驚異的な大ヒットを記録中の映画『君の名は。』、観てきました。
(C)2016「君の名は。」製作委員会
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「正直アニメはちょっとニガテだな・・」なんて思っていたんですが、本当に面白かったです!
川村元気プロデューサーがまた、すっごいのを打ち出したんだなとも思いました。
詳しくは前記事・プロデュースの天才!映画『世界から猫が消えたなら』原作作者・川村元気の謎に迫るも合わせてご覧ください。
熱く熱く語りたいのは山々ですが、既にたくさんの映画評・レビューがにぎわう中、今回は、書店員の視点で『君の名は。』の楽しみ方を語ってみようと思います。
まだ映画を観ていないあなたも、映画を観てきたあなたも、小説でもっと映画を楽しんでみませんか?
角川文庫2016年夏のイチオシ商品だった新海誠の本
書店の文庫担当にとって夏は一大イベントの季節です。皆さんも書店に立ち寄った時にご覧になったことがあるかと思いますが、書店の最も目立つところに大手出版社さんの文庫フェアが競うように並ぶ時期。文庫担当は腕によりをかけてコーナーを作ります。
今年の夏文庫フェアで目を引いたのが、KADOKAWAの目玉商品、新海誠関連本コーナー。
『君の名は。』以前の作品を監督自ら小説化した「小説 言の葉の庭」、「小説 秒速5センチメートル」。そして、「小説 君の名は。」。
さらに、8月にKADOKAWAのライトノベルレーベルである角川スニーカー文庫から発売された「君の名は。 Another Side:Earthbound」。
出典 : 「小説 言の葉の庭(角川文庫) 」 : 新海 誠 : 本 : Amazon.co.jp
出典 : 「小説 秒速5センチメートル (角川文庫)」 : 新海 誠 : 本 : Amazon.co.jp
恥ずかしながら、アニメに極端に疎い私は新海誠を全く知りませんでした。だから、『君の名は。』の宣伝が盛んになる前の6月末の段階で、突然降って沸いたように新海誠という作家の本が突然平積みされ、発売日前に何人もの十代の女の子たちから問い合わせを受けるという現象が不思議でならなかったのです。
きっと私だけでなく、同じように不思議に思って本を手にした、または新海誠という名前をインプットした方もたくさんいると思います。
KADOKAWAはなによりメディアミックスに強みがある出版社さんですが、この空前の『君の名は。』旋風を巻き起こすことになった要因の一つとして、東宝のみならずKADOKAWAの強力なバックアップと戦略のうまさがあると感じます。
小説×映画でより面白くなる!3形態の『君の名は。』の魅力
ノベライズの新しい形「小説 君の名は。」
出典 : 「小説 君の名は。 (角川文庫) 」 : 新海 誠 : 本 : Amazon.co.jp
ノベライズとは
最近よく見かけるノベライズ小説。簡単に言うと映画やドラマを小説化したもののことを言います。よく連続ドラマの終わりごろに「このドラマのノベライズ本を抽選で何名様に~」に俳優さんが言ってたりしますよね。
原作ではなく、シナリオでもなく、映像作品そのもののようで独自性がある、紙で読むもう一つの映画、それがノベライズの面白さです。
映画監督や脚本家ではない別の作家がノベライズを書くことが多いので、監督自らがノベライズを担当するのは珍しいです。
ボーイ・ミーツ・ガールとしての『君の名は。』
小説と映画で物語上の大きな違いはないけれど、語り口にはすこし差がある。小説版は滝と三葉の一人称、つまり二人の視点のみで描かれている。彼らが知らないことは語られないのだ。一方、映画はそもそもが三人称ーつまりカメラが映し出す世界である。
-『小説 君の名は。』 著者あとがき(p.255)より
つまり、映画以上に小説は、滝と三葉二人の思いや彼らの視点から見た世界に焦点が当てられているのです。
映画を観ていて、「あー、もうちょっとゆっくり観たいなあ」と感じたところがあります。それは、映画において重要な、彼らが夢の中での互いの入れ替わりに気付きそのことを受け入れてから、彼らの運命を揺さぶる事件が起こる当日までの間です。
2つのシークェンスは「朝目が覚めるとなぜか泣いてしまう」というイメージで繋がっているわけですが、その間がダイジェスト映像かのようにあまりに速い! 入れ替わる間ルールを決めて、互いに協力しあってお互いの生活を楽しみ、変えていく姿は、恋愛や友情、スポーツ、バイトと、田舎と都会それぞれの充実高校ライフのいいとこどりのような光景だというのにものすごい勢いで通り過ぎてしまうんです。
それをページをめくりながらじっくり楽しめるのが、本の醍醐味。
この映画が、世界を救うこととボーイ・ミーツ・ガールを一緒に描いたものだとしたら、この小説はそのボーイ・ミーツ・ガールの部分をより楽しむことができる物語なのです。
映画の中の音楽、音楽の中の映画
『君の名は。』の音楽といえば、私の仕事場でもサウンドトラックがよく流れ、爆発的に売れていますが、RADWIMPSの楽曲。
「今回、小説は書きません」
そう宣言していた新海誠が、野田洋次郎の音楽によって書かされた。小説に音は鳴らせない。でもRADWIMPSの曲がここから聴こえてくる。運命的な出会いがもたらした、稀有な小説だと思う。
ー『小説 君の名は』解説 川村元気(p.260)より
川村元気の解説がとても面白いのですが、新海誠が描いた物語やコンテを、RADWIMPSの野田洋二郎が受け取って音楽として広げ、それが映画になります。そしてそれらが合わさってこの小説になったと書かれています。
この映画と小説の関係性が相互補完的であることと同じように、新海と野田の関係性と、音楽を介した映画と小説の関係性もまた相互補完的になっているのです。
実際には音が出ない小説に、どのようにRADWIMPSの音楽が関わってくるのか。
それは読んでからのお楽しみです♪
ライトノベルとして打ち出されたスピンオフ小説「君の名は。 Another Side:Earthbound」
出典 : 「君の名は。 Another Side:Earthbound (角川スニーカー文庫)」 : 加納 新太 : 本 : Amazon.co.jp
ライトノベルとは
私はライトノベル担当歴3年目なのですが、ライトノベルの定義は聞かれるたびに言葉を窮してしまいます。
表紙や挿絵にアニメ調のイラストを多様している若年層向けの小説
ー『ライトノベル完全読本』(日経BP社)
というのが一応の定義。最近では「ソード・アート・オンライン」(電撃文庫)や「やはり俺の青春ラブコメは間違っている」(ガガガ文庫)などが有名ですね。
でも、時代の変化やジャンルの違いなどによってライトノベルを読む年齢層は変わってきていますし、ライトノベルに近いけれど一般小説として扱われている小説というのも多くあります。
※「ビブリオ古書堂の事件手帖」をはじめとするメディアワークス文庫は、ライトノベルと一般小説の中間地点に立つレーベルで、近年、多くの出版社が同様のレーベルを立ち上げています。
つまり一概に定義するのは難しいのですが、日本のオタク文化を大きく担ってきた存在であるという点は間違いないでしょう。
なぜ、「君の名は。 Another Side:Earthbound」は一般文庫からではなくライトノベルから出されたのか
「君の名は。 Another Side:Earthbound」は、これまでに新海作品のノベライズを複数手がけている加納新太が原作を手がけています。制作スタッフの一員として『君の名は。』のストーリー構築に関わっていたそうです。
詳しくは、ご本人ブログをご覧ください。
参照:かのろぐ 『君の名は。』の小説版(加納版)がスニーカー文庫から出ます
この本が発売されたレーベルは、角川スニーカー文庫。『おおかみこどもの雨と雪』など、細田守監督作品のノベライズも、角川文庫と角川スニーカー文庫から発売されています。
基本的には一般文庫は幅広い世代の客層に向けて、ライトノベルは挿絵を多く入れて若い層やアニメに親和性が強い層に向けてという戦略なのかもしれませんが、今回の場合それだけではありません。
監督自身が書いた正攻法のノベライズを一般文庫として発売し、作品のことをよくわかっている監督以外の作家が書いた、本編を主人公とは違う人物たちに語らせた変り種のノベライズをライトノベルとして発売しているという面白さがあるのです。
監督でも脚本でもない人物、それでいて作品に大きく関わっていた人物が、もう一つの物語を書きます。映画でちゃんと描かれなかった複数の人物たちの人生がそれによって生まれるのです。
1度映画を観た人も必ずもう1度観たくなることまちがいなし!
この本を先に読んでから映画を観た人は、三葉の父親である町長の最後の表情の意味が手に取るようにわかるし、友人を名ばかりのカフェに誘ったときの勅使河原の熱い思いを感じるでしょう。四葉がより愛おしくなるでしょう。
つまり、この本は、2度美味しいもう一つの映画なのです。
この「君の名は。 Another Side:Earthbound」には、ただ映画のスピンオフ的要素を楽しむだけではなく、大きな役割があるのではないかと思います。
それは、私たち観客の解釈の可能性を拡げるという重要な役割です。
2つのノベライズがもたらす、映画の大きな可能性
映画の世界観が3重にひろがる
映画が主に描いたのが入れ替わりと彗星との戦いだとしたら、「小説 君の名は。」はボーイ・ミーツ・ガール、「君の名は。 Another Side:Earthbound」は糸守町を描いた物語です。
映画を観る前に小説を読んでいたら、その映画は、その時々の登場人物たちの想いがより伝わってくるものになるでしょう。
映画を観てから小説を読んだら、「あの時彼は、彼女はこんなことを思っていたのか」と映画をもう一度観たくなるでしょう。
映画と小説2本を読むことで、お腹いっぱい映画を楽しむことができます。
解釈は無限にある!観客それぞれの『君の名は。』を語り合おう
小説は一人で書いたものだけれど、映画はたくさんの人の手によって組み立てられる構造物である。
ー『小説 君の名は。』著者あとがき(p.255)
「小説 君の名は。」という監督1人が書いた物語、映画『君の名は。』というたくさんの人によってできた物語、そして「君の名は。 Another Side:Earthbound」という監督ではない作家が書いた物語。
あらゆる『君の名は。』が存在します。だから、私たち観客が考えた『君の名は。』が無限にあってもいいのです。
『君の名は。』は、誰もが語りたくなる作品です。なぜなら、いろいろな見方ができる作品だから。
『君の名は。』には2度ブームが来るのではないかと思っています。1度目は、今起こっている映画館にだれもが駆け込んでしまうブーム、2度目は、『君の名は。』とはなんだったのかを語るブーム。
この2冊の小説は、その2度目のブームの大きな立役者となるでしょう。
映画館に行く前か後には是非本屋へ、立ち寄ってみてくださいね。
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