見れば見るほど謎が深まる天才写真家の映画!『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』

ARC監督/脚本/映画祭ディレクター

篠原隼士

第87回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた作品『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』が10月10日より、東京渋谷のシアター・イメージフォーラムを封切りに全国で順次公開されています。

今回は知れば知るほど謎が深まる魅惑の天才女写真家ヴィヴィアン・マイヤーやこの作品についてご紹介していきます。

『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』とはどんな映画なのか

ヴィヴィアン・マイヤーを探してポスター画像

2007年、シカゴ在住の青年がオークションで大量の古い写真のネガを手に入れることから物語は始まります。

その一部をブログにアップしたところ、熱狂的な賛辞が寄せられ、この発見を世界の主要メディアが絶賛!発売された写真集は全米売上No.1を記録、NY・パリ・ロンドンでいち早く展覧会が開かれるや人々が押し寄せました。

撮影者の名はヴィヴィアン・マイヤー。しかし彼女は15万枚以上の作品を残しながら、生前一枚も公表することがありませんでした。なぜ彼女にこれほど優れた写真が撮れたのか?なぜ誰にも作品を見せなかったのか?その謎に迫るドキュメンタリー映画です。

監督は写真の発見者張本人!

あるオークションで大量の古い写真のネガを手に入れたジョン・マルーフ監督はその写真を「気になる写真だったので捨てなかった。」と言っています。

彼はそれから2年後、試しに200枚程度をブログにアップしたところ、とてつもない反響を呼んだのです。そこでマルーフ監督は「この写真は重要な写真である」と理解し、すぐに美術館などに問い合わせ、展示会を申し出たそうですが・・・全滅。彼は自ら展示会を開くことを決意しました。

生前一枚も発表されなかったヴィヴィアンの写真を“作品”へと変えたのはブログにアクセスし、彼女の写真を素晴らしいと称賛した人々だと思います。そしてこのことに真剣に向き合い、行動した人がいました。

彼女は一気に大物写真家として名を轟かせたのです。この運命のような出会いとたくましい行動力により世界が動いたのだと感じました。そして何より、この映画が誕生したすべての原点は「ヴィヴィアン・・・あなたは何者なの?」という探究心であるとも感じます。

ヴィヴィアン・マイヤーとは結局何者?

生前一枚も写真を発表しなったことから、作品として写真を撮っていたのではないという見解のもと彼女を読み解いていくように感じますが、ある瞬間衝撃的な写真が見つかります。こちらです。

ヴィヴィアン本人のセルフポートレートです。この写真を見て、マルーフ監督は「セルフポートレイトは彼女が自分をアーティストとして考えていたということの証拠であると思います。」と話しています。そしてアーティストは作品を見てもらうことを前提に撮るという考えも出てきます。

ヴィヴィアンはナニーだった

ナニーというと、ベビーシッターよりもはるかに子どもたちに密着する仕事で、一対いつ写真を撮ったんだ?と疑問符が浮かびます。

ナニーだったと聞くと心優しい人だったんだろうなと勝手に想像してしまいがちですが、インタビューではひどい扱いを受けたと証言する人物が現れます。

ますます謎は深まります。「ヴィヴィアン、あなたは何者なの?」

ヴィヴィアンは、新聞を手本としていた・・・?

「写真のお手本を新聞にして撮っていたのでは」とマルーフ監督は語ります。映画の中ではヴィヴィアンの部屋は新聞が山積みなっており天井が抜けたというインタビューがあるほどです。

更に監督は、彼女が興味を持っていたのはただのニュースではなく、何かストーリーを語るものであり、犯罪、グロテスクな事件、人間の愚かさが露呈したような記事といったものでしたとも答えています。

「ヴィヴィアン、あなたは何者なの?」

探究心をくすぐられ続ける83分間

前記に記した通り、何者なのか謎が深まる一方です。ヴィヴィアンが写真を撮るとき構図や仕草まで指示をしていたと答える人物もいれば、そんなことはない、ヴィヴィアンは急にシャッターを切るから毎回驚かされたと答える者もいます。

ヴィヴィアンを知る人物のインタビューで構成される本作は、人から得た情報でヴィヴィアンを露にしていくのか・・・と思いきやそうならない。ここが見どころです。

私個人の意見ですが、ドキュメンタリー映画の素晴らしさはアンサーを出せないこと

その代り、探究心をものすごくくすぐられることです。もう亡くなってしまった人のことは迷宮入り。83分という限られた時間で、誰かの人生を解き明かすことは不可能です。しかし、一対どうして?なぜ?もっと知りたいという探究心と興味は止まらないことでしょう。

なんせ、ほんとに謎大き人ですから。

みなさま是非、探究心をくすぐられに映画館へ。きっと帰りの電車で彼女のことを調べられずにはいられなくなります。

記事をシェア

公式アカウントをフォロー

  • RSS

  • ヒメ
    3.8
    監督 ジョン・マルーフ ピカソもダヴィンチも 最初は笑われたらしいけど個人的には 不要な情報もあったかな "鋭い感性は時に衝突を招く" 芸術家は変わり者が多いというし 人を悪く言いすぎでしょな人も出てきて (その人こそ髪ボサボサ服のセンス皆無 相当ヘンテコだったもん) アマチュアストリートフォトグラファー ヴィヴィアン・マイヤーの写真が 世間に知れることになった経緯は おもしろかった。あたたかい写真もあるし "生きることの不条理や人間の負の側面を 写してる" 写真もあって、 もっと写真を観たかったなー あとローライフレックスを触ってみたい 先日AWA展行って本を買ってきたけど 会場のよりもっと詳しく解説されてた💓 (確実に世界を旅したくなるけど) 絵画も写真もこんな風に掘り下げてくれたら うれしいですね➳♥ https://awa2023.jp/
  • tulpen
    3.8
    何がいいってこのチラシがいい! ヴィヴィアン・マイヤーの顔がいい。 彼女の撮った写真がまたいい! 静岡シネギャラリーにて。 2016 3本目 通算1406
  • 松井の天井直撃ホームラン
    -
    ↓のレビューは、以前のアカウントにて鑑賞直後に投稿したレビューになります。 ☆☆☆★★★ 大量に撮り貯めたネガ。おそらく本人には(その芸術的な)価値が分かっていながらも、どうする事も出来ないでいたと思われる。 専門家曰く。 「最後の(どうしたら良いかの)一押しが分からなかったのだろう」 その為に彼女の作品は、生涯世に出る事が無かったはずだったのだが…。 映画は謎に満ちた彼女の生涯を追い掛ける為に、彼女を知る人物達にインタビューする。観客にはそれらのインタビューによって彼女の人となりを知る事になる。 人によっては“変な人“。別の人から見ると“愉快な人“。 フランス人だ!、嫌違う!のやり取りを交互に編集するなど、本当に「どんな人だったのだろう?」と興味が沸いて来る。 思わぬ出逢いから彼女は一躍有名人へと変貌するのだが、本質的にはやはり【偏屈な人】であり、とにかく【収集癖】の烈しい人。 嫌!物を捨てられ無い人…と言った方が適切か。 物が捨てられ無いのは、何だか今の自分を見てるかのようだ(鬱) 友人もおらず(インタビュー等から)男性には嫌悪感を抱き、結婚もせずに生涯独身だったヴィヴィアン。 その最期は哀しい生涯幕の閉じ方だったのだが…。 何故だろう映画を観終わった後のこの幸福感は。 (2015年10月10日/シアター・イメージフォーラム/シアター2)
  • MH
    3.5
    ①2016/03/21 字幕 立誠シネマ
  • odyss
    4
    【知られざる女性写真家】 生前には知られることのなかった女性写真家ヴィヴィアン・マイヤーの作品や生涯を紹介したドキュメンタリー。 私はこの映画を見るまでヴィヴィアン・マイヤーの名前すら知らなかった。 その作品は市井の人物を撮ったものが多数で、人間の多様な側面を捉えている。写真だけでなく、8ミリや16ミリのフィルムも残されている。 彼女の生涯だが、一生独身で、家政婦やナニーなどの仕事をしながら生計をたてていたという。(この映画にはナニーとしての彼女を知っている人物の証言も収録されている。)NYの生まれだが、母はフランス人で、彼女自身もルーツを求めてか母の出身地であるアルプスに近いフランスの寒村を訪れ、写真も撮っている。 知られざる写真家の作品、そしてその生涯を探索しつつ紹介したドキュメンタリーとして、非常に興味深かった。 写真好きの人はもとより、人間の生き方や表現への欲求について考えたい人にもお薦めである。
ヴィヴィアン・マイヤーを探して
のレビュー(2825件)