昨今の映画ではフィルムカメラでの撮影が次々と減って、デジタルカメラでの撮影が増えています。フィルムはこのまま無くなってしまうのか、そしてそもそもそれぞれのメリットは何か。僕自身もデジタルへの過渡期に映像を生業にしてきた為、非常に興味深く流れを体感しています。
フィルムカメラの【フィルムっぽさ】とは
出典 : http://en.wikipedia.org/wiki/Arriflex_435
映画は1秒間に24コマの画が連続している動画です(※テレビ番組は擬似的ですが1秒間に60コマ。コマーシャルは主に30コマ)。この情報量の少なさ、滑らかではない動きがいわゆる「映画っぽい画」とされてきました。
さらにフィルムカメラのメリットとは、大きい画面に耐える解像度、真っ白から真っ黒までの細かい差が綺麗に描画できる点(レンジが広いと言います)などです。
滑らかではない画が良い、と言われてることからも分かるように、映画というフィクションを表現するには、単に現実(見た目と同じ)に近く、綺麗であればいいというものではないのです。
上記に加え、フィルムで得られる空気感、良い感じのノイズ(粒状感)、印画紙に焼き付いた質感、それら全部含めての【トーン】が絵画にも近い芸術として、コントロールされているのです。
デジタルカメラのメリット
http://www.fdtimes.com/2013/02/20/arri-alexa-xr-and-xt/
一方、デジタルカメラの性能も登場以来年々あがり、コマ数はもちろん、解像度やレンジなど、あらゆる点がここ数年でかなりの精度でフィルムカメラに追いついたり、再現できるようになってきています。
ただこの先も、完全にフィルムのトーンと同じになることは難しいように思います。そこにはアナログならではの、ゆらぎのようなものがあるからかもしれません。
しかし、それを補うほどのメリットがあります。素材はデータになり、メディアの容量まで撮影が可能(頻繁なフィルムチェンジが無い)。カメラの小型化。今後もっと感度が上がれば、照明の考え方も変わってくるでしょう。
何よりも撮影後の素材の扱いが(ほとんどパソコンベースで作業されるので)素早く、画質もオリジナルをキープしながらあらゆる部署が扱えるのです。これによるコスト面とスピード面のメリットは、映画会社や出資者にとっては何にも代え難いものでしょう。
フィルムを使うか、デジタルを使うか
http://www.engadget.com/2012/08/27/kodak-asset-protection-film/
現在では映画撮影用のフィルムを製造しているのはフジフィルムが撤退したのでKodak1社のみ。しかも2012年に破産申請がされました。その後、ハリウッドの大手映画会社数社が救い、かろうじて存続しています。
2014年にはタランティーノ監督やクリストファー・ノーラン監督、マーティン・スコセッシ監督らが、一定本数の撮影用フィルムを年間で買い上げる契約を結び、フィルムの生産を支えようとしています。これらの監督はフィルムでこそ映画を撮る価値がある考え、基本的に全ての作品でフィルム撮影をしています。
デジタルカメラを積極的に取り入れている監督で言えば、例えばデヴィッド・フィンチャー監督がいます。初期の頃から『ファイト・クラブ』や『パニック・ルーム』までがフィルム撮影で、『ゾディアック』以降がデジタル撮影です。
画面の設計のすべてをコントロールする作風で言うと、デジタルでのメリットはとても大きいものでしょう。フィンチャー監督の近年の、渇いているのに人の心の底を覗くような淡々とした作風と、RED社製デジタルカメラによる滲みのない高精細、かつ落ち着いたトーンが非常にマッチしています。
邦画におけるフィルム
邦画においては、どちらかというとコストと確実性の面から、フィルム撮影される作品の数は年々どんどんと減ってきています。もはや95%はデジタル撮影されているのが現状です。
ただ、たとえばハリウッドと比べると、邦画の方がフィルムの【ゆらぎのようなもの】に対する美学があるかもしれません。日本人としての美意識に近いものがフィルムのトーンに合うような気がします。
最近フィルムで撮られた邦画でハッとさせられたのは、ちょうど現在公開の『海街diary』(是枝裕和監督)のフィルム的描写はとても素晴らしく心を掴まれました。撮影監督は『そして父になる』に引き続き、瀧本幹也氏。写真家、CM出身のカメラマンです(大和ハウスのリリー&深津夫婦のドラマCMなど素晴らしい画です)。
その独自の美学、オーソドックスでありながら瑞々しさあふれる画、などが、映画の世界にマッチし、邦画のトーンを次の時代に進めていると思います。
画のトーン
12度もアカデミー賞撮影賞にノミネートされ、光の魔術師とよばれている名匠ロジャー・ディーキンスという撮影監督も、元々はフィルムカメラで光のトーンを突き詰めてきたカメラマンです。『ノーカントリー』などは、あらゆる画が絵画的で素晴らしい世界観を見せてくれています。
ただ面白いのは、近年『007 スカイフォール』『プリズナーズ』などではARRI社製のALEXAというカメラでデジタル撮影をしています。その映像はやはり素晴らしい光と影に満ちたカットの数々でした。
※以下はフィルム撮影のも含みますが、ロジャー・ディーキンスの撮った映画のフッテージをまとめたものですね。
フィルムでもデジタルでもない、トーン。まさにそれは「ロジャー・ディーキンスの画」としか形容できない光の表現、画の切り取りによる深い意味、がそこにあります。
フィルムでもデジタルでも、道具の選択肢がある現状では何使ってもいいし、大事なのは、何を、どう撮るのかだ、という当たり前の事を提示してくれています。
そんなロジャー・ディーキンス御大は『ブレードランナー2(仮)』への参加も決定! SFノワールの傑作の光と闇をどう描いてくれるのか。今からとても楽しみです。
(C)2015吉田秋生・小学館/「海街diary」製作委員会、(C)2007 Paramount Vantage, A PARAMOUNT PICTURES company. All Rights Reserved.
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