名優ニコラスが帰ってきた!史上最高の演技と評判の『グランド・ジョー』を見逃すな!

文芸・映像翻訳者

樋口武志

俳優、ニコラス・ケイジと言えば『ザ・ロック』や『フェイス/オフ』で素晴らしい演技を見せ、『リービング・ラスベガス』ではアカデミー主演男優賞を獲得するほどの名優!

………………だったはずですが、近年ではこの動画で紹介されているようなコラ画像や

こんな映像↓が作られ、ときに大げさだと言われてしまう演技と相まって、ある種ネタと化している存在、というイメージをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか?(本人も、自分の演技を振り返り、演技が過剰な「Western Kabuki(西洋の歌舞伎)」みたいなときがあったと語っています)。

そんな彼が、役者としての真の実力を遺憾なく発揮した、原点回帰とも新境地とも言える作品『グランド・ジョー』が2016年3月18日よりTSUTAYA先行でレンタル開始されます。

グランド・ジョー

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作品について

『グランド・ジョー』は、南部を舞台にした作品を書き続けてきたラリー・ブラウンが1991年に発表した小説「Joe」(未邦訳)を、『スモーキング・ハイ』や『セルフィッシュ・サマー』のデヴィッド・ゴードン・グリーン監督が映画化したもの。

何やら暗い過去を持つジョー(ニコラス・ケイジ)は、森に新しい木を植えるため古い木を腐らせていく仕事の監督をしながら、南部とおぼしき貧しい町で平穏に暮らしている。そこに、酒を飲んで暴力を振るってばかりの父親を持つ15歳の少年ゲリー(タイ・シェリダン)が仕事を求めてやって来て、二人の交流が始まる。

しかし、ジョーに恨みを持つ人物が復讐の機会を伺っており、ゲリーの家族にまで危険がおよび始める。それを知ったジョーは、ある行動に出るのだった……。

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南部を舞台にした西部劇?

原作のラリー・ブラウンは南部を舞台にした作品を数多く執筆していますが、監督のデヴィッド・ゴードン・グリーンが「Joe」を映画化しようと思ったのは、この作品に「罪のあがない」「復讐」という西部劇的な要素を見いだしたからだと言います。

そして「アウトローが罪をあがない次世代に何かを残す」という点を追及すべく、撮影地を原作の舞台ミシシッピ州から監督の地元テキサス州オースティンに変更し、作中では時代や場所を特定せず、南部だけでなくいつの時代の誰にでも通じる物語にしたかったのだと語っています(もちろん、服装や生活風景だけでなく、ダメな親父や、抜け出せない貧困や、どうしようもない負のスパイラルなどの南部的要素は、痛ましいほどふんだんに盛り込まれています)。

ネタバレになるので詳しくは言いませんが、「罪をあがない次世代に何かを残す」という点は、森での仕事が良い前フリとなって、ラストで見事に表現されています。脚本を担当したゲイリー・ホーキンスは監督の大学時代の教師だそうですが、彼も主人公ジョーの精神性を「サムライのようだ」と例えていました。

素人の役者たちが生み出す奇跡

この映画では森のほかにもうひとつ「犬」が象徴的な存在となっています。ジョーは自分が飼う利口で賢い犬を溺愛する一方で、売春宿にいるうるさい犬を猛烈に嫌っていて、それはまるで暗い過去と決別し、善良な生活にしがみつこうとするジョーの比喩のように感じられます。

途中、行方不明になった犬をジョーが必死に探すシーンも、犬をジョー自身の比喩だと考えるとなかなか感慨深いですし、ラストの犬の行く末も味わい深いものがあります。しかし、何より印象的なのは、ゲリーのダメ親父です。

このダメ親父がたまに着ているジャケットの後ろには「G-DAAWG」と書かれています。「G」は「Gangsta」とか「Ghetto」の略で、「DAAWG」は「Dawg」の変形で、「Dog(=犬)」が訛ったもの。「Dog」には「friend(友達)」の意味があり、つまり「マイフレンド」と書かれたジャケットを着ているわけです。

その「犬」のジャケットを着たダメ親父が、作中のクライマックスでジョーに「Are you my friend?」と問いかける。それはまるで、ジョーのダメな部分が自分にそう訴えかけてきているように聞こえます。そのダメ犬的な部分がどうなるかは作品を見て確かめて頂くとして、「犬」に注目するとまさに象徴的な「Are you my friend?」というセリフ、これはダメ親父演じるゲイリー・プールターアドリブだったそうです。

この映画には監督が住むオースティンの地元の人びとがたくさん出演していて、森での仕事仲間や警官役の黒人たちは監督のご近所さんらしく、ゲリーの父親役のプールターもキャスティング中に見つけたホームレスだったといいます。さらに「G-DAAWG」も元々脚本にあったのではなくプールターのメールアドレスだったそう。

というわけで「犬」については深読みなのかもしれませんが、そういうことを考えさせるほどの要素が素人の役者によって偶然にも含まれているところが、この作品の面白さだと思います。

おわりに

ニコラス・ケイジの本名はニコラス・キム・コッポラ。父親のオーガスト・コッポラはフランシス・フォード・コッポラの兄であり、ソフィア・コッポラとは従兄弟関係にある芸術家一家に育った役者です。「コッポラ」の名で売れることを嫌い、前衛音楽家ジョン・ケージへの憧れと、マーベルコミックヒーローのルーク・ケイジへのオマージュとして「ケイジ」の名をつけたそうです。

マーベル映画『ゴーストライダー』にも出演し、最近ではコミック好きなネタ俳優のイメージが定着しつつあるニコラス・ケイジですが、そんな彼が脚本に惚れ込み1か月も前乗りして監督とロケ地を巡ったりリハーサルを繰り返し、謎めいて淡々と進む物語を引っぱる抜群の演技を見せた『グランド・ジョー』。

「ニコラス・ケイジ史上最高の演技」とも評され、2014年の「最も過小評価されている映画 Top10」にも選出された本作は、最近のニコラス・ケイジしか知らない人にも、往年のニコラス・ケイジファンにも、一見の価値がある作品だと思います。

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※2022年6月21日時点のVOD配信情報です。

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  • 15
    -
    ラストが良い 67点
  • aya
    3
    2023(994) ニコラスケイジの最高傑作は嘘やろ もっと傑作あるわ 地味だけど、ニコラスケイジの演技に気合を感じる
  • エディ
    5
    ニコラス・ケイジ、はまり役でした。 厄介ごとは避けたいけれど、どうしても見過ごせないこともある。 そんな葛藤が生々しく伝わってきました。 若い頃の演技も良かったですが、最近の彼はさらに味わい深さが増しているような。 また大御所のニコちゃんに引けを取らない存在感だったタイシェリダン君も印象深かったです。 厳しい境遇の中でもがきながらも前向きに生きていこうとする温かい人々が描かれる一方で、すさみ切ったクズ親父のどうしようもなさがやり切れませんでした。 またいつか見返したい作品。
  • 3
    ニコラス・ケイジはネタにされてばかりだけど渋くていい俳優だよね
  • 初珠
    3.4
    アル中の父親に暴力を振るわれる少年ゲリーを“かわいそう”と思うのは一面的な見方で、ブレイクダンスについてのやり取りでは、微笑ましい親子の関係性も窺える。 自然の木々は人間に違法に枯らされ伐採されるが、そこで働く労働者たちのコミュニティは牧歌的ですらある。 世の中は綺麗事だけではない。この映画で描かれる環境では、ごく当たり前の人間の幸福があるかどうかさえ怪しい(その当たり前は、この環境にいない者の基準でしかないのだけれど)。 ニコラス・ケイジ演じるジョーも、決して善人ではない。でも、どんな世界にも信じるに値する拠り所はある。そんなことを感じた。
グランド・ジョー
のレビュー(1977件)