映画『ゼロ・グラビティ』生命の誕生をモチーフにした“再生”の物語を徹底考察【ネタバレ解説】

ヒットガールに蹴られたい

竹島ルイ

映画『ゼロ・グラビティ』の魅力とは?ネタバレありで徹底解説!

人工衛星を破壊したことによる事故で、漆黒の宇宙に置き去りにされてしまう宇宙飛行士の極限状況を描いた『ゼロ・グラビティ』 (2013)。

『トゥモロー・ワールド』(2006)や『ROMA/ローマ』(2018)で知られるアルフォンソ・キュアロン監督が、最新のVFXを駆使して創り上げたSF超大作だ。

だが同時にこの作品は、生命の誕生をモチーフにした“再生”の物語でもある。実はとってもエモーショナルな映画なのだ。という訳で本稿では、映画『ゼロ・グラビティ』を深掘り考察します。

映画『ゼロ・グラビティ』(2013)あらすじ

ライアン・ストーン博士(サンドラ・ブロック)は、ベテラン宇宙飛行士マット・コワルスキー(ジョージ・クルーニー)の指揮のもと、スペースシャトルの船外で作業を行なっていた。

そこに、ヒューストンの管制から緊急避難するように指令が入る。ロシアが自国の人工衛星を破壊したことで、スペースデブリ(宇宙ゴミ)が拡散してしまう事故が発生したのだ。慌てて退避しようとするライアンたちだったが、スペースデブリがシャトルの主翼に激突。ライアンとコワルスキーは宇宙空間に放り出されてしまう……。

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※以下、映画『ゼロ・グラビティ』のネタバレを含みます

宇宙を舞台にしたパニック映画

今やテン年代を代表するSF映画となった『ゼロ・グラビティ』だが、正確には宇宙を舞台にしたパニック映画と呼ぶべきだろう。スペースオペラの『スター・ウォーズ』(1977)やサイバーパンク『ブレードランナー』(1982)とは異なり、映画の中で描かれているスペースデブリの連鎖事故は、現実に起こる可能性がある。旅客機がトラブルに見舞われる『大空港』(1970)や、原発事故の恐怖を描いた『チャイナ・シンドローム』(1979)と同列に扱われるべき作品と言っていい。

その危険性は、’70年代からNASAの物理学者ドナルド・J・ケスラーによって提唱されていた。スペースデブリ同士、もしくはスペースデブリが宇宙ステーションに衝突することで、さらなるスペースデブリが生まれる。破片の連鎖反応によって、壊滅的なダメージを受ける「ケスラーシンドローム」が起きてしまうのだ。『ゼロ・グラビティ』が描くのは、実際に起こりうるかもしれない危機なのである。……と書くと、いかにもリアリティのあるドラマのように見えるが、監督・脚本を務めたアルフォンソ・キュアロン自身、「科学考証が厳密には正確ではない」ことを認めている。TIME誌による記事(※参考記事)では、精密な科学考証と照らしわせてファクトをチェック。

・衛星破壊による連鎖反応はそもそも起こらない
・中国の神舟は、映画で登場するような広大な複合施設ではなく、1つのポッドとしてのみ存在している
・中国の神舟は、スペースシャトルの近くには存在しない
・宇宙ステーションの消火器は、映画のように簡単には扱えない

などなど、多くの間違いポイントを指摘している。だが、科学的リアリティが映画のクオリティに直結する訳ではない。宇宙を舞台にしたパニック映画であると同時に、ある一人の女性の再生をも描いた本作は、感動的なヒューマン・ドラマでもあるのだ。それくらい、『ゼロ・グラビティ』のシナリオは素晴らしい(多分に筆者の主観も入っております)。

脚本が完成した時点で、アルフォンソ・キュアロンは、映画は1年程度で撮り終わると想定していた。しかし、実際には4年半もの歳月を要してしまう。まず、撮影自体が遅れてしまった。べらぼうな製作費がかかることが想定されたため、ユニバーサル・ピクチャーズがこの企画を別の製作会社に売り出してしまったからだ。ワーナー・ブラザースがプロジェクトを譲り受けた後も、今度はキャスティング作業が難航。さらに時間を要してしまう。

二転三転したキャスティング

ライアン・ストーン博士役には、もともとアンジェリーナ・ジョリーが内定していた。だが、彼女自身が監督を務める映画を優先したために、スケジュールの都合が合わなくなって降板。新たに候補に挙がったナタリー・ポートマンも、妊娠を発表する直前に辞退してしまう。

その後、レイチェル・ワイズ、ナオミ・ワッツ、マリオン・コティヤール、キャリー・マリガン、シエナ・ミラー、スカーレット・ヨハンソン、ブレイク・ライブリー、レベッカ・ホール、オリビア・ワイルドといった錚々たる女優がストーン役を争ったが、最終的に主演を務めることになったのはサンドラ・ブロックだった。

「私はいつも男性がやっていることを、感情的、肉体的な側面からやってみたいと思っていました。畏敬の念を抱くような映画を見るたびに、それがたいてい男性の主役であることを羨ましく思っていました。でも、女性にそのような役はありません。そもそも脚本に書かれていなかったのです。
(中略)
でも、この2、3年で状況は変わりました。 ジョナス(筆者注釈:アルフォンソ・キュアロンの息子で、共同で脚本を執筆)とアルフォンソが、女性を主人公に書いてくれました。それは余計なことではありません。ストーリー上、不可欠だったのです。革命的という表現は使いたくありませんが、実際にそれは革命的でした」
(collider.com サンドラ・ブロックへのインタビューより抜粋)

マット・コワルスキー役も二転三転する。当初はロバート・ダウニーJr.が演じる予定だったが、コンピュータに制御されて自由な演技ができない撮影方法が肌に合わず、残念ながら降板。ダニエル・クレイグ、トム・クルーズ、トム・ハンクス、ハリソン・フォード、ジョン・トラボルタ、ブルース・ウィリス、ラッセル・クロウ、ケビン・コスナー、デンゼル・ワシントンと、これまた錚々たる俳優たちが候補に挙がったが、最終的にこの役を射止めたのはジョージ・クルーニーだった。

ちなみにサンドラ・ブロックは『オーシャンズ8』(2018)でデビー・オーシャン役を、ジョージ・クルーニーは『オーシャンズ11』(2001)でダニエル・オーシャン役を演じている。「オーシャン」シリーズで兄妹役を演じた二人が、結果的に『ゼロ・グラビティ』で共演することになったのだ(公開は『オーシャンズ8』の方が後だが)。

ちなみに、ヒューストンから指示を出すミッション・コントロールの声を担当しているのは、名優エド・ハリス。『アポロ13』(1995)で実際のミッション・ディレクターであるジーン・クランツを演じているから、この役はお手のものだったに違いない(そういえば『トゥルーマン・ショー』(1998)のクリストフ役も、ほとんどミッション・コントロールのような役柄だったし!)。

革新的なシステムを開発した特殊撮影

キャスティング以上に、『ゼロ・グラビティ』の撮影は困難を極めた。最新のVFXと伝統的な特殊撮影を組み合わせながら、「無重力」を視覚的に表現する必要があったからだ。撮影監督のエマニュエル・ルベツキは、徹底的にリサーチを重ねてイメージを膨らましていく。

「私は、NASAやロシアの宇宙機関の画像を熱心に探しました。大量の写真を集めて、映画に最適なものを選んでいったのです」
(TIME エマニュエル・ルベツキへのインタビューより抜粋)

ルベツキと特殊効果チームは綿密な打ち合わせを行い、映画のために様々な革新的なシステムを開発する。例えば、高さが6メートルほどあるボックスに、4000個以上ものLEDライトを取り付けた「ライトボックス」。コンピュータでカメラのアングルや照明を制御することができるシステムだ。映画の冒頭から、「ライトボックス」の効果を我々は体感することができる。

「最初のシーンは、地球が動いたり、ISSが動いたり、太陽の位置が変わったりと、光がフレームごとに常に変化するため、非常にチャレンジングなシーンになっています。この設計には何ヶ月も、撮影には何年もかかりました」
(TIME エマニュエル・ルベツキへのインタビューより抜粋)

サンドラ・ブロックは「ライトボックス」の中で長時間芝居することを強いられた。1日に10時間この中に入れられることもザラだったとか。外部とのコミュニケーションは、ヘッドセットを使って行われた。キュアロンは「彼女が閉所恐怖症にならないか」を常に気をかけていたという。

無重力状態を表現するために、遠隔操作が可能な12本のワイヤーで俳優を吊るす「ティルト・プラス」なる装置も作られた。俳優の下半身をガッチリ固定させて、体をブンブン回したり傾けたりすることができるのだ。もはや遊園地のアトラクション状態。乗り物酔いする人にとっては地獄のような撮影現場だろう。俳優は、アスリート並みのフィジカルと強靭なメンタルが求められたのである。サンドラ・ブロックは6ヶ月間の及ぶフィジカルトレーニングを行い、撮影に備えた。

「彼女(サンドラ・ブロック)はトレーナーと一緒にスタントについて話し合い、『自分の体のどこを強化すればいいのだろう』と言っていましたよ。 また、プリビズのアニメーションでは、「動きの中で、腕を持ち上げて浮いている状態を維持するには、どのくらいの力が必要なのか」と言っていました。 彼女が行ったワークアウトはとても具体的なものでしたよ」
(collider.com アルフォンソ・キュアロンへのインタビューより抜粋)

俳優とスタッフの並々ならぬ努力がうかがえるエピソードではないか。もう、ひたすらリスペクトです。

ある女性の再生の物語=生命の誕生

ゼロ・グラビティ』が、宇宙を舞台にしたパニック映画であると同時に、ある一人の女性の再生を描いたヒューマン・ドラマでもあることは先に述べた。さらにいえば、その「女性の再生」はまるで「生命の誕生」をなぞるように描かれている。まるで『2001年宇宙の旅』(1968)のように。

思い出して欲しい。ソユーズで宇宙服を脱いだ彼女は、まるで胎児のような姿勢でつかの間の休息をとる。周りを取り囲むチューブは、まるでヘソの緒のようだ。これは明らかに「子宮の中に佇む胎児」を象徴している。

不慮の事故で娘のサラを亡くしたストーン博士は、心の奥にトラウマを抱えていた。宇宙に置き去りになってしまったことで「死」を覚悟した彼女は、逆境をはねのけることで「生」へと執着し始める。「子宮の中に佇む胎児」は、彼女の「再生」のメタファーなのだ。そして、人類が海から陸地に上がって進化を遂げたかのように、彼女自身も地球に不時着して、必死に陸地へと這い上がる。「再生」を経て、彼女は「進化」を遂げたのだ。

実は、ほとんどがデジタル撮影で行われた本作において、唯一アナログで撮られたのがこのエンディング・シーンだった。

「ほとんどの映画はデジタルで撮影されています。(中略)しかし、最後に彼女が海の中から出てくるとき、私は彼女自身が生まれ変わった後の地球を違った目で見てほしいと思いました。そこで、65ミリのフィルムで撮影することにしたのです」
(TIME エマニュエル・ルベツキへのインタビューより抜粋)

この作品は技術的な側面から語られることが多いが、それ以上にエモーショナルな映画として捉えられるべきだろう。アルフォンソ・キュアロンのコメントをもって、この稿の結びとしよう。

「この映画は技術的な側面が強いように見えるからも知れませんが、アーティスト同士の大きなコラボレーションだったのです。 視覚効果担当は、彼自身がアーティストです。 撮影監督も同様にアーティストです。この映画の本質は、俳優とのコラボレーションによって生まれた、“感情的な核”であり、皆そのことを理解した上で努力したのです」
(collider.com アルフォンソ・キュアロンへのインタビューより抜粋)

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(C)2013 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

※2021年7月22日時点の情報です。

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