【ネタバレあり】上田誠『君は映画』撮影日誌《撮休・10日目・11日目》

FILMAGAでは、2026年6月19日(金)公開の映画『君は映画』上田誠監督による撮影日誌を連載形式でお届けします。

※本記事は映画『君は映画』監督・上田誠氏による制作日誌です。
※※本記事には『君は映画』のネタバレを含みます※※


(C) ヨーロッパ企画/トリウッド 2026

9月10日(撮休)

休み!
休みなんだけど、台本とにらめっこして撮りこぼしがないか確認。
撮りこぼしがとにかく怖い。
「マカマ」「カマカ」のところとか、ジョイントのとことか。
なんとなく一日が過ぎてしまった。

そして撮りこぼしを結局していたことが、編集のときに分かった。
なんとかなりました。

9月11日(撮影10日目)

シーン16 マドカが三日月ロックに駆け込むも、空っぽ

この日は、これまでに撮りそびれていたパーツをチマチマ撮っていく。
地味にしんどい。俳優もたぶん混乱する。
最初から最後まで、回想を除けばずーっと、時間が途切れず続いている映画なんです。
なので演技のつながりが大事で、でもテンション忘れてたりして。
とくにマドカの撮影が、飛び飛びのシーンになるから、セコンドにつくように。
そしてちゃんとつながるのだから凄いものです。

トリウッドでカズマのピンチを見たマドカが、思わず三日月ロックへ駆け込むも、マドカサイドの三日月ロックは空っぽ。そしてトリウッドへ戻るとまた、スクリーンの中ではカズマのピンチが続いている、というシーン。
映像出しが前後に絡んで、わりとシビア。
映像の中の騒がしい三日月ロックと、実際のがらんどうの三日月ロックの対比が不思議で面白い。
じつは台本長いからがカットしようとしてたけど、残してよかった。

「シーン10のカズマのリアクションって撮ったっけ」という話になり、みんな記憶が定かじゃなくて紛糾したあげく「撮った撮った!」と思いだした。
シーン9を撮ったとき、そのまま10まで撮ったのだった。
もうどこを撮ったのかみんな分からず、思い出しあい。
クルーがポンコツなわけでは断じてなく、誰でもそうなる。

シーン27マ トリウッドに両チームがなだれ込む

マドカサイドクロージング。
ついに魔のシーン27が、これで埋まる。
酒井さんと旺志郎さんのフォースバトル。前に撮った、カズマとミコシバのバトルを見守る映像と、バッチリ目線もタイミングもあった。すばらしい。

ヤマモトとシホの絡み、コメディになりすぎないよう、塩梅に気を付ける。
ここまでコメディやっておいて何が塩梅だ、とお思いでしょうが、節度はやっぱり大事なんです。
パーツを撮れるだけ撮って、思い残すことなくシーン27埋まり。
ここで、旺志郎さんと菊池さんもクランクアップ。

シーン26マ マドカ、ヤマモトにパンフをオーダー

カズマサイドの超展開を見ながら、マドカがヤマモトにパンフを頼むところ、そしてヤマモトが戻ってくるところ。
つながりが怖いので、「奥カミメ」と「奥シモメ」の2パターン撮る。
いまこの日誌は、当時のメモを見返しながら書いているのだけど、「奥カミメ」と「奥シモメ」が何のことだったかもう忘れた。

シーン17マ マドカ「こっちこっち」「そう、そう」「いいよー」

マドカがスクリーンに対して思わず身を乗り出すの、面白い。
演出楽しい。
万理華さんはギミックエンヌでありながら稀有なコメディエンヌでもあって、この映画に、アンビエントすぎずテーマパークすぎもしない、生成的かつチャーミングな演技トーンを持ち込んでくれた。
これがスモーキーなカズマサイドと、とてもよい対比になっている。
前後のつながりは、撮った映像をみて思い出しながら合わせていく。

シーン6マ スクリーンの中で階段を登ってくるカズマに、ギョッとするマドカ

映像の中で、カズマが階段を登ってトリウッドへやってくる。
そのスクリーンからパンして、マドカにカメラを振ると、ギョッとするマドカ。
とてもいい。スクリーンからのパンは、やっぱり面白いし、値打ちがある。
スクリーンをできるだけ絡めたい。

シーン14マ マドカ、「ミコシバ緑道にいるやん」というリアクション

今日はこんな細かいシーンばっかり。
「いるやん」と関西弁なのは、万理華さんと芝居の打ち合わせをしてるときに「いるやん」と自然に関西弁が出たから。
万理華さんも元々は関西人なのだった。

シーン22 トリウッドで、カズマとミコシバの解散シーン

最後に急にヘビーな芝居場。
カズマとミコシバの、別れ話のようなシーン。
マドカとシホの、前後のシーンも見てもらい、雰囲気を感じてもらう。
スタッフの空気もだんだん、ワイガヤから静謐(せいひつ)な感じになってくる。

カズマとミコシバの座り位置は、隣同士ではなく前後にした。
これは僕のアイデアではなかったけど、たしかにそれがいい。
そして、撮影助手の平井さんと相談した結果、ミコシバにあえて一度もピンを送らない(つまりフォーカスはずっとカズマに合いっぱなし)ことにした。
ここも、自分はバンドをやってこそないけど、集団創作にまつわる思いを乗せた場面。井之脇さんも、そして金丸さんも、ほんとに胸苦しいような芝居をしてくれた。

金丸さんクランクアップ。
映画は初めての金丸さんだったけど、勘が非常によく、映像のお芝居いいですね、と、色んな人からお褒めをいただいた。
ちなみにヨーロッパ企画メンバーでいうと、今回はリアリティのグラデーションを意識した配役にしてあって、藤谷さんと金丸さんがもっともリアル寄り、酒井さんがもっともフィクション寄りとなっている。

この日は、なにげに重たく、苦しい撮影だった。
こういう帳尻合わせみたいな日もある。
詰将棋みたいに、全体がいよいよ大詰めである。

9月12日(撮影11日目)

シーン20 マドカが佇むトリウッドに、作業員がくる

撮影最終日!

トリウッドで、傷心のマドカへ、作業員(永野さん)の大長台詞。
から、マドカが外へ出て、グッドヘブンズへ向かい、それを演劇ファンの酒井さんが向こうから見ていて、オペラグラスで空を見上げる、まで。

ここもまた高難易度シーン。難易度の低いシーンがない。
永野さんがスクリーンに飛び込む角度の合わせこみや、シンプルに台詞そのものの難しさ、最後の壁シャッター、とかいろいろと大変。
壁シャッターというのは、壁を一瞬アップで映す(シャッターする)ことで、前後の長回しを繋ごうという目論見です。
「ドロステのはてで僕ら」も、あれは70分ワンカットに見えますが疑似ワンカットで、このシャッターつなぎを多用しています。

何度もテイクを重ね、どこかでミスが出て、3時間の予定が4時間かかってしまう。
みんな根気よく付き合ってくれている。万理華さんも集中を切らさない。
どうにか撮り終え、酒井さんがクランクアップ。
このあと雨が降らないうちに次のシーンを撮りたいのに、酒井のスピーチが長い!

シーン4 三軒茶屋を歩くカズマ

最終日にして、カズマのファーストシーン。
撮影3日目に、ステディカムがなくて、仮に普通のカメラで撮っていたのを、ステディで撮る。スケジュールが捻出できたので。やっぱりステディはいい。
さすがにもう段取りも済ませているので、早い。そして堂々たる芝居と撮影。
雨も降らないうちに、ギリセーフ!

シーン30 作業員とのエレベーター前のシーンから、映画館まで

ここも難易度が高い。
作業員が、マドカとカズマをエレベーターホールで説教するシーンから、エレベーターへ乗り込むすったもんだがあり、エレベーターで2階へ上がって、メタレベルの世界へ。そこからトリウッドに入り、ヤマモトにもぎってもらって、映画館へ。
この一連をワンカットでやる。

エレベーターにカズマとマドカと、スタッフも数人乗り込んでの撮影。
エレベーター操作や、アイリス(レンズの絞り)の調整、カメラワークも難しく、人止めもある。
演出助手の濱本さんが、手際よく人を捌いてくださっている。
関西では名うての助監督であり、監督でもあるそうで畏れ入る。

さらに、トリウッドの廊下の自販機のコーラが、撮影期間中にスタッフたちによって売り切れてしまい、この期間は補充がこなく、つまり「売り切れ」のランプが点ってしまって今までのシーンと繋がらなくなる、というトンチキハプニング。
まあ、テープを貼ってごまかす。

映画中に出てくるカズマのTシャツ制作に関わってくれた、刺繍のBEBIさんと、撮影のMadさんが見学に来てくれた。
このTシャツは、僕が万理華さんに「イラストをお願いします」と頼んだもので、そうすると万理華さんは、イラストよりもフォトTがいいと思う、と言い、どうせなら海くんの写真も絡めよう、そして万理華さんの友人クリエイターたちにも刺繍や撮影で関わってもらって…と、海くんや周りを巻き込んで、思わずどでかいプロジェクトにしてくれたのだった。
思えばこれは大変有意義な、撮影前の共同作業をしてくれたと思う。
いいTシャツが作れたこともそうだけど、万理華さんと海くんでひとつのものを作る、という時間は、きっと撮影にもよく作用してるだろう。
読み合わせもなく、いきなり撮影がはじまって、しかもマドカとカズマは最後まで絡まないような撮影だっただけに。
感謝にたえません。スタッフTシャツにもさせてもらった。

シーン30の撮影も、時間はかかったけどいいのが撮れた。
海くんが「永野さんが面白すぎます」と言っていた。
永野さんには色々アドリブもしてもらっていて、エレベーターが閉まっても聞こえるスネ声は、笑いをこらえるのが大変だったらしい。
そんな永野さんと、諏訪さんも、クランクアップ。

オンリー録り

ここで確か、マドカとカズマのモノローグを撮ったんだったと思う。
初日にも仮で撮ったけど、改めて。

台本で、古着屋CHICAGOの前振りを全然していなく、まあ別にいいかと思っていたけど、急になんだか唐突に思えてきて、せめてモノローグで振っておくべく、セリフを書き足して録音。
かなりあけすけに伏線っぽく足したバージョンも書いてみて、僕が「スケベなんですけど…」とおずおず言うと、録音の桐山さんは「スケベですねー」とニヤニヤ言い、万理華さんも「スケベだ」と言った。
恥ずかしくなって、さすがにそのバージョンは使わなかった。

録音の桐山さんは、なんていうかヤンチャにも見えるんだけど、その実めちゃくちゃな音マニアで、撮影の局面局面でずいぶん頼もしくいてくださった。
日本語の細かなイントネーションや、言葉の慣用や誤用について、常に僕よりも鋭敏で、音については何も心配しなくてよかった。
録音助手の三門さんとの師弟関係もよくて、その三門さんは、スタッフTシャツを着てくるタイミングを一人だけ間違えつつも(一日早かった)、整音ではセリフをきれいに粒立ててくださった。
たしかに台詞が聞こえないと、面白さが目減りしてしまう映画なんです。

シーン31 トリウッドでの最後のふたり

最終日のラストカットであり、映画のラストカットでもある。
スケジュール演出が完璧だ。

予定では、このシーンを撮り終えるとオールアップ、で、そのあとみんなで隣のグッドヘブンズへ移動して、ほかのキャストたちもやってきて、そのまま打ち上げ、というまさに天国行きコース。

だったんだけど、この日は色々押していたことにくわえ、「ラストシーンは気が済むまでやりましょう」というスタッフさんたちの言葉を僕が真に受け、ここから10カット撮ることに。予定ではせいぜい半分くらい。
隣ではすでに打ち上げが始まっているなか、トリウッドで終わりなき撮影をしてしまった。
P陣は「まじかよ」ってなってたと思う。
ほんとにすみません、やらせてくれてありがとうございます。

ここで「まじかよ」となりつつ、でも上田さんが納得するまでやってください、と顔を歪めながら言ってくれたのは、こさささんと共に関わってくれたプロデューサー、方波見さんだ。
方波見さんは主に、支度場や俳優部のほうをケアしてくれていた。
竹岡さんと、エグゼクティブPの大槻さんもそうだ。
他にも撮影の裏では、宣伝部の平井さんや、スチールの濱田英明さんが、スケジュールを縫うようにしてキャストの写真を撮ってくださっていた。
自分が見えているところはごく一部で、それぞれがそれぞれの持ち場で『君は映画』を善き方向へ動かそうとしてくれている。

シーン31はもう、ギミックも特になく、ひたすら良い画を撮るべきシーン。
撮影の和田さんと、普段は監督のこさささんが、僕よりもアイデアやセオリーをたくさん持っているので、おふたりに意見をもらいつつ、カット割りを決めていく。
撮影は1カット1カットちゃんと重くて、10回、テストを入れるとその倍、芝居を繰り返す。ラストシーンなので、万理華さんと海くんの集中も途切れない。
これ以上ないようなテイクが重ねられ、撮影現場がなんだか神がかった空気を帯びはじめる。こわい。

ラストカットで、照明の月岡さんが、映写室から光を入れてくれて、そしたら画が凄いことになった。奇跡みたいなことが僕の映画で起きている。
こわい。さっきからずっと怖い。もう早く終わりたい!

終わる空気をかぎつけて、隣の打ち上げ会場からもキャストたちが集まってきた。打ち上げと撮影が入り混じった、めちゃくちゃ変な現場だ。
全員見守るなか、よさそうなラストカットが撮れ、各所おごそかに確認したのち、「…OKです!」と宣言。オールアップ!
トリウッドにキャストスタッフ全員が集まり、万理華さんと海くんのコメント、そして上田のコメント。
感動よりも、ほっとしたことの方が大きい。
そしてそれよりも、「面白かったー!」「めちゃくちゃ不思議な時間の不思議なトリウッド!」みたいな感想のほうがさらに大きい。マジカルだった。

最終日は、予定より4時間押しでした。押しすぎだ。
グッドヘブンズへなだれ込み、打ち上げ。
撮影に協力的だったママさん、打ち上げでもよくしてくださる。
さらにスタッフも、片付けを終えたセクションから合流して、夜更けまで打ち上げ。時空のねじれから解放されたみんな、大賑やか。
名残惜しい人たちと、「とりとんくん」で、朝まで。

初監督の現場日誌でした。
書ききれてない、映画の立役者はまだまだたくさんいます。

あらゆるジャンルをまたいだカラフルな音楽を、山ほど作ってくださった青木慶則さん。
映画の後半を天才CGで飾ってくれた、大見さん。
ミラクルなタイミングで、映画とちょうど同じコンセプトの楽曲を僕に送ってくださった、mooolsの酒井さん。
よすぎて逆オファーしまして、映画の主題歌にさせてもらいました。
Analogfish × mooolsの「Heisei Imokempi Ondo」というギミックロックです。

かわいらしくもギミッキーな宣伝ビジュアルを作ってくれた、東かほりさん。
あの手この手でヒットを画策している、宣伝チームの砂本さんと田村さん。
メイキングを撮ってくれたお笑い特級呪物、岡村くん。
渾身の予告編を作ってくれた淳太さん。ホームページの宇髙さん。
トリウッドの頼もしすぎる爆速処理デスクの山本さん。
三日月ロック、グッドヘブンズ、CHICAGOのスタッフの方々。
助手の皆さまや、関わってくれた皆さま、配給の東宝チームさま。
海外展開してくれているアダム。
不出演の中川さん(音声ガイドありがとうございます)。

そしてお客さま。
君は映画です。みんな映画だ。

◆作品情報


作品タイトル:『君は映画』
出演:伊藤万理華 井之脇海
藤谷理子 金丸慎太郎
前田旺志郎 菊池日菜子 金子鈴幸 三河悠冴 今井隆文 / 尾関高文(ザ・ギース) 高佐一慈(ザ・ギース)
石田剛太 酒井善史 土佐和成 角田貴志 諏訪雅 永野宗典
監督・脚本:上田誠
製作:トリウッド ヨーロッパ企画

配給:TOHO NEXT、トリウッド
公式HP:https://www.europe-kikaku.com/kimiei
X・Instagram :@kimihaeiga0619

FILMAGAでは上田誠監督による『君は映画』制作日誌を連日公開予定。

◆予告

(C) ヨーロッパ企画/トリウッド 2026

※2026年6月16日時点の情報です。

 

公式アカウントをフォロー

  • RSS