多くの映画をヒットさせた名プロデューサー、ペドロ・アルモドバルが描く映画の魅力

愛と自由と無限が大好きな私と、映画

GATS

アルゼンチンで実際に起きた事件を映画化した映画『エル・クラン』が9月17日より公開された。

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『エル・クラン』は一見幸福を持て余したように見える家族が陰謀的犯罪や事件に手を出し、1980年代当時独裁政治だったアルゼンチンの黒歴史を浮き彫りにし、巻き起こった騒動を軸に物語が進む。張り詰めた緊張感の中に起こるシュールさが漂った誘拐シーン、殺害シーンは見ものだ。

この作品の監督を務めたのはパブロ・トラペロベニチオ・デル・トロギャスパー・ノエらが集って監督を務めたオムニバス映画『セブン・デイズ・イン・ハバナ』の一部監督も務めた人物である。

あまり名を挙げてきた監督ではないし、プロデューサーとして制作してきた数本の映画も日本公開されているものが少ないためか彼についての情報は多くない。

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一方、今年カンヌ国際映画祭で喝采を得た新作ジュリエッタの日本公開が11月に期待されているスペインの巨匠、ペドロ・アルモドバルが今回制作に参加している。

本国アルゼンチンでの歴代興行収入第1位『人生スイッチ』を越したオープニング観客数!

『エル・クラン』は本国アルゼンチンでの公開に至ると、アルゼンチン内の興行収入1位をたたき出した『人生スイッチ』(2014)のオープニング観客数を超え、国内で実に大きな社会現象になった。

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(C)2014Kramer & Sigman Films / El Deseo

『人生スイッチ』といえば日本でも人気のあるアルゼンチン映画だ。

”私たちの心の中には決して押してはいけないスイッチがある。怒りだ。身近にあるそれは小さなきっかけでも押したら最後、こんな世界が待っている。”といった人間感情の怒気、憤怒をテーマにオムニバス形式で6つの話から構成されるブラックコメディになっている。

短編に集約される怒りは、非現実的な空気を思せつつ、しかし同時に身近な距離感を感じさせる。中でもやはり1本目の『おかえし』の映画のツカミはこの映画を加速させるエンジンのようで、個人的には一番気に入っている。

 

プロデューサーそして監督のペドロ・アルモドバルが映画をヒットさせる

そしてこの『人生スイッチ』『エル・クラン』、プロデューサーはどちらもスペインのペドロ・アルモドバルだ。

『人生スイッチ』に加えて、各国の映画祭で名声を得てきた『エル・クラン』の評価が今後、日本でどういった方向に進んでいくかということを考える上で、やはり彼の存在を無視できない。2作品とも監督ではなくプロデューサーとして関わっているが、彼自身が監督した作品も数多い。

スペインに生まれ育った彼の映画には、濃く滲むような赤や黄色といったやはりスペインらしい原色を使う奇抜な特徴がある。

また自身を同性愛者と公言しており、作品の内容は愛や情熱、個人のアイデンティティーといったものが多い。そしてファッション界にLGBT人口が多く、女性の魅せ方が巧いように、彼もまた女性を使った表現がとにかく巧く、彼以上に女性の美を知リ尽くしているであろう映画人を私は知らない。

とりわけオスカー賞を獲った『オール・アバウト・マイ・マザー』以降の作品からは作風に個性が出て、人気を博してきた。今でも国際映画祭などのレースでは常に大注目される監督だ。

以降は彼の代表作を紹介する。

『オール・アバウト・マイ・マザー』

all bout my mother

スペイン、マドリードに住むシングルマザーのマヌエラはその息子エステバンの17歳の誕生日に、今まで隠してきた父親のことを話すことを決めていた矢先、目の前で息子が交通事故にあい、亡くしてしまう。ひどく落ち込みながらも行方不明の父親を探しバルセロナまで向うが、道中出会う人たちや環境に母として、また一人の女性としての美しさや人生の希望をを取り戻していく。

アルモドバルらしい女性の美しさを映しており、外面的にはもちろん内面的、さらには身体的、機能的に強く輝く女性を映した映画だ。

この映画こそアルモドバルを有名にしたトリガー的作品であり、また代表作である。これ以降の作品から今のアルモドバルらしい色が付き、数々の映画賞にノミネートされるようになったことがそれを表している。

『トーク・トゥ・ハー』

talk to her

何年も病院の一室で昏睡状態のまま眠りについたアリシア。その彼女を献身的に介護し続け、毎日語りかけ続ける看護師のベニグノ。同じく事故により昏睡状態で寝込む女闘牛士のリディア。その恋人を介護しようとするが、上手くいかないジャーナリストのマルコ。この四人たちが繰り広げる孤独のソロプレイが話を広げ、人間ドラマを映し出す。性や愛をアルモドバルなりの解釈で描く、まさに芸術映画の代表だ。

アルモドバルはマイノリティやタブー化された偏愛、偏好を肯定するような、愛の概念をぶっ壊すような態度だ。愛や性は偏見を持って判断はできないし、そもそも生まれた時代も環境も異なった人間が否定できるほど愛の定義は決まっていない。

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巨匠としてのアルモドバル

アルモドバルは映画監督であり、紛れもない芸術家だ。

『エル・クラン』のようなサスペンス映画も、『人生スイッチ』のようなコメディ映画も愛する一方で、自身が監督する作品への思い入れはとにかく大きい。

筆者もまた彼の芸術に魅せられた一人である。愛や性、個人のアイデンティティなどと言う問題は近年世界で最も問題視されるイシューの一つだ。

もし、そういった問題や状況に思い迷ったときはぜひ彼の作品を見てほしい。あなたにとって大事な答えがそこに用意されており、私の人生がそうであったように、あなたの人生も変えてくれるかもしれない。

 

※2022年3月27日時点のVOD配信情報です。

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  • K
    3
    アルゼンチン軍事独裁政権が崩壊し、民主制へと移行していく80年代前半、新時代に馴染めず取り残された狂った家族がいた。 軍事独裁政権時代は許されてきた、金持ち誘拐殺人事件。 事件としては興味深いのだが、映画としてはいまいち。 父親が軍事独裁政権時代に国家情報局で働いていたエリートなだけあって、ばかじゃないからこそとにかく怖いし悪質。家族を巻き込むとか本当に最悪。。 刑務所で何度も自殺を試みるww
  • カオチ
    3.5
    セブンデイズインハバナの火曜日担当監督の作品 人間模様の描き方は流石 面白いけど恐いが勝ったな 実話ベースですし
  • theocats
    3.6
    実話ベース パッケージやあらましからは家族全員が役割分担で誘拐ビジネスに関わっているかのような感じだったが、そういうわけでもなく、とにかく主導的存在である元国家情報局員だった父親(まるでアルゼンチンの津川雅彦)には誰も逆らえないといった風。 簡単に人殺しを重ね凶悪極まる「誘拐ビジネス」。しかし、映像から受ける印象は深刻味が全然感じられない。 淡々ひょうひょうし過ぎていて、視聴している側も思考停止・神経麻痺にさせられていくような感覚。 理性と良心が死んでいるわけではない子供たちの、異常状態を知りながらどうにもできず手伝わざるを得ない静かな恐怖さえ伝わってはこない。 でありながら、実際の犯罪現場は本作の様に「映画的あおりなく」、平穏なうちに粛々と行われているのかもしれないなという、「冷めた感慨」とでもいえる心理にはさせられた。 ネガにもポジにも感情は動かなかったものの、シリアス犯罪劇なのにラテン的珍妙な「軽さ」を伴いつつ、薄くはない緻密堅固な構成と芯の通った「映像哲学(←何なのかは具体的に言えないが苦笑)」めいたものは確かに感じられたような気はするのでそこそこ評価。 でも高評価までは至らず。
  • nofm
    2.5
    記録
  • スカラムーシュ
    3.7
    これ実は実話なんですよね、、、 家庭環境ガチャSSR(悪い意味で) アルゼンチン版万引き家族
エル・クラン
のレビュー(1767件)