『つむぐもの』絶賛公開中!若き監督が挑戦的な映画製作に込めた想いとは

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3月19日(土)に公開された映画『つむぐもの』。

福井県を舞台に、不遜で偏屈な性格で、妻を亡くして以来、誰とも心を通わせることなく生きていた和紙職人の剛生と、韓国からやってきた落ちこぼれで気の強い女性ヨナが出会い、徐々に心が通いあっていく様子を描いた作品です。

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本作は日本と韓国、介護、伝統工芸、とさまざまなテーマを盛り込んだオリジナル脚本。

今回は、本作『つむぐもの』を監督した犬童一利氏に、この挑戦的な作品への製作に込めた想いをお伺いしました!

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ー初日満席のスタートおめでとうございます。舞台挨拶での観客の拍手に温かさを感じました。監督からみて、観客の反応はいかがでしたか。

初日からの3日間、毎日舞台挨拶をしたのですが、すごくお客さんとの距離が近いな、と感じました。一方通行になりがちな舞台挨拶ですが、3日間連続して登壇してくださった主演の石倉三郎さんの飾らない人間らしさとユーモアを交えたトークがお客さんを巻き込んで会場を盛り上げてくれました。

他にもNHKの連続テレビ小説「あさが来た」に出演している吉岡里帆さんや、映画の舞台となった福井県出身でTBSの「天皇の料理番」では方言指導も担当されていました日野陽仁さんなども登壇してくれて、お客さんの反応が良かったです。

介護業界の方もたくさん観に来てくださいました。「主演の石倉さんとキム・コッピさんのお芝居がとても良かったです」「いろんなテーマがある中ですごく丁寧に作られた作品ですね」と声をかけてくださる方が多く、とても嬉しかったです。

国籍や年齢、性別がどう、ということではなく、「人」が「人」として人間同士、心通わせること

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ー日韓関係、介護、伝統工芸などさまざまなテーマがありましたが、監督自身が30歳という若さで介護というテーマを取り入れようと思ったのはなぜでしょうか。

企画の段階で、韓国と福井をテーマにすることは決まっていました。一昨年の年末、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『愛、アムール』という作品を観て、僕は祖父母とも暮らしたことがないし、これまでまったく介護をしたことがない、ということに気が付いて、介護に向き合わなきゃ、と思いました。『つむぐもの』を作った制作会社は介護のデイサービスも運営しており、プロデューサー陣も介護の映画をずっと作りたかったということも分かり、企画がスムーズに進んでいきました。

介護の本質は、介護される人がその人らしく最後まで生きることの手助けだと思います。本作における剛生にとってそれが伝統工芸の和紙をすくことでした。国家間ではいろんな問題があるように見える日韓だけど、ヨナと剛生が出会い、介護を通して、その人らしく生きることや、「人」が「人」として向き合って、関係に気づくことになって。その3つのテーマを混ぜあわせることができたのかな、と思います。

ーその3つのテーマを描く中で最も伝えたかったことは何ですか?

国籍や年齢、性別がどう、ということではなく、「人」が「人」として人間同士、心通わせることです。業界問わず、日本がこれから超高齢化社会やグローバル社会が乗り越えていくために絶対に必要なスタンスだと思います。

「日韓友好 指キッス1000人 私たちは映画製作者です。」

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ーシナリオハンティングの時に韓国で面白い試みをされたとお伺いました。

韓国のソウルや扶余で「日韓友好 指キッス1000人 私たちは映画製作者です。」と書いたプラカードを持って、街ゆく人に親指と親指を合わせる「指キッス」をしてもらう、という挑戦をしました。

『つむぐもの』の中にも出てくるのですが、これ実は僕のオリジナルなんです。みんな韓国の挨拶だと思っているんですけど(笑)

はじめはなかなか近寄ってきてくれる人がいなくて。このハートも若干怪しいでしょ(笑)でもだんだんやってくれる人が増えて。どんどん韓国の方が笑顔で「指キッス」をしてくれて。これが今回一番描きたかった「人」と「人」との心の通い合いだ、と実感できた時でした。

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ー福井県の丹南地域、韓国の扶余郡と、さまざまなロケ地で撮影されていましたね。

地元の人たちのご協力があって、普段使えないような場所で撮影させていただきました。セットを用意するのではなく、和紙の工房も介護施設も今もまさに稼働されているところを使わせていただけたので、それぞれの地域の息づかいや生の景色を切り取れたと思います。

現地の方々にもたくさんエキストラとして出演していただきました。現地の方々には、キャスト、ロケ地と本当にたくさんご協力いただきました。

ー今回の製作の中で大切にしていたことはなんですか?

一番は、過剰な演出をせずリアルにすることです。ドキュメンタリーではないのですが、お芝居を観ている感じがしない、日常を切り取ったような感じがした、という風に観客の方に思ってもらえるように心がけました。

とくに、介護業界の方にはたくさん観てほしかったので、介護の世界でありえないような演出にならないように気をつけました。実際の施設で行い、実際にプロとして働かれている介護士さんにキャストとして出演いただいたり。リアルでないところはすぐに訂正してもらいながら、より実際の介護業界に近い演出になるように心がけました。

今の映画業界は、本来の映画製作のあるべき姿勢と逆になってしまっているのでは

ー予算の少ない中での撮影だったのでしょうか。

そうですね、でも丁寧に作ることが出来ました。潤沢な予算がなく、福井で2週間、東京で1日、韓国で3日、という短い撮影期間にも関わらず、作品への向き合い方がみんな真摯でした。

今のインディーズ映画ではなかなか難しいことなので、今回は非常にいい製作をさせていただけたな、と思います。

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ー今の映画業界はオリジナル脚本で映画を撮ることが難しくなっているようですが、『つむぐもの』で、オリジナル脚本に挑戦できた理由はどんなものだったのでしょうか。

そうですね、今の映画業界のメジャーな作品だと、原作やタレントありきで、「売れる作品」が製作されがちですよね。

それは間違っていることではないと思いますが、本来の映画製作のあるべき姿勢と逆になってしまっているのではという危惧があって。そういう想いを、プロデューサー陣をはじめ僕らが強く持っていて、多くの人の協力を得ながら映画製作に取り組めたことが、オリジナル脚本に挑戦できた大きな理由だと思っています

結果が出ないと次をの作品を作ることができないから、絶対に僕たちは成功しなければいけないのだけど、プロデューサー陣は、厚生労働省とのタイアップや草の根活動など、そういう部分まで視野に入れ、どこに媚びるわけでもなく、好きなメンバーでやりたいことをやりたいようにやらせてくれました。

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ー介護士さんが被介護者を叩いてしまうシーンの演出も挑戦的だなと感じました。

普通のプロデューサーだったら、このような表現を許してくれないです。でも僕はこの作品で、ただただキレイなだけの介護業界を描きたくなかったし、ただただ汚い介護業界にもしたくなかったんです。

この映画では悪人がいないんです。それぞれの人がそれぞれなりの正義をもって生きていると思うので。映画では、嘘を描かず、それぞれの正義を持つそれぞれの人間をきちんと描きたかったんです。

そういう部分を含め、プロデューサー陣が保守的にならずにいてくれたので、みんなで挑戦的に製作に取り組めたと思います。

映画業界と介護業界の架け橋になるような作品になればいいな、と。

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ー「つむぐもの大使」のみなさんと広報活動を行ったと伺いました。

若手の介護士さんたちの中から「つむぐもの大使」を数名任命させていただいて、一緒に広報活動をしてもらいました。彼女たちは、映画を観て、自分たちの仕事に対しての価値観などに気づきがあったと共感してくれて、いろんな人に観てほしいと純粋に思ってくれました。

現場の若い人たちが、この映画観るとプラスになるよ、価値観変わるよ、と周りの子に声をかけてくれたらいいな、と思います。映画業界から他業界である介護士さんたちがビラを配るなんてことはあんまりないじゃないですか。それをみんなで楽しんでやれたことがすごく良かったです。

ー映画業界に限らず、他業界を巻き込んだ映画製作に挑戦されたんですね。

他業界とコラボして映画製作を行うのはすごく良いことだと思っていて。違う業界の人に映画に関わってもらうことで、その人たちがまた映画に興味を持ってくれるし、映画好きがその業界に興味を持ってくれるかもしれないし。映画業界と介護業界、双方の業界の架け橋になるような作品になればいいな、と思っています。

『つむぐもの』という作品自体が「人」と「人」の繋がりをつむいでる

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ーずばりこの映画の魅力はなんでしょうか?

監督としては、作品が良いかどうかがすべてなんですけど、この映画を製作することで関わった人や、作品を観て意見をくださった方々との繋がりがすごくこの映画の良さでもあるんですよね。『つむぐもの』という作品自体が「人」と「人」の繋がりをつむいでるな、って思います。ちょっといいこと言っちゃった(笑)

つむぐ、というのはもともとは繭(まゆ)の線をたぐり寄せて糸を作るという意味ですが、伝統をつむぐ、時代をつむぐ、「人」と「人」がつむぐ、というように日本ではとても広義的に使われています。この映画のテーマだけでなく、映画製作への向き合い方にもすごく合っているな、と思っています。

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ー最後に、この作品の見どころを交え、お客さんへメッセージをお願いします。

映画はお客さんに観てもらって完成だと思っています。20代、30代中心の若い現場メンバーで伝えたい想いのこもった映画を作りました。このような作品を日本の映画業界で作り続けられるように、成功させたいと思っています。そういう意味でもぜひ観ていただけたら嬉しいな、と思います。

また、石倉三郎さんやキム・コッピさんなどキャストの圧倒的なお芝居は見ごたえがあると思います!いろんなテーマがあり、観たあとディスカッションが出来る作品だと思うので、ぜひご覧ください!

ー犬童一利監督、お忙しい中ありがとうございました!

(取材・文・撮影 / 菅原澪)

 

4月2日(土)、3日(日)舞台挨拶あります!

4月2日(土)、3日(日)の初回上映後に舞台挨拶も実施されます。犬童監督はもちろん、2日には主題歌「月の砂漠」の城南海さん、3日には「つむぐもの大使」の皆さんも登壇されます。

製作秘話などが聞ける絶好の機会、ぜひ映画館へ!

映画『つむぐもの』

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(C)「つむぐもの」製作委員会

《2016年3月19日(土)より、有楽町スバル座他にて全国ロードショー》

映画『つむぐもの』公式サイト

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※2022年11月28日時点のVOD配信情報です。

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  • よびちゃん
    2.9
    音や人物紹介に気が利いている印象。しかし関係や性格の描写で本人の口から「妻には逃げられた」と言ったりするので自己紹介みたい。「あの人奥さんをなくしたから」「幼馴染なのに」は他者からだけど説明的に見える。難しい。全体的にセリフも話も口調が硬い。勝ち気なヨナと頑固な剛生はステレオタイプなキャラにも見えるし、ワーホリで来ていきなり介護の現場というのも、分かってやってるにしても引っかかる。吉岡里帆が出てるの驚いたけどグラビアで売れてドラマなどに出て、カルテットからのブレイクの直前ってタイミングか。森永悠希も森永悠希っぽい役で出てるが森永悠希っぽくない役で見たい気もする。介護を我慢と捉え真面目にやる涼香の心がヨナの無邪気さで折れるのいいな。ただ長生きよりdignityみたいな。
  • SohDIRECTOR
    3.5
    偏屈だけど繊細な和紙職人と自分がない怠け者の韓国人の女の子。 絶対に交わることのない2人が、年齢と国籍を越えて[つむぎ]だす... 期待を越えて感動した。こういう映画がふえるといいですよね。
  • シエ
    3.5
    石倉三郎さんの初主演映画✨ キム・コッピが出てるので観たのですが、ワーキングホリデーで来日し、和紙職人の石倉さんの元で修行するのかと思ったら… 介護がテーマの作品でした。 介護が必要になった石倉さんと、気の強いキム・コッピが、言葉も通じない中で共に生活し、介護を通して心を通わせていく✨ この2人の演技が良かった~👍 日本酒とマッコリを飲むシーンが好き🍶 石倉さんて、偏屈なオヤジの役が本当似合うよね😆 介護福祉士の吉岡里帆は、無茶苦茶な介護をするキム・コッピに苛立ち、嫉妬する、ちょっと嫌な役。こういう時の彼女って目が怖いのよね💦 普段はあんなに可愛いのに。 でも、あの目をする吉岡里帆が好きなんです😂 宇野祥平、森永悠希も出演。 コッピちゃん作品で久しぶりに良い映画だった😆👍 この前「クソすばらしいこの世界」観たんやけど… 何で出演したんやって思ったからね😓 私には全く合いませんでした💦 ミアネヨ🙇 石倉さん見ると、レオナルド熊さんを思い出すな~🐻 【韓国関連044】 ---------------- よろしければご参加ください😌 ✏韓国映画4択クイズ✏ 【問題54】 キム・コッピが声優を務めたアニメは? ①我は神なり ②豚の王 ③ソウル・ステーション/パンデミック ④発狂する現代史 解答はネタバレをタップしてコメント欄にお願いします😌 正解はコメント欄でご確認ください😊
  • ヘラルドスクエア
    2.5
    大げさに感動させようとしていない映画。 かなり好感を持って見られました。 抑えた演出と飾らない画面作りが、物語に自然と共感できたのだと思います。 とりあえず劇伴流しっぱなしで延々と盛り上げちゃうみたいなのじゃなくて助かった。 どちらもコミュ症の日本の老人と韓国の小娘。 介護を通してこころを通わせ成長します。 この映画には、気持ちいいほど善良な人しか出てきません。 人間は世代や文化を超えて分かり合えるという 理想を、あまりに分かりやすい設定で形にしています。 それでも陳腐にならないのはキャスティングの妙にあるのでしょうか。 介護現場や過疎、後継者問題など、高いハードルを易々と乗り越えてしまう。この夢物語を納得させてしまえるのは、映画ならではの力だと感じました。
  • うめ
    4.1
    妻を失い 病に落ち 生涯を捧げた“紙漉き”を奪われた 職人「剛生」の中に 渦巻く悔しさと悲しさと怒り 自らの感情を持て余し 職場にも 家庭でも 居場所のない女性「ヨナ」 傷ついたプライドと投げやりな気持ち 日本人と韓国人 老人と若者 男性と女性 被介護者とヘルパー 相反する2人の間で“つむがれていく”もの 良い 何が良いって 一歩間違えたらどこにでも転がっている作品になるんですよ このテーマって でも 長い年月で凝り固まった年寄りの殻を若者が無神経な若者が容赦なく砕いていく 何かに打ち込めなかった若者が一つの事に向き合ってきた職人から汲み取っていく その辺りを甘ったるくする事なく丁寧に撮られているのです 頑固な職人の石倉三郎のしかめっ面がハマってれば わんぱくでストレートな表現しかできないキム・コッピも負けてない 頑固な裏に隠された純粋さ 控えめな態度だったり 丁寧な物腰とか 怒らない事とかが 優しいと思われがちだけど こんな優しさもありだと気づかせてくれる そして 普通の日本人の良識を良いところも悪いところも含めて見せる ヘルパー役の吉岡里帆も効いていた 可愛さだけじゃなくて こういう役もこなせるのだから… 侮れない実力を持っていますね ラストの余韻も素晴らしくて もっと知られてよい作品だと思います
つむぐもの
のレビュー(441件)