシントン州の田舎町で育った少年ドニーは、ラジオから流れてくるポップスに心奪われ、ギターの練習や作曲に取り組むようになる。やがて兄のジョーとドニー&ジョー・エマーソンを結成し、父親に作ってもらったスタジオで楽曲を制作。1979年にアルバム「Dreamin’ Wild」をリリースした。
「リリースした」といっても、プレスされたのは2000枚程度。音楽で身を立てたいというドニーの想いとは裏腹に、日の目を見ることなく彼らは時代に埋もれてしまう。だが30年後、音楽コレクターによって「Dreamin’ Wild」が未発掘の名盤として紹介され、思いがけないかたちで再評価されることに。映画『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』(2022年)は、そんなドニーたち家族の実話を元に描いたドラマだ。
映画にはドニー&ジョー・エマーソンの楽曲が数多く登場するが、特に印象的なのがユニクロのCMにも使われた「Baby」。いかにも’70sな感傷性に満ちた甘いバラードが、映画を美しく彩っている。
映画『ロボット・ドリームズ』より
アース・ウィンド・アンド・ファイアー「September」

マンハッタンの片隅で孤独を抱えるドッグが、購入したお友達ロボットと友情を育んでいく『ロボット・ドリームズ』(2023年)。サラ・バロンによるグラフィックノベルを元に、パブロ・ベルヘル監督がセリフなし・ナレーションなしでアニメーション映像化した本作は、日本でも大きな話題を呼んだ。
この『ロボット・ドリームズ』で印象的に使われていたのが、アース・ウィンド・アンド・ファイアーの「September」。「Let’s Groove」や「Boogie Wonderland」、「Fantasy」など数々のヒットソングを擁する彼らのなかでも、特に有名な一曲。小気味いいギター・カッティングで幕を開け、「Do you remember?」というAメロになだれ込む展開は、いつ聴いてもアガる。
ちなみにタイトルは「September」だが、実際には9月のことを歌った曲ではない。「9月のあの夜、僕たちは一緒に踊ったね」という思い出を歌った、12月の曲だ。だからこそこのディスコナンバーは、ドッグとロボットがいつでも「あの頃の2人」を思い出せる、大切な一曲となったのである。
映画『コーダ あいのうた』より
ジョニ・ミッチェル「Both sides now」

聴覚障害の両親と兄を持つ女子高校生のルビー(エミリア・ジョーンズ)が、音楽の才能を認められ、歌うことに情熱を見出していくヒューマン・ドラマ『コーダ あいのうた』(2021年)。フランス映画『エール!』(2014年)をリメイクした本作は世界中で絶賛を浴び、第94回アカデミー賞(R)では作品賞、助演男優賞、脚色賞を受賞した。
マーヴィン・ゲイの「Let’s Get It On」、アイズレー・ブラザーズの「It’s Your Thing」、タミー・テレル&マーヴィン・ゲイの「You’re All I Need To Get By」…。この映画では、ルビーが様々なクラシック・ソウルを歌うシーンが登場する。そしてクライマックス、バークリー音楽大学の入学試験で彼女が歌うのは、「Both sides now」(日本語タイトルは『青春の光と影』)。シンガーソングライターのジョニ・ミッチェルによる、美しくも力強いバラードだ。
「人生を両側から見てきた」。この歌詞をルビーが口ずさむと、まるで聴覚障害を持つ家族と、健常者としての自分の両方の世界を表しているように思える。どちらも彼女にとって、大切な世界。映画のためにボイストレーニングを9か月受けたというエミリア・ジョーンズの歌唱が、観る者全ての心を打つ。
映画『aftersun/アフターサン』より
クイーン、デヴィッド・ボウイ「Under Pressure」

11歳の少女ソフィ(フランキー・コリオ)が、父親のカラム(ポール・メスカル)と2人きりで過ごした夏休み。映画『aftersun/アフターサン』(2022年)は、在りし日の父と娘の思い出を繊細なタッチで描いた、シャーロット・ウェルズ監督による自伝的作品だ。
バカンス最後の日、父と娘がダンスを踊る場面でインサートされるのが、クイーン&デヴィッド・ボウイによるロック・ナンバー「Under Pressure」。全英シングル・チャートで1位を獲得した大ヒット曲で、ヴァニラ・アイスが1990年に「Ice Ice Baby」でサンプリングしたことでも知られている(だが無許可だったために、裁判沙汰になってしまった)。
「重いプレッシャー、路頭に迷う人々」。強烈なライトが明滅する空間でこだまする、フレディ・マーキュリーとデヴィッド・ボウイの歌声。明らかに死の匂いが濃厚に漂っているこの映画で、「Under Pressure」は父親カラムの精神的葛藤を表している。イントロで流れる、あのあまりにも有名なベースラインが、脳裏に焼きついて離れない。
映画『PERFECT DAYS』より
ルー・リード「Perfect Day」

巨匠ヴィム・ヴェンダース監督が、トイレ清掃員として働く男の日々を描いた『PERFECT DAYS』(2023年)。この映画の主人公・平山(役所広司)はカセットテープで古い音楽に耳を傾ける。アニマルズの「The House of the Rising Sun」、オーティス・レディングの「(Sittin’ On)The Dock of the Bay」、ニーナ・シモン「Feeling Good」…。そして、タイトルの由来になったルー・リードの「Perfect Day」。
1972年リリースのアルバム「Transformer」に収録されているこのナンバーは、ルー・リードが当時のガールフレンドと過ごしたある一日が歌われている。公園でサングリアを飲み、動物園で餌やりをして、映画を観て、家に帰るだけの、何気ない、それでいて完璧な一日(Perfect Day)。ここにはミニマルで穏やかな日常が流れている。
映画もまた、決まった時間に起床して、作業着に着替えて、仕事に出かけて、木漏れ日を眺めながら弁当を食べる、十年一日のような平山の日々を丹念に追っていく。同じようでいて、ちょっとずつ違う毎日。生活のディテールが丁寧に描かれているからこそ、そこには美しいきらめきがある。
映画『ジョジョ・ラビット』より
デヴィッド・ボウイ「Heroes」

第二次世界大戦真っ只中のドイツを舞台に、10歳の男の子ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイヴィス)の成長と冒険をユーモアたっぷりに描いた感動作『ジョジョ・ラビット』(2019年)。
周囲からはいじめられてばかりで、話し相手は親友のアーチーとイマジナリー・フレンドのアドルフ・ヒトラー(タイカ・ワイティティ)だけの彼は、それでもヒトラー青少年団の一員になろうと毎日奮闘中。そんなある日、家の屋根裏で発見したユダヤ人少女エルサ(トーマシン・マッケンジー)との出会いをきっかけに、軍国少年だったジョジョの心に少しずつ変化が芽生えていく。
この映画のラストに流れるのが、デヴィッド・ボウイ「Heroes」のドイツ語ヴァージョン。元ロキシー・ミュージックのメンバーで、アンビエント・ミュージックを代表するミュージシャンでもあるブライアン・イーノと共作したナンバーだ。曲のテーマについて、デヴィッド・ボウイ自身は「現実に直面し、それに立ち向かうこと」「人生に喜びを見出すこと」であると説明している。それはまさに、ジョジョとエルサの未来そのもの。映画は、詩人リルケのこんな言葉で締めくくられるのだからーーー「すべてを経験せよ。美も恐怖も。生き続けよ。絶望が最後ではない」。
※2025年1月25日時点での情報です。
