昨年の夏に公開されたフランソワ・オゾン監督の『彼は秘密の女ともだち』が2月17日からいよいよDVDレンタル開始になります。
新作を出すたびに国内外で大きな話題を呼ぶフランソワ・オゾン監督が、今フランスで引っ張りだこのアナイス・ドゥームスティエをヒロインに、ロマン・デュリスやラファエル・ペルソナなどの人気フランス人俳優たちをキャストに迎えた今作。タイトルからして意味深で興味をそそられますが、解釈の分かれそうなラストシーンも印象的で、さまざまな見方で楽しめる映画です。
今回は主演のアナイスさんが来日したフランス映画祭のインタビューレポートなども含めて、LGBTを中心にいくつかの視点から作品を紐解くヒントを探っていきたいと思います。
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まずは簡単にストーリーをご紹介。
主人公の女性クレールは幼いころから親友だったローラを亡くしてしまいます。ローラの旦那さんのダヴィッドとその娘を守ると約束したクレールは、残された2人の様子を見に家を訪ねますが、そこで目にしたのはなんとローラの服に身を包み娘をあやすダヴィッドの姿。
そのことを秘密にしてほしいと頼まれ最初は戸惑うクレールでしたが、彼女はやがてダヴィッドの本当の姿を知る唯一の理解者として彼と密会を繰り返し絆を深めていきますが…。
映画を紐解く4つのヒント
LGBT
フランソワ・オゾン監督は自身がゲイであることを公表しており多くの作品で同性愛を描いていて、この作品もジャンルとしてはLGBTを扱った映画と言えます。
LGBTという言葉は昨年ごろから日本でも徐々に知られるようになりましたがここで改めて定義しておくと、Lesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイセクシュアル)、Transgender(トランスジェンダー)の頭文字を取ったもの。
さらに性について考える時、主に、身体の性、心の性、好きになる性の3つの切り口から考えることで大まかな自分の性を知ることができ、セクシュアリティはLGBTとそれ以外の人たちにくっきりと分かれるものではなく、LGBTの中でもその趣向は多岐にわたりいろいろな種類に分かれるそうで、そういった視点を持ってみると映画をより理解できると思います。
映画を観て、LGBTは性について理解するだけではなくて、性別も含めた社会的な既成概念などを超えて個人としての人を愛することを尊重する大切さについても考えさせてくれるテーマだと感じました。
映画祭での観客の反応
しかし、今の社会について考えさせられる作品ではありながらも、あくまでコメディ・タッチで深刻になりすぎずに見られるところもこの作品の魅力の一つです。
亡くなった奥さんの服に身を包んでお化粧をする男性ダヴィッドを演じたロマン・デュリスは、かねてから女装する役に憧れていて心から楽しんでこの役を演じていたそうで、そんな彼がお茶目に演じたダヴィッドの姿に会場が温かい笑い声に包まれる場面も多かったように感じます。
また、上映後のインタビューでは解釈の分かれそうなラストシーンについて、主演のアナイス・ドゥムースティエさんが観客に質問を投げかける一幕もありました。人によって意見は様々で正しい答えがあるわけではないけれど、こうやって見終わった後にどんなふうに思ったか語り合ってみるのも楽しいと思います。
女性目線から見て
初めは女装姿に違和感があるダヴィッドがどんどん美しくなって、さらにクレールもダヴィッドと親しくなってから自分の奥底に眠っていた女性としての魅力を開花させていくところが衣装やメイクなどから視覚的にわかります。クレールとともに、女性であることってこんなにきらきらしていて楽しいことなんだということを男性のダヴィッドから教えてもらいました。
本当の自分を受け入れてくれる人に出会って2人がいきいきと変化していく姿からは、自分に素直になって楽しんで生きることの素晴らしさを改めて感じるとともに、自分自身のことも他者のことも認めてあげることが、一人一人が自由に生きるために一番大切なことなのかもしれないと思いました。
フェミニズム的視点から原作を読む
この映画には原作があり1985年に出版された「女ともだち」という短編がもとになっています。
原作者はフランスの女性ミステリー作家、ルース・レンデルです。彼女の作風は「正常と異常の境の薄皮を踏み破ってしまった人間が、異常心理のどろ沼にはまり込み、追い詰められた破滅に至る」という少しおどろおどろしいものが多く、「女ともだち」も20ページの短いながらもとても中身の濃い物語です。
また、彼女は「ミステリーはトリックにあるのではなく、人間の内部にある」のであり、心や精神、日常の細部に宿る闇の部分にしかミステリーはあり得ず、その中に分け入るしか現代の恐怖をとらえる方法はないと考えた作家だったと考えられています。特にその日常の細部とは男性がほとんどこだわらなかった盲点でもあり、そんなきめ細やかな感覚を武器に、多くの読者の共感と圧倒的な人気を得たとも言えます。
女性の心理を巧みに表現することで知られるフランソワ・オゾン監督が、好んで彼女の作品を映画化した理由が、こんなところからも垣間見えます。
注目の若手女優 アナイス・ドゥムースティエ
フランス映画祭では上映後、主演のアナイス・ドゥムースティエさんが登壇されました。当初はフランソワ・オゾン監督も一緒の予定でしたが急遽来日がキャンセルとなり、彼女が初来日ながら1人でインタビューに答える形になりました。
日本ではまだあまり知名度は高くありませんが、フランスでは2014年は5本もの映画に出演するほど大活躍で今引っ張りだこの女優さんで、映画祭で初めて彼女のことを知ったのですが、1つ質問を受けたら10返すような勢いでサービス精神旺盛にどんな質問にも丁寧にてきぱきと答える姿に好感を持ったのと同時にとても頭の回転が早くて知的な印象を受け、その人気の理由がわかったような気がしました。
可憐で純朴で親しみやすさがあって知性も兼ね備えていて、私自身も映画祭でファンになってしまったアナイス・ドゥームスティエさんですが、日本では昨年から『バード・ピープル』という主演作がミニシアター系の映画館で全国順次公開中です。現在開催中の『myFFF』でも彼女の出演作が見られるので、この機会にぜひご覧になってみてください。
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さいごに
映像や衣装などの美しさや豪華なキャストはもちろん、コメディとしても楽しめるし、最近ますます注目されているLGBTについても考えることができるので、好き嫌いがありそうな作品ではありますが見ていただきたい映画です。
フランソワ・オゾン監督が好きという方には、『わたしはロランス』をはじめとするグザヴィエ・ドラン監督の作品や、ジョン・キャメロン・ミッチェル監督の『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』もおすすめ。性別を超えた愛の物語が美しく力強く描かれているところが心に刺さるのではないかと思います。
ちなみに、オゾン監督が映画の中に一瞬だけ登場する場面があるので、ファンの方はそこもチェックしてみてくださいね。
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