6月25日に映画『二重生活』が公開されます。
(C)2015「二重生活」フィルムパートナーズ
では、少し想像してみましょう。あなたは、6月25日、映画館で『二重生活』を観ています。
上映終了後、映画館の照明がつき、あなたは周囲の喧騒のため、次第に現実に引き戻されながら、なんとなく隣の席を見るでしょう。すると、恋人がいてあなたの手を強く握ってくるかもしれないし、友人が「どうだった?」と笑いかけてくるかもしれません。もしくは、偶然隣の席に座った、全く知らない誰かがモゾモゾと動いているかもしれません。
その時あなたは思うはずです。
「彼(彼女)にも私の知らない秘密があるのだろうか」
いっそ、尾行してみようか。
・・・、なーんてことを現実世界でしたら大変なことになってしまうので、上映が待ちどおしくてワナワナしている私は、映画『二重生活』を追いかけてみるとしましょうか!
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主人公は大学院で哲学を学ぶ珠(門脇麦)。ゲームデザイナーの卓也(菅田将暉)と同棲し、穏やかな日々を送っています。ところが、担当教授(リリー・フランキー)から修士論文の題材に「哲学的尾行」を薦められたことがきっかけで、彼女は隣人・石坂(長谷川博己)を尾行するようになります。
次第に明らかになっていく隣人の秘密。尾行することへの快感に目覚めていく珠と、彼女の変化に戸惑う卓也。一方的なはずの「理由なき尾行」は隣人や彼女の周りの人々を巻き込んでいきます。
原作は「無伴奏」の小池真理子
原作者は、最近成海璃子主演で映画化された小説「無伴奏」を書いた小池真理子です。
小池真理子の小説を読んでいると、女が恋愛をしている時のあらゆる感覚がビシビシと迫ってくるように感じます。
だから思わず、「主人公はあの頃の私じゃないかしら」とか「今の私と同じ」、「こんなことを確かにあの時思っていたわ」とか、そんなことを考えながら一気に読み進めてしまいます。そして、その恋の顛末に静かなため息をついて、本を閉じてからしばらく物思いに耽ってみたくなるのです。
映画『無伴奏』も、1人の少女が経験する、あまりにも複雑に絡み合った恋愛を描いた傑作でした。
(C)2015「無伴奏」製作委員会
1969年、学生運動が盛んだった時代、高校生の響子(成海璃子)もまたデモ行進に明け暮れる日々を送っていました。そんな中、音楽喫茶「無伴奏」で出会った渉(池松壮亮)に惹かれていきます。
嫉妬や不安に駆られながら、初めての恋愛にのめりこんでいく響子。響子を愛す一方で大きな秘密を抱えて苦しんでいる渉。彼らを静かに見つめる、ミステリアスな渉の親友・祐之介(斎藤工)、そして祐之介を純粋に愛するガールフレンド・エマ(遠藤新菜)。彼らの純粋で一途な想いは、複雑に絡み合い、やがて大きな事件を巻き起こします。
大きな恋愛と喪失を経験した響子は、その後どんな人生を送ったのでしょうか。
どことなく、『無伴奏』の響子と『二重生活』の珠は雰囲気が似ています。『二重生活』の主人公・珠は、まさに『無伴奏』の響子のその後と重なっているように思うのです。
監督・脚本はNHKドラマ「ラジオ」で文化庁芸術祭大賞を受賞した映像作家・岸善幸!
『二重生活』は、数々のドキュメンタリー番組を手がけ、国内外で数々の賞を受賞したNHKドラマ「開拓者たち」(満島ひかり主演)や「ラジオ」など、今も記憶に残る秀作ドラマを創ってきた岸善幸監督の劇場デビュー作です。
珠が石坂を尾行するシーンはなんとゲリラ撮影。現代の空気をそのまま取り込んで、原作の登場人物たちが動き出すことが楽しみでなりません。
原作から妄想!『二重生活』ってどんな映画?
まだ映画を観ていないので、今回は原作から分析していこうと思います。
原作では、珠が尾行を始めたのは担当教授のすすめではなく、教授への憧れから自発的にということになっているので、そもそも大きな違いがあるのです。そのため、映画を観てから「あれ?違うじゃん!」と思った方はどうかご容赦を。
『二重生活』ってどう二重なの?
隣人・石坂の二重生活
『二重生活』の物語の大筋は、「珠が隣人の石坂を尾行する」物語であるということです。
だから、珠から見た石坂という人間についての物語ともいえます。珠=カメラの役割を持っているんですね。
石坂は、美しい妻子を持つ、出版社勤務のエリート。休日は犬を連れて家族で散歩する良き夫、良き父親。その一方で、家族に見えないところで不倫相手との逢瀬を重ねています。
主人公・珠の二重生活
カメラでしかないはずの主人公・珠。
地味で真面目な大学院生。同棲している彼氏との平凡だが幸せな日々。
平凡な人生に物足りなさを感じ、非凡な隣人の秘密を知ることで快感を得ている・・・と思いきや。
彼女の心の中には2人の人物がいます。1人は、同棲中の彼氏・卓也。そしてもう1人は、今はこの世にいない、かつて大恋愛をした最初の男・武男。
珠は石坂を尾行することで、彼の妻に今の自分を重ね、彼の愛人にかつての自分を重ね、自分自身を振り返っていきます。
秘密の匂いに誘われて
結局のところ、人は秘密が好きなのだ。それを抱え込むことによって、どれだけ自分自身が苦しむか、知り尽くしていても、秘密は妖しい媚薬のように、人を惑わせる。
ー「二重生活」小池真理子, 角川文庫 p.142
小池真理子の小説を読んでいると思わず自分の感情を、主人公の感情と重ねてしまうと前述しましたが、珠が石坂を尾行することによって彼らに自分自身を重ねると同時に、今度は読者が珠に自分自身を重ねるという現象が起こってしまうのです。
つまり私たちは、石坂を追いかける珠をついつい追いかけてしまうことになるでしょう。
なぜなら、秘密は媚薬だから。
秘密を持っていない人なんていないから。
見かけどおりの人間なんてほとんどいないのではないのでしょうか。
だれもが、「秘密」という媚薬の匂いを知っているから、匂いを感じてついついそれを追いかけてしまうのです。
『二重生活』は、そんな媚薬のような映画。
ぜひ、劇場でお試しあれ。
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