5月13日から始まる第68回カンヌ国際映画祭で、名誉賞であるパルム・ドヌールが4年ぶりに発表されました。フランスを代表する映画監督の一人、アニエス・ヴァルダが受賞することになりましたが、おそらく(非常に残念なことに)日本の映画ファンで彼女を知っている方はそれほど多くないはず。
なので、ここで敬愛すべき映画監督アニエス・ヴァルダについて紹介したいと思います。
そもそもパルム・ドヌールって何だ?
映画祭の賞はそれぞれのセクションの審査員によって発表されます。中でも注目を集めるのはコンペティション部門ですが、映画祭の主催者が何年かに一度、これまでパルムドールを受賞していないが、それに値する監督に贈る名誉賞としての役割を果たしているのがこのパルム・ドヌールです。
これまでにスウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマン(1997年)や、ウディ・アレン(2002年)、先日亡くなったポルトガルのマノエル・ド・オリヴェイラ(2008年)、日本でも人気の高いクリント・イーストウッド(2009年)、ベルナルド・ベルトルッチ(2011年)の5人が受賞しており、ヴァルダは6人目の受賞となります。
つまり、「映画界のレジェンド」として認められたのです。
世界で一番映画的な魅力を放つ女性
1928年にベルギーで生まれたヴァルダは、第二次大戦中にフランスに移り住み、写真家として活動していました。
そして1955年に『ラ・ポント・クールト』(未)で映画監督デビューを果たすと、たちまちヌーヴェルヴァーグの一作家として世界的に知られるように。昨年亡くなったアラン・レネや、『ラ・ジュテ』のクリス・マルケルと同様に、ドキュメンタリー映画も手がけるいわゆる「左岸派」の重要な監督として名を残すだけでなく、ヌーヴェルヴァーグ唯一の女性監督として知名度をあげていきます。
代表作である『5時から7時までのクレオ』で初めてカンヌ国際映画祭に出品をするも、受賞には至らず。それでも、『幸福』でベルリン国際映画祭の銀熊賞、『冬の旅』でヴェネツィア国際映画祭の最高賞を獲得するなど、世界的な名声を獲得し、映画界への女性進出の礎を築いた人でもあります。
妻として、母として、映画作家として。
日本でも人気の高いフランス映画である『シェルブールの雨傘』や『ロシュフォールの恋人たち』で知られるジャック・ドゥミ。1962年に彼と結婚したヴァルダは、90年にドゥミが亡くなるまで共に連れそったパートナーであります。
ドゥミは結婚後に『シェルブールの雨傘』でカンヌ国際映画祭パルムドールをはじめ世界中でブレイクを果たし、ヴァルダも映画監督としての確固たる地位を築いていきますから、共に芸術を高め合うことのできる最も理想的なパートナーとの邂逅だったのかもしれません。
また、二人の息子であるマチュー・ドゥミは俳優としてヴァルダの『百一夜』などに出演し、2011年には初長編監督作となる『シークレット・オブ・マイ・マザー』を発表します。(念のため、ヴァルダを描いた話ではありません)
娘のロザリー・ヴァルダも、ジャン=リュック・ゴダールの『パッション』などで衣装デザインを務める映画人として活躍。まさに映画一家を作り上げることに成功したのです。
アニエスv.を発見する奇跡のドキュメンタリー
前述の作品を始め、劇映画から短編やドキュメンタリー作品と、数多くの方法で自身の芸術性を高めてきたアニエス・ヴァルダ。彼女の一連の活躍を観ることができる作品が、彼女自身が監督し、2008年に制作した『アニエスの浜辺』です。
ヌーヴェルヴァーグ期の作家たちとの交流や、ゲンズブールを筆頭とした俳優たちとの友情、映画監督として生きる女性の姿を目の当たりにできる本作は、映画界を目指す人はもちろんのこと、未だに男女格差が消えない現代社会の中で自分を貫きながら強く生きていきたい女性必見の一本です。