ミニシアター系映画監督たちの魅力:ガス・ヴァン・サントとアメリカのマイノリティ

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日本でも多くのファンを有し、デビュー公開から現在に至るまで彼らをずっとを魅了するアメリカ映画界の異端児、ガス・ヴァン・サント監督の新作『追憶の森』が4月29日(金)に公開されます。

ガスヴァンサント 追憶の森

(C)2015 Grand Experiment, LLC.

今作の撮影舞台の主は、なんと日本の自殺の名所として知られる富士山の麓、青木ヶ原樹海。さらにキャストは、オスカー俳優のマシュー・マコノヒーを主演に、渡辺謙、ナオミ・ワッツとこの豪華さ。

第68回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品された作品でもあり、今年劇場公開される映画の中でも、期待値が高い作品の一つです。

 

配給は東宝東和によるものなので、比較的大作に近いですが、ガス・ヴァン・サント監督の魅力的な作品には、インディーズ系映画が多いです。

記事を読んでいる方の中には、ガス・ヴァン・サントって誰?と思われている方もいらっしゃると思いますので、代表作であり、ルーツ、そして原点であるアメリカポートランドで撮影された初期3作品、いわゆる青春のポートランド3部作をご紹介します。

ガス・ヴァン・サント監督とは

アメリカの異端児として、マイノリティの代弁者として、意を尽くしてきたガス・ヴァン・サントは、映画監督だけでなく、写真家、小説家といった創作もしてきました。

生まれはアメリカ、ケンタッキー州のルイヴィルですが、幼少期にオレゴン州ポートランドへ移ってからは、映画製作もその他のアート作品制作も含め、多くの作品をポートランドで創っています。

ファンの多い監督ですし、大衆的な人気作品も撮ってきた監督です。なので、もしガス・ヴァン・サントという名前を聞いたことがなくても、作品ならご存知かもしれません。

例えば、『グッド・ウィル・ハンティング』は大作を作っていた時期に発表されていたもので、レンタルビデオ店に行けば、レコメンドされていますし、内容も好まれやすく作られているので、ご存知の方も多いでしょう。

他には、第56回カンヌ国際映画祭の最高賞、パルムドール賞を獲得した『エレファント』や、日本人俳優加瀬亮を起用している『永遠の僕たち』は人気のある代表作です。

ここからは、私がピックアップしたおすすめ作品、ポートランド3部作と呼ばれる、彼のルーツになった初期の長編3作品をご紹介します。

ポートランドの最悪な夜、「マラノーチェ」

ガスヴァンサント マラノーチェ

IF YOU FUCK WITH THE BULL, YOU GET THE HORN.

雄牛に手出しすると、痛い目に遭う

1985年に発表されたガス・ヴァン・サントの処女作である本作、「マラノーチェ(スペイン語で、最悪の夜)」はシャープで荒いカメラ、そして刺激的な内容により、多くのファンを魅了することとなりました。

原作は、ビートジェネレーションの影響を色濃く受けたような印象の、ウォルト・カーティスによる自伝的小説。それを監督であるガス・ヴァン・サントが脚色し、モノクロフィルムで、シックに撮影されています。

酔っぱらい、ジャンキーらがこぞって集まるポートランドのある地区の食料品店で働くウォルターは、日曜日も店で働いています。そこにメキシコからの不法移民、ジョニーと出会うことからマラノーチェ(最悪な夜)は始まります。野性的な態度に、かわいらしい笑顔を見せる。自由奔放で、無邪気といった具合のジョニーを見た途端に、心臓がドキドキと激しく高鳴るウォルターは、この破滅的な愛に飲み込まれていきます。

どうにかジョニーをものにしようとするウォルターの献身的な愛とは裏腹に、ジョニーはその愛を知っていながらも、するりとかわし、またウォルターに曖昧な態度で返すのです。

ジョニーの友人のロベルトは、寝床もなく、金のために言う通りにした方がいいといった様子だが、事態は一変し、最悪の夜が訪れる。

今よりももっと日の当たらなかった、同性愛のマイノリティのセックスの描写。背中部分が裂かれたTシャツ、股の破けたジーンズなど気取っていないボロボロのファッションは印象深く、写実的に時代や環境を感じさせるものがある本作が、続くガス・ヴァン・サント作品のルーツ作品となったわけです。

若さによる反抗、狂奔、そして喪失。「ドラッグストア・カウボーイ」

ガスヴァンサント ドラッグストアカウボーイ

一般的に、彼の代表作の一つに挙げられるのが本作と言って間違いはないでしょう。この作品を見て、彼に惚れ込んだファンは数知れず。

次へ次へと薬を求め、ドラッグストアを襲い続ける若者ジャンキーたちの青春ドラマ。繊細で、どこか滑稽な残酷さを内に秘めるポートランドのジャンキーたちに目をつけたガス・ヴァン・サントが2作目に撮ったとされるこちらの作品は、前作からの期待を裏切らない出来栄えです。

ジャンキーグループのリーダー、ボブを演じるのは、多くの不良の役で知られるマット・ディロン。当時25歳くらいで、まだ若さの残る尖った不良のようなイメージと、大人になりつつある色気のある雰囲気とがぶつかり合い、はまり役です。

彼の表情に伺える、喪失感や虚無感の演技は、まさに当時の彼自身の自己投影とも言えます。

この時期には、反逆者や、アウトサイダーの役をこなしていた彼の俳優人生を、また一つ豊かにした作品ではないでしょうか。

ある不幸なジンクスにとらわれた、リーダーのボブはツキを良い方に変えようと、トラックで街を移動します。それは、決して警察から逃れる為ではありません。

いつか、破滅するとわかりつつ、突っ走ってったあの頃。人生は本当につらいのです。

人生は本当につらい。先のことは誰もわからない。

たいていの人は、一瞬の過ごし方に苦しんでる。だが、ヤク中は賢い。

でも、おれは生きてる。生きていたい。

このラストの台詞に、この映画の全てがスマートに総括されています。「激動」の人生にこの人間ありですが、これが皮肉にもリアルなのだと、そう感じさせられる残酷ですが、美しい青春映画です。

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美しき俳優たちの熱くも切ない抱擁、「マイ・プライベート・アイダホ」

ガスヴァンサント マイプライベートアイダホ

最後にご紹介するこちらの作品は、ガス・ヴァン・サントの数ある作品の中でも一番のお勧め作品です。

発作的に深い眠りに襲われる病気、ナルコレプシーをもつ主役、マイクを演じたのは、『スタンド・バイ・ミー』で知られるリヴァー・フェニックス。彼の親友役、スコットを演じるのは、現在でも映画界で大活躍している、キアヌ・リーブスです。

ジャンキーと盗人、ストリートチルドレンたちが集まる、ポートランドのある地区のグループに出入りする二人。スコットはお金持ちのもとの生まれだが、マイクは廃れた服を着て、ゲイで自分の体を売って生活しています。この映画の中のマイノリティの象徴です。そしてその彼の虚無感を感じさせる顔と声は本当にリアル。親友への愛の葛藤、やるせなく行き場のない心の情感が見事に描かれ、無力と虚無をここまでかと言わんばかりに感じさせるものは過剰にリアルなのです。

俺は、金をもらわなくても、愛することが出来る。お前が好きだ。お前にキスしたい。

マイクがスコットに向かって言う台詞です。スコットはマイクを否定したり、また拒否する訳でもなく、何も考えないでこちらへ来いと言い、二人は熱く抱き合います。私は、こんなにも切ない抱擁を他に知りません。

余談ですが、このシーンのマイクに私は大きく共感し、涙があふれまくって、その晩は眠れませんでした。

他にも、風変わりなセックスの描写は、動画で静止画のように撮影し、シーンをいくつも並べるといったようなオシャレなもの。さらに、マイクの無力さをより引きだたせるような、広い草原や延々と続く荒野のショットやタイムラプスの演出には圧巻。

恋の苦さや、残酷さなどを繊細に描いた私の大好きな青春映画です。

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おわりに

ガス・ヴァン・サント監督特集いかがでしたか。

このように、彼の作品にはマイノリティが多く取り上げられ、丁寧でリアルな感情を繊密に描くのが非常に得意な監督です。他の作品にも似たようなスタイルの描写が見られますので、1作品でも好きな作品があれば、他の作品も楽しめるはずです。ぜひご覧になってみて下さい。そして、新作『追憶の森』に期待しましょう。

 

※2021年8月24日時点のVOD配信情報です。

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  • トラバァ
    4.1
    いちいち映像がキレイで、、 知らないことを知りたいと思う当たり前の心理、最後までみれたけど、ヘンゼルとグレーテルの内容を知らなかった、、
  • キャサリン子
    3.7
    自殺場所を求めて青木ヶ原樹海にやって来たアメリカ人男性が、自殺を思いとどまり樹海からの脱出を試みる日本人男性と出会ったことで、人生を見つめ直すさまを描いたヒューマンドラマ。 青木ヶ原の樹海が舞台だなんてなんだか暗くて怖そうな映画だと思っていましたが、とても心が温まるミステリーでラストは感動しました。 森の映像は神秘的であり幻想的でとても美しく、清々しさすら感じます。 カンヌで酷評されブーイングを受けていたと知り、ちょっと驚いた。 そんなに酷い作品とは思えなかったけどな。 大切な人にはちゃんと想いを伝えよう。 素直になろう。 大事な人は、ちゃんと大事にしよう。 観たあと、そんなことを思った映画でした。 前半はちょっと退屈ですが、ラストはぬくもりと優しさ、そして、希望を感じることと思います。 最後まで観て良かったです。
  • ごぶさたマン
    3.5
    肉体は死んでも、心の中にその人の魂は生き続ける。 そう思うか思わないかで命というものの意味が大きく変わる気がした。
  • Yooon
    3.8
    ネガティヴなファンタジー。 不倫にアル中、、 壊れそうな夫婦、、 青木ヶ原の自殺、、 終始全くハッピーなストーリーじゃないけど、、、 ラスト主人公がKiiro とFuyuの意味を知った瞬間、最高のファンタジーだった。 「漆黒の闇に紛れ愛する人は側にいる たとえ死んでいても」
  • みなりんすきー
    4.1
    『何かの理由で森に呼ばれ 引き留められてる なぜ彼は万全の装備で?』 『よくあるだろ 人生を変えるような大きな瞬間 何が大切か気づく瞬間だよ 来ては去る瞬間だが時として──遅すぎる 手遅れだ』 『漆黒の闇に紛れ 愛する人は そばにいる たとえ死んでいても』 ■ あらすじ ■ 富士山の北西に広がる青木ケ原樹海。そこを人生の終着点にしようと決めて日本にやって来たアメリカ人・アーサー(マシュー・マコノヒー)は、森の中をさまよう日本人・タクミ(渡辺謙)と出会う。傷つき寒さに震えているタクミの姿を見たアーサーは、一緒に出口を探して歩き始めるが… ■ 感想 ■ 🎬『追憶の森』 (『The Sea of Trees』) .*・゚〘 予想していなかった捻りがいくつもある 切なくも美しいストーリー。 澄んだ森の香りが画面越しに漂ってくるよう 〙.゚・*. マシュー・マコノヒー×渡辺謙主演の、日本の樹海を舞台にしたヒューマンドラマ。 渡辺謙たまらなく大っっっ好きなんですけどこれまだ未見でした。しかもマシュー・マコノヒーも好きなのでそれだけで観る価値しかない。おまけにナオミ・ワッツまで出てます。物凄い安定の豪華キャスト。 青木ケ原樹海──と聞けば日本人なら誰でもまずは”自殺の名所”が先に浮かんでしまうのではないでしょうか。非常にネガティブなイメージで残念なことなんだけれど、実際に自殺者が後を絶たない場所なので仕方の無いことでもある。 いざハリウッドにまで取り上げられるとなると、「日本にはこんな恐ろしい自殺の名所があるんだ」とマイナスなイメージが広がってしまったりするんじゃないかな〜なんて、ちょっと残念というか不安な気持ちもあったんだけれど、今作では確かに奥深くまでいくと迷ってしまい道に戻ることが難しいという実際の問題はそのまま起こるものの、とことんマイナスなイメージで樹海を使うことはなく、どちらかというとその森の美しさに目が癒されてしまうくらい樹海を美しく描いてくれているため、安堵したというか、日本人としてもなんとなく嬉しい気持ちになりました。風の音や虫の鳴き声、ゆっくりと流れる川、揺れる木々…とにかく美しく、画面越しに澄んだ空気の匂いが漂ってくるような。 ストーリーも非常に良い。ただ樹海でたまたま出会った男2人が、共に過ごすうちにお互いの傷を癒し生き延びることを選択する、みたいなまぁよくある感じの話かな〜と思ってたんです。が、全然予想を裏切られました。これが本当に良かったし、心打たれた。そうくるか、と。ラストなんかはもう痺れましたね。思わず「うわぁ〜〜そういうこもかぁぁぁ」と声が出て、ウルッときました。いい意味で、してやられました。観終えたあとだと、ちゃんと伏線がいくつかあったことに気付かされます。いやぁ、凄い。感動。 マシュー・マコノヒーは本当に幅広い演技のできる俳優ですね。個人的にはやっぱり『インターステラー』で魅せられて以降注目している俳優さんです。渡辺謙はもう相変わらずの安定感、言うことなし。笑 本当にカッコイイなぁ、、、最近も友人と「こんなカッコイイ60歳いる??いていいの???」という話をしました。笑 樹海が舞台、と聞くとなんか暗い話なんだろうなぁと思う人も多いと思いますが、本当に素敵な映画なので元気の無い時にこそ観てほしい1本。なんとなく気持ちが沈んでいる時、パッとしない時、悩み事がある時…そんな時こそ、きっと心を覆う煤のようなものを優しく取り払ってくれる、そんな温かい作品だと思います。
追憶の森
のレビュー(5590件)