ゾンビブーム、オカルト、ジャンルレス化。韓国ホラーの最前線を映画ジャーナリスト宇野維正が読み解く

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Netflix Japan編集部

韓国のテレビシリーズが次から次へと大ヒットしていることも追い風となっているのだろう、このところNetflix上で毎日発表されている映画TOP10やシリーズ作品TOP10に韓国のホラー作品、あるいはホラー・テイストの入った作品を頻繁に目にする。折しも、劇場ではハリウッド映画に一歩も引けを取らないアクション描写を誇る韓国製ゾンビ映画、ヨン・サンホ監督の『新感染半島 ファイナル・ステージ』がスマッシュヒット中。韓国の映像作品全般に広く注目が集まる中、改めてその見取り図を提示してみることに意義はあるのではないか。Netflixで見られる作品を中心に、韓国ホラーの最前線を探ってみたい。(宇野維正)

ブームが続くゾンビものは、もはやホラーではなくアクション映画

『Sweet Home〜俺と世界の絶望〜』

最新の世界的ヒット作として、まずはソン・ガン主演のNetflixオリジナルシリーズ『Sweet Home〜俺と世界の絶望〜』に触れておきたい。タイトルのスウィート・ホームは、主人公が引っ越してきたばかりの年季の入った高層集合住宅を皮肉を込めて指したもの。ゾンビもののサバイバル・ホラーは映像作品としてはそのシチュエーション(ショッピングモール、特急列車etc.)が演出上の鍵となるわけだが、それをタイトルで打ち出している点において伝統に忠実ーーと思いきや、かなり早い段階からSF的なクリーチャーが何体も出現して、本作が過去のゾンビ作品をビジュアル的に更新しようとした野心作であることがわかる。

描写もグロいといえばグロいが、恐怖演出よりも映像のインパクトで驚かすタイプの作品で、これは本作が原作のウェブトゥーン(韓国でポピュラーなウェブで縦スクロールで読み進めるコミック。ちなみにまったくホラーとは関係ないが大ヒット作『梨泰院クラス』もウェブトゥーンの映像化作品)の画作りに倣ったものだ。

『#生きている』

偶然か必然か、「高層集合住宅に閉じ込められる」という設定が思いっきり被っているのが、2020年6月に韓国で劇場公開、韓国国外ではNetflixで同年9月から独占配信されて世界90か国でTOP10入りとなった『#生きている』だ。タイトルのハッシュタグは、街中がゾンビに占拠されて自宅(こちらはなかなか居心地は良さそうな部屋)で強制ステイホーム状態となった主人公が、ソーシャルメディアを通じて助けを求めるところからきている。主人公はスマホやドローンを駆使してなんとか局面を打開しようとするが、このように時代ごとのテクノロジーが劇中の重要な小道具(時には感染源にもなる)となるのはホラー映画のお約束だ。

もっとも、『#生きている』はサバイバル・ホラーとはいっても主に室内での「サバイバル」に尺を費やした作品で、コロナ禍のステイホーム中において世界的なヒット作となった理由もそこにあるのだろう。ゾンビとの対決シーンもアクション映画的な演出に終始していて、ゾンビ作品はゾンビ作品でもまさに『ウォーキング・デッド』以降のゾンビ作品。ジョージ・A・ロメロの時代にあったゾンビ映画特有のペシミズムや陰惨さは、良くも悪くもかなり払拭されている。

韓国ホラーの真骨頂はオカルトにあり

同じように、近作ではハリウッド的なソンビ映画の道を邁進している『新感染 ファイナル・エクスプレス』、『新感染半島 ファイナル・ステージ』のヨン・サンホ監督だが、『新感染 ファイナル・エクスプレス』以前の彼はアニメーション作家として高い評価を得ていた。まだアニメーション作家時代の監督作にして、実は『新感染』3部作の第1作としてすべての始まりを描いた作品でもある『ソウル・ステーション パンデミック』もNetflixでは配信されているが、自分がアニメーション作家時代のヨン・サンホの最高傑作として疑わないのはニセ牧師による大掛かりな詐欺事件を描いた2013年の『我は神なり』だ。

ホラー作品に限らず、韓国の映画やテレビシリーズを熱心に追っていれば、韓国の一般社会における宗教、特にキリスト教の影響力(信者の数も宗派の数も日本とは比べものにならないほど多い)が強いことに、作品を通して気がついている人も多いのではないだろうか。実はその特異な宗教的バックグラウンドが反映されている、一昔前ならば「オカルト映画」と呼ばれていたであろう作品こそが、ハリウッドのホラー映画とも、日本のホラー映画とも違う、現在の韓国ホラーの真骨頂だと自分は思っている。

近年のよく知られた作品でいうと、2016年のナ・ホンジン監督による傑作『哭声/コクソン』をまず挙げるべきだが、もし『哭声/コクソン』に衝撃を受けた人でまだ観ていない人がいたら強力にオススメしたいのが『サバハ』だ。

ホラー映画の定番ネタ、エクソシストものに韓国ならではのツイストを加えた『プリースト 悪魔を葬る者』に続いて、チャン・ジェヒョン監督が撮った2019年の作品『サバハ』は、新約聖書に出てくるユダヤ王国の王ヘロデのエピソード(詳しく書くとネタバレになるので書きません)を下敷きに、一人の牧師がある新興宗教の教団を隠蓑にした巨大な事件の真相を暴いていく、近年稀に見る精巧にして心を打つサスペンス劇となっている。

ホラーとサスペンスの境界上で生まれる傑作たち

と、「ホラー」でも「オカルト」でもなく、つい「サスペンス」と書いてしまったが、実際『哭声/コクソン』や『サバハ』とダイレクトに繋がっているのは、ポン・ジュノの出世作にして今や不朽のクラシックとなっている2003年の『殺人の追憶』を頂点とする、過去の韓国サスペンス/スリラー映画の充実した作品群だ。つまり、韓国の映画作家たちが得意としてきた血なまぐさいバイオレンス描写やノワール描写は、もともとホラー/オカルト的なモチーフと親和性が高く、その双方が自然に引き寄せられているような現象が起こっているのだ。

『哭声/コクソン』にも『サバハ』にも当てはまる、優れた韓国のホラー作品を特徴付けているのは、日常と非日常の緩急のつけかたの見事さだ。アメリカ映画でも日本映画でも、いわゆるジャンルムービーとしてのホラー映画は、物語の途中で一旦非日常の蓋が開くと、そのまま凄惨なクライマックスまで一直線に突き進んでいく作品が主流だ。韓国にも『女校怪談』(Jホラーの『学校の怪談』影響下にある、1998年に始まった人気シリーズ)に端を発するジャンルムービーとしてのホラー映画の流れはあるものの、サスペンス/スリラー作品との境界上にある作品では、冒頭で思いっきり非日常を見せつけたかと思うと、時にコミカルな展開さえ見せながらまったく別のトーンで物語が進行し、途中で非日常の蓋がもう一度開いたかと思うと、また日常に平然と戻るといった、巧みなストーリーテリングで物語が展開していく。

そのような視点から見た時、直近の注目作として挙げられるのは、いずれも2020年にNetflixで映画ランキングの上位にランクした『The Witch/魔女』と『ザ・コール』だ。前者は特別な能力を持った一人の少女と、その裏で蠢(うごめ)く謎の集団の争いを描いた作品。後者は、電話を通して現在とある凄惨な過去の事件が繋がるタイムミステリー。いずれもジャンルとしてのホラーではないが、そのバイオレンス描写の過激さやストーリーテリングの構造は、前述してきた優れた韓国のホラー作品と共通している。また、物語の最後に「あっ!」というオチが用意されているところも極めてホラー映画的だ。

『The Witch/魔女』のチェ・ウシク(『新感染 ファイナル・エクスプレス』『パラサイト 半地下の家族』)やチョ・ミンス(『嘆きのピエタ』)、『ザ・コール』のパク・シネ(『美男ですね』『ビューティー・インサイド』『#生きている』)やチョン・ジョンソ(『バーニング 劇場版』)と、ホラーを含むエンターテインメント作品とアート作品とテレビシリーズとの間に商業的・芸術的なヒエラルキーがなく、名優たちが当たり前のように出演しているのも、現在の韓国映画界・テレビ界の活況の原動力となっているに違いない。ファーストシーンを一目見ただけでわかるその潤沢な製作費と技術の高さと合わせて、日頃からホラーの社会的地位の向上を唱えているホラーファンの一人としては羨むしかない、まさに理想的な状況が生まれている。

文・宇野維正(映画・音楽ジャーナリスト)
Twitter: @uno_kore

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