「音を鳴らしてはいけない」という衝撃の内容で全米大ヒットを記録した『クワイエット・プレイス』(2018)。監督はエミリー・ブラントの実生活での夫でもあるジョン・クラシンスキー。
本作でも夫役を務めており、初共演。実際の夫婦でもある二人が表現する、極限状態の中での親子の心の葛藤、家族の絆も見どころ。2020年には、続編となる『クワイエット・プレイス PARTⅡ』(2020)が公開予定。そんな新感覚ホラーについてネタバレ解説していこう。
映画『クワイエット・プレイス』あらすじ
宇宙からの侵略を受けた地球。あたりは荒廃し、世界は、人類滅亡の危機に瀕していた。侵略者は非常に鋭い聴覚を備え、わずかな物音を察知して人間をすぐに襲ってくる。そんな状況の中、アボット一家は手話を使うことで生き残っていた。しかし不注意から、スペースシャトルのおもちゃを起動させてしまった末の子ビューが怪物の餌食になってしまう。小さな命を失ったことで一家は深い傷を負うが、中でも先天的な聴覚障碍をもつ長女のリーガン(ミリセント・シモンズ)はビューにこっそりおもちゃを渡していたことで責任を感じていた。
それから1年が経ち、一家はひっそりとした農場で一切音を立てずに暮らしていた。父・リー(ジョン・クランシスキー)は家族を守るため、無線電波の度重なる改良によって必死に助けを呼ぶ。息子・マーカス(ノア・ジュプ)は、母・エブリン(エミリー・ブラント)から勉強を教えてもらう時間が何より好きだったが、父親とのサバイバルでは怖じ気づいてしまう。リーとリーガンの仲もうまくいかない中、エブリンは出産を間近に控えていた……。
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※以下、映画『クワイエットプレイス』にネタバレを含む。
音を鳴らしてはいけない……
本作では人が声を発したり、大きな物音を立てれば、すぐさま侵略者である怪物がやって来て容赦なく命を奪っていくが、全編を通して常に無音が続くというわけではない。自然の音や動物たちの音にやつらが反応することはなく、人間が主体となる音にだけ敏感に反応するのである。
そのため、基本的に会話と日常音は禁止事項となる。例えば、夕食の後リーガンとマーカスの姉弟でボードゲームを楽しんでいると、マーカスがあやまってランプを倒してしまい絨毯に引火すると、家中に緊張が走る。
しかしこのハプニングは屋根に登ってきた動物たちが立てた物音で事なきを得る。それにリーとマーカスがサバイバル訓練に出かけ、滝壺で大声を上げても、自然音である激流によって人生がかき消され、やつらの耳には入らなかった。人間による物音は自然界の轟音によって吸収される。
しかし洗濯物を取り込むために地下への階段を下るエブリンが釘を踏んだ衝撃から落下すると、大きな音があたりに響き渡り、感づかれる。さらに運悪く陣痛が始まってしまったエブリンは激痛と戦いながら叫ぶのを必死でこらえなければならない。
巧みな恐怖演出
決して音を立ててはいけない一触即発の状況下では、ちょっとした失敗が命取りになりかねない。画面には常に異常なほどの緊張感が張りつめ、恐怖は登場人物たちのすぐ隣に控えている。また、盲目で、外皮に覆われた侵略者たちのグロテスクなビジュアルが効果的に恐怖を駆り立てており、哀れな人間たちが物音を立てるのを今か今かと待っている。
ホラー映画史上にない新感覚のホラー演出は、リー役で出演もしているジョン・クラシンスキー監督の炯眼の賜物だろう。
俳優たちの豊かな表情
一切の会話や物音すら立ててはいけない登場人物たちは代わりに表情が豊かだ。無音を強いられた世界の住人たちはサイレント映画のように振る舞わなければならない。言葉が使えないのだから、自然と表情はオーバーに豊かになる。
リー役のジョン・クラシンスキーとリーガン役のミリセント・シモンズは変化に富んだ表情の中にもどこか物静かさを湛えているが、エブリンを演じるエミリー・ブラントはいつものように快活な演技が出来ない様子が逆にリアルだそしてマーカス役のノア・ジュプは、『ワンダー 君は太陽』(2018)での好演が記憶に新しいが、本作でも天才子役としての実力を発揮している。
家族の愛の物語
ビューの死によってリーとリーガンの親子関係はぎくしゃくしてしまい、リーの繋がりもしない無線改良を無意味だと思っている。さらにマーカスだけ外に連れて行くリーにリーガンは不満を持っている。不自由さを感じたリーガンは勢いのままに家出してします。しかし、父リーは聴覚障害を抱える愛する娘リーガンのために補聴器の改良もこつこつと続けていた。
音を発せられない世界にあっても尚、娘のことだけを考えた父親の愛である。しかもその補聴器が怪物退治の糸口ともなった。エブリンから子どもたちを助けてと懇願されたリーが死を覚悟してリーガンに発した「愛している」という言葉は深く観客たちの心に刻まれる。
結末はどうなる?
さて、90分間という全編のラストは唐突に訪れ、続編の可能性すら匂わせていた本作に果たしてメッセージはあるのだろうか。確かに自分を犠牲にして子どもたちを守った父親の愛、あるいは家長を失い結束するアボット一家の強い絆を読み取れるかもしれない。だが、そもそもにおいてひとつの映画作品からメッセージを受け取ろうとすること自体があまり意味をなさないように思う。
光と影の戯れによって存在する映画では、その画面に映っている事実だけを直視し、頭で考えることよりも身体で感じることの方が重要だ。それまで音を立てることにビクビクしていたエブリンが追い込まれた果てに怪物に銃口を向け、引き金を引いた時、サイレントモードからサバイバルモードに切り替わる瞬時の転換、そうした映画ならではの瞬間に興奮と感動を感じることが真の映画体験ではないだろうか。
斬新な発想と潔いラストがすこぶる痛快な90分間。それがクラシンスキー監督が本作に込めた意義であると思う。
続編ではどうなる?
音に反応し人間を襲う“何か”によって荒廃した世界で、生き残った1組の家族・アボット家。夫・リーを亡くし、家は燃えてしまい、母・エヴリンは、産まれたばかりの赤ん坊と2人の子供たちを連れて新たな避難場所を探しに出発する。ノイズが溢れる外の世界で、敵か味方か分からない他の生存者たちに遭遇する一家。そして、彼らを待ち受ける更なる脅威とは……?
前作に続き監督はジョン・クラシンスキー。母役のエミリー・ブラント、娘役のミリセント・シモンズ、息子役のノア・ジュプが続投。父を失いながらも生き延びた『クワイエット・プレイス』の後の世界を描く。2020年5月8日公開予定であったが、世界的に公開延期が決定されている。新たな公開日時は現在未定だが、続編の公開前に前作をおさらいし、楽しみに公開を待ちたい。
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※2020年4月17日時点の情報です。