俳優と監督の取り合わせで、ゴールデンタッグと親しまれているペアがいくつか存在する。ロバート・デ・ニーロとマーティン・スコセッシ、ジョニー・デップとティム・バートン、ソン・ガンホとポン・ジュノなど、挙げればきりがないわけだが、パク・ジョンミンとヨン・サンホも、そんなゴールデンタッグとして呼びたくなる1組だ。
二人の初めての作品は、2018年の映画『サイコキネシス -念力-』だった。その後はヨン監督が脚本・漫画原作も務めたNetflixの人気シリーズ「地獄が呼んでいる」でも共闘し、大きな話題を呼んだ。そして本年、最新作『顔 -かお-』にて、パクは一人二役で主演を務めた。本作はヨン監督が『新感染 ファイナル・エクスプレス』の前より「ずっとチャレンジしてみたかった」という、人間の心の内を鋭くあぶる極上のサスペンス・ミステリーとなっている。
FILMAGAでは、プロモーションのため来日したパク&ヨン監督にロングインタビューを実施。監督、俳優としての互いの魅力や本作でのチャレンジングな出来事、そして大好きな日本の作品や俳優、監督にいたるまで多岐にわたり語り合ってもらった。

まずはヨン監督に。『新感染 ファイナル・エクスプレス』(以下、『新感染』)や「地獄が呼んでいる」などでは社会の暴力を描いてきましたが、『顔 -かお-』は人間の内部に迫った静かな作品です。この題材を撮ろうと思ったきっかけから教えてください。
ヨン監督:『顔 -かお-』の台本を最初に書いたのはだいぶ前で、2014年くらいでした。ちょうどそのときは『我は神なり』を作っているときでした。当時は次の作品として、インディペンデントのアニメで『ソウル・ステーション/パンデミック』か『顔 -かお-』のどちらにするかを考えていたんです。だけど、周囲の方たちから「社会的な作品が多く続いているから、次はジャンルものをやってみたらどう?」と言われて、『ソウル・ステーション/パンデミック』を撮ることになりました。それがのちの『新感染』に自然とつながっていったんですが。そして『新感染』が予想外のヒットをすることになり、その後は実写を長く撮ることになりました。いわゆる大作が中心に続くことになったんです。『顔 -かお-』を映画化するのは難しいんじゃないかなと思いながら、漫画でずっと描き続けていました。
それからも本当にいろいろな作品を撮りながら、マーケットに好まれるような作品ばかり撮っているのではないかと、私の中には渇きのようなものがあったんです。当時、私はちょうど黒沢清監督やエドワード・ヤン監督など、アジアの巨匠の作品を多く観ていたころでもありました。そのころNetflix「ガス人間」も書いていて、監督を探している中で、東宝から片山慎三監督を紹介されたんです。片山監督の『岬の兄妹』や『さまよう刃』を拝見して、中でも『岬の兄妹』は低予算でありながらも非常に素晴らしい作品となっていました。「低予算でここまで作れるのか」と、自分の中に嫉妬のようなものを覚えたんです。「このような低予算の作品が自分にもできるのかな?」と考えるきっかけにもなりました。
なるほど。創作魂のようなものがふつふつと湧き上がってきたんですね。
ヨン監督:それならば、出資を受けずに自主製作のように『顔 -かお-』をやってみたらどうだろうと思うに至ったんです。そのことを妻に相談してみたら、快くOKしてくれて「10年間頑張ってお金を稼いできたんだから、好きなようにしたらどう?」と。妻の許可がおりた次の日、速攻でパク・ジョンミンさんにお電話をしました(笑)。「こんな作品をやろうと思うんだけど」と言ったら、パクさんも何を思ってか「いいですね!」と即答してくれたんです。その後は本当にスピーディーに話が進みました。

パクさんは、そのお電話ですぐに快諾されたんですね?
パク:だいぶ前に監督から、『顔 -かお-』の単行本をプレゼントでいただいたんです。読んだときにすごく良かったことを覚えていたので、すぐにOKをしました。その後も、家にあった漫画を引っ張り出して読みましたね。監督とお仕事をご一緒するのは、いつも本当に楽しいことなんです。『顔 -かお-』は短い期間ですが撮れるチャンスが与えられて、とにかく面白そうだと思いました。
監督からは最初、息子の役柄のみでご提案をいただいたんですが、息子の役だけではなく、父親役も演じられればと考えたんです。監督に「若いころの父親役には、誰を念頭に置いていらっしゃるんですか?」と質問したところ、監督が私の意図をすぐに把握されて「一人二役も考えているよ」と答えてくださいました。それで「私に演じさせてもらえませんか?」と提案して、監督も「そうしましょう」ということになり、今回の形で参加することが決まりました。
監督がパクさんに信頼を寄せるポイントはどこにあるんでしょうか?
ヨン監督:パク・ジョンミンさんはほとんどの監督が大好きな俳優さんですし、だからこそものすごく忙しいんです。もしかしたら観客よりも監督に愛されている俳優かもしれません。
パク:そうかもしれませんね。最近はちょっと観客にも愛されるようになってきたなと感じていますが…(笑)。
ヨン監督:何よりパク・ジョンミンさんは、圧倒的に演技がうまい俳優です。今回、本作を通じて百想芸術大賞で演技大賞も受賞された快挙を成し遂げましたし、韓国を代表する演技派俳優だと言えます。それがまさに監督たちがパクさんを好きな理由だと思うんです。また、演技がうまいということ以上に、作品自体が進むべき方向やメッセージについて、監督以上に深く考えている俳優でもあると思います。なので、一緒にお仕事をすると演技の話をするだけでなく、作品について深くいろいろな話ができる方なんです。『顔 -かお-』でも「地獄が呼んでいる」シリーズでも、パクさんに本当に大きく助けられたと思っています。

パクさんはヨン監督とご一緒して、どこに魅力を感じていますか?
パク:すべての俳優が感じていることだと思うんですけれども、ヨン監督とご一緒する現場というのは、とにかく楽しくて幸せなんです。そして私は、監督は素晴らしい演出家であり、かつ素晴らしい監督だといつも思っています。私は“演出家”と“監督”という単語を少し違った意味で捉えているんです。監督というのはやはり、演出をするだけでなく、撮影現場の方向性を運用していく能力を含んでいる言葉だと思います。なので、監督とお仕事をするときは、本当にいつも楽しく仕事ができるというのがあると同時に、監督がこの世に問いかけていることやメッセージにいつも共感しています。似通った目線を私は持っていると常々感じていますので、やはり監督からオファーをいただければぜひご一緒したいといつも思うんです。…(ヨン監督に)いい感じで答えましたよね(笑)?
ヨン監督:約束通り、見事に遂行してくれていますね(笑)。

本作では低予算という制約がある中で、映画監督として、俳優として、それぞれプラスに転じたような新しい発見はありましたか?
ヨン監督:私は最初、インディペンデントのアニメをやっていましたけれど、実写で低予算映画を撮るのは初めてのことでしたので、はたしてクオリティーの高いものとして完成できるのか、可能なのかという不安がありました。まったくもう観ていられないようなクオリティーになってしまうのかもしれない…という恐怖があったんです。でもその不安・恐怖以上に新しいものにチャレンジしてみたいという思いが強くありました。
そして俳優陣がパク・ジョンミンさんにクォン・ヘヒョさんからシン・ヒョンビンさんまで、本当に素晴らしい俳優さんたちが集まってくださいました。ご一緒したスタッフの皆さんも、この商業映画の世界ではトップクラスの皆さんに集まっていただいたんです。そのため、撮影に入ってからすぐにそのクオリティーについての不安というのは消えていきました。
この映画を撮って気づいたのは、ある意味、映画の美学というのは、こういったプロダクションの欠乏からくるものなのかもしれないと。「予算がない」というプロジェクトの欠乏がある中、むしろそれを埋めるべく現場にいる人たちが数多くのアイデアを出し合って、俳優も早く撮らなければならないという環境に置かれていたので、短い時間の中でできる限りの能力を発揮すべく、皆さん努めてくださっていたんです。
パク:予算が少ない=商業的な成功における基準が下がる、という意味もありますよね。そういう意味では演技の上で、とても自由度が広がったと感じました。ある程度の観客数を確保するために、安定的な選択をする必要がなくなるというメリットがあったと思います。苦労した点について言いますと、時間が足りないということでしょうか。私の場合は、演技をする上で自分が感じる演技の正解に近づくために、どうすべきかいつも不安を抱えています。ですので、テイクの数が増えればそれだけ気持ちも落ち着きますし、安全だと思うんです。何テイクも撮れないという状況がある中、自分の中にある不安をコントロールするというのが難しく、苦労した点ではありました。

演技という点において、若き日のイム・ヨンギュは目が見えない役でもあります。パクさんは演技に対して、どのようにアプローチしていったんでしょうか?
パク:目が見えないということで、私自身が目が見えていない状態になるわけではないですよね。実際に演じているときには、目の前が見えているわけです。ですので、見えない演技を心がけるというよりは、ほかの感覚に集中するようにしながら準備をしていました。もちろん視覚障害者の方たちの身体的な特徴や行動の仕方は、ある程度そこに寄せて作っていきますし、俳優として準備をしていく必要もありました。けれど、目が見えない振りをする、目が見えない演技をするというよりは、よりほかの感覚、聴覚や触覚などに集中して演じることに、もう少し神経を注ぎながら演技をしていました。
また、私の父が視覚障害者でしたので、子供のときから見ていた父の姿というのが私の中にあるので、それで自分のものになっていった部分もあったかもしれません。自然と長年見ていたものが、演技をする上で反映されたのかな、とも思いました。
ヨン監督は、市場のシーンなどで崔洋一監督の『血と骨』を参照したそうですが、その背景は何でしょうか?
ヨン監督:プロダクションに入る前に、低予算でいかにその時代を見せるのかという部分について、『血と骨』を何度も繰り返し観ていました。巨大なその時代の何かを見せなくとも、小さな街角、街中の市場の一つを見せることだけで、その時代の流れを見せることができるんだ、と思えたからです。『血と骨』以外にも、『顔 -かお-』に関しては、劇画の創始者とも呼ばれている辰巳ヨシヒロさんからの影響も多く受けているのではないかと思います。

日本の作品や俳優、監督で好きな作品などを伺いたいです。パクさんは組みたい方がいらしたら、ぜひ教えてください。
ヨン監督:本当にたくさんあります!最近で言えば「ガス人間」を作る際には、奥田英朗さんの『オリンピックの身代金』という小説から非常に影響を受けました。『20世紀少年』も「ガス人間」や「地獄が呼んでいる」を作る際に、影響を受けていると思います。また、塚本晋也監督の作品も大好きです。
パク:小さいころから、私たちの世代は日本のドラマや映画の影響をすごくたくさん受けています。私が劇場に行って初めて見た外国の映画が『Love Letter』でした。それからずっと多くの日本映画を観ていますが、中で一つだけ選ぶなら…自分自身の思い出とも関連している作品で、当時ブチョン映画祭で観た『黄泉がえり』が今もすごく好きです。柴咲コウさん(※RUI名義)が歌っていたOST「月のしずく」も心の中に非常に残っています。また、山田孝之さんが好きな俳優さんなので一緒にお仕事をしてみたいですし、誰もが好きな是枝(裕和)監督の作品は、いつ観ても本当に感嘆します。

ありがとうございます。最後に、お二人が思う韓国映画の魅力や「ならでは」と感じる点はどこでしょうか?
パク:私の個人的な考えですが、韓国のドラマや映画は昔からすごく面白かったと思うんです。だからこそ、自分自身も昔から映画に携わりたいという夢を抱いていたわけです。今になっていろいろなプラットフォームができたことにより、全世界の観客の皆さんが容易にアクセスすることができるわけじゃないですか。それで少しずつ元々持っていた真価を発揮するようになったのではないのかな、と思っています。
ヨン監督:海外の映画祭に行くと、外国の記者の皆さんからたくさん質問を受けるんです。韓国のジャンル映画がカンヌ(国際映画祭)をはじめ、さまざまな海外において愛されている現象があるので、それについて「何でですか?」という質問を受けるので、その理由について自分自身も考えてみたことがあります。
ジャンル映画とは、それ自体が産業映画の特徴であると言えますし、そのジャンルが好きな固定層がいます。その人たちだけを満足させる、それで製作することができるのが、この産業の大きなメリットだと思っています。ゾンビ映画なんかもそういう形で発展してきたと思うんですね。ですが、韓国においての問題は、ジャンル映画の歴史も短いですし、韓国にはそういったジャンル映画を好きな方たちというのが、そんなに多くいません。なので、その人たちだけを満足させてはいけないんです。なので、ジャンル映画でありながらリアリズム・アクション・ドラマなど、たくさんの要素を持ってきて、ジャンル映画を作らなければいけない状況です。それが外国におけるジャンル映画と韓国のジャンル映画の違いではないのかな、と思います。ある意味、アイロニーな現象で、韓国の独特なジャンル映画が生まれたのではと思っています。

(取材・文:赤山恭子、写真:You Ishii)
映画『顔 -かお-』は、8月28日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国ロードショー。

出演:パク・ジョンミン、クォン・ヘヒョ
監督・脚本:ヨン・サンホ
公式サイト:https://kao-movie.com/
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