夏といえば? そう、怖い話! 暑い日は怖いホラー映画を観てヒヤリと涼んでみてはいかがでしょうか?(映画館はクーラーが効いてて涼しいですし!)
80~90年代スプラッター魂を受け継いでいるグログロ若大将こと、イーライ・ロス監督が2003年に製作・監督した記念すべきデビュー作『キャビン・フィーバー』が、13年の時を経てリブートされます。
『キャビン・フィーバー』はその名のとおり“キャビン”を舞台としたホラー映画ですが、なぜ“キャビン”が舞台なのでしょうか? 長い映画史の中には「キャビン系ホラー映画」というジャンルが存在しておりまして、その系譜を確立した4本のホラー映画をご紹介しつつ、その魅力をたっぷりとお伝えします!
キャビンあれこれ
そもそも“キャビン”ってなに?
日本ではあまりなじみのない英単語ではないでしょうか。「キャビン」の意味を調べますと、「(通例木造の)小屋」とあります。どちらかと言うと、「船室・(飛行機等の)客室」や、客室乗務員を指す「キャビン・アテンダント」の方がよく使われていますね。日本では、山小屋はコテージやバンガロー、ロッジと呼ばれる方が多いと思います。
なぜキャビンがホラー映画の舞台に選ばれるのか?
1.撮影しやすい
これは後ほどレビューする映画『死霊のはらわた』とも繋がる話ですが、キャビン系ホラー映画のストーリーは、ほぼ山小屋でのみ展開します。舞台が限られている分、少ない撮影日数・少ない費用で制作できるため、実は予算の少ない自主映画などにはもってこいなカテゴリーなのです。低予算で作れるところから、このカテゴリーはやたらと続編が多いのも特徴です。
2.山奥にあるから
都会では撮影の規制が厳しかったり、人が多くギャラリー(野次馬)が群がるので、スタッフは気苦労が絶えません。人里離れた山奥というシチュエーションは、撮影に集中できる上に、夜は明かりがなく何が潜んでるかわからない怖さが自然と醸し出されるため、ホラーにはうってつけな環境というワケです。
3.山奥の別荘はあるあるネタ
欧米ではVacation Rental(バケーションレンタル)、Holiday Homes(ホリデーホーム)等と呼ばれる貸別荘ビジネスが根付いています。特にアメリカでは不動産価格が年々上昇するという社会の仕組みが産業として定着しています。
日本で「別荘を持っている」と聞くと一握りのお金持ちというイメージが強いですが、欧米ではよくある話なんですね。つまり「休暇に仲間たちと一緒に、仲間の身内が持っている別荘に遊びに行く」というのが、言わば“あるある”ネタなのです。
そういった日常に潜む恐怖を描き出すことで、映画を観終わった後でも怖さを持続させ、映画自体を印象付ける効果を生み出しているとも言えます。
キャビン系ホラーの特徴
1.登場人物は男女の若者グループで、内訳はカップルや女好きのお調子者、真面目な女子等、個性はバラバラに分かれています。大体が誰かのパパに借りた車でキャビンに向かうため、多くても5人くらいの編成が多いでしょう。
2.キャビンに向かう途中、気味の悪い現地の人物に遭遇します。「あの山小屋に行くのか?」と質問しながら「行くな!」と忠告したりします。怪我をしていたり、足を引きずっていることが多いです。
3.山小屋に到着すると、最初はパーティー気分で調子に乗ります。未成年だけどお酒を飲んだり、隠れてハッパをやる男がいたり、カップルは仲間の目を盗んで、こそこそイチャついたりします。
4.キャビン到着の夜、ひょんなことから何かしらの呪いに触れてしまったりして異変が起きます。その異変は徐々にエスカレートし、仲間がゾンビ化したり無残な姿で発見されたりします。
5.最後は主人公カップルが大怪我をしながらも逃げ切ります。ごくたまに、定義2で登場した不気味なおじさんが、実はいい人で助けてくれたりします。ラストシーンは、誰もいなくなったキャビンにカメラが入っていくと次の異変の前兆が現れ「続編があるのか!?」と観客に思わせておいたところで終わります。
キャビン系ホラーの定番といえば、大体こんな感じでしょうか。名作『13日の金曜日』等の“キャンプ場”系ホラー映画にも通ずるところがありますね。それでは、上記した定義を逆手に取ったタイプのキャビン系ホラー映画のレビューと参りましょう。
『キャビン』
2012年のアメリカ映画、その名もそのまま『キャビン』ですが、ホラー映画の体裁を取ったブラック・コメディー・ホラー映画です。5人の若者たちがとある山小屋(=キャビン)で一晩を過ごすのですが、意味深な地下室を発見。ボロボロの日記に書かれていたラテン語の呪文を読むと、そこで死んだゾンビが蘇り…。
と、ホラー映画好きな人にとっては「そんな映画、前にあったなぁ」と感づくやもしれません。それもそのはず、この映画はこの手の“キャビン系ホラーあるある”をネタとして扱っているメタ要素を含んだ作品になっているのです。
「あぁこの元ネタは『死霊のはらわた』だな」とか「これは『悪魔のいけにえ』だな」と、ホラー映画ファンをくすぐる仕掛け満載のメタ・ホラー・コメディとして一見の価値ありですので、ぜひご覧ください。
ちなみに、『アベンジャーズ』でマイティ・ソーを演じているクリス・ヘムズワースも出演しています。相変わらずワイルドでかっこいいのですが、 その死に方は……。
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2003年アメリカ公開の本作は、あの有名作家スティ-ヴン・キングが、とある映画批評誌で年間ベストワンに挙げた映画です。原題は『Wrong Turn』、つまり「道(曲がる方向)を間違える」という意味ですが、はたして間違えた先に何が待ち受けているのか?
この映画のキャビンには居住者がおり、正統派キャビン系ホラー+殺人鬼といった趣で『悪魔のいけにえ』に近いでしょうか。殺人鬼への恐怖に疎外された田舎の異様な雰囲気が重なり、他に類を見ない不気味さで未だに人気の高い作品です。
『死霊のはらわた』
3つ目にご紹介するのが記念すべきキャビン系ホラー映画の元祖、カルト映画界の巨匠サム・ライミ監督の『死霊のはらわた』です。この映画が公開された1981年を、キャビン系ホラー映画の誕生年としてもいいかもしれません。
学生だったサム・ライミが短編『Within the Woods』を作り、その企画を長編化したのが本作。ホラーの印象の強いサム・ライミですが、実はそれほどホラーに傾倒していたわけではなく、当時の売れ先としてホラーカテゴリを選んだというから、そのビジネス眼には目を見張るものがあります。
実はサム・ライミ、幼い頃からコメディが大好きだったらしく、アメリカの人気コメディ「三ばか大将」等の古いコメディにハマりこんでいたようです。そのコメディ要素がメジャーデビュー作『死霊のはらわた』にもコメディ・エッセンスを挟み込み、結果として唯一無二のホラー傑作に仕上がっています。
キャビン系ホラーという一風変わったカテゴリーから、いくつもの亜流作を生み出し、後のホラー映画に影響を与えたエポックメイキングな快作です。
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さて、イーライ・ロス監督の本作ですが、これも『死霊のはらわた』と同じく、メジャーデビュー作品としてキャビン系ホラーを扱っています。
記事前半の「なぜキャビンが舞台に選ばれる?」にも書かせていただきましたが、お金のない若手が映画を作るとしたら、これほどに最適なカテゴリーもないのでしょう。こちらも『クライモリ』同様、続編が作られています。続編が作られやすいのも、その“作りやすさ”に理由があるのかもしれませんね。
系統としては、キャビン系ホラー+感染ホラーという感じです。この映画を語るならば「パンケーキ」でしょうね。ホラー映画なんですが、アクション要素やコメディ要素が混ざりこんでいるところが、サム・ライミ的でもあり、後の彼の師匠となるタランティーノ的であり、オタク監督のこだわりを感じられる必見映画のひとつです。
リブート作はどうなのか?
そんなデビュー作を13年の時を経てリブートした『キャビン・フィーバー リブート』。本作では、イーライ・ロスは製作総指揮にまわり、『超時空戦記 レヴェレーター』のトラヴィス・ザルーニーが監督を務めます。
自身の大事なデビュー作を後進にまかせるあたり、『死霊のはらわた』のリメイクを新人監督に任せたサム・ライミと同じように、もう一角の大物感を漂わせていますね。
映画『キャビン・フィーバー・リブート』は、8月1日より新宿シネマカリテで開催される「カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2016」内で上映されます。この夏は映画館、もしくは山奥のキャビンで……涼しく……過ごしてみませんか?
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