1985年の公開から35年経った今なお、多くの映画ファンから愛され続けている『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。考え抜かれた緻密なシナリオ、ロバート・ゼメキスによる軽快な演出、アラン・シルヴェストリによる心踊る音楽、そしてマイケル・J・フォックスとクリストファー・ロイドによる息ぴったりの掛け合い。全てが最高の仕事だ。
この映画が嫌い、という人間が果たしてこの地球上にいるのだろうか?いや、そんな輩はいない!全人類この映画を愛してやまないはず!という訳で今回は、みんな大好き『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をネタバレ解説していこう。
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映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』あらすじ
時は1985年10月25日。カリフォルニア州のヒルバレーに住む高校生マーティ(マイケル・J・フォックス)は、乗用車型タイムマシーン「デロリアン」を発明した天才科学者ドク(クリストファー・ロイド)の実験を手伝っていた。ドクの愛犬アインシュタインを1分後にタイムトラベルさせる実験はみごと成功したが、リビア過激派の襲撃に遭い、ドクは凶弾に倒れてしまう。
マーティはデロリアンに乗って逃走するが、間違って次元転移装置のスイッチを入れてしまい、30年前の1955年にタイムスリップ。そこには、まだ結婚する前のマーティの父ジョージ(クリスピン・グローヴァー)と、母ロレイン(リー・トンプソン)がいた……。
※以下、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のネタバレを含みます。
拒否され続けた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』企画
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の監督を務めたロバート・ゼメキスは、高校在学中から8ミリ映画を撮り始めていたという、筋金入りの映画オタク。大学時代に製作した短編『Field of Honor』は、当時すでにハリウッド映画界の若きスター監督だった、スティーヴン・スピルバーグからも高く評価された。
ロバート・ゼメキスの才能を見込んだスピルバーグは、自身の監督作『1941』(1979)の脚本を依頼。喜び勇んだゼメキスは、大学の同級生ボブ・ゲイルと共にハチャメチャなシナリオを創り上げる……が、あまりにもハチャメチャすぎて、酷評の嵐。それでも彼の才能を信じて疑わなかったスピルバーグは、ゼメキスの初監督作品『抱きしめたい』(1978)、続く第二作『ユーズド・カー』(1980)の製作総指揮を買って出て、バックアップを続けた。
やがてゼメキスとボブ・ゲイルは、タイムトラベルをテーマにしたSFコメディ映画を企画する。ボブ・ゲイルが父親の高校年鑑を見ていたときに、「過去に戻って、10代の自分が父親と会ったら友達になるだろうか?」と夢想したのが始まりだった。
そう、これが後に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』となるスクリプトである。彼らはコロンビアに売り込むものの企画は通らず、次に持ち込んだディズニーも「母親と息子がキスする映画なんて不道徳すぎる!」という理由で、すげなく却下。あまりにもアンチモラルなタイムトラベル映画に誰も買い手がつかず、企画は宙に浮いてしまった。
しかし、チャンスが回ってくる。ゼメキスが監督した冒険活劇『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』(1984)が、8,000万ドルを超す大ヒットを記録したのだ。ハリウッドから「客を呼べる映画を作れる映画監督」という称号を得たゼメキスは、満を持して温めていた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の製作に乗り出す。配給には、ユニバーサルスタジオが名乗りをあげた。最終的に「映画化GO!」の青信号が灯るまで、40回以上もスクリプトを書き直すハメになったのだが。
エリック・ストルツからマイケル・J・フォックスへ−主役の交代劇
テレビドラマ『ファミリータイズ』で、ティーンから爆発的な人気を得ていたマイケル・J・フォックスが、主人公マーティ役の第一候補だった。しかし、そのドラマのスケジュールが完全に映画の撮影スケジュールとかぶっていたうえ、共演者のメレディス・バクスターが産休のために、フォックスの出演時間がさらに長くなっていた。彼がマーティ役を演じる物理的余裕はない。結局マーティ役には、『マスク』(84)で奇病を抱える少年を演じた、演技派エリック・ストルツが起用される。
しかし、ロバート・ゼメキスはエリック・ストルツの演技にどうしても納得ができなかった。彼の芝居はシリアスすぎて、コメディにはどう見ても不向きだったからだ。撮影を始めてから6週間後、ゼメキスらは改めて『ファミリータイズ』のプロデューサーにマイケル・J・フォックスの出演依頼を打診する。
プロデューサーは、ドラマの撮影を優先させることを条件にOKをだすが、当時フォックスは月曜から木曜が18時まで、金曜日は22時まで『ファミリータイズ』の撮影に時間を割いていた。空いている時間は、平日の深夜か週末だけ。今まで撮影した6週間ぶんのフィルムを撮り直しする必要もあるし、スタッフには深夜と休日出勤の手当を支払う必要もある。過酷な条件だったが、それでもゼメキスはマイケル・J・フォックスを迎えて再撮影することを選んだ。
思えば、ココが映画の大きな分岐点だった。もしそのままエリック・ストルツで撮影を続けていたら、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』はここまで長く愛される作品にはなっていなかった、かもしれない。
マーティとドクとの身長差問題、ユニバーサルからの横槍
再び撮影が始まった。フォックスは朝6時に起きて『ファミリータイズ』の撮影に臨み、その後移動して『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の撮影を行う、という殺人的スケジュールをこなすことになる(フォックス自身は『シュールな体験だった』と振り返っている)。
急な主役交替で、いくつか手違いも発生した。特に大きかったのは、身長差問題。ドクを演じるクリストファー・ロイド(185センチ)と、マイケル・J・フォックス(163センチ)とは22センチもの身長差がある。そのまま並ぶと二人が画面に収まりきらないため、ロバート・ゼメキスは立ち位置や動きを細かく指定。クリストファー・ロイドは、前かがみの姿勢にさせられることもしばしばだった。
ユニバーサルからの横槍も入った。ユニバーサルの最高責任者シド・シャインバーグが、変更に次ぐ変更を指示しまくったのだ。ドクの相棒はチンパンジーのシェンプという設定だったが、これをアインシュアインという名前の犬に変更。リー・トンプソン演じる母親の名前はもともとメグだったが、これをシャインバーグの妻の名前にちなんでロレインに変更させる。しまいには、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』というタイトル自体にもNG指令。曰く、「タイトルにFuture(未来)を含む映画なんて、誰も見ない!」。シャインバーグは『宇宙人から冥王星へ』という謎のタイトルを提案するが、さすがにこれは却下されたという。
タイムトラベル映画ならではの仕掛け満載!『バック・トゥ・ザ・フューチャー』トリビア
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、タイムトラベル映画ならではの仕掛けや、考え抜かれたギャグが数多く散りばめられている。そのトリビアを順を追って紹介していこう。
オーディションの先生
学校の体育館のオーディションで、「音がでかすぎる!」と言って立ち上がる先生は、主題歌「Power of Love」を歌っているヒューイ・ルイスその人。どうやら映画出演が好きなミュージシャンのようで、『ショート・カッツ』 (1993)や『スフィア』 (1998)に端役で出演しているほか、2000年の映画『デュエット』では、グウィネス・パルトロウの父親役という重要な役どころを演じている。
ジャッキー・グリースン・ショー
ロレインの実家で放送されていた番組は、『ジャッキー・グリースン・ショー』。コメディアンのジャッキー・グリースンがホストを務める、1952年からスタートしたバラエティー・ショーだ。もちろんマーティにとっては30年以上前の番組なので、再放送(ひょっとしたら再々放送)で観たのだ。
ロナルド・レーガンが大統領?
マーティが本当に未来からやってきたかどうかを試すために、ドクはこんな質問をする。
ドク「1985年の大統領は?」
マーティ「ロナルド・レーガン」
ドク「ロナルド・レーガン?俳優の?副大統領はジェリー・ルイスか?大統領夫人はジェーン・ワイマンか?財務長官はジャック・ベニーだろ?」
当時、ロナルド・レーガンは売れない二流の俳優だった。ジェーン・ワイマンはレーガンの最初の妻で、ジェリー・ルイスとジャック・ベニーは当時人気だったコメディアン。つまり二流俳優が最高権力者になれるわけがない、と皮肉を言っている訳だ。
ダウン・ベストが救命胴衣?
マーティが着ているダウン・ベストをみて、皆が「船が転覆したのか?」と尋ねる場面。30年間でファッションが大きく変化したことが見て取れるが、マーティが「沿岸警備隊です」と答えるのがおかしい。
ノンカロリーのコーラ
コーヒーショップでの会話。
マーティ「タブを」
店主「タブ(領収書)は注文の後だ」
マーティ「フリーを」
店主「フリー(無料)?金を払え」
コーヒーショップでマーティが注文する内容が、店主にさっぱり通じない、というのがギャグになっている。マーティがいう「タブ」とは、1962年にコカコーラが発売したノンカロリー飲料のことで、「フリー」とはノンカロリーのペプシのこと。当時はノンカロリー飲料という発想自体がなかった。
黒人が市長に?
マーティから「将来は市長になる」と言われて、コーヒーショップの黒人ウェイターがガゼンやる気を出す場面。舞台となるヒル・バレーは架空の街だが、1955年当時は公民権運動真っ只中で、黒人労働者は冷遇されていた。黒人が市長になるのは、まだ夢のまた夢の時代だったのである。
名前はカルバン・クライン
有名ブランドが製品にネームを入れるようになったのは、’80年代くらいから。ロレインはマーティの下着にカルバン・クラインと書かれているのを見て、それがブランド名とは思わず、名前だと勘違いしてしまう。
未知の単位 ジゴワット
ドクが、「(タイムスリップに必要な電力は)1.21ジゴワット!」と叫ぶシーン。実はコレ、脚本でギガワット(gigawatt)の綴りをjigowatt(ジゴワット)と間違えたことによるもの。そのまま撮影を終えてしまい、この世に存在しない未知の単位が作られてしまった。
バルカン星から来たダース・ベイダー
父のジョージをけしかけるために、マーティが変装して、バルカン星から来た宇宙人ダース・ベイダーを名乗る場面。バルカンは『スタートレック』に登場するミスター・スポックの生まれ故郷で、ダース・ベイダーは『スター・ウォーズ』の悪役。1955年の時点では、『スタートレック』も『スター・ウォーズ』も生まれていなかった。
チャック・ベリーの従兄弟
指を負傷したギタリストの代わりに、ダンスパーティでギターを演奏するマーティ。「もう一曲!」とせがまれて、彼が弾くのがチャック・ベリーの名曲「 ジョニー・B・グッド」だ。実は負傷したギタリストはチャック・ベリーの従兄弟で、電話越しにその演奏を聞かせる……というオチ。チャック・ベリーはマーティの演奏を聞いて「 ジョニー・B・グッド」を着想した訳で、ではこの曲を本当に作曲したのは誰?というタイム・パラドックスになっている。
本当はジョークのはずだった「to be continued…」
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は全3作から成るシリーズだが、元々は続編を作る予定はなかった。最後にテロップで流れる「to be continued…」も、タイムトラベル映画としてのギャグでしか過ぎなかったのだ。しかし映画は想像を上回る大ヒット。ロバート・ゼメキスとボブ・ゲイルは、本気で2作目以降を検討するようになる……。
という訳で、この解説も『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』に「to be continued…」いたします。
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※2020年6月10日時点の情報です。