『ブルックリン』から紐解く!ファッションが表現する色彩メッセージの秘密

好奇心で生きてる雑食人間

sakasa

昨年は超大作の続編が公開されたり、公開直後に話題を集めロングランヒットとなる作品があったりと、映画業界が盛り上がった年でした。その中でも映画ファンの中でじわじわと注目を集めていたのがアイルランド映画。今回はそのうちの一作であるブルックリンについて紹介したいと思います。

『ブルックリン』はアイルランドの田舎町での退屈な日常から旅立つことを決意し、ニューヨークのブルックリンに移住した少女が様々な葛藤と選択を繰り返し、自分の居場所を確立していく成長物語。日本でいうところの上京物語ですね。

主演はアイルランドを代表する女優シアーシャ・ローナンが務め、アカデミー賞では作品賞、主演女優賞、脚色賞の3部門でノミネートされました。

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ブルックリンへ移住した少女が、自分の居場所を確立していく青春物語

ブルックリン 緑カーデ

アイルランドの小さな街。エイリッシュ・レイシーは不満を抱えながらも食料品店で働きながら、母と姉のローズの3人で静かに暮らしている。妹の将来を思い、エイリッシュにニューヨークで働けるよう計らうローズ。家族と故郷に別れを告げ新天地へと旅立ったエイリッシュだったが、彼女を待ち受けていたのは慣れない生活とホームシックで涙に暮れる日々。そんなエイリッシュを救ったのは、同郷の神父の勧めで通い始めた大学での『学ぶ喜び』と、誠実なイタリア系アメリカ人トニーとの”新しい出会い”だった。徐々に笑顔を取り戻し、女性としての強さと自信を持ち始めたエイリッシュのもとへ、故郷からある知らせが届く…。

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50年代のファッションに注目!

本作が注目されている理由として、繊細ながらも強く生きていくヒロインに多くの女性が共感できたり、舞台となった50年代のアメリカのカルチャーがリアルに再現されているところなどたくさんありますが、特に注目していただきたいのはこだわり抜かれたエイリッシュの50年代ファッション!

作中では色彩豊かなファッションを着こなしているエイリッシュ。ロマンティックで女性らしいシルエットと色使いで、まさに女子が憧れるヒロインファッションです。しかしそのファッションが、ストーリー展開される上で大きな役割を果たしていることにお気づきでしょうか?

故郷から新天地へと移ったエイリッシュは多くの洗礼を受け、ホームシックになる日々を乗り越えつつ、イタリア系アメリカ人のトニーとの出会いもあり少しずつ新しい環境に馴染んでいきます。そんな心の移り変わりは言葉や表情だけでなく、彼女のファッションからも読み取ることができるのです。

なぜ、グリーンという「色」が多用されているのか?

なぜ、グリーンという「色」が多用されているのか?本作ではある色がキーカラーとして使われており、その色がどんな場面でエイリッシュの気持ちを映し出しているかぜひ注目してほしい。肝心のその色とは、コーディネート以外でもポイントとして使用されているグリーン。

実際に、自由を夢見てアイルランドを発つその日、彼女は混じり気のないグリーンのコートを着ています。生まれ育った町が閉鎖的だったようにダブルボタンをしっかり閉めて。

ブルックリン 緑コート

そこからの彼女は随所でグリーンを身にまとっています。本作のポスターにもなっているエイリッシュの瞳の色と同じグリーンのカーディガン、トニーと行ったリゾート地で着ていたグリーンのワンピースタイプの水着など。

でも何故グリーンを多用しているのでしょうか? それは、エイリッシュの故郷アイルランドが別名エメラルドの島と呼ばれていて、アイルランドのナショナルカラーとされているからです。

その国を体現する「色」=ナショナルカラー

先ほどさらっと“ナショナルカラー”という単語を出しましたが、初めて聞く方も多いでしょう。実際私も本作をきっかけに初めて知った口です。

基本的にはその国の国旗か国章を元にした色がナショナルカラーとしてイメージされ、その国を体現すると見なされている色。スポーツにおける国別代表のチームカラーで用いられることが多いです。(ちなみに日本のナショナルカラーは国旗と同じく白地に赤の日章とされています)

エイリッシュがグリーンを身につけているとき、アイルランドに対してどんな想いを抱いているのでしょうか。同じ色でもその場その場で意味合いは大きく変わってきます。

やがて仕事にも慣れ、トニーと過ごす時間も充実し、すっかりニューヨーカーとなったエイリッシュは徐々にグリーンを身につける機会が減っていってしまいました。その一方で、新たにワードローブに加わるのはブルーのアイテム。そう、星条旗にも使われているアメリカの色です。

また、ある事情でアイルランドへ一度帰国することになるのですが、そこで彼女は白地に赤のストライプが特徴的なワンピースを着用しています。この白地に赤のストライプも見覚えがある柄かと思いますが、アメリカのナショナルカラーとされている色なのです。

離れているときこそ肌でそれぞれの国を感じ、まるで自分はその国の人間なのだと主張しているかのよう…。

感情を映し出す「色」

このように、感情と色がリンクすることはそう珍しいことではありません。とくに、ファッションにおいてはファッションそのものが自己表現のひとつとされています。その中で色彩も表現の一役を担っていることは言うまでもありません。

実際私たちの生活は常に色に囲まれていて、その色が持つ情報量や影響力は私たちの想像をはるかに超えます。映画においても同じで、色彩アプローチは作り手のメッセージがいくつも詰め込まれている重要な要素のひとつ。みなさんも知らず知らずのうちに影響されているかも・・・?

エイリッシュが決断したこと

ブルックリン

「人生は選択の連続」とよく言いますが、結果がどうあれ自分が本当に大切にしたいものを自分の意志で選べたとき、ようやく未来が開けるのではないでしょうか。

最終的にエイリッシュは“自分の居場所”をふたつの選択肢から選ぶわけですが、その決断が良かったのか…。なんてことは観客の私たちに決める資格なんてもちろんないし、そもそも自分のものでもない他人の人生のことなんてわかるはずもありません。

ただひとつ言えることは、このポスターのエイリッシュの凛々しくも自信に溢れた表情が、その後の彼女の未来をを充分に物語っているということでしょう。

(C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

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  • 0306
    5
    映画館で観てよかった美しい作品
  • SORA
    3.4
    時代と環境で人は変わっちゃうんだな〜。 自由意志とは?🥶
  • ありお
    -
    O
  • Keito
    4.1
    私の帰る場所はここにある。 道を決め、そして歩み始める。 大切な故郷からアメリカのブルックリンへ。 シアーシャ・ローナン主演。 とにかくシアーシャの愁を帯びた瞳が素晴らしいです。 演技派女優の彼女ですが今作でもその巧みな表現力、演技力は健在! 新しい環境に踏み出す時は誰でも緊張するし向こうでの生活が上手くいかなったらどうしようと誰もが焦ることはあります。その時の心情をシアーシャは本当によく捉えていて期待と胸を膨らませながらもどこか不安げのある表情には本当に驚きました。 そして新しい土地であるブルックリンでの生活も印象に残っています。最初は仕事に対してやる気はあるけれども、どこかのタイミングで急に燃え尽きてしまったり、誰もがぶつかる壁も彼女は経験して思わず共感した!と感じた方も多いのではないでしょうか? そして1950年台のアメリカのファッショナブルな衣装や装飾も素敵で美術面においても評価が高い作品といえます。 映画情報 1950年代、アイルランドからニューヨーク・ブルックリンにやってきた移民の少女の青春や揺れ動く心を、「つぐない」のシアーシャ・ローナン主演で描き、第88回アカデミー賞で作品賞、主演女優賞、脚色賞にノミネートされたドラマ。脚本は、「ハイ・フィデリティ」「アバウト・ア・ボーイ」の原作者で、「17歳の肖像」「わたしに会うまでの1600キロ」などで脚本家としても活躍する作家のニック・ホーンビィ。監督は「BOY A」「ダブリン上等!」のジョン・クローリー。大人しく目立たない性格の少女エイリシュは、妹の将来を案じた姉の勧めで、アイルランドの小さな町からニューヨークへとやってくる。それまでとはあまりに異なる大都会での生活に戸惑うエイリシュは、しかし、イタリア系移民の青年トミーとの恋をきっかけに大きく変わっていく。洗練されたニューヨーカーとして生き生きと日々を過ごすエイリシュだったが、そんな彼女のもとに故郷からある悲報がもたらされる。
  • 餃子
    4.4
    家から離れ、人生の分岐点に立ってる今にこの映画を観たからかな、共感が止まらない 正しい決断なんかないと思う なりたい自分になれる場所で輝きましょう
ブルックリン
のレビュー(22764件)