90年代に一世を風靡して、社会現象を巻き起こしたTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』。そんな本作の物語が2007年に新たな形で甦りました。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』の公開です。本作ではTVアニメシリーズの1話〜6話をベースに、新たな美術や演出で物語を描きなおした、後の新劇場版シリーズに続いていく最初の映画です。
今回はそんな本作に関して多くの人が触れ得るだろうというTV版をベースに、映画の魅力について追求していきます。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』(2007)のあらすじ
セカンドインパクトの発生から15年。特別非常事態宣言が発令される第3新東京に碇シンジは居た。父の碇ゲンドウに3年売りに会うことになったシンジだったが、父はシンジに会うなり、EVAに乗り込み、第4の使徒と戦うことを命じるのだった。
突然のことに戸惑うシンジだったが、一向に命令に応じないシンジに対して、ゲンドウは綾波レイに代わりにEVAに乗るように命じる。そこへやってきたのは、体に怪我を負った一人の少女だった。懸命な彼女の姿を見たシンジはついにEVAに乗り込むことを決意する……。
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※以下、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』のネタバレを含みます。
TV版と表記される意味
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』はこれまでも、複数回TV放送を果たしてきていますが、本作の内容を語る前に今一度、改めておさえておきたいのが“TV版”という表記の意味。エヴァシリーズは驚くぐらい律儀に作品のバージョン情報を提示してくれており、劇場版で公開された1.0バージョンを基準に、1.01と続くディスクリリースのバージョンや、TV放送用に編集されたものとして’(アポストロフィ)が付いた1.01’バージョンなど多岐に渡ります。
このバージョンによる物語の大筋は変わらないものの、キャスト表記が追加されていたり、色彩の調整などが施されていたりと確かに別物として存在しています。
中でもこのTV版とされるバージョンでは、単純に放送尺に合わせるだけでなく、TV放送をするための調整がされています。例えば、ミサイルの着弾シーンなどで画面が点滅するシーンでは、刺激が強すぎないように発光を甘めに調整するといったTV放送基準に合わせた調整が施されます。そのため、Blue-rayなどで観た時よりもシーンの迫力が違って見えたりすると思った人はその違いを感じ取っているのではないでしょうか。
闇夜に光る待望のEVAの姿
改めて『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』を観て驚かされるのは、後に続く新劇場版シリーズに比べると、かなりTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の物語に沿った内容となっていることです。このようにエヴァンゲリオンシリーズを改めて描きなおす意味は、もちろんいくつも挙げられるでしょうが、その中の一つにかつてTVアニメシリーズで構想こそしていれど、実現できなかった演出を再現できたという点があります。
例えば、シンジが最初にEVAに搭乗して戦うことになる第4の使徒との戦いにも顕著なポイントがあります。それは闇夜の中で機体のパーツが黄緑色に発光する点。EVA初号機の緑色の部分は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』で初めて光りはじめました。
このEVAの仕組みは実はかなり前から構想されていたもの。TVアニメシリーズのために、エヴァンゲリオンの機体をデザインした山下いくとさんの構想では、当初からこのEVAを発光させる案はあったそうですが、当時のセルアニメーション技術では光っている部分を動かすには、色の塗りを合わせるのは難しく、残念ながら発光するアイディアは断念することとなったそうです。
製作当初から時間を経て、技術や人員、スケジュールといった体制が変わったことで迎えた『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』。満を持しての演出が施された初号機の姿こそ、“真の姿”とも言えます。
TVアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズから受け継がれるもの
“真の姿”と言えば、逆に変わっていない点として、数多くのシーンがTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』と同様の絵面で登場します。もちろんかつてTV放送されたものとは映像自体は、明らかに綺麗になっているので別物なのですが、そこにも理由があります。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』の制作の際にはなんとTVアニメシリーズで使われた原画をそのまま使っているシーンが多くあります。“原画”とはアニメーション映像として流れる前のベースとなる下書きの絵のことで、アニメーション作りの重要な素材となります。
TVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の原画は現在も大事に保存されており、今回の映画の制作にもふんだんに生かされています。
とはいえ、TVアニメ放送当時の原画は、もちろん画面の規格にも違いがあれば、前述の発光演出のように今だからできる演出なども存在する訳で、あくまでも当時の原画はベースとして使うのみ。原画を流用するといっても全てを描き直しているという徹底さもさすがです。
だからこそTVアニメ版でストーリーを観ていたというファンにとっても『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』は新鮮な体験として、我々の目に映っていくことになります。いちシーン、いちシーンが現代に生きている人に向けた姿に生まれ変わった映画となっているのですね。
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不穏に混ざり込んでくるこれまでのTVシリーズとの違い
一見すると『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』は90年代にヒットしたTVアニメシリーズを綺麗な新鮮な体験としてリブートしただけのように映るかもしれません。しかし実はそんな映像体験としての新しさに加えて、数多くの旧来のTVアニメシリーズになかった違いがノイズのように紛れ込んでいる点は見逃してはいけないところです。
例えば使徒。初めてシンジが戦うことになる細い手足を持った人型の使徒サキエルや、職種を持った使徒シャムシエル、そしてクライマックスの戦いを担う正八面体の姿をしたラミエルなど、天使になぞらえた名前が添えられていましたが、実は新劇場版シリーズでは彼らに呼称はなく、第4の使徒、第5の使徒、第6の使徒と機械的な番号のような名前が割り振られています。
しかもサキエルは当初第3の使徒とされていた存在で、すでにこの時点で旧来に登場していなかった使徒の存在が暗示されています。
そして、決定的な見所は映画の最後。TVアニメシリーズでは物語終盤に登場した青年・渚カヲルが月面の“静かの海”とされる場所に並んだ棺で目覚めます。ここで目覚めたカヲルは、意味深な言葉を残します。
「また3番目とはね。変わらないな、君は」
「逢えるときが楽しみだよ。碇シンジ君」
カヲルのこのセリフから、カヲルはシンジを知っており、EVAに乗る3番目の子供であるサードチルドレンであることすら知っていることがわかります。さらには、“また”という表現から以前もそうであったかのような表現をしています。こういった従来とは違った演出の片鱗は、これから始まろうとしている新劇場版シリーズに不穏な影を落としていきました。
新劇場版シリーズの始まりを飾る見事なバトンパス
『序』に続いて『破』、『Q』と巡っていく物語を踏まえて改めて立ち返ると、この『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』という作品はTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』からスタートした以前のシリーズと、新たなに物語が綴られ始めた新劇場版シリーズを、自然と繋いでくれるブリッジのような気の利いた映画だったのだな、と改めて思い知らされることになりました。
初めて体験する人にはもちろん新鮮で、古くからエヴァに親しかった人にはどこか不気味なこの映画は、まさにこれから怒涛の展開を見せていく新劇場版シリーズの序章に過ぎなかったのだと痛感します。始まりの物語として、見事な映画が『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』だったのです。
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※2021年1月15日時点の情報です。